心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

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37話「学生達の試練」

「は〜い、それでは今から帝国史の試験を始めますよ〜」

 

 トールズ士官学院2階の西部に位置するVII組教室。その石レンガ造りの部屋に並べられた机に座る11名の生徒たちは、静かに開始の合図を待っていた。

 目の前に置かれているのは裏返しの紙とペン。その中にこれからの戦いの全てがあると思うともどかしいが、フライングは厳禁だ。

 

 そんなライ達の気分を現すかの様に外の天気も段々と雨模様になっていく中、教卓に立つトマス教官がいつも調子でテストの説明をしていく。

 

「皆さんも当然ご存知かと思いますが、不正行為を働いた場合は即退場ですからねぇ~。相応の処罰の対象にもなりますから、絶対にズルはしないように」

 

 トマスの説明が終わり、ぽつぽつと雨音が地に落ちる音が聞こえてくる。

 開始の合図がなるまでのしばしの間。神経が段々と研ぎ澄まされていく。

 

 ――そして遂に、開始のベルが鳴った。

 

「では始めて下さい」

 

 一斉に紙が裏返された。

 所狭しと並べられた問題文。ライは今まで培った知識を総動員し、解答欄にペンを走らせ始める。

 

 

《問2:七耀教会が設立し暗黒時代を平定した年を選択せよ》

 

 >七耀暦0年

 >七耀暦1年

 >七耀暦300年頃

 >七耀暦500年頃

 

 4つの選択肢が問題文に書かれていた。

 

 

 さて、考えよう。

 

 この問題のポイントは七耀暦の制定されたタイミングだ。七耀協会が設立した年であるから1年かとも思うが、セントアークに行く途中で聞いた様に、今年は七耀暦1204年。そして4月の授業でトマスは大崩壊が約1200年前と言っていた。

 そう、七耀暦が制定されたのは暗黒時代の始まりの年なのだ。そして暗黒時代は約500年続いたらしい。故に答えは"七耀暦500年頃"!

 

 ライは答えを記入した。

 ……これは正解の予感がする。

 

 その後も集中的に対策したためか、比較的余裕のあるペースで解答欄に書き込んでいく。

 しかし、とある問題で一瞬手が止まった。

 

 

《問32:トールズ士官学院設立者が残した言葉について答えよ》

 

 >若者よ、大志を抱け

 >若者よ、世の礎たれ

 >国民よ、立ち上がれ

 >人々よ、己が道を示せ

 

 4つの選択肢が頭に浮かんだ。

 

 

 ……まあ、これは明らかだろう。

 この問題については考えるまでもない。フィーに代わり答えたように、"若者よ、世の礎たれ"が正解だ。素早くペンを走らせるライ。時間ギリギリではあったが確かな手応えを感じた。

 

 

 

 ――2教科目、美術。

 

 帝国史の試験が終わってから休憩を挟み、今度は教養科目である美術の試験である。このトールズ士官学院は貴族が通う名門校でもある為、士官学院としては異例な美術も正式な授業の一環として学んでいるのだ。

 美術の教師であるメアリーの監視の元、ライ達は再び白い紙をめくり上げた。

 

 静かな空間に幾つも走るペンの音。

 デッサン、絵画、そして音楽。ライも順調に答えを書き進めていく。

 

 

《問21:同じ高さの音符を一緒に演奏する記号の名を答えよ》

 

 >タイ

 >スラー

 >アルペジオ

 >高音部記号

 

 問題文の隣には横向きの括弧が描かれている。

 ライの脳裏に4つの選択肢が頭に浮かんだ。

 

 

 さて、少し考えよう。

 

 とは言っても、この問題は確か以前エリオットに指摘されたものだった。

 スラーは異なる高さの音符も纏めて一緒に演奏する意味の音楽記号であり、アルペジオは縦に並んだ和音をばらして奏でる演奏法。高音部記号は楽譜の始まりにある記号だ。ならば答えはライが間違って記入していた"タイ"こそが正しいものの筈。

 

 ……これは正解の予感がする。

 

 

 こうして比較的順調に解答欄を埋めたライは、確認作業をしている最中に試験の終わりを示す合図を聞いた。

 

「はい、終わりです。ペンを置いて下さいね」

 

