半人間と双槍の騎士のFate/Zero   作:ドスみかん

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残酷な描写があります。
苦手な方はご注意ください。

後書きにサーヴァントステータスを載せてあります。


第七話:天に吼える

 静まり返る倉庫街。

 黄金のサーヴァントの登場、そして放たれた『半人』という言葉による疑問が当事者たちの動きを封じている。

 

 そんな中で動けたのは、ただ一人。金髪を揺らし、ポケットから取り出した宝石をアーチャーへと投げつける少女はリーゼロッテ。腕力が足りずに電柱の下へと転がった宝石は紅蓮の爆発を引き起こし、電柱を叩き折る。そのまま黄金のサーヴァントへ向かって、吐き捨てるようにリーゼロッテは言葉を投げつける。

 

 

「不快なのは私も同じさ。自分では諦めがついているけど、他者から指摘されるのがここまで嫌なモノだとは思わなかった。…………だから口を閉じなよ、アーチャーのサーヴァント!」

「雑種の分際で、この我に対して『閉口せよ』と命令するか。ずいぶんと不遜な小娘だ」

「黙りなよ、私たちを雑種呼ばわりする君こそが『半神半人』の雑種のくせして何様なのさ!」

 

 

 コンテナの上へと着地したアーチャー。

 どうやら地面に降りてくる気はないらしい。同時に、リーゼロッテを見下ろす彼の背後で空間が揺らめく。まるでその身に後光を背負うがごとく、黄金に染まっていく虚空に『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』が展開される。それは黄金の都にあるという宝物庫そのものを具現化したという、英雄王ギルガメッシュの誇る至高の宝具。

 

 ガシャリ、と空間から突き出した十数丁もの宝剣と宝槍が少女へと向けられた。ひとつひとつが絶大な魔力の込められた本物の宝具にして、全ての原典。その魔術兵器たちは決して人の至れぬ絶対的な領域を体現していた。しかし脳を圧迫するような殺気を受けて尚、リーゼロッテの双鉾は光を失ってはいない。

 

 

「噛みつく犬には、力を示した方が早いな」

「え…………うぁっ!?」

 

 

 アーチャーが何事かを呟いた瞬間。

 黄金の閃光がリーゼロッテとランサーの頭上を通過した。そして湾内で上がったのは巨大な水柱、それはアーチャーが射出した宝具の一つが海に着弾した証だった。つまり、今の射撃はそこに至るまでに存在した鋼鉄製のコンテナの全てを穿ち、悉くを破壊し尽くして海へと突き刺さったのだ。

 

 

「…………一度目は赦そう。しかし次はないぞ、半人の小娘よ?」

「ーーーっ!」

 

 

 悔しげにリーゼロッテは唇を噛み締める。

 今の自分たちでは叶わないと本能的に悟ったからだ。モノを眺めるように自分を見下す目も、その身体から漂う『神気』も気に食わない。あのサーヴァントがリーゼロッテにとって、不倶戴天の敵であることは間違いない。何よりもアーチャーの彗眼はリーゼロッテの逆鱗を的確に撃ち抜いていたのだから。

 沈黙するリーゼロッテをしばらく観察していたアーチャーは口を開く。そして驚くべき決定を少女へと突き付けた。

 

 

「ふむ、紛い物ではあるが…………この時代の産物と考えればそれなりに希少価値も存在するか。なら、その細首に首輪をつけて引きずり回せば、暫しの退屈を慰める程度には役立つのかもしれんな」

「いやいや何言って……本気?」

 

 

 一瞬、あのサーヴァントが何を言っているのか理解できなかった。リーゼロッテは困惑する、しかし身体が震えるのが止まらない。その様子を満足そうに見下ろすアーチャーは更に告げる。

 

 

「この小娘を引き渡せ、ランサー」

「なんだと、貴様」

 

 

