心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

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前32話は改訂版です。後半部分が終わり方含めほとんど変わっていますので、まずはそちらをお読み下さい。


33話「帝国に潜む黒い影」

「ラウラ、ナイスタイミング!」

「うむ、これで漸くケルディックでの雪辱を果たせたと言うものだ」

 

 バグベアーの影との戦いが終わった後、ミリアムがラウラに向かってハイタッチしていた。鍾乳洞に木霊するタッチ音、対するラウラもどこか満足気だ。恐らくケルティックで不意を突かれ、火傷を負った事が悔恨となっていたのだろう。

 

 ライはそんな2人をチラリと眺め、直ぐに視線をエリオットへと戻す。青い光を伴って、ブラギにすっぽり収まるエリオット。彼は今、じっと両目を閉じて周囲の気配を探っていた。

 

「エリオット、シャドウを援護した第3者の手がかりは?」

「……ううん。何処にも反応がない」

 

 目を開けたエリオットがブラギを戻し、ため息を溢す。

 

 あの時、バグベアーの影を助ける為に疾風魔法(ガルーラ)を唱えた存在。柄を正確に狙ったと言う事は、間違いなくあの時近くに第3者、影曰く"依頼人"がいた筈なのだ。しかし、エリオットがいくら分析しても周囲に生命体の反応はない。一体どういう事なのかと、ライとエリオットはあり得ない矛盾に頭を悩ませていた。

 

 そんな2人に、アリサとガイウスが近づいてくる。

 

「ねぇライ。周辺を探してみたけどそれらしい痕跡はなかったわ」

「そうか」

「ふむ。どうしても見つからぬ様なら、別の手がかりを探した方が懸命かも知れないな」

 

 別の手がかり、か。

 思い当たるとするならば、バグベアーの影を生み出し、地面に倒れて動かなくなった男くらいだ。既に他のバグベアーに回収されているとばかり思っていたが、もしかしたら今もあの場所で倒れている可能性が考えられる。

 

「なら、エリオットが捕まっていた場所に行ってみるか」

「そうだね。けど、その前に僕が確認を――」

 

 もう一度ブラギを召喚しようとARCUSを取り出すエリオット。しかし、

 

「――いや、それには及ばないよ」

 

 そんな貫禄ある男性の声が聞こえ、エリオットはその動きを中断せざるを得なくなった。

 

 鍾乳洞の入口方面へと向けたライ達は4人の成人男性を視界に収める。悠々と歩くハイアームズ侯爵に、追従する2人の領邦軍。そして、一際目立つ屈強なオーラフの計4名だ。

 

 4人の先頭に立つハイアームズ侯爵が、代表してライ達に話しかけてくる。

 途中からしか聞いていない筈だが、彼にはそれが何を意味するのか既に把握している様子だ。

 

「鍾乳洞内に倒れていたバグベアーの団員と思しき男は、私達が既に回収しているからね」

 

 要するにそう言う事だった。ライ達がバグベアーの影と交戦している最中、ハイアームズ侯爵が率いる領邦軍がバグベアーの男を確保していたらしい。その証拠に、領邦軍の1人の背中には気絶した鎧姿の男がいた。

 

「侯爵が何故ここに?」

 

 それを確認したライは、ハイアームズ侯爵に視線を戻し問いかける。

 けれど、その答えを知る人物がライのすぐ横にいた。

 

「あー、それは私達が伝えたからよ」

「……そう言えば、アリサ達は宿舎に向かったんだったな」

「そうそう。ライが ひ と り で突っ走ってた間、私達が何もやらなかったとでも思ってる訳?」

「ア、アリサ?」

 

 妙な気迫を放つアリサを前に、ライの言葉が一瞬固まる。

 どうやら崩れる吊り橋に飛び移ったのがまだ不満のようだ。いや、むしろバグベアーの影と言う脅威が失くなった為、抑えていた感情が噴出したのかも知れない。その可愛らしい顔には大きく"不機嫌です"と書かれていた。

 

「自覚してるんだったらリィンへの言い訳でも考えておきなさい。2日連続の峡谷落下とか、間違いなく帝国史上ライが初めてよ」

「……ああ、そうする」

 

 本当に分かってるんでしょうね? とアリサが疑り深く顔を近づけてきた。

 もちろん、理由は重々承知している。――そう、普通1回落ちたら死ぬ。もし生き残ったとしても2日連続で体験する者はまずいないだろう。今ここにいる1人を除いて。ライはトリスタ帰還後の報告を考え、頭が痛くなった。