 一枚一枚回収する教官のメアリー。

 無事1日目の試験を終えたライ達はほっと一息ついた。しかし、まだ3日間もあるのだ。気を抜く訳にはいかない。……だからフィー。幾ら帝国史が終わったからと言って、その全てをやり遂げたかの様に眠たげな表情はまだ早いのだ。明日以降が少し心配になるライであった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ――6月17日。

 

 小降りの雨がポツポツと石畳の道に落ちる早朝。ライは白のラインが入った黒色の傘をさしながら士官学院へと歩いていた。

 今日は丸一日軍事学の試験となる予定だ。ここが軍関係者を育てる士官学園であるから当然といえば当然なのだが、ライには何故だかそれが不思議な気分だった。もしかしたら記憶喪失前は別の学校に通っていたのかも知れない。

 

 そうして水溜りを超えて歩くこと数分。

 士官学院直前の十字路、貴族や平民クラスの為の寮に続く分岐点に到達した時、偶然にも平民クラスの男子生徒2人が近くを歩き始めた。……彼らの顔には見覚えがある。どうやら1週間前に図書館で見た噂好きの2人組の様だ。

 

「……今日は軍事学かぁ」

「ああ、遂にこの日が来ちまったよ」

「あれから何も復習できなかったもんな。どうしよ、これから」

「どうって、腹くくるしかねぇじゃん」

 

 深緑と黒の傘をさした2人組が揃ってため息をついた。薄暗い雲の下と言うシチュエーションも相まって、どんよりとした空気が2人を包み込んでいる。

 

「あ~止め止め! それよりもっと先の明るい話でもしねぇ?」

「明るい話? ああ、そういや試験の次の日は自由行動日だったっけ」

「そんだけじゃねぇよ! 試験自体は割りと早くに終わるんだ。それも合わせりゃ割と長い休暇だぜ? 折角だしパァっとやるってのはどうよ」

「おおっ! そりゃ確かに明るいな! ……うしっ、元気出てきた! 試験終わったら絶対噂を試すぞォォオオ!!」

「あっ、おいコラ走んなって! ――噂試しはやんないからなっ!?」

 

 跳ねる水しぶき。

 雨に濡れるのも気にせず走る2人を、ライは歩きながら見送った。

 

(……試験明け、か)

 

 再び小雨の音が良く聞こえる静寂に戻った中、ライは雨空を見上げぼんやりと思う。

 今まで試験期間ばかりに目が行っていた為、その先についてあまり考えていなかった。――もしかしたらこれはチャンスなのではないか? 例の2人の問題にライ自身の問題。それらを解決しないまでも、改善やきっかけにはなるかも知れないと、途端にライの思考が回転し始める。

 

「ライ、どうしたんだ?」

 

 と、背後から聞こえて来る声にライは振り返った。

 藍色の傘をさした黒髪の青年、リィンだ。

 

「リィン、試験後の予定ってあるか?」 

「試験後? ……いや、考えてもいなかったな。多分だけど、他のみんなも同じだと思う」

「そうか」

「でも本当にどうしたんだ? 急にそんなこと聞いて」

「ああ、実は――」

 

 ライとリィンの2人は揃って本校舎の中へと歩いて行った。

 

 

 …………

 

 

 ……昨日と同じく筆記試験が始まった。

 

 静まり返った教室内で11のペンが奏でるシンフォニー。

 軍事学の教官ナインハルトの鋭い目が睨む教室内で、ライ達は軍事学の長い問題文をひたすら解いていく。

 

 

《問26:大砲で遠距離の部隊を攻撃したい。この場合、最も適した弾頭はどれか》

 

 >徹甲弾

 >榴弾

 >散弾

 >焼夷弾

 

 4つの選択肢が頭に浮かんだ。

 

 

 さて、正解はどれだろうか。

 装甲を抜くのに適した徹甲弾。爆発する榴弾。小さな弾丸をばらまく散弾。そして爆弾の様に火をばらまく焼夷弾。問いの状況設定から考えて後者2つは不適だろう。残るは2択だが、遠距離の部隊となると直撃は難しい。ならば答えは、約1週間前に授業で答えたように、直撃させずとも威力を発揮し曲射も出来る"榴弾"だ。

 

 ……これは正解の予感がする。

 

 再びペースを取り戻したライは、遅れを取り戻さんと速度を上げる。しかし、それも一時のものであった。

 