 ここで初めてランサーの表情が怒りに染まる。今まで彼は過保護なまでにマスターを護ってきた、それは『今度こそ失うわけにはいかぬ』と己の胸に刻んだ誓いのためだ。忠道を貫かんとする騎士へ告げられた王の言葉は彼を激昂させるのに十分であった。手に持つ双槍が怒りに震える。

 

 

 

「ふざけ」

「ふざけんなっ!!!」

 

 

 

 怒号が倉庫街に響き渡る。しかし、それはランサーの怒りの声を遮った第三者のモノだった。アーチャーを含んだ一同の視線がその発生源へと向けられる。

 

 

「ウェイ、バー?」

 

 

 一同の視線の先にいたのはウェイバー・ベルベット。

 若き魔術師の青年は顔色を真っ青に染めながらも、黄金の王を真正面から見据えてた。怒声の主はこの青年だったのだ。ライダーの顔が愉快そうに歪む。

 

 

「ふふふ、余のマスターはそうでなければなぁ。敵がたとえ遥かな天上の者であろうとも、手に入れたいモノのために命を懸け闘志を燃やす! それでこそ我がマスター!!」

 

 

『手に入れたいモノ』というところで、リーゼロッテが首を捻る。自分を庇ってアーチャーから手に入れられるモノに心当たりがないからだ。「何言ってんだ、このサーヴァントは!?」と赤い顔でライダーを怒鳴るウェイバー、そんな彼を乗せたチャリオットが近づいてくるのを訳もわからず見守った。

 

 そして二頭の神牛が力強い歩みでもってランサーに並び立った。その瞬間をもって、征服王が満面の笑みで告げる。

 

 

「ランサー、先程の話だかな。余は決めたぞ、貴様と共に戦ってやろうとな。そして余は貴様に王の器を、坊主は貴様のマスターに男としての格を示す。何とも手っ取り早い話ではないか!」

「だからアイツのことは誤解だって言ってるだろ!?」

「あらあら、切嗣の見せてくれた映画のワンシーンみたいで素敵ね。…………セイバー、お願い」

「わかりました、私としてもあの男は気にくわない」

 

 

 ここに同盟は成立した。

 全てはサーヴァントたちの計らいで二人のマスターは手を携えることとなったのだ。そしてウェイバーが真っ赤に染まった顔でライダーへと抗議する中、セイバーもまたランサーの隣へと歩み寄る。少し驚いたランサーであったが、セイバーが視線で頷いて見せたことから心の中で彼女へと一礼した。

 

 

「おうおう、そこの金ぴか! そこな小娘はこの征服王イスカンダルの同盟者にして、我がマスターが男の矜持を懸けて攻め落とすべき相手である! 貴様なぞにくれてやるつもりは毛頭ないわ!!」

「アーチャー、貴様の趣味に対する興味は微塵もない。だが女子供を指して『首輪』を付けるなどとほざく輩を、私が捨て置く理由もない!」

 

 

 紅き征服王と蒼き騎士王が刃を掲げる。

 雄々しき咆哮と清廉なる言辞、その切っ先は一塵の戸惑いもなく、黄金の王へと向けられていた。天高く座す超越者へ挑まんとするのは『覇道』と『騎士道』、対極なる道を極めし二人の偉大なる王。その勇姿は万民を導き、その誇りは万民の希望となる。如何に立ち塞がる敵が強大であろうとも、この王たちが臆するなどあり得ない。

 

 

「くっ、ははははっ…………とんだ茶番を見せつけおるわ! いやしかし愉快極まるものだ。祭りとは、こうでなければなるまいよ!」

 

 

 心底愉快そうに笑うアーチャー、『王の財宝』から展開された宝具たちが今にも主の敵を滅せんと軋みをあげ始めている。

 

 その様子を見て、「この場に残っていては危険だ」とランサーは判断する。このまま三対一でなら、アーチャーを倒せる可能性はある。しかしアーチャーの宝具は射程範囲が広すぎる上に無差別だ、戦うのならマスターがいない状況が好ましい。それに自分はセイバーやライダーよりも優先して脱出しなければならないのだ、他でもないリーゼロッテが狙われているのだから。

 

