サラとの問答を終えロビーに戻ると、リィン、エリオット、ガイウスの3人がソファーで談笑していた。
声を掛けようと近づくライ。そこで物影にもう1人生徒が座っている事に気づく。深緑のツンツンとした髪型の青年だ。
(……1人増えてる)
「あ、戻ってきたみたいだ」
リィンが気配に気づき、会話を止めてライの方へと顔を向ける。ライはそれに手のひらを上げて答えると、ソファーの空いているところに座った。
「本を片付けてくれたのか。助かる」
「ああ、流石に邪魔だったからな。それでサラ教官とは何を話していたんだ?」
「怪我に対する責任について色々と」
「……ふむ、教官職というのも大変なのだな」
ライとリィンの会話を聞いていたガイウスが納得した様に頷く。
嘘は言っていない。色々との部分が本題だっただけだとライは自分に言い聞かせた。
ライはバツが悪そうに視線をガイウス逸らすと、緑髪の青年と目が合った。
それを見たエリオットが小声で青年に話しかける。
「マキアス、彼が例の10人目のライ・アスガード君だよ」
「そうか。……僕はマキアス・レーグニッツだ。よろしく頼むよ」
「ああ、よろしく」
テーブル越しに握手を交わす2人。だが離した後もマキアスはじっとこちらを見つめてくる。
「…………」
「何か言いたい事でもあるのか?」
「……1つ聞きたいのだが、君は貴族なのか、それとも僕と同じ庶民なのか?」
「それは……」
「あ、いや、気分を害したなら謝るよ。君の身分が何であっても僕は何も言うつもりは無い。僕の気持ちの問題なんだ」
「気にするな。……ただその問いには答えることが出来ない」
それはどういう意味なのかとマキアスの瞳は聞いてくる。ライは他の者の見渡すが、皆一様に?マークを浮かべていた。どうやら記憶については知らされていないらしい。
昨日のトワのときもそうだったが、うまい言い回しが見つからない。変に気を使われたくないのだが、さてどう伝えたものか。ライは自身の伝達力のなさを嘆く。
「昨日より前のことを思い出せないんだ」
「記憶障害、と言う事か。なるほど、だから君は昨日欠席していたのだな」
そっけなく伝えてみたが、案の定、場の空気が重くなる。思考を巡らせているマキウス、何を言ったらいいのか分からなそうなエリオット、残りの2人も静かに目を瞑っている。
今後から出来るだけ話題に出さない様に気をつけようとライは誓うのだった。
「……記憶が無いって不安だよな」
「リィン?」
「あぁ、実は俺も小さい頃の記憶が無いんだ。幼い頃にユミルの雪山で拾われて、その前のことは名前しか覚えていない」
身近にいた同輩に今度はライが驚く。ライの場合は名前すら覚えていなかったが、些細な違いである。未だ分からない事だらけなライにとって、先人がいたことはある意味、光明のように思えた。
「リィンは記憶喪失の先輩ってことか」
「嫌な上下関係だね……」
今まで黙っていたエリオットが苦笑いする。ようやく場の空気が持ち直してきた。
と、会話が一旦止まったタイミングでマキアスが問いかけてきた。
「ライ、君の親族や出身について何か分からないのか? 学院は? 入学のために個人情報を書かされているはずだろう?」
「ああ、入学書類ならここにある」
そう言ってライは鞄から入学書類を取り出す。そしてその中から1枚、個人情報が記された紙をテーブルの上に置く。
「——これは、……」
「これは書きかけの書類じゃないのか?」
「うわぁ、見事に真っ白だねぇ」
「…………」
間違いなく提出された書類である。それを伝えるとマキアスのライを見る目がどこか探るものへと変わった。
仕方ない。ライ自身この書類を見たときは己の過去を疑ったのだから。一体どんな後ろめたい事があれば、こんな空白だらけの書類になるのだろうか。
——ライのそんな様子に気づいたのか、ガイウスが話しかけてきた。
「ライ。例え過去が何あろうと、今のお前に変わりはない。違うか?」
