心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

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長らくお待たせしました、2ヶ月ぶりの投稿です。
バタバタと忙しなく変化する季節、進まない筆、決算前の怒涛のゲームラッシュ。全てが噛み合ってここまで遅れたと言う……。こんなクロスを書いているので分かるかもしれませんが、基本ゲーマーなので時間の分配が難しいですorz


25話「アリサの望む道」

 旧都セントアークの一角でエリオットの事情を聞いたライとガイウス。その後、ハイアームズ邸に戻った3人は休憩室で休んでいたアリサ達と合流して再び応接間に向かっていた。

 

 明るい日差しの中、再び開かれる応接間の扉。そこにいたのは真剣な目で書類を読み、忙しなく領邦軍と話し合うハイアームズ侯爵の姿であった。

 どうやら既にオーラフとの対談を終えていたらしく、応接間にオーラフの筋骨隆々とした姿は見えない。……いや、むしろその方が良かったのだろうか。元気を取り戻したとはいえ、今の状況でエリオットと会わせるのは酷だろうから。

 

 そんな訳で、ライ達はハイアームズ侯爵から依頼の書かれた封筒を受け取り豪邸を後にした。

 オーラフとの会談の内容も気にはなったが、今のハイアームズ侯爵に聞くのも忍びない。だから話は日を改めて聞く事にしよう、と皆で話し合った上での判断であった。

 

 

 ……この時、無理やりにでも聞いておくべきだったと気づくのは、もう少し先の話である。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「――何度見てもおおきな崖だよね〜!」

「ああ、確か130アージュだったか」

 

 特別実習を開始したB班は今、列車でも見た雄大な峡谷の前に来ていた。

 大河のごとく遠方まで続く白い谷。1つの観光名所となっているらしく、両脇には鉄製のしっかりした柵が施され、1本の巨大な吊り橋が崖を渡している。ライは谷間を流れる涼しげな風を身に受けつつ、柵から身を乗り出そうとするミリアムをひっぺがした。

 

「観光はそれくらいにしておこう。我らの目的は別にあるのだからな」

「えっと、たしか依頼じゃここでロケットを失くしたのよね」

「はは、崖に落ちてないといいけど……」

 

 そう、ハイアームズ侯爵に渡された封筒の中に書かれていたのは《落し物の捜索》と《魔獣討伐》の2つの依頼。今回ライ達はその1つである落し物の捜索をするためにここまで足を運んだのであった。

 

 ライは依頼文に同封されていたロケットの絵を見直す。

 デフォルメされた女神の絵、恐らくはゼムリア大陸全土で信仰されている七耀教会の女神エイドスだろう。その美しくも可愛らしい女神が刻まれたロケットの絵が、色鉛筆で乱雑に描かれている。

 ……情報はこれだけだ。依頼人はセントアークに住む普通の住人なのだそうだが、一体どんな経緯でこの依頼が実習になったのだろう。

 

「過程は考えていても仕方あるまい。今はアリサの様にペンダントを探そうではないか」

「まあ、確かに」

 

 ラウラの提案に従ってライも付近の捜索に入る。

 柵の近く、見晴らしのいい広場、そして道を挟んで反対の建物。ライは注意深く隅々まで探しながら、同時にアリサの様子を密かに観察した。生真面目にロケットを探し求める彼女の姿、金色の長髪を靡かせるその光景に、先の憂いの様子は一切見受けられない。

 

「……ラウラもうまく行ったみたいだな」

「いや、先の私達はただアリサと雑談していただけだ。気分は晴れた様だが何も聞けていない」

「そうか」

 

 ただ、そう都合良くはいかなかった様だ。

 結局アリサの悩みは分からずじまいか、とライは心の中でため息をつく。

 

「しかし、アリサも聡明であるが故、我らの意図も既に察しがついているのだろう。その証拠に……、……あっ」

 

 と、会話の途中でラウラが間の抜けた声を発した。

 思わずライは思考を止め、目を丸くしたラウラの顔に視線を移す。

 

「ラウラ?」

「今夜8時、中央区にあった噴水広場に来てくれないか?」

 

 すると、ラウラから唐突な誘いが舞い込んできた。

 流石のライもその意図が分からず、ラウラの真っ直ぐな瞳をジッと見つめ返す。

 

「どうした、突然」

「アリサに関する事だ。遅れぬ様に頼むぞ」

「あ、ああ」

 

 今一状況が掴めないまま出した生返事。それを単純な肯定と捉えたラウラは納得した様に「うむ」と頷いてロケット探しに戻って行った。

 

 ……アリサに関する相談でもしたいのだろうか?

