心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

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1話「記憶喪失の青年」

 ━━ピアノの音が聞こえる。

 

 ……気がつけば、青年は青い空間に座っていた。

 細長い部屋の中、中央のテーブルを挟んで大小2つの椅子が並べられている。

 小さな椅子には青年が、そしてもう片方には奇妙な老人が座っていた。

 

「これはこれは、また数奇な運命をお持ちの方がいらしたようだ……。ようこそベルベットルームへ。お初にお目にかかります。私の名はイゴール、この部屋の主をしている者でございます……」

 

 老人、イゴールが口を動かすこと無くそう言った。奇妙な場所だと青年は感じた。不可思議な部屋に不気味な老人、このような場所は青年は知らない……。いや、知ってる? 

 青年の頭に痛みが走る。まるで霧がかかったかの様に記憶が思い出せない。

 

「おや、お客人。どうやら記憶が不確かになってしまわれているご様子。……どれ、名前は覚えてございますかな?」

 

 名前、それを口にしようとすると再び青年は頭痛に襲われた。名前が思い出せない。いや何も思い出せない。

 

「左様でございますか。……どれ、ここは1つ。自らを取り戻すお手伝いをさせて頂くと致しましょう……」

 

 イゴールの前に光で描かれた文字が浮かび上がる。ライ、そこにはそう書かれていた。

 

「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所……。ここは、何かの形で契約が果たされた方のみが訪れる部屋……。あなた様も契約を交わし、この部屋へと誘われたのです……」

 

 その言葉から察するに、ライとは自分の名なのだろうと青年は理解した。

 

「ライ……」

 

 妙に馴染みやすい響きだった。名前、自分が自分であるという証。青年、いやライはその名を繰り返し口にし、その実感を得る。しかし、依然として記憶は霧に包まれたままであった。

 ライは顔を上げ再び老人に向き直る。自身の記憶のこと、契約とやらの意味、聞きたい事は山の様にある。——しかし、口に出した声は突然部屋が歪みだしたことによりかき消された。

 

「——!?」

「フフ、お目覚めの時間でございます……。ご心配召されるな、あなた様は既に契約をなされたお方だ。またいずれまたお会いすることになりましょう。ではその時まで、ごきげんよう……」

 

 イゴールの言葉を皮切りに視界がグルグルと混ざり合い、黒く塗りつぶされていく。

 ライは霞んでいく意識の中、依然として鳴り響くピアノの曲を聞いた。

 その曲の向こうから微かにカタンコトンという規則的な音が聞こえてくる。

 

(ああ、そうか。もしかしてここは————)

 

 ——暗転。

 

 

◆◆◆

 

 

 茜色の光が顔に差し込む。眠りから目を覚ましたライは、その光に思わず目を細めた。

 数瞬たって、明るさに目が慣れてきたライは白いベットに寝かされている事に気がつく。身を起こして周囲を見渡すと、そこは石煉瓦で出来た医務室であった。窓の外には夕日に照らされた大きな正門が見える。どこかの学校なのだろうか。

 

「……ここ、は」

「あら、目を覚ましましたね」

 

 ライは声の方へと顔を向けると、そこには白衣を羽織った妙齢の女性が居た。女性はライの困惑する視線を察し、話を続ける。

 

「私はベアトリクス、ここトールズ士官学院の保険医をしています。あなたは昨日の夜に駅で倒れたそうですね。緊急の知らせを聞いて私も驚きましたよ」

「トールズ士官学院、……駅で、倒れた……?」

「……目覚めたばかりで混乱しているのでしょう。ハーブティーでも入れますか」

 

 そう言ってベアトリクスは室内に取り付けられた簡素な台所へと向かい、お湯を沸かし始めた。ライはその様子をしばらく見ていたが、変化のない光景に何気なく視線をそらす。その先には荷物が並べられていた。