 

 ……と、そんな2人の様子を見たハイアームズ侯爵は、何とも微笑ましそうに笑っていた。それに気づいたアリサの顔が途端に真っ赤に染まる。

 

「いやぁ、若いと言うのは素晴らしいね」

「あの! べ、別に仲が良いって程じゃ!」

「はっはっは! 否定する事はないだろう。良き友人は学院生活における最高のスパイスなのだから」

 

 弁明するアリサの言葉もどこ吹く風。ハイアームズ侯爵はペースを欠片も崩すことなく両手をパンと1回鳴らせ、逆に皆のペースを自身へと引き寄せた。

 

「君達には感謝しているよ。教えて貰った情報のお陰で捜索網が改善され、既に数名の検挙に成功している。……まぁ、彼らは既に依頼人から見放されていたようだったが」

 

 優秀な指揮を失ったバグベアーは、最早ただの烏合の衆に過ぎない。全員捕まるのも時間の問題だとハイアームズ侯爵は締めくくる。つまり、セントアークに潜む武装集団の事件は、旧都をあまり騒がせる事なく無事に収束したのだ。

 

「これで晴れて協力関係は満了した訳だ。オーラフ中将、早速――」

 

 故に後は正規軍と今後の話し合いをするだけ。そう考えたハイアームズ侯爵は振り返り、そこにオーラフがいない光景を目にする。

 

「……おや?」

「侯爵、オーラフ中将なら向こうです」

 

 首を傾げるハイアームズ侯爵に、ラウラが言い辛そうにしながらも指を差す。そこにあったのは、愛息子を抱きしめる親馬鹿の姿だった。

 

「心配したぞぉぉ! エェリオットォォォォオオ!!!!」

「と、父さん! 痛い、痛いってば!」

「お前が誘拐されたと彼女らから聞いた時、一体どれほど身が裂ける思いだったか! もう少しこのままいさせてくれぇい!!」

「いや、だって侯爵様も見てるから! 早く離れてよ! 父さぁぁぁぁぁん――!!!!」

 

 エリオットの叫びが鍾乳洞内に木霊する。

 

 そんな平和な光景を見て、ライはようやく戦いの終わりを実感するのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……いやぁ、お見苦しいところをお見せしましたな」

 

 全くである。

 

「ふふ。名高い猛将であれ、子の前ではただの親だと改めて証明された訳だ。まぁそれについて私が言う事は何もない。話さなければならない事は別にあるのでね」

「ふむ、そうですな」

 

 各々の立場から向かい合う2人の男性。

 先ほどまでの温い空気は何処へやら、彼らが発する刺々しいオーラが辺りを包んでいく。

 

「さて、まずは正規軍の言い分を聞かせて貰おうか」

「我らの要求は唯1つ。――情報の見返りとして、武装集団バグベアーの引き渡しに応じて頂きたい」

 

 侯爵を前にして、臆する事なくそう断言するオーラフ。

 ハイアームズ侯爵はその要求に眉をひそめ、冷静に口を開いた。

 

「悪いけどそれは出来ない相談かな。彼らを捕まえたのは我々領邦軍。情報提供をしてくれた恩義はあるけれど、その報酬が彼らの身柄とあっては釣り合いが取れない」

「はたしてそうでしょうかな。此度の相手は吊り橋や鍾乳洞を爆破するほどの危険分子。我々の情報がなければ旧都に甚大な被害が出た可能性も低くない。ならば、我らの情報には相応の価値があったと思われますが……」

 

 双方一歩も引かないやりとりが続く。

 完全に部外者となってしまったライ達B班には一片も入り込む隙はなかった。

 

 実際の気温以上に冷え込む中、忍び足でエリオットが近寄ってくる。

 

「……ねぇ、僕達どうしたら」

「今は流れを見守ろう」

 

 それぞれ思惑がある以上、下手に介入しては余計状況をややこしくするだけで、喜ぶ者は誰も居ないだろう。確たる主張と立場を持たないライ達は、ただ悪い方向に進まない様に祈るだけであった。

 

「――しかし、私達にとって彼らは重要なカードだからね。そう簡単に手放すわけにはいかないのだよ」

「ですが、彼らは近頃帝国を騒がす事件に繋がる貴重な手がかりでもあります。事が帝国全土に関わってくる以上、みすみす手がかりを見逃すとあっては我々正規軍も黙ってはいられない」

