心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

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前話、もう1人のリィンの場面を加筆修正致しました。
なお、話の流れに変更はないので、必ずしも閲覧する必要はありません。


13話「旅の終わりと1つの始まり」

 真っ黒に燃え尽きた木々が折り重なる広場。焼け跡と氷が入り交じる戦闘の傷跡が残る中、ライはじっと何もない空間、先ほどまでマルコの影が横たわっていた場所を見つめていた。

 

 ライは静かに考える、今まで戦って来た未知の魔物とは一体なんだったのかと。

 旧校舎に現れた黒い影とも言える半液体の魔物に、一度だけ遭遇した4本腕の魔物。それらには明確な意志など感じられず、ただ厄介な性質の魔獣に近い存在だと思っていた。

 だが、今回の相手には明確な意思があった。それもマルコという人の意識が。

 ライはマルコの影が言っていた言葉の中にヒントがなかったか思い出そうとする。けれども意識が纏まらない。何故だろうか、なんだか足場まで揺れている様な──。

 

 ……気づけばライは空を仰いでいた。

 いつの間にか地面に倒れてしまったらしい。ライの異変に気がついたリィンが急いで駆け寄ってくるのが視界の端に映る。

 

「大丈夫か!?」

「……少し、ペルソナを使いすぎたか」

 

 ペルソナの使う魔法には精神力が必要だ。森の消火をするほどの大規模の魔法の行使はライに大きな負担を与えていた。リィンの手を借りてなんとか起き上がるライ。ふらつく体をかろうじて制御し直立した状態を維持する。

 

「──それにしても勝てたんだな、俺たち」

 

 リィンが周囲を見渡しながら感慨混じりの言葉を発する。今は灰となった木々が残るばかりだが、炎に包まれた中での戦いは、まさに生死を賭けた一戦だったと言えるだろう。

 

「ああ、俺たちの、いやA班全体の勝利だ」

 

 ライとリィンは今ここにいないアリサ達3人の事を思い浮かべる。彼らの力がなければマルコの影を追いつめる事すら出来なかっただろう。そう言う意味でこれはA班の勝利であると言えた。

 今回の騒動で犠牲となった2人の名も知らぬ盗賊達。彼らには申し訳ないが、少しばかりは勝利の余韻に浸ってもいいだろう。ライとリィンはお互いの顔を見合わせ、そして──

 

 パンッ、と手のひらを叩き合った。

 

 

◇◇◇

 

 

「……──そこの御二方、ご無事ですかっ!?」

 

 その後、盗品の損害を確かめていたライ達の耳に女性の声が届いた。

 同時に聞こえてくる規則正しい多数の足音。恐らくは軍が到着したのだろうと思い、ライ達は入り口の方角へと顔を向ける。遠くから近づいてくる兵士達。が、すぐにその違和感に気づく。

 

「あの制服、領邦軍じゃないのか」

「……あれは、確か鉄道憲兵隊のものじゃないか?」

「鉄道憲兵隊?」

「鉄道網を使って各地の治安維持に努めている帝国の正規軍のことさ。貴族の私兵である領邦軍とは正反対の立場といっていいかも知れないな」

 

 よく見ると鉄道憲兵隊の後ろにアリサ達の姿が見える。どうやらアリサ達が鉄道憲兵隊を誘導してきてくれたらしい。領邦軍より信頼出来るであろう部隊の到着に、ライ達はホッと胸を撫で下ろす。

 

 広場に辿り着く鉄道憲兵隊の兵士達。その中から青い髪の清楚可憐な女性将校が前に出て来た。

 

「あなた方がライ・アスガードとリィン・シュバルツァーで間違いありませんね?」

「ええ、貴女は?」

「申し遅れました。私は帝国軍・鉄道憲兵隊所属のクレア・リーヴェルト大尉です」

 

 目の前の女性将校、クレアは軍人らしい固さの中にも可憐さを感じさせる声でライ達に接する。学生服を身に纏うライ達にも礼儀を欠かさぬその姿勢に、彼女の生真面目さが感じられた。

 

「後の処理は我々鉄道憲兵隊にお任せを。──衛生兵も待機させていますので、ライさんとリィンさんは治療を受けて下さい」

「それではお世話になります。……ライ、動けるか?」

「ああ、歩けるくらいには回復した」

 

 ライ達はクレアに一礼し、憲兵隊の後方で待っていたアリサ達のもとへと歩き出した。向こうもクレアとの話が終わった事に気づいたのか、こちらに駆け寄ってくる。

 