 煉瓦の街道に取り残されたライは、しばらく今の約束の意図について考え込むのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 特別実習を始めて1時間後。

 観光客の目撃証言から無事にロケットを発見したライ達は、セントアークの住居区に住む依頼人のもとに訪れていた。真っ白な漆喰に覆われた一軒家、色とりどりの花が窓先に飾られている。そんな小洒落た家の扉を軽く叩くと、中から「は〜い」と言う女性の声が聞こえてきた。

 

「あら、あなた達は?」

 

 扉から出てきたのは若い主婦であった。午後の軽食でもしていたのか、室内からは美味しそうなアップルパイの香りが漂ってくる。

 そして、女性の背中には小さな男の子が隠れる様にくっついており、頭だけ出して恐る恐るライ達を見つめていた。……あのロケットの絵から考えて、ロケットの持ち主はあの男の子なのだろう。

 

 とりあえず、ライ達を代表して先頭のアリサが依頼の話を主婦に説明する。

 

「あぁ、失くしたロケットをあなた達がっ!? あ、ありがとうございます! 領邦軍に頼んではいたのですが、正直もう戻って来ないものと思ってて。……ほら、一緒にお礼をいいましょう」

「ありがとなー! おねーちゃんたち!」

「ふふっ、もう失くしちゃ駄目よ」

 

 しゃがみこんで男の子にロケットを渡すアリサ。

 それはまるで弟をあやす姉の様な光景で、目線の高さを合わせたアリサの瞳は柔らかに微笑んでいた。アリサの面倒見の良さがよく分かる光景だ。静かにその笑顔を記憶に刻む。

 

「……なに?」

「いや、何でも」

 

 視線を感づかれたライはアリサからそっと目をそらした。

 

 アリサの顔を眺めてたと言ったらどんな反応をするだろうか。……間違いなく大げさな反応をするので、心の中だけに留めておくとしよう。

 

「ところで御夫人よ。1つ質問なのだが、この依頼を領邦軍に出したと言う話は真か?」

 

 そんな2人を余所に、ラウラが主婦に依頼に関する質問をする。

 

「ええ、2年前にいなくなってしまった遊撃士協会(ブレイザー・ギルド)の方々に変わって依頼を受けて下さってるんですよ。まぁ、警備の片手間なので対応は遅いんですけどね」

遊撃士協会(ブレイザー・ギルド)かぁ。2年前の支部襲撃事件以来、帝国じゃ見なくなったよねぇ〜」

 

 ラウラと主婦、そしてエリオットの3人が民間支援団体《遊撃士協会》について世間話を始めた。遊撃手がいなくなって不便になっただとか、レグラムにはまだ残ってるだとか、長年の生活に根ざした話題に花を咲かしている。

 

「へぇ〜、おねーちゃんたち”しかんがくいん”ってとこでべんきょうしてるんだー」

「へっへーん。こう見えてもボク達は強いんだよ!」

「おれとあんまり変わらないのにすごいんだな!」

「――う゛っ」

 

 一方反対側では、小さな男の子を前にしたミリアムが盛大に自爆していた。

 そこに部活見学の出来事を思い出したアリサが忠告のために関わっていく。

 

「ミリアム、ここでガーちゃんを呼ばない様にね」

「わかってるよ〜。子供相手にそんな大人げない事する訳ないじゃん」

「……大人?」

 

 それほど身長の変わらないミリアムと男の子を見比べて、アリサが不思議そうに頭を傾けた。

 

「……今、ボクの背を見たでしょ」

「ご、ごめん。冗談だから拗ねないで」

 

 アリサがそっぽ向いたミリアムに対し必死に弁明を始めた。

 しかしミリアムが拗ねていない事は、緩んでいる口元を見れば明らかであろう。

 その事実を知っているのは反対側にいるライとガイウスだけであった。

 