「はぁ、そこを突かれると痛いね。私も正規軍と事を構えるのは可能な限り避けたいところだ。…………なら、こうしよう。我々サザーランド州領邦軍も全面的に未知の魔獣襲撃事件に協力すると言うのは如何かな。これなら貴殿らに手がかりの提供も出来、同時にエレボニア帝国サザーランド州の調査進展にも繋がる。悪くない提案だと思うが」

 

 結局は自身の場にバグベアーを置く形となる提案をハイアームズ侯爵は唱えた。侯爵が譲歩したのは全面的な協力と言う口約束のみ。旗から見てこの提案はまだ不公平なものの様に見える。

 

 しかし――

 

「……ふむ、確かに悪くない」

 

 オーラフはそれで納得した。

 予想外の展開に、息子のエリオットが思わずオーラフに質問する。

 

「えっ、父さんそれでいいの!?」

「良いのだエリオットよ。当初の目的は十分に果たせた。どうやらハイアームズ侯爵家"は"今回の件に直接関わっていないらしい」

 

 含みを持ったオーラフの言葉。顔は質問したエリオットを向いていたが、その厳つい視線は今もなおハイアームズ侯爵に注がれている。

 

「……なるほど、それが貴殿の目的だったか」

「しかし、私はあくまで1部隊の司令。上の判断はこれからである事をご理解頂きたい」

「ああ、もちろんだとも」

 

 両者近づき合い、軽く握手をして合意とする。

 こうして、各々の意図が交差する大人達の話し合いは円満に幕を下ろすのだった。

 

「――と、言うわけだ。VII組諸君、後は我々領邦軍が対応しよう」

 

 ならば次はライ達B班に関する話だ。

 大人のやっかいな話は終わったと笑みを浮かべながら、ハイアームズ侯爵はライ達に面対した。その背後には地上へ運ばれていくバグベアーの男が。それを侯爵は横目で確認し、続きを口にする。

 

「それと君達には細やかながら謝礼をさせて貰いたい」

「いえ、我らは友を助ける為に動いただけですので……」

「成果に対する正当な報酬だよアルゼイド君。依頼の報告がてら渡せるよう手配しておくから、士官学院に帰る前に受け取ってくれたまえ」

 

 どうやら今回の事件の報酬として物か何かを貰えるらしい。別にセントアークの為だと思って行動した訳ではないので複雑な気分だが、依頼で貰える報酬と同じと考えれば妥当なところか。……ん、依頼?

 

「そういえば、まだ依頼が」

「ああっ、そーだよ! エリオットが誘拐されちゃったせいでまだ終わってないじゃん!」

「ええっ!? 僕のせい!?」

 

 特別実習に最も積極的だったミリアムが騒ぎ出す。そう、途中でエリオットの誘拐が発覚したせいで、雑貨店で受けた依頼がまだ手もつけてない状況なのである。あれからどれ程の時間が立ったのだろうか。ライ達は急ぎ鍾乳洞の入口へと走りだす。

 

 けれどその最後尾、エリオットがオーラフとすれ違うときに一旦足を止めた。

 

「あっ、父さん。1つ言い忘れてた」

「む? 何だエリオットよ。……ああ、そう言えば、私も先日の件で謝らねばと――」

「あはは、それはもういいんだ」

 

 何でもないように笑うエリオットを見て、オーラフが面を食らう。

 そんなレアな父親の顔を見たエリオットは微笑み、改めて言葉を紡いだ。

 

「昨日の言葉のお陰で、1つ壁を乗り越えることが出来たんだ。……助かったよ、父さん」

 

 言いたいことを言い終わったエリオットは「それじゃ」と言い残して先行したライ達を追う。

 

 残された大人2名。

 暫くしてエリオットの言葉の意味を理解したオーラフは、染み染みとした声で侯爵に語りかける。

 

「……ハイアームズ侯爵殿」

「何かな、オーラフ中将」

「子の成長というのは、我々の予想を遥かに超えているかも知れません」

 

 心底驚いたように語るオーラフ。

 それを聞いたハイアームズ侯爵もまた地上へ向かう6人の背中を見て、

 

「ああ、どうやらその様だね」

 

 と納得したように呟いた。

 