 

「セイバー、ライダー、済まない。…………俺は主を」

「構わん、貴様は疾くここから去るがいい。余とて、あの金ぴかと戦って消耗するつもりはない。適当にあしらってトンズラするまでよ。約束を違えるなよ、ランサー」

「私も似たようなものだ。元よりアーチャーが現れたところで三竦みの膠着になるようでもなかったからな。ランサーとアーチャー、どちらに味方するかで貴殿に付いたまで。故に気遣いは不要だ」

 

 

 その姿はまさに英雄の中の英雄。

 逃走の言を気にも止めず、堂々たる背中を見せつけるセイバーとライダー。彼らへとランサーはもう一度深い感謝の意を示す。そして腕に抱えているマスターへと『離脱の準備』を進言する。

 

 

「主よ、令呪の発動準備を」

「こ、この状況から令呪で脱出するの!? 」

 

 

 ランサーの提案は危険に過ぎた。

 令呪で強化されたランサーの速度でも、あの数の宝具から絶対安全に逃げ切れるとは限らないのだ。ましてやリーゼロッテを抱えて、片腕の塞がっているランサーでは尚更だ。されど、リーゼロッテは従者を信じて令呪へと意識を集中させる。何かランサーに考えがあるのだと確信していたからだ。

 

 そしてリーゼロッテの判断は正しかった。なぜなら、ランサーは知っている。ここに集まるサーヴァントは『あと一騎』いることを、そしてアレが誰に襲いかかるのかを把握しているのだから。

 

 

「さて、そろそろ始めるとするか。真の王による威光を愚かしい雑種共に見せつけるのもまた我の役目であろう」

 

 

 アーチャーは指揮者のように腕を振り上げる。

 王による勅命を受けた宝具たちが熱を帯び、その魔力を解放する。今すぐにでも大罪人を射抜かんと、爆発寸前の砲弾のごとく震えていた。薄い笑みを浮かべたアーチャーが腕を振り下ろす、ライダーが戦車の手綱を引き 、セイバーが不可視の剣を構え直す。

 

 

 まさに、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

「ーーーーgigaaaaaaaaa!!!!!」

 

 

 

 黄金の王の背後に『何か』が出現し、そのまま驚異的な跳躍力でもって彼に襲いかかった。そのサーヴァントのクラスは『バーサーカー』。召喚の際に特殊な詠唱を挟むことで、対象とした英霊の理性を塗り潰し、その代わりに身体能力を格段に強化された狂戦士。

 

 

 

 

「ーーーーなにぃ!!?」

 

 

 

 アーチャーが『王の財宝』を反転させる。

 だが遅い。黄金すらも曇らせる暗闇の塊が、コンテナを踏み軋ませ原初の王を間合いへと捉えていた。舌打ちをし、回避動作に入るアーチャー。この時、初めて彼はリーゼロッテたちから注意を反らす。そしてそれはランサーの待ち望んだ瞬間であった。

 

 

「令呪を持って、我が騎士に命じる! 『己のマスターを守護しつつ、全力で持って戦場から離脱せよ』!!」

「全て了解した、我が主よ!」

 

 

 リーゼロッテの手の甲から一画の令呪が消失する。形を失った膨大な魔力がラインを通してランサーの霊核へと注ぎ込まれる。『離脱せよ』、その簡潔にして明確な命令がランサーの敏捷性を天井知らずに増幅させた。その力を最大限に活かし、ランサーは先程の『バーサーカー』すら遥かに上回る跳躍力にて大地を蹴る。

 

 

「うわぁ!?」

 

 

 突如として感じた浮遊感に、リーゼロッテが驚きの声をあげる。瞬きの間に彼女の真下に地面はなくなり、目の前には暗闇があるだけだ。コンテナを砕かんばかりに踏みつけ、一度の跳躍で十数メートルは移動している。風を置き去りにするかのような爽快さに、リーゼロッテは先程までの緊張感を忘れる。ランサーに抱えられながら子供のようにはしゃいでいた。

 