「ガイウス……」
その言葉に勇気づけられる。
過去に何があろうと今のライは変わらない。なら臆せず出来る事は何でもやろう、ライはそう思えた。
目を閉じ、意識を入れ替えること数秒。瞳を開けたライは皆に問いかける。
「そうだな。……皆聞いてくれ、ここに倒れたときに側で見つかった鞄がある。俺の記憶探し、力を貸してくれないか」
「「もちろん(ああ)」」
1人では挫折したこの荷物探索も、彼らとならば探っていける。彼らとならば見つけ出せるとライは希望を見いだした。
記憶探しの第2ラウンドが今、始まる。
…………
◇◇◇
「……全滅だ」
荷物を1つ1つ調べ上げて1刻ほどたった頃、そこには項垂れたVII組男子の面々がいた。
始めのうちは良かった。かざぐるまやお守り、それにライという名前の語感からカルバード共和国に見られる東方の出身でないかという話まで発展した。
だがライが東方の特徴である黒髪黒目でないことや、他の地域で見られる物品に近いものが見つかったことから形勢は逆転する。
行商人の息子、珍しいもの好きな貴族、秘境の住民、はては怪盗Bまで迷走したところで話し合いは打ち切られた。
もはや彼らには途中に出た候補について話し合う余裕すら残されていなかった。
「俺はいったい何者なんだ……」
それほどまでに鞄の中の物品は多種多様であったのだ。どこで集め、どうして持ち歩いていたのか。ライは過去の自分に問いかけるが、当然返事など帰ってこない。
ここにいる彼らは皆、ガイウスすらも言い知れぬ徒労感に苛まれていた。
「……何やってるの、あなた達」
ライは疲れた顔を持ち上げ、声のした方向に向く。そこには先と似たような光景が、今度は女子生徒4人が入り口に立ち並んでいた。
その手には買い物袋がぶら下がっており、どうやら買い物帰りのようだ。
声の主は先頭の金髪の少女だろうか。髪の一部を両サイドで束ね、少女らしさとお嬢様の様な気品を併せ持った容姿である。
とりあえず彼女らに挨拶でもしておこうと文字通り重い腰を上げるライ。
だが先頭の彼女はこちらを、正確にはライの近くに座っていたリィンを見ると、そそくさと上の階に上がってしまった。
(……何だ?)
思わず周囲を見渡すライ。リィンは深くため息を零し、他の皆は呆れた様に苦笑いしていた。どうやらライのいない所でリィンと金髪の少女との間に何かあったらしい。
「エリオット、ちょっといいか?」
「うわぁ! ラ、ライ君、どうかしたの?」
先の話し合いで打ち解けたかと思っていたが、どうやらまだ苦手意識は残っているようだ。そんなに怖いかと窓ガラスに映った顔を見るライ。……今度笑顔の練習をしておこう。
「驚かせて済まない。……リィンとさっきの女の子の間に何かあったのか?」
「あ、うん。さっきの女の子、アリサって言うんだけど、昨日のオリエンテーションのときに落ちるところをリィンが庇ったんだ。そしたら偶然アリサの胸に顔を埋める形になっちゃって……」
「険悪状態、という訳か」
恋愛小説の1シーンかとライは心の中でつっこむが、現実問題やっかいな状況である。下手をすれば長い間いがみ合う事になりかねないし、寮内の人間関係に亀裂を生みかねない。
だが外野がどうこう言っても改善は難しそうなので、とりあえずライは落ち込むリィンの肩に手を置き、無言で慰めるのだった。
「あはは……、大変な事になっちゃいましたね」
そうしていると、眼鏡をかけた三つ編みの少女が話しかけてきた。
赤紫に近い色合いの長い髪、青いその瞳は苦笑いしながらもどこか心配そうである。
「私はエマ・ミルスティンといいます。あなたは?」
「ライ・アスガードだ。そこの2人は?」
「……フィー・クラウゼル」
「ラウラ・S・アルゼイドだ。よろしく頼むぞ、ライ」
「ああ、今後ともよろしく」
子猫を思わせる銀髪の少女がフィー、藍色の髪を後ろで束ねた騎士道精神を感じさせる少女がラウラと言うらしい。
