心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

23 / 101
(1/18)後半のくどい文章を若干整理。まだまだくどいですけど。


22話「無茶の原因」

 あの後士官学院の職員室へと向かったライ達は、丁度職員室に来ていたサラを捕まえる事に成功し、早速先ほどまでの内容を説明した。

 

「──なるほど。マキアスとの不仲を解決する糸口を見つけたって訳ね」

「ま、特別実習で話し合った後の状況は未知数だがな。少なくとも今よりは断然可能性がある筈だぜ」

「その為にはリィンがマキアスと一緒の班になる必要があるって事か。……りょーかい、私の方でも考えてみるわ」

 

 考えるとは言ったものの断言を避ける教官。態度から察するに決める気すらない様である。

 

「まだ決められないのですか?」

「教官の立場として吟味する必要があるもの。それに生徒の言葉で簡単に決めちゃったらハインリッヒ教頭に何てどやされる事か……。察してちょうだい」

「そうですか。なら後は任せます」

「ええ、任されたわ〜」

 

 片手をふらふらと振って木製の扉から外に出ていくサラ。恐らく職員室での用事は既に終わっていたのだろう。

 

「なぁ、これで良かったのか?」

「今はサラ教官を信じよう」

 

 とりあえず今日出来る事は終わったとライ達は気を抜いた。

 後は特別実習でどういうアクションをするかだが、これは別に今決める必要はない。

 

「……っと、悪ぃ。用事思い出しちまった。俺は先に帰るわ」

 

 すると、突然クロウが慌ただしく話を切り出す。

 

「分かりました」

「んじゃ、終わったら報告頼む。俺も事の結末が気になるしな」

 

 そう言ってクロウは緑の制服を翻し、急いで職員室から飛び出した。

 何をそこまで急ぐのかと疑問に思うライとリィン。しかしここでは何人かの教官が今も仕事をしているため、ライ達も静かに職員室を後にする。

 

 こうして、5月23日の作戦は音もなく幕を下ろすのだった。

 

 

 …………

 

 

 トリスタにある石畳の街道の上、士官学院から寮へと帰る道の途中でクロウとサラが向き合っていた。

 

「……それでクロウ。まだ何かあるのかしら?」

「もう1つしなきゃならない話を思い出したんでね。──ライの無茶に関して、トワの話ん中に気になるものがあったんだ。ちょっくら聞いてくれねぇか」

 

 裏で話し合われた内容を、ライ達は知る由もなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

 日付けは変わって5月26日、この日は実技テストである。

 

 前回の実技テストでは嫌悪感の始まりと言う苦い思い出があるのだが、それでも実技テストは一月ごとに訪れる。ライは複雑な心境を抱えたまま、この時間を迎えようとしていた。

 

 ……しかし、そんな心境を置いておいても言いたい事が1つある。なぜ今回の実技テストの集合場所が、木々の生い茂る旧校舎前なのだろうか。

 

「これは、デジャブか?」

「疑問を挟む余地もなく、旧校舎調査と同じ状況だろ」

 

 デジャブを感じたのは間違いではなかったらしい。

 確か前回の実技テストでは普通にグラウンドに集合であったため、VII組の面々もやや不思議そうな顔をしていた。シャドウ関連とも考えたが、今の時刻は午前のため関係性は薄いだろう。この様な状況を打破できるのはただ1人、ここに集合させたサラを置いて他にいない。

 

「はいはい、皆ちゅうもーく! これから2回目の実技テストを始めるわよー」

 

 相変わらずのマイペースな態度で学院方面から歩いてくるサラ。

 

「サラ教官、何でまたここに集まったんですか?」

「焦らない焦らない。あなた達はまだまだ若いんだし、もっと余裕を持ちなさい♪」

 

 エマの問いを片手でいなしながら旧校舎入り口の前に移動する。11人の生徒の視線もつられて入り口へ、腕を組んで立つサラのもとへと集まった。

 

「さて、これから実技テストを始めるんだけど、……今回はその前に特別実習の資料を渡しておくわね」

 

 サラはその手に持っていた11枚の白い封筒をVII組の皆に配る。その中に入っているのは5月の特別実習における班分けの情報。ライ達は早速封を破り中身を確認する。

 

 

 ────────────

【5月特別実習】

 A班リィン、エマ、マキアス、ユーシス、フィー(実習地:公都バリアハート)