 ――少し前のギクシャクした空気がまるで嘘の様に和気あいあいとした2つのグループ。

 そんな彼らの様子を見て、ガイウスがぽつりと呟く。

 

「この様な風がいつまでも続くと良いのだがな」

 

 主婦や男の子を交えて楽しそうに会話するエリオットとアリサ。

 こんな光景が続けばいいと思いながら、ライとガイウスの2人は静かに見守った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ――5月29日、午後7時半頃。

 

 主婦達と別れた後、裏路地に潜む魔獣を無難に討伐したライ達はハイアームズ侯爵が手配した宿に到着していた。本来ならここでレポートを書いてゆっくりと旅の疲れを癒す予定なのだが、ラウラから頼まれた用事があるため、相部屋のエリオットとガイウスに一言断りを入れて外に出た。

 目指す先は約束の噴水広場だ。ライは昼間の道順を思い返しながら夜のセントアークを進んでいく。辺りは昼間と打って変わって導力灯の暖色系の光が辺りを照らし、白い壁も赤みがかった黄色に染まっている。そのため一度通った道もまるで別世界の様な光景であった。

 

 そうして数十分後。いくつかの角を曲がり何人かの警備の領邦軍とすれ違ったライは、地下水を汲み上げた噴水の音が聞こえる程に広場に近いた。そしてラウラは来ているだろうか、と考え辺りを見回す。

 ……しかしながら、そこに藍色の髪の少女の姿はなく、代わりに居たのは1人の少女であった。見慣れた金髪ツーサイドアップの少女。それは即ち――

 

(アリサ?)

 

 物陰にいるライはアリサの様子を伺った。

 彼女は辺りをきょろきょろと見渡して、誰かを待っている様子だ。

 一体誰と待ち合わせをしているのか。疑問を覚えたライは一歩前に踏み出すが、アリサに近づく第3者の足音を聞いて歩みを止める。

 

「――うむ、待たせたな」

 

 その第3者とは即ちラウラであった。

 ……少し考えれば分かる事だ。ライにこの場所に来る様伝えたのは他ならぬラウラなのだから。

 

 ラウラとアリサ、2人の少女が面対する光景をライは広場の隅から静かに見つめる。

 

「来てくれたんだ。……って、私が言うのも何だけど、これって女性同士の挨拶としてどうなのかしら」

「む、何かおかしかったか?」

 

 きょとんとするラウラは、今の会話がデートの待ち合わせに近かった事に気づいていない様だ。アリサはジト目で不思議そうなラウラを睨みつける。

 

「はぁ……。こんな調子じゃ、地元で”お姉様”とか言われてたんじゃないかしら」

「ほう、良く分かったなアリサ」

「……ほんとに呼ばれてた」

 

 冗談で言ったつもりの推測が当たっていたと言う事実を前にして、アリサは頭に手を当てて項垂れた。その心に映るのは諦めか何かか。遠くから眺めるライにはその真意は分からない。

 

「あぁ〜、うん。この話は置いておきましょう。せっかく夜遅くに来てもらったんだし」

「うぅむ。少々腑に落ちないが、確かにアリサの言う通りだな。……ふむ」

「? どうしたの、ラウラ」

「いや、条件がそろったと思ってな」

「条件?」

 

 頭に?マークを浮かべるアリサに対し、ラウラは何故か満足げに腕を組んだ。

 噴水の青白い導力灯に照らされる藍色のポニーテールもどこか自信に満ちあふれている。

 

「ああ、壁を乗り越える為のだ。――それでまず始めに問いたいのだが、此度の招待はそなたの内を話してくれる、と言う事で間違いはないか?」

「……ス、ストレートに聞くのね」

「うむ、私は弁が立つ性分ではないのでな。それにアリサの事情を聞こうとしているのだ。なれば私も心からぶつかる他あるまい!」

 

 淀みなく言い切るラウラ。そんな凛とした風貌にアリサも「ラウラらしい」と微かに微笑み、金髪を翻して歩き始めた。

 

 向かう先は青い導力灯が埋め込まれた噴水の縁石。

 アリサは自身の短いスカートを整え、静かにその縁石の上に座る。

 

「そうね。せっかく来てもらったんだし、私の昔話に付き合ってくれるかしら」

 

