心が織りなす仮面の軌跡(閃の軌跡×ペルソナ)   作:十束

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100話「列車砲」

 ──ガレリア要塞内部。

 オルキスタワーでの襲撃に並行する形で、リィン達もまたテロリストの魔の手と戦っていた。

 

 360度、全方向から飛来する飛行型兵器や機械仕掛けの魔獣。

 2門の列車砲を中心に防衛線を築く第4機甲師団内にて、武器を構えたサラとナイトハルトが状況を分析する。

 

「あらら、ものの見事に全部仮面を付けちゃってるわね。こりゃ奴らのシャドウに関する研究が進んでるって事なのかしら」

「協議すべき事項だが今は眼前の脅威を凌ぐぞ。──VII組総員! まずは各自持ち場にて、シャドウ掃討に当たれ!」

()()()()

 

 ナイトハルトの指揮の下、VII組のペルソナ使い達は帝都の事件と同じようにシャドウを殲滅していく。

 

「ガイウス、上空は任せたぞ!」

「承知した!!」

 

 猛烈な勢いで迫る機械の群れを前にして、剣を構えるリィン。

 空に飛び上がり、飛行型兵器の大群に相対するガイウス。

 2人はほぼ同時にペルソナを召喚する。

 

「剣を構えろ、──シグルズ!」

「何としても止めるぞ、──フレスベルグ!」

 

 地上兵器群を両断する一閃、そして飛行兵器群を叩き落す暴風。

 他方でユーシス達もペルソナを召喚し、それぞれ迫りくる兵器を破壊していく。

 

 こうしたVII組の奮闘が続き、加えて第4機甲師団の援護射撃もあって、辛うじて防衛線を維持していた。

 

 

 ……

 …………

 

 

 一方で、そんな彼らの様子を遠目から眺める人物が2人いた。

 

「やっぱり面倒ね、あの子たち」

 

 オレンジ色の長髪をなびかせる女性──同志《S》と、ガトリング砲を片手で担いた男性──同志《V》だ。

 同志《V》のもう片手には導力端末が握られており、彼はその画面を確認して口を開く。

 

「シャドウ兵器の残存は残り30%だ。想定より早い。……どこかから情報が漏れていたか」

 

 要塞に築かれた防衛戦線の陣形を見て眉をひそめる同志《V》。

 しかし、それとは対象的に、同志《S》は演劇でも見るかのように呑気な様子だ。

 

「心配はいらないわ。肝心なところは漏れてなかったみたいだし、このまま様子見といきましょう?」

 

 遠目に見えるのは全力で戦っている学生達。まだ若いというのに、何と勇敢な姿だろうか。

 

「さて、そろそろ眠り子が目覚める頃かしらね」

 

 眼帯に覆われた同志《S》の目には、次なる光景が映っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

《強い反応? シャドウか?》

「それがはっきりしなくて……。でも、上の階で人の反応が減ってるんだ! 急いで!!」

 

 ガレリア要塞に加え、オルキスタワーの簡単な分析まで行うエリオット。

 帝都と同じく周囲のサポートこそあるものの、彼に伸し掛かる負担は相当なものであり、それは汗を浮かべる表情から見ても一目瞭然だ。

 第4機甲師団中将でありエリオットの父でもあるオーラフとしては、

 

「はぁ、はぁ……」

「おおお、大丈夫か!? エリオット! この場のみならずタワーのナビゲートまで……。明らかにこの体制はエリオットの負荷が大き過ぎるではないか!」

「……、……それ、でも。僕だけ休む訳にはいかないよ。僕だって、VII組の一員なんだから……!!」

「──っ、……そうか! ならばその背中は我らが支えようぞ」

 

 オーラフは第4機甲師団の兵士達に指示を出し、無数のシャドウと対峙するVII組の負担を減らしていく。

 即席ながらも高度な連携を成立させる2陣営。

 

 ……成立させる程に、全力で戦っていたからだろう。

 列車砲を守る彼らは致命的な見落としをしていた。

 

「…………え?」

「どうしたの?」

「気のせい? ……ううん、違う。これってまさか……」

 

 初めに気づいたのは分析を行うエリオットだ。

 近くで援護射撃していたサラの質問に答える余裕もなく、彼は疲労も忘れてアナライズを繰り返す。

 