 

《問51:帝国全土での活動を行っている部隊の正式名称を答えよ》

 

 >第1機甲師団

 >第4機甲師団

 >領邦軍

 >鉄道憲兵隊

 

 またもや手が止まり、4つの選択肢が脳裏によぎる。

 

 

 便利な思考だとライは内心感じながらも、答えを考え始めた。

 

 帝国全土を股にかける活動は、四大名門が東西南北を治めるエレボニア帝国において相当難しいものだ。それぞれの大貴族が各々私兵である領邦軍を有している。ならば例外的な権力を持つ勢力でなければならないだろう。そう、ライがケルティックで出会った、帝国全土に張り巡らされた鉄道を警備する"鉄道憲兵隊"こそがこの問題の回答だ。

 

 ……これは正解の予感がする。

 

 全ての問題に答えを書き込んだライは、一旦ペンを置いた。

 まだ間違いがあるかも知れない。時間は残り数分。ライは再び問題文の山へと戻っていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ――18日。久々に晴れ渡り、地面の水もどんどん蒸発する清々しい1日。

 

 この日は導力学と政治経済の2本立てだ。

 特に後半の政治経済は、やけに厳しいと噂のハインリッヒ教頭の性格上、授業に出ていない時事問題も出るらしい。生徒会長のトワから聞いた情報故に間違いはないだろうと、ライは一層気を引き締めていた。

 

 

《問11:導力銃と火薬を用いた旧型の銃の違いについて、正しいものを選択せよ》

 

 >1、導力銃は、弾薬に込められた七耀石を爆発させ発射する

 >2、旧型と比べ、導力銃は様々な特性を弾丸に載せることが出来る

 >3、導力銃の弾丸は、導力によって生成される

 >4、旧型の銃は火薬の調整が出来る分、導力銃より小回りが利く

 

 これは別に脳裏に浮かんだ訳でなく、実際に書かれている問題文だ。

 

 

 ライはかつてのマカロフの授業を思い出す。確かミリアムが答えた後に2と同じ内容を説明していたはずだ。それに導力ユニットについても説明があったように、導力銃はユニットから供給される導力で実弾を発射する。ならば1と3は間違いであり、4に関してもユニットをいじれば容易に調整可能だろう。ライは解答欄に"2"と書き込んだ。

 

 ……これは正解の予感がする。

 

 

 そして次に政治経済の試験。

 トワの忠告通り、途中にさりげなく時事問題が混ざっていた。

 

 

《問33:昨年帝都ヘイムダルで先行的に施行された法律について答えよ》

 

 >金融取引法

 >特別課税法

 >帝国交通法

 >テロ対策特別措置法

 

 今までの日常で聞いたワードが頭に浮かぶ。

 

 

 これに関してはライの知識は浅い。

 だが、確か前にエマが帝国交通法を"最近帝都ヘイムダルにて施行された導力自動車に関する規定"と言ってはいなかっただろうか。それが先行的かどうかは分からないが、賭けてみる価値はあると、ライは"帝国交通法"を書き込んだ。

 

 ……これは正解の予感がする。

 

 

「――そこまで!」

 

 ベルの音とともに、ちょび髭丸メガネで教頭のハインリッヒが高らかと宣言した。

 そして不正はなかったか、時間通りに机にペンを置いたのかと細かくライ達の机を確認し、机に置かれた紙を素早く回収していく。

 

「ふぅむ。寄せ集めのクラスとは言え、不正をする輩はいなかったようだね。残り1日せいぜい精進するのだよ君達!」

 

 ハインリッヒはそう言い残して教室を去っていった。しかし、その嫌味っぽい言動とは裏腹に、彼はやたら規則正しく模範的な動きだ。

 

「――コォラそこの2人組! 廊下を走るんじゃないっ!」

「「す、済みません!」」

 

 廊下からハインリッヒの叫びと、ついでに例の男子生徒2名の声が聞こえて来る。

 ……これだからサラが試験についてあれほど念押しするのだ。嫌味っぽい性格も、几帳面過ぎる行動も、ハインリッヒは何もかもサラとは真逆。さぞ普段から嫌味が飛んできている事だろうと、ライはサラの境遇を思い憂う。

 