これでさっきのアリサという少女も合わせれば生徒10名、1名挨拶は出来ていないものの、無事に全員と顔合わせを済ませた事にライは気づく。
1日遅れの顔合わせが終わり、ようやく名実共にVII組の一員になれたという実感が湧く。
「ところでライさん。渡したいものがあるのですがいいですか?」
「別に構わないが、何だ?」
エマから袋の1つを渡されるライ。中を覗くと筆記用具とノートが何冊か入っていた。
「授業の道具か。わざわざ済まない」
「いえいえ。それほど重くありませんし、サラ教官に頼まれましたから」
「は? 教官に?」
思わず食堂の方を向く。そこからは微かに調理の音が聞こえてきていた。
人に届け物を頼んでおいて先に帰るとはどういうことなのか、ライは後で問いつめようと決める。こうしてライのスケジュールはどんどん埋まっていくのだった。
「えと、そっちは確か食堂ですよね? 何かあるのですか?」
「いや、気にしないでくれ」
「?」
とりあえずこの事実はライの心の中に留めることにした。だが、意外な所からその情報は漏れだす。
「ふむ、食堂の中に人の気配がするな……これは、サラ教官か」
「気配で個人が分かるのか?」
「大まかにだがな。武術を嗜めばそなたも出来る様になる。……しかし、これはどういう事だ?」
「用事が思いのほか早く終わったという事でしょうか」
ラウラの能力に驚くライ。ライも何となく人がいるかどうかくらいは感じられるが、流石に的確な場所を、さらには特定するまで感じ取ることは出来ないのだ。
それはそうと2人もライと同じ疑問に行き着いてしまった。いっそのこと一緒に突撃して問いつめようかと考え始める。
だがその前にサラが何をしているかくらいは伝えておいた方がいいだろう。
「……とりあえず教官は今、歓迎の料理を作っているらしい」
「へぇ、そうだったんですか。何を作っているのか楽しみですね」
「おつまみ、かな」
「……はい?」
思わず聞き返すエマ。その疑問はもっともだが、事実なのだから仕方ない。あの問答がサラのジョークである事を願うばかりである。とりあえずありのままを伝えよう。
「おつまみが作れるらしい」
「——私、ちょっと手伝ってきますね」
「私も行こう」
「……味見役ならまかせて」
食堂の方へと歩いていくエマと、それに続くラウラとフィー。
何とかまともな歓迎会になりそうだとライは安堵する。
そしてその光景を見ていたのか、ガイウスが後ろから近づいてきた。
「では俺も手伝うとしよう。食器の用意に飾り付けなど手伝える事はあるだろうからな」
「それもそうだな」
アリサへの対応に頭を悩ませるリィンに励ますエリオット、依然としてダウンしているマキアスはそっとしておいた方がいいだろう。
ライとガイウスはその3人に一言断りを入れると、食堂の方へと歩いていくのだった。
◇◇◇
時間は過ぎて、夕食時。
室内灯が灯る中、寮内にいる生徒は皆食堂に集められていた。
目の前には庶民感覚では豪勢といっても過言ではない食事が並べられていた。
テーブルの上にはクロスが敷かれ、中央に置かれたろうそくの火が特別観を演出している。さらに周囲の窓や壁にもさりげなく装飾が施されていた。
サラはちょっとした歓迎になればと思っていたのだが、気がつけば本格的な歓迎会へと変貌していたのだった。
「うわぁ、けっこう本格的だねぇ」
それを見たエリオットが感嘆の声を上げる。それほどまでに食堂の雰囲気は見違えていたのだ。リィンとマキアス、それに後から入ってきたアリサも周囲を見渡している。
「ああ、ライが頑張って飾り付けをしてくれたからな」
「やるからには全力だ」
それに答えたのは装飾を行ったガイウスとライである。
特にライはどことなく満足げな表情をしていた。一仕事終えた匠の表情である。
「フン、よく見る光景だな」
「ハッ、貴族様にはさぞ見飽きた光景だろうな!」