 その対象は皆が守る列車砲の内部。

 襲撃するシャドウは近づいてすらいない。

 ……だと言うのに、そこには間違いなく、脈打つ影の音が存在していた。

 

「──っ、みんな!!! 列車砲がっ!!!」

 

 逼迫した顔で叫ぶエリオット。

 防衛していた皆の視線が集中し、そして彼らは見た。

 

 巨大な列車砲の内部からあふれ出す黒い噴水。

 2門同時に現れたそれは、まるで粘液のように蠢き、瞬きの間に列車砲を覆い尽くす。

 エリオットの叫びに応じたリィン達の攻撃も間に合わず、列車砲はシャドウと一体になってしまった。

 

「……そう。シャドウによる寄生は、もうずっと前に終わってたのね」

 

 異様な風貌となった巨大兵器を前にして、サラの頬に汗が滴る。

 

 ガレリア要塞への襲撃は全て陽動だったのだ。

 全ては皆の意識、特にエリオットの意識を周囲に向けさせ、眠らせていたシャドウの発見を遅らせるため。

 その事実に気づかなかった時点で、列車砲の防衛失敗は決まっていた。

 

『ギ、ギギ……、コレヨリ、発射体制ニ、移行シマス』

 

 車輪は足に、砲塔は首に。

 もしこの場にライがいたのなら、ブラキオサウルスと言う単語が脳裏に浮かんだ事だろう。

 巨大な生物と化した列車砲達は歩き出し、首をゆっくりと伸ばす。

 

 ……その先には、遥か遠く、オルキスタワーが佇んでいた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 かくして危機に瀕したオルキスタワー。

 エリオットの通信により、その知らせは即座にライの元へと届けられた。

 

《大変なんだ! 列車砲が、列車砲が2つともシャドウに呑み込まれちゃって! もうすぐ主砲がオルキスタワーに!!》

 

 大慌てで捲し立てるエリオットであったが、列車砲の危険性は既に想定済みだ。

 危機的状況である事を理解したライは急ぎ問いかける。

 

「列車砲の破壊は可能か?」

《みんな頑張ってるよ! でも……!》

 

 余裕のない通信の向こう側からは激しい戦闘音。そして喧騒。

 幾重にも重なる音の中から、マキアスとシャドウの声をライは捉えた。

 

《……っ! そ、その巨体で飛び跳ねるな! 列車砲なら、レールの上で戦いたまえ!》

《『ギギ、発射まで143、142、…………面倒ダ。98、97、96、──』》

《省略もするんじゃない!! ああもう、フォルセティ! …………》

《……、──!!、!!!》

 

 エリオットの答えを聞くまでもなく、猶予がない事をライは理解する。

 列車砲の発射まで残り1分と少し。

 着弾までの時間を加えても、2分もあればオルキスタワーは崩壊。

 タワー内にいる者はまず助からず、周辺の被害や各国の混乱、影響はもはや想像もつかない。

 

「だから逃がさざるを得ないと言っただろう」

 

 氷の壁越しにギデオンが話しかけてくる。

 彼には通信の声は聞こえていないだろうが、ライの様子から通信内容を推測したのだろう。

 平時であればその情報源を問いただしたいところだが、今はもう、会話を重ねている余裕はない。

 

(時間がない……!)

 

 ライは思考を切り替える。

 列車砲の被害を防ぐにはどうしたら良いか。

 脳裏に浮かぶのは、賭けとしか言えない可能性。

 だが、賭けるだけの価値はある行動だ。

 

「エリオット。全戦力を1門に集中させれば、片方は止められるか?」

《えっ!? でも! それじゃ、もう1門が!》

 

 ライは通信しつつヘイムダルを召喚した。

 砕かれる大窓。暴風が吹きこむ大穴へと走り出す。

 

「俺が直接止める」

 

 戦略兵器の攻撃をこの身1つで受け止める。

 残された道はもうそれしかなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 一方その頃。

 扉の向こう側、襲撃を受けた大会議場でも動きがあった。

 A級遊撃士アリオスによる護衛の元、警戒を続ける各国首脳たち。

 その中で鉄血宰相オズボーンが悠々と導力端末を取り出したかと思えば、そのまま通信を始めたのだ。

 

「…………ふむ、そうか……。承知した」

 

 オズボーンは何らかの連絡を受け取ると、そのまま静かに通信を終えた。

 そんな行動に対し、カルバード共和国の代表ロックスミス大統領が問いかける。

 