 このセントアークに来た頃と比べ彼らが、特にアリサとエリオットの2人の雰囲気が変化しているのを、ハイアームズ侯爵は機敏に感じていた。"3日見なければ"とよく言うが、たった1日でここまで変わる事が出来るものなのか。これなら本当に帝国を変えうる逸材が生まれるかも知れないと、VII組の設立理由を思いながらもハイアームズ侯爵は1人熟考する。

 

 

 

 こうして、ライ達6人が経験した激動の特別実習は2つの成長とともに終了し、無事トールズ士官学院へと帰る事となるのであった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 …………

 

 

 ……密度の高い2日間を終えたB班は3日目の朝、朱色の列車に乗ってトリスタへの帰路についていた。

 

 ライは疲れた体を長椅子に預け、ふと窓際を見る。

 そこには行きと同じように雄大な白い峡谷が広がっていた。見ているだけで落ちていきそうな深い峡谷。けれど、実際に落下を経験したライにとってそれは、昨日とは違い全く感動できるものではない。むしろ親近感すら湧いてしまう心境の変化に、ライは僅かに苦笑いを浮かべる。

 

「先の依頼、想定より軽く終わったな」

「流石にシャドウと比べちゃ、気も抜けるわよね」

「でも、僕にとってはむしろ平和を実感できる時間だったよ」

 

 そして、峡谷を跨ぐ橋を抜けトンネルに入った為、ミリアム達は外を見るのを止め雑談を始めていた。依頼は特に大きなエピソードもなかったので割合する。

 

「それよりさー。ハイアームズ邸で貰ったこれ何なんだろ?」

 

 事件の報酬として貰った絹巾着の中身を取り出し、ミリアムが不思議そうな顔をする。

 青色の綺麗な石。一見宝石の様にも見えるが、ライとエリオットの2人にはそれが何なのか検討がついていた。

 

「それは、多分シャドウ様に使われる薬じゃないかな」

「へっ、これが? それじゃー、この綺麗なのが"グノーシス"って奴なんだね」

 

 ふーん、とミリアムがグノーシスを親指と人差指で挟んで、興味深そうにくるくると回した。車両に取り付けられた導力灯の明かりが反射してキラキラと輝いて見える。本当に宝石の様な透き通った明るい青色だ。

 

「あれ、でもこれ……」

 

 と、その時。注意深く眺めていたミリアムが何かを呟いた。

 それに気付いたラウラの視線がグノーシスからミリアムに移る。

 

「む、何か分かったのか? ミリアム」

「えっ、あ、別に大発見って程じゃないんだけどさ」

 

 ミリアムは小石サイズのグノーシスを両手で握り、片目で中を覗き込む。そして「ああ、やっぱり」と呟くと、その手のグノーシスをライ達に突き出した。

 

「これ、もしかして光ってない?」

 

 キョトンとするライ達B班。

 

 けれど、その意味を理解した途端ミリアムからそれを受け取り、各々ミリアムの様に手で覆い隠してその様子を確認し始めた。

 

「本当ね。まるで、月の光みたい」

 

 その内の1人、アリサが思わず感嘆の声を漏らす。

 暗い中に置かれたその石は、月のように淡い光を放っていたからだ。

 そんな幻想的な光景に、アリサは暫くグノーシスを眺め続ける。

 

 ……本人達にとっては小さな発見にしか見えないだろう。

 けれど、それがある重要な意味を持つと知るのは、まだ先の話であった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ――旧都セントアーク、晴天が広がる峡谷近くの白い岩場。

 

 人気のない場所に突如、波紋が浮かび上がる。

 まるで空中に水があるかのような不可思議な波紋。その中心から眼鏡の男性がゆっくりと姿を現した。

 

「ふむ、中々に有意義な実験だった」

 

 その手で小さな宝石を転がしながら灰髪の男は呟く。《ガルーラジェム》それは疾風魔法が込められた特殊な宝石であった。既に力を失った宝石を、男は崖下へと放り投げる。

 

「シャドウと同じ魔法を扱うペルソナと呼ばれる力。それを自在に扱う士官学院の学生達。……そして、その力を発現させる存在」

 

 先のシャドウとの攻防を1つ1つ思い返し、眼鏡の男はその意味について考察を進めていく。

 

 1点目、2点目はペルソナの本質に繋がる重要なファクターだ。同じ魔法を使うと言う事はペルソナがシャドウと同質の存在である事を示し、2点目は逆に両者の違いを指し示している。だが、男が興味を持ったのは他でもない最後の"力を発現させる存在"であった。