 やや大きめの旅行用の鞄に布に包まれた剣、そして銀色の拳銃だ。他にも鞄の中身であろう封筒や球等が置かれている。

 ライはその中から拳銃を手に取った。銃身は金属で出来ており、グリップには青い結晶が埋め込まれている。ただ銃弾を入れる機構が見当たらない。

 

「それは儀礼用の拳銃のようですね。導力銃でもありませんから弾が出る事はないでしょう」

 

 拳銃に気を取られていたのだろう。気がつくと2人分のハーブティーを入れたベアトリクスが戻ってきていた。湯気の立ち上るカップをコトリと置いた。

 

「それらの荷物はあなたの側に落ちていたものです。ご存知ありませんか」

「いえ……何も」

 

 ふむ、と荷物についてベアトリクスが考え込んだ事で、ライはベアトリクスにある問題をまだ伝えていない事に気がついた。——そう、記憶が無くなっているという重大な問題を。

 

「……その荷物が自分のものか分かりません。何1つ思い出せないんです」

「それは……記憶喪失、ということでしょうか」

 

 ライは目をそらす事なく確かに頷く。その姿勢から冗談ではないことを読み取ったベアトリクスは、優しげな表情を専門家らしい真剣なものへと変え、ライに幾つかの質問をした。

 ベアトリクスはその情報を纏めると、夕方を指し示す時計を見て席を立った。時間が惜しい、ベアトリクスの顔にはそう書かれていた。

 

「どうやら過去の出来事に関する記憶が思い出せなくなってしまっている様ですね。詳しくはまだ分かりませんが、記憶についての専門家に心当たりがあります。相談してみますのでここでお待ちいただけますか?」

「ええ」

 

 ライの返事を聞いたベアトリクスは一礼し、医務室の入り口へと歩く。そしてドアに手をかけ少し開けたそのとき、思い出したかの様にライへと顔を向けた。

 

「伝え忘れていましたが、少なくとも鞄はあなたのものですよ。中に入っていた入学案内、印刷された写真は間違いなくあなたの顔でした。入学おめでとうございます。ライ・アスガード君」

 

 そう言ってベアトリクスは部屋を出て行く。ライはただ一人夕焼けに染まる医務室に残された。

 

「……とりあえず荷物の確認でもするか」

 

 ライは鞄を開け、中身を広げていった。

 

 

◇◇◇

 

 

 結果から言うと、ベアトリクスの言う通り入学書類が入っていた。

 他に情報はないかと書類をめくっていると、突然バタンと扉が開かれる。そこに居たのは栗色の髪を青いリボンで纏めた小柄な少女。彼女は室内をキョロキョロと見渡し、部屋の隅に座るライを見つけるとかけ寄ってきた。

 

「あ、いたいたー! ライ・アスガード君、だよね。丸1日寝てたけど体は大丈夫かな?」

「ああ、君は?」

「わたしはトワ・ハーシェル。ここの生徒会長だよ」

 

 生徒会長? 外見からは想像出来ないが年上なのだろうか、と見た目とのギャップでライは内心困惑する。少なくとも先輩であることは間違いないだろう。だとしたら先ほどの対応は間違ったかもしれない。

 

「……えと、失礼しました」

「あはは、そんなにかしこまらないで。こっちも慣れてるから」

 

 トワは気にしていないと言わんばかりに笑顔を浮かべる。よく言われるのだろう、彼女の顔はそう言っていた。

 

「それで、生徒会長が俺に何の用事で?」

「それは……あ」

 

 トワの言葉はライの手元を見て止まる。大量に広げられた書類の数々、どうみても取り込み中だ。

 

「えーと、ごめんね。忙しかったかな」

「いえ、少し自分探しをしていただけですから」

「……自分探し?」

(……しまった)

 

 ライは何気なく言ってから後悔する。この少女にいらぬ心配はかけたくない。だが妙な言い回しをしてしまった以上うやむやにも出来ないだろう。少し悩んだ結果、ライは言葉を選びつつ答える事にした。

 