 

「す、スゴいスゴい!! ランサー、本当にすご…………っ!?」

「主よ、口を閉じてください。舌を噛みます」

「も、かんだひ」

 

 

 涙目で口を押さえるリーゼロッテ。

 すっかり普段の調子を取り戻した彼女に苦笑しつつ、槍の騎士は闇夜を駆け抜ける。遥か後方から聴こえる戦闘音を置き去りにして、できるだけ先へ先へと己のマスターを遠ざける。涼しい顔の裏側、彼の胸の中には『今度こそマスターを護り抜く』という悲痛なまでの想いがあった。

 

 

 

 その覚悟を知る者はまだ、『この世界』のどこにもいない。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 倉庫街での戦いはアーチャーとバーサーカーの激突により、最終的に幕を閉じた。時臣が令呪の一画を消費したことも、アーチャーの不興を買ったことも正史の通りであった。

 

 そして、そんな戦いの結末を見届けた者たちがいたことも変わらなかった。鼻をつくような匂いの立ち込める下水道の奥に築かれた工房にて、歓喜の叫びを上げる青年が一人。

 

 

「すっげぇ、なに今の!? マジかよ、超COOLだよ!!」

 

 

 深い紫色のジャケットに青いジーンズ、派手なオレンジ色に染めた髪、そこにいたのは決して珍しくもない容姿をした青年だった。彼の名前は雨生龍之介、此度の聖杯戦争においてキャスターを召喚したマスターである。彼は両腕を振り上げテンション高く、はしゃぎ回っていた。

 

 

「ちょっとちょっと、旦那ぁ! あれってマジなんだよねっ、CGとかじゃない本物なんだろっ? …………って青髭の旦那、聞いてないじゃん」

 

 

 つまらなさそうに龍之介はキャスターを一瞥する。

 彼の先生たるサーヴァントは何やら『聖処女』や『ジャンヌ』、『私が起こした奇跡』と意味不明な言葉を繰り返している。油の代わりに涙を流し、壊れた機械のように虚ろな言葉を呟き続ける姿はとても危ない存在に見える。いや、実際のところは今回の聖杯戦争のサーヴァント中で一、二を争うくらいに危険なのだから間違いではない。

 

 魔術師のサーヴァント、『キャスター』。

 生前に何らかの魔道を修めた魔術師が召喚されるクラスであるが、三大騎士クラスを始めとして『対魔力』スキルを持つ者が多い聖杯戦争においては最弱と称されることが多いサーヴァントである。

 

 両生類のように飛び出した目玉は不気味に動き、青白く干からびた肌からは生気が感じられない。神々しいアーチャーとは真逆に位置するような容貌、異様なまでの醜悪さを見る者に植え付ける気配、そのどちらもが正規のサーヴァントとはかけ離れていた。

 

 

「お、おお、龍之介! すでに私の祈りは聖杯に届いていたのです。聖処女は甦った、聖杯はこのジル・ド・レェを選んだのです!!」

 

 

 狂った醜声が龍之介の鼓膜を揺らす。それを心地よく思いながら、龍之介はようやく意識の戻ってきたキャスターへと笑顔で話しかけた。

 

 

「何か知らないけど、おめでとう旦那!」

「ありがとうございます、龍之介」

 

 

 それは異様な光景だった。内容に触れもせずにサーヴァントを祝福したマスターと、中身のないソレを歓喜の中で受け取ったキャスター。だが、これでいい。この狂った二人の間にこういったやり取りは珍しくもない。

 

 雨生龍之介。

 快活な青年である彼の正体は、女性もしくは子供をターゲットにして活動する快楽殺人犯である。この島国の全土を周り、『死』を感じるためだけに人間を殺して歩く狂人。つまりはサーヴァントもマスターも既に壊れているのだ、常人のコミュニケーションが成り立つはずもない。

 

 ここまでは正史通りであった。キャスターがセイバーを聖処女ジャンヌと勘違いし、執拗に追い回す。そしてマスターはここで快楽殺人と『作品』の創作に精を出す。それだけのはずであった、本来ならば。