 B班ライ、アリサ、ラウラ、エリオット、ガイウス、ミリアム(実習地:旧都セントアーク)

 ────────────

 

 

 今回のライはB班の様だ。行き先は《旧都セントアーク》、詳細についてこの後調べておく必要があるだろう。そして何よりマキアスの問題に関する件だが──

 

「……俺とリィン達は別か」

 

 サラに進呈した関係上ライもリィン達と同じ班になると考えていたが、現実はその反対だった。これではマキアスの問題に最後まで関わるのは難しいだろう。何故ならクロウの建てた作戦では特別実習と言う舞台こそが肝なのだから。

 

「さて、この班分けに関して何か質問でもあるかしら?」

 

 あるかないかで言えば、勿論ある。

 しかしサラは「考えてみるわ」と言っただけで、リィンやマキアスと同じ班にすると断言した訳でもないし、和解のメンバーであるリィン・マキアス・ユーシスの3人は問題なく同じ班に入れられている。ならばせめて、この班分けの意図を聞こうとライは口を開くが、その寸前に──

 

「──何の冗談ですかこれはっ!?」

「前回に続き2度もこいつと同伴とはな。教官はよほど冗談が好きと見える」

 

 当の本人であるマキアスとユーシスから、苛ついた口調で反論が飛び出した。

 

「あら、そんなにこの班分けが不満かしら」

「ええその通りです。こんな傲慢な奴と一緒に特別実習など出来る訳がない!」

「……この男と同じ意見をすると言うのは遺憾だが、この状況でまともな実習になるとは到底思えん。教官、実習の再検討を願おうか」

「まいったわねぇ。まさかここまで反対するとは……」

 

 サラは頭をかいて、困った様なポーズを示す。……が、それは一瞬の内に消え去った。どうやらそれ程困っていないらしい。

 

「まぁ冗談なんだけど。あなた達がそう言うのは想像してたわ」

「だったら何故っ!?」

「その方がベストな結果になるって考えたからよ」

 

 そう言ってサラは、ライとリィンに向けて片目でウィンクした。

「あなた達の願いは叶えたわよ」と言う自信満々かつお茶目な表情である。

 

「しかしバリアハートと言えば、アルバレア公爵を始めとして傲慢な貴族が多いそうじゃないですか! これなら穏健派と噂のハイアームズ侯爵が治めるセントアークの方がまだマシだ!」

 

 教官であるサラが断言したにも関わらず、マキアスは食い下がる。

 

「そこまで言うなら、私と勝負してみる?」

「……何?」

「私は軍事畑の人間じゃないから、本気で意見を通したいなら力ずくってのも構わないわよ」

 

 サラの提案を受けて、マキアスとユーシスはお互いの顔を見合わせる。マキアスがユーシスを嫌っている事は言うまでもないが、ユーシスにとってもマキアスは気に喰わない相手だった。

 しかし、今この場に置いて2人の目的は同じである。故にマキアスとユーシスは武器を抜きサラに向き直った。

 

「──フッ、面白い」

「では遠慮なく行かせて貰います」

 

 その返事にサラは妖しく微笑む。両手に握られているのは紅色の導力銃と片手剣、遠近どちらにも対応したサラの戦闘スタイルである。対するマキアスとユーシスは中距離のショットガンと宮廷剣術の長剣だ。武器のレンジに関しては両陣営ほぼイコールであり、人数としてはマキアス側が優勢。しかし、サラの実力が未知数である以上油断は出来ないだろう。

 

 9名の生徒が見守る中、マキアス達とサラの戦いの幕が切って落とされた。

 

 

 ……と、ここまでは良かったのだが、

 

「あれ? 何だか2人の動きがバラバラだね」

「うむ。2人の戦い方が致命的なまでにかみ合っていないな。これでは──」

「勝てるものも勝てない……」

 

 エリオット達が話している通り、ユーシス達の戦いは数の利を全く生かせていなかったのだ。

 

 通常、戦闘に置ける人数差の利点は選択肢の広さにある。お互いの死角や隙のカバー、波状攻撃、多方向からの同時攻撃、そして狙いを分散させる事による誘導等々、単独では行えない多数の戦略を織り込む事が可能だ。

 