「リィン、ライ! 大丈夫だった!?」

「ああ、俺もライも無事だ」

 

 心配するエリオットの問いにリィンが答える。

 ライはその後ろでふらついていた。……正直、あまり無事には見えないだろう。

 

「ねぇ、なんでライは全身すすけているの?」

「爆炎の中に、飛び込んだ」

「……そなたは何をやっているのだ」

 

 ここにいるライ以外の全員が呆れ返る。彼らはこの短い間でライの性格を嫌という程に理解していた。平気で無茶をする姿勢を何とか正さないとな、と考えていたリィンはふと、ある事に気づく。

 

「なぁアリサ、助けた盗賊達はどうなったんだ?」

「彼らなら鉄道憲兵隊に引き渡したわ。ちゃんとした治療も受けたから今頃憲兵隊に、……ってそうだった、2人とも早く治療を受けなさい! ライは言うまでもないけど、リィンだって至る所に火傷があるじゃない!」

 

 ライ達は引きずられる形で、揃って鉄道憲兵隊救護班の診察を受けた。

 炎の中に残ったために体中に軽い火傷を負っており、煙も吸っていたのか気管にもダメージがあるらしい。特にライは大けがに至っていないのが不思議なくらいに全身ボロボロであった。

 

 とりあえず応急処置を受けて体が楽になったライ達。地面に腰を下ろして休憩していた2人のもとに、現場調査を終わらせたクレアが近寄って来る。──どうやら調書を作るためにライ達の話を聞きたいらしい。ライとリィンの2人はどこまで話したものかと顔を見合わせる。何せペルソナや未知の魔物については秘匿されているからだ。

 だが、クレアはそんな2人の様子から理由を察したのか、笑顔を浮かべて補足した。

 

「あ、未知の魔物については話して下さって構いませんよ。出現したとの報告も既に受けていますから」

「ご存知でしたか」

「私達は直轄の正規軍ですからね。内密ではありますが、士官学院から報告を受けています」

 

 なら話は簡単だ。

 ライ達はありのままに起こった出来事を話す。

 下手にこちらで考えるよりも、軍人であるクレア達に任せた方が確実だろう。

 

 こうして時間は過ぎて行き、ケルディックに戻る頃には夕方に差し掛かっていた……。

 

 

 …………

 

 

「──そこの生徒をこちらに引き渡してくれないかね。彼らにはルナリア自然公園半焼の容疑がかけられているのだよ」

 

 ライ麦畑の街道を通り抜け、無事ケルディックに戻って来たライ達を待っていたのは銃を構えた領邦軍の一団だった。確かに自然公園の火災は大事ではあるのだが、今回の事件の裏に感づいているライ達にしてみれば、胡散臭い事この上ない。間違いなく真の目的は自然公園で見た事の口封じであろう。

 

 ライ達A班に銃を向けながら近づいてくる領邦軍の兵士達。それを止めたのは鉄道憲兵隊の面々であった。

 

「お言葉ですが、彼らが火災の犯人である可能性は万が一にもありません。現場の調査を行った者としてここに断言します」

 

 鉄道憲兵隊の先頭にいるクレアが領邦軍隊長に対峙する。

 

「お主は鉄血宰相の子飼いである《鉄血の子供達(アイアンブリード)》が1人、”氷の乙女(アイスメイデン)"だったか。……だが、ここは四大貴族のアルバレア公爵家が統治するクロイツェン州の土地であり、我ら領邦軍の管轄だ。ケルディックは鉄道網の中継地点でもあるが故にお主らの捜査を許したが、逮捕権にまで干渉される謂れはないぞ」

 

 領邦軍隊長はクレアの言葉に応える事無く、ただ権利を主張する。

 だが、領邦軍の言っている事も間違いではない。領邦軍が鉄道憲兵隊の捜査を許した事と同じ様に、鉄道憲兵隊もまた領邦軍の逮捕権を否定する事は出来ないのだから。

 

「……火災の原因となったのは大市に現れた魔獣でしょう。魔獣が炎を吐いたという証言を大市の商人から得ています」

「だが、その魔獣がルナリア自然公園に入ったとは限らないのではないかね」

「魔獣が壊したと思われる門や、森の奥へと続く足跡も確認しています。魔獣の痕跡は大市から続いていましたので、まず間違いありませんね。……ああ、伝え忘れていましたが、森で発見された炎の痕跡が、大市のものと一致したとの報告もあります」