 心配されていると言う事実に気づいていたアリサは自ら行動を起こそうと決めたのだろうか。

 月明かりに照らされた彼女の姿は、とても絵になる光景であった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 アリサに習い、ラウラも噴水の縁石に座る。

 それを確認したアリサは小さく深呼吸して改めてラウラの顔を見た。

 

「――始めに少し聞きたいんだけど、ラウラは今から話そうと思ってる事が何だか分かる?」

「ふむ、そうだな。アリサの様子がおかしかったのはセントアークに関して話し合った日からだったか。ならば、家族、や親、……が関わっているのではないか?」

「正解。さすがに分かっちゃうか」

 

 諦めた様な表情でアリサが呟く。

 彼女の性格を鑑みるに、彼女自身も薄々バレる行動であったと自省していたのかも知れない。

 

「私の今の状況を端的に、……ほんとに短く言っちゃうと家出ってことになるのかしらね」

「家出?」

「そう家出」

 

 ラウラはうぅ、と言葉に詰まった。

 思えばラウラはあの日、親との仲の良さに関して自慢げに話してしまっていた。それが引き金になってしまったのではないかと考え、ラウラの表情がしだいに暗くなっていく。そんな様子に気づいたアリサは慌ててフォローの言葉を口にした。

 

「べ、別にラウラの話が原因って訳じゃないからね! ずっと前から抱えてる問題だから! それに何もずっと仲が悪かった訳じゃないの。父がいた頃は普通に仲の良い家族だったし」

「……いた頃は?」

「あっ」

 

 フォローするつもりが墓穴を掘ってしまったと言う事実を前に、アリサの表情が固まってしまった。

 こんな時なんて言葉を発せばいいのだろうか、とアリサは紡ぐべき言葉を探す。相手を思いやる言葉か、はたまた場を取り繋ぐ為の言い訳か。――いや、そんな事を言う為にラウラを呼んだんじゃない、とアリサは心に決めた。

 

「……そうね。この際だからはっきり言っちゃうけど、私の家庭はラウラと似たようで正反対の状況なのよ。小さいころ、私が9歳のときに技師だった父が、その、亡くなってしまったの」

「亡くなった、か」

 

 幼い頃に母を亡くしたラウラもその辛さはよく理解していた。

 それを言葉にする辛さも同様に。けれど、今はその事に触れる場面ではない。そう、話の本題はここから先なのだから。

 

「似たようで正反対、と言う事は――」

「ラウラの想像通り、ここからが家出の原因。父を亡くした母はまるで別人になったみたいに仕事一筋の人間に変わってしまったわ。ほんと、仕事の鬼としか言えないくらいに。それで5年前、遂に実の祖父まで陥れてしまった。……仲の良かった家族が、だんだんと壊れてしまったのよ」

 

 何故母が変わってしまったのか、それはアリサには分からない。

 悲しみから逃れるためだとか想像はできるけれども、仕事を優先して実の肉親まで追いやろうとする母をアリサは理解できなかった。どうしても理解したくなかったのだ。

 

「だから、私はそんな母から自立するために仕官学院に行くって決めたのよ。トールズ仕官学院は全寮制だし、1人でも何とかなるくらいに奨学制度も充実してるからね」

「確かに、そういった面から言っても仕官学院は適当な場所であろう」

 

 これがアリサが仕官学院に入学した理由であった。9歳の頃、つまりは8年前から続く母親との不和こそがアリサの抱える悩みだったのだろう。そして、最近のアリサの葛藤も同じく不和が……いや、"違う"?

 話を聞いて納得した様子のラウラとは真逆に、ライは微かな違和感を感じていた。最近のアリサが見せる表情と今の話の内容とを繋ぐには、まだ何かピースが欠けている様な……? そんな曖昧な疑問が付きまとって離れない。けれど、アリサが再び口を開く様子を見たライは無理やり意識を前に戻した。

 

「だからもう心配しないでいいのよ。エリオットの親子関係を見て悩んだりもしたけど、私は私でやってけるんだから!」

 

 金髪をかき上げてアリサはわざとらしい笑みを浮かべ、そう断言した。

 先ほどまで長々と話していたが、恐らくはその一言を言う為にラウラをここに呼んだのだろう。自分の事は心配いらないと伝えるために。

 