 しかしながら、今のマキアスとユーシスの行動はその利点を限りなく殺してしまっていた。ユーシスはマキアスの射線を塞ぎ、マキアスも近接戦闘のユーシスをフォローしようともしていない。まるで1対1対1で戦っているかの様な状況だ。

 

「はぁ、あなた達の実力はこの程度なの? あんまりがっかりさせないでくれるかしら」

 

「くっ……!!」

「…………」

 

 ユーシスとマキアスの表情に焦りが見える。

 最早サラはまともに戦ってすらいなかった。ユーシスの突きを剣で軽くいなし、同時に導力銃でマキアスのショットガンを弾き飛ばす。

 たったこれだけで、呆気なく戦局がサラへと傾いた。

 

 …………

 

「これは想像以上に悪い結果ね。あなた達、本当にこのままでいいと思ってるの?」

 

 模擬戦後、真剣なサラの問いに2名は目を伏せ一言も答えない。

 その状態のまましばらく鉛の様な重苦しい空気に包まれる。結局、折れたのはサラの方だった。

 

「……はぁ、何も言わないって事は問題自体の認識はあるって事よね。もういいわ、後はあなた達で考えなさい」

 

 ユーシスとマキアスは重い足取りでライ達のもとに戻って来た。

 ユーシスは比較的いつも通りの態度だが、どこか刺々しい雰囲気が見え隠れしている。

 逆にマキアスは酷く落ち込んでいた。普段の威圧的な態度もなりを潜め、ただぶつぶつと自問している。

 

「僕は、いったいどうすれば……」

 

 ライはそんなマキアスに対し、何か出来ないかと思い言葉を投げかけようとする。

 しかし、それは叶わなかった。

 

「そんじゃー次はライ! あなたも出て来なさい!」

「……?」

 

 そう、サラからの突然の指名が入ったのだ。

 

「なぜ呼ばれたか不思議そうね。あなたの問題を確かめるため、と言ったら分かるかしら」

「戦術リンク、ですか?」

「……まぁそれも問題だけど今回は別件よ。リィンやトワも気にしている異常な限界、その原因を見極めさせてもらうわ」

 

 異常な限界。ライ自身は実感が湧かないものではあるが、リィンやトワに心配されていると言う事実だけははっきりしている。その問題の解明に繋がるのならと、ライは剣を片手にサラの前に出た。

 

「見極めるとは、どう言った形で?」

「今回あなたには私と1対1で戦ってもらうわ」

 

 ライとサラの真剣勝負。先の2人との戦いぶりを考えてライに万が一の勝ち目も無いだろう。それで一体何が分かるのかとライが疑問に感じていると、サラはさらにもう一言付け足した。

 

「──ただし、ペルソナを使ってね」

 

 ライの瞳孔が見開く。

 ペルソナを使った2対1の模擬戦、それがサラの出した提案だったのだ。

 

 

◇◇◇

 

 

 これからの戦いでは何が起こるか分からない為、リィン達には後方へと下がってもらった。

 

 今のライの左手には銀色の拳銃が握られている。

 けど、本当に良いのだろうか。ペルソナは戦術レベルの戦闘力を有しているのだ。本来模擬戦に使っていい代物ではない。

 

「……大丈夫ですか」

「あら心配してくれるの? ありがとう、とだけ言っておくわ」

 

 けれども、サラの表情に不安や淀みは一切見受けられなかった。そこにあるのは自身の力量に対する絶対の自信のみ。彼女はペルソナにも対処出来ると確信しているのだろうか。──なら、ライは自分を信じるサラを信じるまでの事だ。

 

 武器を手に相対する両者。

 ライは己のこめかみに銃口を押し当て、ヘイムダルを召喚する。

 

 これで2対1、サラの提示した模擬戦の条件は満たした事になる。

 それを確認したサラは武器を交差させ、フッと体重を落として片足に体重を乗せた。その刹那──

 

(消え──!?)

 

 突然見えなくなったサラに対し、反射的にライは左側へと剣を構える。

 ライは剣を右手で持っている。正面から攻めてこないとなると狙いは後方、もしくは左側の可能性が高い。

 

 その推測は当たっていた。

 剣越しに感じる痺れる様な衝撃。導力による紫電を纏った片手剣による鋭い一撃を受け、ライは剣もろとも反対側に吹き飛ばされる。

 

(不味い、体勢が……!!)