 ……サラについて1つ分かった気がした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ――19日、最終日。

 

 前日に続き、今日も清々しいまでの雲1つない晴天。どうやら数日に渡る低気圧は過ぎ去ったらしい。幸先のいい状況だと、ライは片手で目元に影を作りながら真っ青な大空を仰ぎ見た。

 

「それじゃ~始めるわよ。みんな席につきなさい」

 

 と、そんな時、正面の教卓からサラの声が飛んできた。

 今日は最後の実践実技の試験だ。教官であるサラすらも中々に意気込んでいる。

 

「さぁて、泣いても笑っても今日が最終日。今日は1教科しかないんだし、みんなしっかりと頑張るのよ♡」

「やけに上機嫌ですね教官。もしや僕達の結果が――」

「あっ、細かい事はまだナイショよマキアス。気になるとは思うけど、来週水曜の結果発表まで待ってなさいな♪」

「……水曜日なんてこなくていいのに」

「はいはい、フィーもそんな弱気にならないの。案外いい結果が返ってくるかも知れないわよ?」

「ホント?」

「さてね〜。んじゃ、そろそろ開始の合図がなるから静かにしてなさい」

 

 妙に機嫌の良いサラだった。

 おそらくは裏でやっている採点の状況が良かったのだろう。裏返しの白紙を前にしても、ライは肩の荷が下りたように感じた。

 

「――それじゃ、始めっ!!」

 

 合図が鳴り、いざ、最終日の試験へ。

 ライは勢い良く裏返しの問題用紙をめくる。

 

(……!?)

 

 幾段にも並ぶ問題を見た瞬間、ライは戦慄した。

 

 答えが手に取るように分かるのだ!

 問題の文章を見た瞬間、今までライが培った知識が既に答えを導き出している。

 これらの問題が簡単過ぎる? いや、今まで以上に思考が研ぎ澄まされているからだ。

 

 止まらない。

 

 走りだしたペンは止まらない!

 

 荒ぶるペン先。最終日にして最高潮のコンディションとなったライは、教卓前のサラが若干引くほどの速度で解答欄を埋めていった。今まで上げた知識の集大成が、今、目の前に答えとして形を成したのだ。その勢いは留まることを知らない。

 

 こうして遂に最後の解答欄。

 それすらもペンを滑るように走らせ、容易に埋めたライは確信する。この試験こそ最高の出来栄えである事を。……試験終了まで後半分以上残っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あ~、やっと終わったぁ!」

 

 最後の試験が終わった帰り道、晴天下の日の下でエリオットが大きく背伸びをした。長い間続いていた緊張から開放された清々しさ。普段毎日吸っているはずの空気ですら違う風に感じる。

 

「ふふっ、試験は大変だったけど、たしかにこう言う空気も悪くないわね」

 

 そんなエリオットにアリサも同意する。

 今この場には、お互い顔を合わせたくない例の2人以外全員揃っている。要するに、フィーやラウラ以外の男子6人女子3人合計9人の大所帯であった。

 

 試練を1つ乗り越えたと言う達成感を共有するライ達9名。暖かな太陽の光も祝福しているように感じる中、皆は揃って街道を歩く。

 

 そして、駅前の広場に着いたその時。

 

「――おっ、お前ら試験帰りか? VII組全員お揃いとは珍しいじゃねぇか」

 

 横道から突然クロウが顔を出した。

 片手をズボンのポケットに入れたまま自然体で近寄ってくる先輩に、初対面の面々は呆気に取られている。

 

「2人いませんよ、アームブラスト先輩」

「ひぃ、ふぅ、みぃ。……あぁ〜、どうやらそう見てぇだな。あいっ変わらず問題を抱えているようで」

 

 やれやれと銀髪を掻くクロウ。しかし、その手の影からチラリと細い目でマキアスの様子を伺った。

 

「……ただまぁ、そっちは上手くやれた見てぇだな。リィン」

「ああ、お陰さまで」

 

 以前のような刺々しさがなくなったマキアスを見て、リィンも同意する。かつての行動は確かに実を結んでいた。それを確かめ合う3人の元に、外野であったガイウスが静かに近寄る。

 