「ええっ!? 思い出せないって、それって記憶喪失だよね。 ……落ち着いているみたいだけど大丈夫?」

「あまり現実感がないだけですよ」

 

 実際、ライには現実感が湧かなかった。青い部屋の夢から覚めたら医務室のベットの上、記憶喪失、そして突然の入学告知。まるでまだ夢の中に居るような出来事だ。

 

 とりあえずライは書類を纏め、机の隅に置く。書類を読む事などいつでも出来るのだ。今はこの小さな生徒会長との会話に集中する事にした。

 トワは記憶喪失の子に言ってもいいのかなぁ、としばらく悩んだ末、コホンと小さく咳払いをして場の雰囲気を改めた。そして——

 

「ライ君、入学おめでとーございます!」

 

 盛大に祝われた。思わずライの瞳が見開く。先ほどベアトリクスにも言われた祝いの言葉。入学への苦労も夢も覚えがないライにとって感慨など湧かない。だが、心の奥で何かが動かされた様に感じた。

 

「ええ、『ありがとーございます』」

「えっと、もしかして今のってわたしのマネ?」

「似てました?」

「う〜ん、まぁまぁ、かなぁ?」

 

 あはは、と苦笑いが混じった顔でトワは笑っている。ライの一見無表情な顔立ちで、かつ落ち着いた口調で言われては、とてもじゃないが似ているとは言えないだろう。でもトワの笑顔もより柔らかいものになっていた。過程は違えどライの言葉にも動かす力はあったのかも知れない。

 

「……うん、思ってたより優しそうな人で安心した、かな」

 

 安堵から出たトワの独り言。それはライの耳に入る前に空気に溶けて消えていった。

 一方ライはベアトリクスが戻るまでの方針を決めようと視線を動かし、先ほどベアトリクスが入れたハーブティーに目が止まった。一口も飲まれる事なく飲み手の居なくなったハーブティー。冷める前に飲んだ方がいいだろう。

 

「ハーシェル先輩、ハーブティーでもどうですか」

 

 その言葉を皮切りに小さなお茶会が始まった。

 

 

◇◇◇

 

 

「お、いたいた」

 

 お茶会が始まって数十分が経過した頃、医務室の扉から銀髪の優男が顔を覗かせた。青年のその言葉に医務室の2人はそろって入り口の方へと顔を向ける。

 

「あ、クロウ君。そっちはもう終わったの?」

「ああ、VII組はそこのそいつを除いて全員参加する事になったぜ。後はジョルジュとゼリカに任せてる」

 

 トワと話し合っている青年はクロウと言うらしい。何やらライにとって意味深なワードが含まれていたが、割り込めるような雰囲気ではなかった。そうこうしている内に2人の情報交換は終わり、クロウがライのもとへと近づいてきた。

 

「お前がライか。俺はクロウ・アームブラストだ。よろしくな」

「よろしく。ライ・アスガード……と言います」

「……ああ、記憶喪失なんだってな。さっきベアトリクス先生に話を聞いたぜ。んでついでに伝言を頼まれたって訳だ」

 

 クロウはおどけた口調でそう言った。事前に情報を知っているのはライにとってありがたい事だ。これなら話は早いし、下手に隠す必要もない。

 

「ふむ、思ってたよりは落ち着いてんのな、お前。いや思ってた通りか?」

「よく言われます」

 

 と言っても2人目だが。記憶喪失であることを知っているクロウも突っ込みを入れたそうな顔をしている。とりあえずライのキャラを何となく把握したクロウは早速本題へと話題を移した。

 

「まあ気になってんだろうからさっさと伝えるとすっかね。『相談が長引きそうですので、今晩は寮にお泊まりになって下さい』、以上!」

「……声マネ、似てますね」

「だろ? 寮までは俺とトワが案内するぜ。他の新入生もそろそろ寮に着く頃だし、ちょうどいいだろ」

 

 声マネ気にしていたんだね、とトワが小さく呟く。そしてトワは何か出来ないかと周りを見渡し、ライの荷物で視線が止まる。

 