 

 辛うじて両足で勢いを殺したものの、体中を駆け巡る電撃の痺れによって、致命的なまでの隙を晒してしまう。

 その隙を見逃す程サラも甘くない。紅色の銃口をライに向け、今まさに紫電の銃弾を放とうとしていた。

 

(──マハラギ!!)

 

 ライはヘイムダルに命じ、サラの周辺に火炎をばらまく。

 目的は射線を塞ぎ、あわよくば反撃の糸口とする事。──しかし、サラは予見していたかの様に攻撃を中断し、空中へと跳んで爆炎の海を回避した。

 

 このままヘイムダルで追撃をするか? いや、今のヘイムダルではサラの速度に追いつけない。ならばここは──

 

「チェンジ、《ネコショウグン》!!」

 

 速度に優れたペルソナに変えるべきだ。

 ライはそう考え、再び拳銃で頭を打ち抜く。しかしその瞬間、空中にいたサラが身を翻しライに向けて導力銃を構えた。

 

「召喚が隙になる。それぐらい分かっているわよねっ!」

 

 導力により紫電を帯びた銃弾がライへと迫る。

 避けようとするも、先の痺れが残っており体が思う様に動かない。

 

 故にとっさに剣を横に構え、両手で電撃を受け止めた。

 バチバチと弾ける紫電を纏った銃弾。その電撃が金属製の刃を伝い、ライの両手に突き刺さる。

 

「──ッ!」

 

 だが、サラの攻撃はまだ終わりじゃない。

 横に構えたライの剣に向けて、着地とともに片手剣を容赦なく振り下ろした。

 

 金属同士が擦れ合い、火花を散らす。

 両手と片手、本来ならライに分のある条件だが、電撃で手の感覚を失ったライにとっては重圧に対抗するだけで精一杯だった。

 

 そんな状況下で、剣越しに顔を近づけたサラが話し始める。

 

「ライ、あなた部活見学の日に"気を失ったら限界だ"と言ったそうじゃない」

「それ、が、何か……?」

 

 返事をするだけの余裕があるのが奇跡と言っていいだろう。

 両手の指に限界まで意識を集中し、辛うじて盾となった剣を繋ぎ止める。

 

「なら、今ここで確認するわ」

 

 だが、それも呆気なく終わりを告げた。

 切り払われるサラの片手剣、くるくると飛んでいくライの武器。がら空きとなったライの胴体にサラが剣の腹を叩き込む。痺れでまともに体が動かないライは思わず膝をついた。

 

「──ッ!!」

「武器を失くし、膝をついたこの状況。……これは、"限界"じゃないのかしら?」

 

 片足をついたライに向けてサラは剣先を向ける。

 

 ……確かに、本来ならどうしようもない状況、即ち限界なのだろう。

 戦う為の武器を失くし、痺れも相まって体が満足に動かない。

 

 だが、ライにとってこの程度の逆境はなんて事はなかった。

 まだ限界にはほど遠い。何故ならライの意識はまだ失っていないのだから。

 ──それと既に策も講じている。

 

「無論、違います」

 

 サラの背中から甲冑を着た黒い猫が飛び出す。

 ネコショウグン。電撃を食らう寸前に召喚したこのペルソナを密かにサラの後ろへと回り込ませていたのだ。サラは巨大なペルソナを見慣れている為、逆に小さなペルソナによる潜伏が心理的な盲点となったのである。

 

「──小型のペルソナっ!?」

 

 サラへと飛びかかったネコショウグンが、その小さな手に持った軍配を突き出す。

 見た目はか弱いが、これでもれっきとしたペルソナだ。重々しい音とともに、防御したサラを遠くまで弾き飛ばした。

 

 うまく衝撃を逃がしたのかサラは全くダメージを負っていなかったが、これでようやく戦局が好転した。

 ライはペルソナの身体強化を利用し、無理やり鉛の様な体を起こす。ここからが反撃だ。そう考えていたライだったが、サラが意味深な態度に変わった事に気づいて動きを止めた。

 

「…………クロウからトワの話を聞いてまさかとは思ったけど、やっぱりそう言う事だったのね」

「何か分かりましたか」

 

 一瞬忘れかけていたが、この模擬戦の本来の目的は心配される原因の究明にある。

 故に原因さえ薄明の元に晒すことが出来れば模擬戦をする必要すらない。……中途半端だが模擬戦はこれで終わりだろう。ライは剣を収めて静かにサラの話を聞く。

 