「おやおや、今は緊急事態ですぞ? 失礼ながら、どのような内容だったかお聞きしても?」

「……ガレリア要塞より連絡があった。どうやら、列車砲がテロ組織どもの手に落ちた様子」

「そんな!? 貴国の警備はどうなっておいでか!? いや、それより今はこの場から退避せねば……!」

 

 突然の凶報を受け、議場内の空気がざわめく。

 だが、当の鉄血宰相は落ち着いた様子で佇み、逃げるそぶりすら見せなかった。

 

「避難の必要などありますまい。我らはただ、この場で静観すればよい」

「なんと悠長な! 列車砲の威力はあなたもご存じの筈! 被害が及ばない根拠でもあるのですか!?」

「勿論……」

 

 オズボーンは銃弾がめり込んだ防弾ガラスを見上げる。

 

「既に、対策は済んでおりますので」

 

 その視線の先には、空を飛ぶ人型の何かがあった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ──クロスベル上空。

 ヘイムダルに掴まり飛翔したライは、オルキスタワーの西側へと移動していた。

 

《発射まで残り30秒! ほ、本当にやれるの!?》

「やってみせる。弾道のナビゲートは任せた」

《…………うん》

 

 強風の中、巨人の肩にて立ち上がるライ。

 360度見渡す限りの晴天。

 遠方に見えるガレリア要塞からは僅かながら煙が見えた。

 リィン達は今もそこで戦っているのだろう。

 

(残り20秒……)

 

 最後にライは地上を見る。

 米粒のように小さいが、今も多くの人でごった返している広場。

 1手間違えれば、彼らの命も潰える事だろう。

 

(守るんだ。この地を。彼らのように)

 

 脳裏に浮かぶは、この地で出会った特務支援課の背中。

 この小さくも広いクロスベルを守ろうとする彼らの意志。

 その軌跡を1つずつ思い浮かべ、ライはその手をかざす。

 

 “我は汝、汝は我……。汝、新たなる絆を見出したり。汝が心に芽生えしは節制のアルカナ。名は──”

 

(──セイリュウ)

 

 小さいながらも戦い続ける少女(ティオ)の意志を力に。

 更にライは手を動かす。

 

(──スザク)

 

 強さを内に秘めた(ランディ)の意志を力に。

 

(──ビャッコ)

 

 責務をその身に背負った女性(エリィ)の意志を力に。

 

(──ゲンブ)

 

 そして彼らを纏め、誰よりもこの地を守らんとした青年(ロイド)の意志を力に。

 

 背後に現れる巨大な陣。

 4身合体(クロススプレット)。十字に並べられた4枚のタロットカードを束ね、今こそ全てを守護する力を顕現させる。

 

「現れろ、──コウリュウ!!」

 

 一点に収束した光が爆発的に広がり、やがて奔流は黄金の龍となる。

 クロスベル上空に突如として現れた威光。

 この地を守らんとして現れたコウリュウは、一度咆哮すると、長い胴体を揺らし空を舞う。

 

 その頭に乗るは召喚者であるライ。

 彼の耳に、合図を告げるエリオットの声が木霊した。

 

《発射されたよ!! 弾頭は…………丁度、会議場に向かってる!!》

 

 ライは剣を抜き、照準として前方に伸ばす。

 この姿を間近で見るものがいれば、まるで御伽話の勇士とでも思う事だろう。

 そして相対するは暴虐の鉄塊。

 意思を持たぬ巨大な弾頭が大気を穿ち、恐ろしい速度で迫ってきていた。

 

《良く聞けアスガード。弾頭には広域殲滅用の榴弾が用いられている。爆発半径は40アージュ超、下手に近寄らせれば余波で欠片も残らんぞ!》

 

 ナイトハルト曰く、接近されれば骨すら残らぬ威力。

 失敗は1度も許されない。

 けれど、ライは僅かな焦りすらなく、その剣先で確かに弾頭を捉えた。

 

 

「──今だ」

 

 刹那、コウリュウの持つ4色の宝玉が極光を放つ。

 神話の一撃を思わせる程の上級祝福魔法(マハコウガオン)が放たれ、大空を埋め尽くす閃光となり、狙いの一点へと殺到する。

 

 一瞬の静寂。

 直後、大気を揺らす衝撃波が辺り一帯に広がった。

 

《……弾頭、消滅》

 