ユーシスにマキアスが噛み付いている。先の問答からも感じていたが、マキアスは貴族に対して何かしらの確執を抱えているらしい。マキアスの攻撃的な言葉をユーシスが貴族らしくいなす状況が続いていた。
——尚、ユーシスの感想は貴族の食事に近いという彼なりの褒め言葉であったりする。もちろんここにいる誰にも伝わらなかったが……。
まだまだ口喧嘩が続きそうだったので、ライは彼らから視線を外す。
次に目にしたのはリィンとアリサの2人組だった。
謝り和解しようと近づくリィンに、近づいた分だけ離れるアリサ。
だがアリサの顔を見ると別に嫌っているという訳ではないのだろう。エリオットの話によると助けるための不可抗力だった様だから、彼女もそれが分かっているのかも知れない。頭で分かっていながらも心の折り合いがついていないのだろうと、ライは結論づけた。
(話題の絶えないクラスだな……)
ライの視線が遠かったのは言うまでもない。
「……そろそろ食べ始めた方が良いのではないか?」
「ああ。……バレス、いやサラ教官。そろそろ——」
「なぁに〜」
1人で既に酔っていた。
周囲には特製のおつまみが完備されている事からも酒に対する本気具合が見て取れる。
少し忠告でもしようかとも思ったが、酔わなきゃやってられないというサラの顔を見ると何とも言えなくなるライだった。ペルソナに旧校舎の魔物。VII組の発足も合わせて色々と苦労している様である。
「あ〜、皆揃ったわねぇ。それじゃ始めるとしましょ〜か。……え〜、コホン。VII組が出来てからまだまだ2日目。あなたたちの中でも消化しきれていないと思うけど、今はただここにいる仲間達と親睦を深めなさい。以上、乾杯!」
「「乾杯!」」
そうして歓迎会が始まるのだった。
◇◇◇
「ライ〜、私のプレゼントは受け取ってくれたかしらぁ〜?」
ライが料理を皿に盛りつけていると、酔っぱらいが近寄ってきた。
「何の事ですか?」
「いやねぇ〜。ちゃんと届け物を頼んで会話の機会を作ってあげたじゃない」
「……そういう意図だったんですか」
開始早々2日間休んだ生徒へのプレゼント。はっきり言って余計なお世話である。
「ま、仲良くなれたならそれに越した事は無いわ。これ以上私に心労を増やさないでちょうだい」
「心中お察しします」
「……1番の悩みの種はあなたなのだけど」
「さて、何の事やら」
目をそらすライ。心当たりが多すぎる。サラはそれをジト目で見てきたが、少しして飽きたのか席を立った。
「それじゃ私はリィンをからかってくるから、あなたもちゃんと親睦を深めなさいよ〜」
そう言ってアリサとの和解に失敗したリィンの元に向かうサラ。彼女なりに生徒を想っての行動なのか、ライには判断がつかなかった。
歓迎会は続く……。
◇◇◇
その後ライもリィン達と合流してしばらく話をしていたが、皿の食事が無くなったためライは一旦集団から離れる。その時を見計らってか金髪の少女、アリサが声をかけてきた。
「あなたが10人目のライ・アスガードでいいのよね?」
「ああ、君はアリサ、だったか」
「ええ、アリサ・Rよ」
R、ラウラの様にミドルネームか。いや位置からしてラストネームだろう。明かしたくない理由があるのかもしれないと考えたライは、あえて話題を振らなかった。
「どうやら怪我は大丈夫そうね」
「心配してくれたのか?」
「……私たちは9人だったけど、あなたは1人じゃない。そりゃ心配もするわよ」
ライの瞳が若干見開く。アリサはライの思っていた以上に面倒見の良い人物であるようだ。
なら、いらぬ心配はかけさせまい。詳しく話さなければ大丈夫だとライは判断し、誤解を少しだけ解く事にした。
「いや、先輩2人がいたから大丈夫だった」
「あら、そうなの」
「それよりリィンとは和解しないのか?」
「——っっ!!!!」
アリサの顔が一気に赤くなる。例の事故のことでも思い出したのだろうか。顔を見せまいとうつむくアリサ。そのまま小さく震える声で喋りだした。