「始めはあなたの全力思考が無茶の原因だと思ってたわ。けど、あなたの問題はそう単純なものじゃないみたい」

 

 ライ自身実感が湧かないので問題と言われても納得がいかない。

 なので、話を折る形となるが1つ質問をさせて貰うとしよう。

 

「全力でやる事に何の問題が?」

「……せっかくだからここで明言しておくけど、あなたが心配される理由は2つ。1つは肉体的限界を考慮しない行動をしてしまう事。そしてもう1つは無茶に対する自覚が全くない事よ。今みたいにね」

 

 間接的に問題があると言われてしまった。

 いや、正確には全力で行動する際の基準と心構えに問題があると言う事か。

 どちらにせよ、サラが見つけたと言う内容に答えが隠されている筈だ。

 

「その原因も今の模擬戦で確信が持てたわ。──ライ、あなたの常識がペルソナによって歪められているのよ」

 

 サラの口から語られた答え。

 それはライの有するペルソナに関わるものだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 ……ライの思考が停止する。

 未だ謎に包まれたペルソナにそんなデメリットがあったのかと。

 

「ペルソナにそんなリスクが?」

「いいえ。別にペルソナに限った話ではないわ。この話は"力"全般に言える事」

 

 だが、サラの言いたい事はそう言う話ではなかった様だ。

 認識を歪めるのはペルソナのデメリットと言う訳ではなく、”力”が持つ特性とも言えるものらしい。

 

「本来、私達の限界は能力によって変化するわ。当然の事だけど、私とあなた達とじゃ出来る限界が異なっている。これは経験や実力といった"力”が限界を押し上げていると捉える事も可能なの」

 

 例えば先ほどのマキアス達との模擬戦。

 相手がサラだったからイーブンな状況だったが、もし仮にエリオットがマキアス達の相手だったら”無茶”と言う他ないだろう。その様に限界とは、人によって変化するものだとサラは語った。

 

「だから、普通ならこの現象は何の問題にもならないわ。──けど、ペルソナの場合は話が別。確かにペルソナは強大な力を有しているけれども、あなた自身は生身の人間のままなのよ。故にペルソナの能力を基準に限界を押し上げてしまうと、取り残される形となった肉体の方に無理が出てくる」

 

 精神力を消費して召喚するペルソナは、肉体的な限界には囚われない。

 故にライは、自身の体を無視した無茶を平然としてしまっているのだと言う。

 

「直接の原因は恐らく《記憶喪失》でしょうね。あなたは過去の経験の大部分を失った状態でペルソナと言う強大な"力"を手に入れた。だからこそ基準がずれちゃったのよ。普通の人間が成長とともに経験し、親や師から教わるはずの限界からね」

 

 ライはようやく理解した。なぜトワやリィンがライの行動に対して無茶と表現したのかを。

 記憶喪失でペルソナに目覚めたと言う状況こそが、ライの常識を塗り替えてしまったと言う事実を。

 

(理屈は分かった。だが、どうすればいい?)

 

 貴族に対するマキアスの対応が全てを物語っているが、常識とは厄介な存在だ。頭で知ったところで「はいそうですか」と常識を改める事など出来ない。ほぼ必ずと言って良い程に自身の常識がそれを阻害する。

 ライに関してもそれは同様だった。いくら頭で無難な限界を理解しようとも、ライの常識はそれを"単なる手抜き"と認識する。

 

(ペルソナは俺自身だ、それは間違いない。だが──)

 

 それで思考を止めても良いのか? 

 

 この世は良い面だけでは語れない。コインの表裏の様に、何事にも相反する影が存在する。だとすれば、この問題はペルソナと言う力がもたらした1つの影と捉える事が出来るのではないだろうか。

 

(なら俺に出来る道はただ1つ。ただ受け入れて、前へ進むだけだ)

 

 その為には問題の解決策を見つけ出す必要がある。

 結局はそこに話が戻る。どうすればいい?  ──要するに、ライの思考は空回りしていたのであった。

 

「……ところで、さっきからあなたの動きがぎこちないわよね。もしかして最初の剣の痺れがまだ残っているのかしら?」

 