 

 ケルティックでは黒髪の青年がペルソナに覚醒し、今回も紅毛の少年がペルソナに覚醒した。これらに共通する出来事は、彼らが戦術オーブメントを用い"1人の人物"と接続した事にある。個人に莫大な力を与えるその方法に、眼鏡の男は注目せざるを得なかった。

 

「間違いなく鍵はあのライと呼ばれる青年だ。さて、一体どう言う仕組みなのか。……フフ、久々に学者としての血が騒ぐ」

 

 男は内から沸き上がる笑みを必死で堪える。

 

 ……けれど、そんな楽しげな時間はそう続かない。

 眼鏡の男の背後に突如、黒い傀儡が現れ、その傀儡の手に抱かれていた少女が近寄ってきたからだ。

 

「ここにいましたか」

 

 黒いボディスーツを身に纏った無表情の少女が呟く。

 

 興が削がれた眼鏡の男はその言葉を聞いて不機嫌そうに振り返り、その少女の存在を、そしてここ2日間で感じていた違和感の正体を瞬時に察した。

 

「ああ貴様か。――なるほど。今回彼らの行動が妙だとは感じていたが、貴様が裏で手を回していたと言う訳か」

 

 察したからこそ男の目は更に鋭くなり、計画を阻害された不満を眼力に変えて少女にぶつける。

 

「どういうつもりだ。アルティナ・オライオン」

「答える義務はありません。あくまで貴方と私は"陣営"が同じと言うだけの間柄。詮索は無意味と判断します」

 

 どうやら、アルティナは何も答える気はない様だ。眼鏡の男はその真意を探ろうと睨むが、自身が逆の立場でも同じ事を言うだろうと思い直し「異論はない」と追求を止めた。

 

「それで、今回はどういった要件だ?」

「貴方には招集が掛けられています。現在貴方が行っている計画について報告するようにと」

「なんだ、そんな事か」

 

 男はつまらなそうに眼鏡を上げ、アルティナに背を向ける。

 

「上には2ヶ月後、帝都で事を起こすと伝えておけ。我らがリーダーである同士《C》も、そこで表舞台に立つそうだ」

「その間、貴方は何を?」

「もう少し、調べなければならない事柄が出来た。――全ては"あの男"に無慈悲なる鉄槌を下す為。そう言えば上も納得するだろう」

「了解しました。それと――」

 

 けれど、まだアルティナの話は終わっていなかった。些細ながらも予想外の展開に男の視線が後ろを向く。

 

「まだ何か言いたい事が?」

「サザーランド領邦軍に拘束された彼らはどうするつもりですか。万が一今情報が漏れた場合、計画に支障が生じる可能性が考えられます」

「ふむ、その事か。……心配は無用だ。例えいかなる尋問を受けようと、彼らは暫く一言も発する事が出来ない」

「――? それは一体」

「対策は既に講じている、とだけ理解しておけば良い」

「……了解しました」

 

 追求しても無駄だと判断したアルティナは、男の元を離れ、黒い傀儡と共に虚空へと消えた。

 

 ……再び1人になった眼鏡の男。

 先ほど言った言葉を思い出し、その手を爪が食い込むほどきつく握りしめる。

 

「無慈悲なる鉄槌を下す、か。……あの男を守る城は難攻不落。だが、今の私にはシャドウが、超常なる力が手の内にある。必ずやあの強固なる壁を崩し、奴の野望を完膚なきまでに打ち砕く!」

 

 その目に映るのは底なき憎悪と怒り。その帝国全土を飲み込まんとする"激情"が男の原動力となり、男は深き帝国の闇へと消えていった。

 

 

 

 ――そう。

 

 エレボニア帝国を崩さんとする黒い影は、決して日に当たる事はなく、しかし、着実に世界を蝕み始めていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて2章 -白亜に潜む黒い影- は終幕です。

まずは、改めて32話の改定の件を謝罪させて頂きます。
一度投稿して一晩明けた後、敵の小物化が許容範囲を超えてるのでは? と感じて急遽改定を決めた次第でございます。いやはや小説って難しい……。

それにしても、34話使ったにも関わらず今のところ物語は序章。流石はストーリー重視の原作だけあってボリュームたっぷりですね。愛家のスペシャル牛丼が如く底が見えません。
次章の投稿はプロットの整理等があり若干遅れるかも知れませんが、コンゴトモヨロシクお願い致します。

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