「ライ君の荷物ってあそこのだよね。病み上がりだし、わたしが持っていくよ」

「いえ、お構いなく」

 

 そっけなく返すライ。心配して食い下がるトワと問答をしながら広げたものを荷物に詰めていった。

 

 

◇◇◇

 

 

 そろそろいくぜ、というクロウの声を号令にカップの片付けなどの身支度をすませ、校舎を後にした。

 荷物に関してはトワの主張にライが折れ、妥協案として鞄をトワが、剣と銃をライが持つ事となった。鞄をやや重そうに持ち上げるトワを見たときに、ライは逆じゃないかと思ったのは余談である。

 現在は正門前、ライ、トワ、クロウの3人は会話をしながら駅の横にあるという寮へと向かっていた。

 

「ハーシェル先輩たちの寮は俺とは別なんですね」

「うん、正確にはライ君をふくめた10人が特別な寮にすむことになってるんだよ」

「それがVII組、ですか……」

「あちゃ〜、やっぱ聞いてたか。まあ後で詳しく聞く事になると思うぜ」

「ああ、それで寮に——」

 

 会話の途中でライは足を止めた。

 目の前には駅へと続く石畳のメインストリート。夕日とライノの白い花吹雪に彩られた町並みは、ある種幻想的な光景を生み出していた。

 

「な、なかなかいい光景だろ。これから2年間、ここで過ごしていくんだぜ」

「…………」

 

 言葉が出なかったのは単純に美しかったからなのか、はたまた記憶のどこかにこのような光景があったからなのかは定かではない。だが、ライはこの光景を忘れないだろう。

 太陽がゆっくり沈み町を染め上げる。

 そして太陽が地平線と重なった、そのとき————

 

「——ッッ!!!!」

 

 頭に、咆哮のようなおぞましい音が鳴り響いた。その凄まじい音に思わず耳を塞ぐ。隣を見ればトワとクロウも同じく耳を塞いでいる。ライだけが聞こえた幻聴という訳ではないようだ。

 

「……うぅ……」

「……今の音は、旧校舎の方からか!?」

 

 少しして、音は止んだ。3人はそれを確認すると、それぞれ顔を合わせる。今の音はただ事ではない。何らかの事故や事件が起こっていてもおかしくない状況である。

 

「トワそれにライ、俺は様子を見てくるから先に寮に行っててくれ!」

「クロウ君?」

 

 そう言ってクロウは返事も聞かず校舎の反対側へと駆け出していった。

 ライは迷いもなく一直線に走り出すクロウに違和感を覚えた。まるで何かの心当たりがあるかの様な行動だ。ライは先ほどクロウが言っていた旧校舎という言葉を思い出す。

 

「旧校舎、そこに何かあるんですか?」

「隠す必要もない、よね。この学院の旧校舎にはたびたび不思議なことが起こるんだ。もしかしたら今回も……」

 

 不思議な出来事、話によると旧校舎は時々内部構造が変わり、どこからともなく魔獣という人に危害を加える存在が現れるらしく、未だ謎な部分も多いとの事だ。

 何故そのようなものが学院にあるのか疑問は絶えないが、これでクロウが旧校舎に向かった理由は分かった。だが謎が多く危険も伴うのならば、何故クロウは単独行動に走ったのか。

 

「クロウ君はああ見えて強いから大丈夫だよ。ね、先行って待ってよ?」

 

 いや、実際のところライには単独行動の理由が分かっていた。ライが、記憶喪失の無力な青年がここに居るからだ。今ライを1人にする訳にはいかないからこそ、クロウはトワを置いて旧校舎へと向かった。

 

「……ライ、君?」

 

 なら、今ライがするべき行動は決まっている。不安要素を取り除けばいいのである。身の毛もよだつような怪奇音。これは単なる異変じゃないと、根拠のない確信がライの中にはあった。

 