「ごめん、今はその話しないで」
「悪い」
リィンが少女に与えたダメージは思いのほか大きかった様だ。これはしばらく続きそうだと、記憶のないライでも察する。
とりあえずライはその場をそっと離れる事にした。恐らくそれが、今の彼女への1番の優しさなのだから。
今や歓迎会は中盤に差し掛かっていた……。
◇◇◇
盛りつけを終えて戻る最中、料理を前にしてぼーっとしているフィーを見つけた。
何をしているのか疑問に感じたライは、話しかけてみる事にした。
「料理を選んでいるのか?」
「……味見したから、だいたい食べた」
「そうか」
「そう」
2人の間に静寂が生まれる。
てっきり料理を選んでいるのかと思ったが、どうやら違ったらしい。ライはフィーに習い、ぼーっと料理を眺めてみる。
VII組の女性陣が作った料理はどれもおいしそうだ。サンドイッチにオムレツ、チキンとどれも輝いて見える。
だが、人数に対して若干数が少なかったのか空いている皿が多かった。皆まだ余力がありそうだし、もう一品くらい必要かとライの頭に浮かぶ。思い出すのは、サラがおつまみを作れると言ったときの誓いである。
「追加で何か作るか」
「……記憶ないのに料理するの、危ないと思うよ」
「知ってるのか?」
「聞いたからね……」
目線で指し示すフィー。その先にいたのはまだまだ酒を飲んでいるサラの姿だった。なるほどなとライは納得した。他のVII組が知らなかったから意外だったが、知らされた者がいても別におかしくはない。
「単純なものなら何とか」
「そ、ならファイト」
ライは厨房へ向かう。挑戦するのは単純な素材で作れるお手軽オムレツだ。台所の上にとれたて卵と粗挽き岩塩を置く。フィーはそれをじっと見つめていた。
「ライ、料理をするのか?」
と、そこにリィン達が集まってきた。何時まで立っても戻らなかったからだろう。見通しの良い食堂だから、どこにいるかは直に分かる。
「ねぇ、大丈夫なの?」
「危なそうなら止めてくれ」
不安げなエリオットの言葉にライはそう答える。なら始めからやるなという話だが、荷物探しのときにガイウスからもらった活力がライの中にまだ残っていた。
失敗を恐れて足踏みする訳にはいかない。無表情のライの瞳の中には炎が燃えていた。
食材を無駄にしないようにな、というガイウスの言葉を耳にしながら、ライは静かに目を閉じる。
瞬間、食材の声が聞こえた気がした。カッ、と目を見開くライ。目にも留まらぬスピードで豪快に、かつ繊細に調理していく。
燃え上がる炎、フライパンの焼ける音、手が勝手に動きだす。
そしてついに皿の上に料理が盛りつけられた。出来映えは——
「……何だこれは」
作った当人であるはずのライから疑問の言葉が漏れる。皿の上のオムレツは見事なまでに真っ白だった。普通のオムレツを作ったつもりのライはその結果に思考が止まる。
台所の上に目を戻すと、いつの間にやら食材が倍以上に増えていた。
一緒に見ていた仲間達に視線を向けるが、誰もが困惑している。
と、フィーが一歩前に出た。スプーンでオムレツを掬い、その小さな口元に運ぶ。
皆の緊張が高まる中、オムレツを食べるフィーの音だけが聞こえる。いつの間にか他の面々も台所に集まっていた。
「……割と、いける」
その言葉に内心安堵するライ。集まっていた他の生徒達やサラもそれならと食べ始める。真っ白なオムレツの評判は皆、独特だが悪くない味というものだった。
皆が食べている様子を遠目で観察するライの元にフィーが近寄ってくる。
「料理はレシピを見る様にね」
「……ああ」
ライはそれ以外何も言えなかった。
こうして歓迎会は静かに終わりを告げた……。
最後はネタに走ってしまったが後悔はしていない。
日常パートは基本的にこういったノリになるかもしれません。
尚、ライが作る料理はほとんどが独自料理になります。
零・碧の軌跡なら高確立で予想外の料理ですね。