 そんなライの思考を読み取ったのか、サラが空気の読めない、いや空気を読まない質問を発した。

 

「? 確かに、中々の電撃でしたが」

「……おかしいわね。流石に剣越しの電撃がここまで後を引くのは初めて見るわ」

 

 未だに残る1発目で受けた紫電の痺れを確認して、サラは不思議そうに考え込む。

 どうやら、攻撃したサラの想定以上にライへのダメージが大きかったらしい。

 ライ自身もその原因について考え、そして1つの可能性に思い至った。

 

「もしかすると弱点か」

「……弱点?」

「感覚で得た情報ですが、ペルソナには弱点や耐性・無効と言った特性がある様です。……確認だがリィンも同じか?」

 

 ライは後方のリィンに話題を振る。この内容がペルソナ全般に当てはまるのかを照明する為にはこうするのが早いからだ。

 

「ああ、俺のシグルズは物理耐性、氷結弱点、闇無効と言う特性を持ってるみたいだな」

 

 その返事を聞いてライは1度頷く。

 

「ヘイムダルの場合は火炎耐性と光無効、そして《電撃弱点》」

「ペルソナの特性が体にも表れたと言うの? ……もしそうなら、闇雲にペルソナを召喚するのも不味いかも知れないわね」

 

 今まではペルソナを召喚するリスクは消費する精神力だけだった。しかし、本来人間には存在しない弱点が生み出されるのだとするならば、より慎重にペルソナを扱う必要が出てくるだろう。……その為にも、本来の限界と言うものを正確に把握する必要があった。

 

「とにかくライは人間関係とかの問題をひとまず置いて、今は限界の認識について自問するべきよ。でなければ、これからのシャドウ調査も危なっかしくて任せられないわ」

「分かりました」

 

 ライに課せられた1つの課題。それを胸に刻んでゆっくりとサラの元を離れていった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ──今は、残りの面々の実技テストを行っている。

 相手はサラではなく例の傀儡。これが本来の実技テストなのだろう。

 

 ライは少し離れた場所から眺めながら、頭では別の事を考えていた。

 

(原因は記憶喪失とペルソナ。……ここでも”記憶喪失”が出てくるのか)

 

 こう言う出来事がある度にライは再認識させられる。自身は空っぽな記憶喪失であるのだと。

 まるで根無し草の様な曖昧な存在。自分は初めから幻の様な存在で、本来この世界にはいなかったのではないかと感じてしまう事すらある。

 

 ──そしてもう1つ、サラが説明するときに使っていたフレーズが、どうにも頭から離れなかった。

 

(親や師から教わる筈の限界、か。……俺にもいたんだろうか。そんな存在が)

 

 親や師と言うものをライは知らない。

 知識として認識してはいるものの、ライには両親も、家族も、友人も、居場所すら忘れてしまったのだから。

 

 空白の自分。まさしく数字の0の様な存在である事をライは憂う。

 人はこれを"寂しさ”や"虚しさ”、とでも形容するのだろうか。

 

 何気なく空を見上げる。

 

 ぼんやりと見つめる大空は、ライの瞳と同じくどこまでも空っぽな青色であった。

 

 

 

 

 




星:ネコショウグン
耐性:物理耐性、疾風弱点、光・闇無効
スキル:マハジオ、電撃ブースタ、黒点撃
 中国圏の鎧を身に纏った黒猫のペルソナ。道教における予言と海運の神とされる。元々は毛尚書と言う武将だったのだが、中国語において毛がマオ(猫)とも読めるため、何時しか猫の将軍として神格化された。

――――――――――――
本日の流れ
「サラの攻撃(剣)《WEAK》1more」
「サラの攻「ヘイムダルのマハラギ miss」」
「ペルソナチェンジ、ネコショウグン」
「サラの攻撃(銃)《CRITICAL》1more」
「サラの攻撃(剣)」
「ネコショウグンの黒点撃(ガード)」
弱点もあって勝負になってねぇ……。


明けましておめでとうございます。

よくよく黄昏れる主人公ですね。
ライの無茶に対する自覚のなさの原因は、強大な力をいきなり手に入れたが故の歪み。力を恐れて全力が出せなかったリィンとは真逆の状態と言えるかもしれません。受け入れすぎたが故の弊害と捉える事も出来ます。……てか、主人公がこんなんでいいのだろうか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。