「ハーシェル先輩、俺は医務室に戻りますから、先輩は旧校舎に向かってください」

「えっ、でも……」

「嫌な予感がします。俺は大丈夫ですから」

「……うん、分かった。ライ君も絶対に部屋から出ないでね! 絶対だよ!!」

 

 言い終えるとトワは懐から一本の銃を取り出し、クロウと同じ様に校舎裏に駆け出していった。小柄なトワであっても士官学院の生徒なのだ。1年間の経験の差がある事はライにも直に分かった。

 やがてトワの姿が校舎裏に隠れると、ライも体を反転させ、医務室の方へと戻っていく。トワの駆けていったその先に、後ろ髪を引かれるような感覚を覚えながら……。

 

 

◇◇◇

 

 

 ——ほんの数分前に出たばかりの医務室に再び戻る事になるとは、数分前のライは考えもしなかっただろう。医務室の明かりは消されたままであり、夕日の明かりさえもほとんど無くなった空間は先ほどまでとは別の部屋の様に感じる。

 とりあえずライは荷物を置き、眠っていたベットに腰をかける。思えば起きてから、いや記憶を失ってからまだ数時間とたっていないのだ。簡素な洗い場に目をやると、そこには洗われた2つのカップが置かれている。思い出すは小さなお茶会。彼女らは今無事なのだろうか。ライにはそれが気がかりだった。

 

(そういえば荷物、預けたままだ)

 

 ふと思い立ったかの様にライは剣と拳銃を取り出す。荷物が手元にない以上、過去に繋がる手がかりはこの剣と儀礼用の拳銃か。

 試しに空に向けてトリガーを引いてみたものの、空砲が鳴るだけで何も変化は起こらない。

 ライは何故このようなアンティークを持っていたのだろうかと考えにふける。魔除けか、趣味か、もしかしたら思い出の品だったのかもしれない。

 ふと、ライの頭に痛みが走った。同時にある光景が頭に浮かぶ。

 それはトワとクロウが何者かに襲われている光景だった。不安を煽るそのビジョンに思わず立ち上がる。

 

 ”……我、……は汝……”

(なんだ、この声は)

 

 幻聴、先ほどの異音に似てはいるが、今度は自身の心の中から直接鳴り響いている様に聞こえる。同時に頭痛も激しくなってきた。

 

 “我は汝、汝は我、扉を守護するものよ"

 

 あまりの痛みに自分が何をしているのかも分からない。前も見えず、傾く体を支えるために足が一歩一歩前に出される。壁や扉にぶつかるが、体は何かに導かれる様に動いていく。

 

 “時は訪れた。今こそ道を開き、その手で、再びつかみ取れ”

 

 急に痛みが嘘の様に無くなった。

 ライはそのことに違和感を覚えながらも、瞳を開け、辺りを見渡した。涼しげな風が頬をなでる。いつの間にか外に出ていたようだ。周囲は高い木々に囲まれ、辺り一面薄暗くなっている。そして目の前には灰色の大きな建物。見た目からして士官学院の校舎よりも古いものだ。もしかしてこれが旧校舎なのだろうか。

 

 ライは旧校舎へと近づいていった。その入り口が異様な輝きを放っていたからだ。旧校舎の入り口には建物に似つかわしくない豪華な扉があり、その隙間から霧のような光が漏れだしている。

 近くにクロウとトワの姿は見えない。まだ中にいるのか、もしくは入れ違いか。ライの直感は中へ入るべきだと告げていた。

 ライの両手には剣と拳銃が握られたままだ。弾の出ない拳銃はともかく、剣さえあれば身を守る事くらいなら出来るだろう。

 

(その手で、つかみ取れ、……か)

 

 先ほどの幻聴が頭に浮かぶ。あれは何かの暗示なのだろうか。

 ライは制服の懐に拳銃を入れ、剣を片手に空いた手で扉の取っ手を掴む。そして意を決し、扉を開け光の中へと飛び込んだ。

 

 

 ……非日常が、始まる。

 

 


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