「リィンよ。済まないが、我らに紹介してはくれぬか」

「あ、ああ。彼はクロウ・アームブラスト。俺たちの1個上の先輩で、この前のマキアスの件の時に手助けして貰ったんだ」

「僕の? ……そう言えば、確かにもう1人いたような」

「なるほど、そいつが機会を繋いだと言うクロウ先輩とやらか」

 

 去りし日を思い出そうとするマキアスに、特別実習での会話を振り返って納得するユーシス。他の面々もそんな当事者2人の反応を見て、この軽そうな男性が信用に足る人物だと判断したようだ。

 

「つー訳で、俺がVII組の事件解決にも活躍したMVPのクロウだ。今後ともよろしく頼むぜ! 期待の後輩たち」

「は、はぁ……」

「MVPはリィンじゃないかしら」

 

 こうして戸惑いの声多めな中、クロウは勢いで自己紹介を乗り切った。

 

「ま、それは置いといて、お前らはこれからどうするんだ?」

「どうするって、これから何かありましたっけ?」

「いやいや、あるないの話じゃねぇって。せっかく早めに授業が終わったんだぜ? お前らは打ち上げとかやんないのかって話さ」

 

「打ち上げっ!?」

 

 その魅力的なワードを聞いた途端、ミリアムの顔がパァっと明るくなった。

 他の面々はそう言う考えもあったかと言う反応。リィンとライは以前話し合ったから知っていたものの、上下の関係が薄いVII組では、基本的にこのような情報に対し疎かったのである。

 

「ねぇ委員長! ボク達もやろうよ打ち上げ!」

「え、ええっと。打ち上げにふさわしい場所と言ったら駅前のキルシェでしょうか」

 

 ミリアムの勢いに押されつつも、エマは口元に指を当てて場所を熟考する。駅前に居を構える宿屋兼喫茶のキルシェ。この辺りで食事を取れる場所と言えば、学生会館を除けばそこしかない。

 

 けれど、そんなエマの考えにクロウが異を唱えた。

 

「いや、多分それは無理っぽいぜ。考えても見ろよ。俺たち2年生は既に5回目の筆記試験なんだ。キルシェはとっくの昔に予約済みだろうさ」

「……そうですか。なら以前のように寮の食堂を使うしかなさそうですね」

「う~ん。せっかく時間があるんだし、もっと他にいい場所ないのかなぁ? ねっ、ユーシス?」

「おい、何故俺に話を振った」

「だって四大名門の一角なんでしょ? こう、お金とか使ってパパッとさ!」

「そんな事に使えるか!」

 

 両手を頭の後ろで組むミリアムの気楽な提案に対し、ユーシスは片手で頭を抑えていた。

 まぁ、それはともかく、VII組やミリアムの歓迎会に使ったように、初動が遅れた以上自分達の寮くらいしか場所はないだろう。そう考えた皆は、早速食料などについて話し始める。

 

 ……これでいいのか?

 不意に、ライの思考にノイズが浮かぶ。

 

 数日前考えていたように、これは不仲の解決を願うライにとって明らかなチャンスだ。

 

 しかし、もし寮での食事会を行ったとして、フィーとラウラの2人は参加するだろうか? 

 ……否。十中八九参加はしないだろう。この試験終わりの帰り道ですら別れたのだ。そこそこの広さしかない寮の一室に、わざわざ2人が集う訳がない。

 

(なら、他に方法は?)

 

 相談するリィン達の声をバックにライは考える。

 2人はマキアスの時とは違い、近くにいると気まずくなっている様子だ。ならば、その気まずさが薄れるくらいの規模でなければ、最初の一歩ですら踏み出せない。

 

 必要なのは規模。

 ペンが止まらなかった程の知識を総動員させ、ライは条件に当てはまる場所を探る。そして、青空を見上げた時、ライは絶好の場所を思いついた。

 

「そうか」

「ん? ライ、もしかして何か見つけたのか?」

「ああ、場所がないなら作ればいい」

 

 先の話の通り、ここに食事を取れる環境はないだろう。

 だが広い空間ならある。この天気の良い状況が生み出す最高のシチュエーション。即ち、木に囲まれた広大な士官学院のグラウンドが!

 

「やるぞ、大規模バーベキュー」

 

 ライは無表情に小さく不敵な笑みを浮かべ、その拳を固めた。

 

 ――やるからには、全力だ!

 

 

 

 

 




ペルソナなら青春やらねば!

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