「ふむ、余計な気遣いであったか。確かにマキアスの件などで我々も周囲の状況に過敏になっていた事は否定できぬ」

「余計って訳じゃないけどね。心配してくれた事には感謝してるし。……けど、今の私は母から自立するって目標を掲げてるわけだから、心配されてもどうしようもないんじゃないかって思ったのよ」

「ああ。そなたの意志、しかと受け取った」

 

 噴水から立ち上がったラウラは己のこぶしを胸に当てそう誓った。

 日中のエリオットの独自に似た流れを感じ、ライは「出る幕もなかったな」と心の中で呟く。

 このままでも大丈夫であるのなら、わざわざ出て行く必要もないだろう。やや気がかりな点はあるものの、些細な疑問だと自らに言い聞かせ、ライは静かに去ろうとした。

 

 しかし――

 

「――そう言う訳だ。わざわざ来て貰ったのは何だが、ここはアリサに任せるとしようではないか」

「えっ? ラウラ、だれに向かって言ってるの?」

 

 観客のままで終わる、と言うことはどうやら出来ないらしい。

 

 暗がりに立つライに向けて相談するラウラ。

 気配を読むというスキルを持たないアリサはその行動にただただ困惑する。

 突然観客から役者に立たされたライは、そんな2人の様子を見ながら静かに口を開いた。

 

「気づいてたのか」

「何を言う。気配を隠そうともしていないのに、私が気づかぬ筈があるまい」

 

 どうやらラウラは最初からライがいる事前提で話をしていたらしい。……そういえば、条件がどうとか言ってたか。

 

 しかし、それは気配を探れるラウラだからこそ出来る芸当だ。そのためライの存在を知らなかったアリサは、話を聞かれたと言う事実に思わず目を丸くしてしまう。

 

「ってライ!? 聞いてたのっ!? ど、どこからっ!?」

「”待たせたな”から」

「それって最初じゃない!」

「確かに」

「”確かに"、じゃないわよっ!!」

 

 話を聞かれた気恥ずかしさからか顔を真っ赤に染めるアリサ。

 だがライは「聞かれて不味い話だったか?」と首をかしげるばかりであった。リィンを始めとしてエリオットなど、恥ずかしげもなく自身を語る人物に慣れたせいで感覚が少々ずれ始めているらしい。

 

「うぅ……、そもそも何でライがここに?」

「それは私が呼んだからだな。ライは今までもVII組の問題解決に関わっていたが故、機敏に疎い私よりも役に立つだろうと思ったのだ」

「……ああ、うん、そっか。ラウラらしいわね。……あはは」

 

 ラウラの親切心がこの状況を招いたと理解したアリサは乾いた笑いを漏らす。

 考え込むライと、自信たっぷりのラウラ。天然2人を前にしたアリサは己の感情をどうする事も出来ず、とりあえず項垂れた。

 

「む? どうかしたのか?」

「聞かないで。このやるせない気持ちはたぶん私にしか分からない」

 

 そんなアリサの様子にラウラも?マークを浮かべた。……が、特に問題も無さそうなので話を進めることにしたらしい。

 

「ではそろそろ宿に戻るとしよう。――ライは何か言いたいことはあるか?」

「言いたい事、か」

 

 最終確認として聞かれたラウラの提案を受け、ライは改めて自問する。

 ……どうせなら、先の疑問について聞いてみるのもいいだろう。

 

「1つ、アリサに聞きたいことがある」

「そうか、ではこの機会にゆっくりと聞いておくといい。私は先に戻ってミリアム達に説明しておく」

「ああ、頼む」

 

 そう言って、ラウラは先に宿へと戻っていく。

 

 こうして、シンと静まり返る噴水広場の中に残されたライとアリサ。妙に痛々しい空気が流れる中、目を合わせてくれない時間が続く。

 

 この時間がいつまで続くのか、それを天高く上る三日月だけが知っていた。

 

 

 

 

 




1話が15000字近くまで伸びてしまったので無理やり分割。
次話は本日午後7時に投稿予定です。

……過程も大事だとはいえ、ペルソナどこ行ったし(´・ω・`)

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