 

 魔獣の炎であると証明され領邦軍隊長の言葉が詰まる。クレアは伝え忘れと言っていたが、わざと情報を隠していたのは想像に難くない。彼女はその外見や声色に似合わず相当頭の切れる人物らしい。

 

「現場では火災を消火するためだと思われる氷も見つかっています。現場に残っていたのは彼らだけ、恐らくは水属性のアーツで消火したのでしょう。報奨を与える事はあっても、拘束するのは不当ではないですか?」

「だ、だが……!」

 

 領邦軍隊長は衝動的に否定の言葉をあげるが、反論の内容が思い浮かばない。それを見抜いたクレアはこれで終わりと言わんばかりに話を続ける。

 

「話によると、大市を魔獣に襲撃されたという不手際が発生してしまったそうですね。これ以上落ち度を増やすのは、あなた方にとってもよろしくない行為なのではありませんか?」

 

 領邦軍の本来の仕事は治安を維持する事。その最たるものである魔獣からの被害を防げなかったとあっては、職務怠慢と言われても仕方の無い状況であった。どこから来たのかも分からない魔獣の襲撃のせいで、領邦軍の立場は苦しいものとなっていたのだ。

 陳情を降ろさせるどころか、下手をすればアルバレア公爵家の顔に泥を塗ってしまうと考え、領邦軍隊長は不服ながらも決断を下す。

 

「くっ、…………分かった。総員、撤収せよ!」

「「はっ!!」」

 

 列をなして領邦軍の詰所へと帰っていく兵士達。それを見送ったライ達は、助けてくれたクレアのもとへと集まる。

 

「クレア大尉、助かりました」

「いえ、私は私の役目を果たしただけです」

 

 クレアは落ち着いた笑顔を浮かべ、ライ達のお礼を受け取る。

 ──と、クレアは何かを思い出したかの様にライに視線を向けた。

 

「……そう言えばライさんにも1つ伝え忘れがありました。ライさんはたしか被害者のマルコさんとお知り合いでしたよね」

「そうですが、何か?」

「マルコさんのお見舞いに行きたくはありませんか?」

 

 ライはマルコが何処に運ばれたかを知らないため、この提案は渡りに船であった。

 取り返した盗品の事に伝える機会のなかったお礼など、トリスタへと帰る前に話した方がいい事は山ほどある。故にライはクレアの気遣いをありがたく受け取る事にした。

 

「是非とも」

「ふふ、分かりました。では場所ですが──……」

 

 

◇◇◇

 

 

 ケルディックのとある一部屋。マルコが普段寝泊まりしている場所を知らされたライは、リィン達と別れ1人で部屋の前に訪れていた。

 別れる際にリィン達からお見舞いの品を押し付けられたライ。そこまでするなら一緒に来ればいいとも思うが、どうやら気を使われたらしい。今までのお詫びだと言って去っていくリィン達の姿がはっきりと思い出せた。

 

「マルコ、入るぞ」

 

 ライは扉を数回叩いて中に入る。

 酒瓶が至る所に転がる小さな部屋、ライは温かな明かりが灯る木製の一室を見回し、ベットの上にいるマルコを見つける。上半身を起こし、シーツの上に座っているマルコ。ノックしても返事は無かったが、どうやら眠ってはいなかったらしい。

 

「起きてたのか」

「…………」

 

 お見舞いの品をテーブルに置いて、ライはマルコに近づく。

 ……だが、マルコは一切反応しない。

 

「商品は取り返した。幾つか駄目になったが、明日にも戻ってくるだろう」

「…………」

 

 今回の事件の結果を伝えるものの、マルコは微動だにしない。

 どうも様子が変だ。まるで心が根こそぎ奪われたかの様に、焦点の合わない顔でずっと座っている。

 

「……言い忘れてたな。お前のおかげで仲間との仲を繋ぎ止めることが出来た」

「…………」

 

 反応はないが、この際独り言でもいいから話を続けよう。

 ライはクレアから受け取ったマルコの商品、麦の苗を取り出しマルコに見せた。

 

「お礼の代わりに、この麦の苗を買っていく。これでチャラと言う事にしてくれ」

「…………」

 

 もし普段のマルコなら"また苗かよ"と突っ込みでも入れて来たのだろうか。

 ライはマルコの枕元に苗の料金をそっと置いて、ベットから静かに離れた。

 