 青空に広がる黒煙の花火。

 コウリュウが解き放った幾重もの極光は、確かに弾頭の中心を捉えたのだ。

 

 そして、少しの時間をおいてエリオットから朗報が伝えられる。

 

《……──っ、やった! 列車砲を2門とも撃破! リィン達はまだ残ったシャドウを倒してるけど、もう砲撃の心配はいらないよ!》

「そうか……」

 

 臨戦態勢を解いたライは静かに剣を下し、オルキスタワーへと目を向ける。

 

 先ほどまでギデオンがいた通路には人影はなく、他の階層にも戦いの様子は見られない。

 屋上ではキーア達が手をふっており、どうやら向こうは無事なようだ。

 そうした光景を目の当たりにし、ライは此度の戦いが終わった事を悟るのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……な、何なのだ。あれは……龍、なのか?」

 

 会議場にて、ロックスミスが呆然を空を見上げる。

 

 空中に浮かぶ人間。

 突如として虚空から現れた黄金の龍。

 そして、弾頭を撃墜した神々しい閃光。

 

 一連の出来事をここにいる全員が目撃していた。

 

「あれはペルソナ使いだ」

 

 彼らの疑問に答えるべく、鉄血宰相が口を開く。

 

「ペルソナ…………?」

「然り。彼こそが帝国に蔓延る影を葬り、そして今、帝国最強の兵器をも退けた」

 

 皆の注目が集まる中。

 ゆっくりと、耳に残る声で。

 

「我が国の、新たな《英雄》と言えよう」

 

 鉄血宰相オズボーンが放った言葉の先には、"今も繋がったまま"の中継設備が置かれていた。

 

 

 ……

 …………

 

 

 かくして、魔都クロスベルでの物語は幕を下ろす。

 鉄血宰相の言葉という、特大の置き土産をそこに残して。

 

 

 

 

 




節制:セイリュウ
耐性:氷結無効、電撃弱点
スキル:マハブフーラ、マハタルンダ、氷結ハイブースタ
 中国伝承に伝わる神獣の1柱。東方を守護し、五行における木を象徴している。河川や海底に住まい、成長をもたらすとされる。

節制:スザク
耐性:火炎無効、氷結弱点
スキル:マハラギオン、デクンダ、火炎ハイブースタ
 中国伝承に伝わる神獣の1柱。南方を守護し、五行における火を象徴している。一説では鳳凰の派生であるとされ、幸運をもたらす存在と伝えられている。

節制:ビャッコ
耐性:電撃無効、火炎弱点
スキル:マハジオンガ、ヘビーカウンタ、電撃ハイブースタ
 中国伝承に伝わる神獣の1柱。西方を守護し、五行における金を象徴している。邪を払う戦神であるものの、逆に災いをもたらす凶神としても扱われていた。

節制:ゲンブ
耐性:物理耐性、疾風弱点
スキル:ヒートウェイブ、アムリタシャワー、物理ハイブースタ
 中国伝承に伝わる神獣の1柱。北方を守護し、五行における水を象徴している。亀と蛇が合わさった姿は長寿と子孫繫栄を意味しており、4神の中で最も中心的な役割として信仰されていた。

法王:コウリュウ
耐性:電撃反射、祝福無効
スキル:マハコウガオン、メディアラハン、コンセントレイト、大気功、マハタルンダ、デクンダ、ヘビーカウンタ、アムリタシャワー
 中国伝承に伝わる4神の長。中央を守護し、五行における土を象徴している。古代中国では皇帝の権威を意味し、天帝が天に上る際に乗ったとも言われている。

────────
これにて2つの軌跡が交差した5章は終了となります。
この章は文字通りのターニングポイント。物語の到達地点が明かされた重要なものとなります。
更新が不定期かつ滞ってしまい大変恐縮ですが、今後もお付き合いくださいますと幸いです。

それはそうと、今回の話で100話到達!
プロローグ込みだと前回の話が100話でしたが、かなり遠いところまで来たなぁと感慨深いですね。
ここまでお読みいただいた皆様にはお礼申し上げます。本当にありがとうございます!

もし、面白いと思っていただけたなら、是非とも感想等をいただけますと嬉しいです。
返信が遅れてしまい申し訳ない状況ではありますが、皆様のコメントは常に拝見させていただき、活力となっておりますので、何卒よろしくお願いいたします!

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