「俺はトリスタに戻る。元気でな」

「…………」

 

 ライはゆっくりと入り口へと歩き出した。

 今のライには原因も対処法も分からない以上、何も出来る事はないからである。

 複雑な感情のまま、ライは入り口の取っ手に手をかけた。と、その時──

 

「…………ありが、とう……」

 

 唐突に背後から聞こえる一言。その声にライは口元を緩めると、

 

「……ああ」

 

 と一言返し、マルコの部屋を後にする。

 その手にあるのは一本の苗。それは変わらず元気な苗だった。

 

 

◇◇◇

 

 

 ……ケルディックの駅で待っている筈のリィン達に合流するため歩いていたライは、駅前の広場に出たタイミングでリィン達を見つける。が、どうも面々が変わっているらしい。

 

「クレア大尉はどこへ?」

「もう別の場所にいったよ。何でも遠くで緊急の事件があったみたい」

「鉄道憲兵隊も楽じゃないか。それで、逆に現れたのが……」

 

 ライは視線を横にずらす。そこにいたのは赤い髪を後ろで纏め上げた女性。即ち──

 

「あなたの愛しのサラよ〜♡。ライ、元気にしてたかしら〜」

「……それで、サラ教官が何故ここに?」

「むぅ、つれないわねぇ……。これでも私はあなたの教官なのよ。生徒が大変な目に遭ってるとなれば駆けつけるわ。これが最初の特別実習でもあるしね」

 

 サラが自信満々に答える。とりあえず彼女がここに来た理由は分かった。

 だが、問題が発生したのは今日の朝早く。夕暮れに染まる空を見ながらライはサラに問いかけた。

 

「遅すぎるのでは?」

「……しょうがないじゃない。B班ではマキアスとユーシスがいがみ合ってまともな実習になってなかったんだもの」

 

 ああ、とライは納得する。最後に駅で会ったときはライに意識が集中していたから問題を起こしていなかったが、本来マキアスとユーシスは出会う度にいがみ合いを起こしていたのだ。……まあ、ほとんどはマキアスが一方的に突っかかり、ユーシスがそれを傲慢にも見える態度で突っぱねているのだが。

 ライがいなくなったB班で問題が起きるのは当然の流れだったのかも知れない。そして、B班の紡績町パルムはここから大分離れている。恐らくサラはこちらの事件を耳にして急いでこちらに向かったのだろう。

 

 一通りの疑問を解消したライは、A班の輪へと戻っていく。それを目にしたサラは目を丸くして驚いた。

 

「あら、皆と仲良くなったみたいね」

「ええ、心配をかけました」

 

 ライが近寄っても懐疑心や嫌悪感が生まれないリィン達を見て、サラはうんうんと頷いた。

 B班と比較しているのかは定かではないが、色々と苦心させてしまったのは確かだ。

 ライは心の中でサラに感謝するのだった。

 

 …………

 

 そろそろ、トールズ士官学院のあるトリスタへ行く列車が到着する時間だ。

 ライ達は交易地ケルディックの南、駅の方へと歩き始める。

 

 一歩一歩上っていく階段。ライは駅に入る直前、振り返ってケルディックの町並みを目に収めた。

 茜色の夕日に染まるのどかな町並み、心地よい風を受けた風車がゆっくりと回り、広場の奥では変わらず大市の賑わいを見せている。

 ここに来たときは景色を味わう余裕など無かったが、今のライにはそれが美しい光景に思えた。

 

 リィン達の呼び声が聞こえる。ライはそっと目を緩め、静かに駅の中へと消えていく。

 こうして初めての特別実習は終わりを告げたのだ。

 

 ──幾多の思い出を列車に乗せて。

 

 

◆◆◆

 

 

 太陽も地に沈んだ深夜、ケルディックのある丘の上に1人の男が立っていた。

 灰色の髪をした眼鏡の男性。今日の朝、マルコと秘密の会合を果たした男である。

 男はルナリア自然公園を、正確には未知の魔物が起こした惨状を静かに眺め続けていた。

 

「……シャドウ、抑圧された心が具現化した存在。まさか植え付けられた願いと心が一致する事でこれほどの力を発揮するとは……。今後の段取りに修正を入れる必要があるか」

 

 男は森で行われた戦闘の結果を分析する。そこには事件によって生まれた悲劇に対する感情など欠片もありはしなかった。ただ男は今回の騒動を単なる事象と捉え、分析を進めていく。

 ──すると、男の懐の機械から振動が発生した。男は機械を取り出すと耳に当て、誰かと通信を始める。

 

「同志《C》か。……ふむ、分かった。すぐに向かおう」

 

 通信を終えた男は機械を再び懐にしまい込む。そして最後に森を一瞥すると、背を向けて歩き出した。男の脳裏に浮かんでいるのは未知の魔物と戦ったもう1つの存在。火炎の中で戦いを繰り広げたその力もまた、男にとって分析する必要のある事象であった。

 

「……ペルソナ、か。その力が我らの手助けとなるか、それとも障害となるか。──確かめる必要がありそうだ」

 

 そうして、男は不穏な暗闇へと消えていった……。

 

 

◆◆◆

 

 

 …………

 

 

 ……………………

 

 

 特別実習から3日経った4月の28日。

 ライ達は特別実習の疲れや痛みが残る中、普段通り教室の椅子の上に座っていた。

 例えどんな特別なカリキュラムがあるとはいえ、ここは士官学院。休みなど簡単には与えられないのだ。だが──

 

「……サラ教官遅いですね」

 

 委員長のエマが、皆の心の声を代弁する。

 そう、何故かいつまで経ってもサラ教官が教室にこないのである。

 あの教官はいったい何をやっているのだろうか。3日前のケルディックで、内心感謝していたライの身にもなって欲しいものである。

 とりあえず、自習でもするかと本を開くライ。と、その時、教室の扉がガラリと開いた。

 

「皆静かに待っててくれたかしら? 遅れてごめんなさいね〜♪」

 

 やけに軽いノリで入ってくるサラ。遅刻の罪悪感を感じているかどうかはまるで分からない。

 当然の事ながら、生真面目なマキアスがサラに向かって意見を言い放った。

 

「サラ教官! 教師が連絡も無しに遅刻とは何事ですか!」

「フン、いちいち話の腰を折るな」

「……何か文句でもあるのかね」

「あるに決まっているだろう」

 

 いつの間にかサラをそっちのけでいい争いを始めるマキアスとユーシス。

 サラは面倒そうにライへと視線を向けた。

 

「え〜と、ライ?」

「……ストップだ、2人とも」

「──っ!」

「……ちっ」

 

 実のところ、まだB班の面々と完全に仲直りが出来た訳ではないのだ。

 

 A班の面々に話したという事もあって、B班のメンバーであるエマ、ガイウス、フィー、マキアス、ユーシスにもペルソナについて説明した。その結果については言うまでもないだろう。A班と同じく頭で納得する段階までは行ったのだが、やはり心の折り合いをつけるとなると難易度が高いらしい。

 この問題に対し、近々サラ教官が何らかのアクションを起こすそうだが、最近マキアスとユーシスを止めるための手段として使われ始めているので、本当かどうかは怪しいものである。

 

 ──とまあ、この様にライが依然としてリンク関係で悩んでいると、サラが景気よく本題に入り始めた。

 

「それじゃ、落ち着いたところで今日遅れた理由について話すわね。……なんと! 今日は君たちに新しい仲間が出来ます!」

 

「……仲間?」

「それって編入生ってことですか? こんな時期に?」

「ええそうよ。面倒だから詳しい事情は本人にでも聞きなさい」

 

 4月の終わりに編入生? 何らかの事情で入学が遅れたのだろうか。

 混乱しているライ達を眺めていたサラは、両手を叩いてライ達の意識を前に戻した。

 

「でもまぁ待たせるのも何だし、早速入って来てもらうとしましょうか。──もう入っていいわよ〜」

 

 教室の入り口目掛けて大声をだすサラ。それに反応した様に入り口から人影が入ってくる。

 

「え?」

「……なに?」

 

 教壇の横に立つ編入生を見て、生徒達の中から驚きの声が出てくる。……まぁムリもないだろう。水色のクリクリした髪の毛、丸くて大きな瞳、VII組で1番小さいフィーよりも、さらに小柄なその姿。

 

 

「ボクはミリアム・オライオン。皆、よろしくねー!!」

 

 

 ──要するに編入生は13歳くらいの少女だったのである。

 

 

 

 

 

 




これにて1章終了です。
次回から2章に突入致しますが、構成に少々手間取っているのでしばしお待ちを。

……シャドウの扱いが難しすぎて笑えてきます。

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