 ここで龍之介は右手をキャスターに見えるように掲げた。

 

 

「ねえねえ、旦那。あの女の子がやってたヤツなんだけど、この刺青はどうやって使うの?」

 

 

 そこに刻まれていたのは大魔術の結晶たる『令呪』。

 リーゼロッテという異物は、正史では起こり得なかった魔術領域への興味を、快楽殺人鬼に持たせてしまったのだ。当然のことながら、キャスターは己のマスターにも理解できるように簡単に説明する。

 

 

「…………つまり、俺の想いの力で旦那がパワーアップするってことだね。んー、これもまたCOOLだ!」

「流石は龍之介、心強いものです。…………さて、申し訳ない、私は聖処女を迎えに行かねばなりません」

「あのセイバーって奴のところへ行くんだよね、頑張れよ旦那!」

 

 

 いそいそと霊体へと戻っていくキャスター。

 それを満面の笑みで見送る龍之介は、子供のような好奇心に満ちた眼差しで令呪を眺める。尊敬してやまないキャスターの助けになる、それはなんて素晴らしいことだろうと。

 

 

「あははっ、サイコーの気分だよ!」

 

 

 上機嫌で踊るように辺りを闊歩する。時々、「ふんふん」と鼻を鳴らし、ナイフを掌で滑らせてステップを踏む。夜の街で鍛えたダンスは中々のキレがある、少なくない女性を惹き付けるであろうほどには見事だった。

 

 

「ぅげ、ぉあがぉ…………ぇげ」

「おっと、そういえば…………そろそろ『作品』ちゃん達と遊んでやらないとね」

 

 

 ピタリ、と龍之介は動きを止める。

 うめき声が聴こえた方向に広がっていたのは血の塊。そこにあったのは人の形をした『何か』だった。

 

 

「こーんばんわー!」

「ぃぎがぉぉあっ!?」

 

 

 言葉にならない悲鳴を上げる。

 そこにいたのは拉致され、解体された子供たち。全員が本来ならば死に至る傷を与えられながらも、魔術により延命させられ生きている。血泡と激痛を口から垂れ流して、呻いている。全ては龍之介とキャスターの『作品』たち、『死』と『生』の両方を侮辱した最悪の行為の犠牲者たちだった。引き摺りだされ、釘で固定された臓物を指で弾きながら龍之介は溜め息をついた。

 

 

「ぎぃぃ…………ぁがががぅぅぇ!!!?」

「何だか飽きちゃったかも、いやいや棄てたりはしないけどさ。君たちにも新しい仲間が必要かなって思ったんだよ。…………まあ、あれだな。俺のインスピレーションが次なる芸術に相応しい『材料』を見定めたからなんだけど」

 

 

 激痛に泣き叫ぶ幼い命を愛しげに眺めながら、恍惚とした表情で狂人は次なる『材料』へと思いを馳せる。何でも手に入るのだ、キャスターの力があれば作品の材料には困らない。遠慮なんてする必要はない。

 だからだろう、気を大きくした龍之介は『彼女』を欲した。

 

 

「あー、あの金髪の子、可愛かったなぁ。本当ならもっと幼い方が好みだけど…………あれなら十分にストライクだ」

 

 

 キラキラと光を宿す瞳に映っていたのはランサーのマスター、リーゼロッテ・ロストノート。この国ではなかなかお目にかかれない豊かな金髪、そして魅惑的な赤い瞳が素晴らしい少女。きっと、その二つは作品の飾りとしても映えるに違いない。金色のサーヴァントへと啖呵を切った姿もプラス要素だ、その気高い精神を『加工』するのが龍之介としては最高の瞬間なのだ。思わず自分の身体を抱き締める。

 

 

「うー、さいっこう! …………あの金ぴかめ。何が首輪を付けるだよ、わかってないな勿体ない。あの子は、とってもいい声で泣いてくれそうなんだからさぁ。俺に加工させるべきなんだよ」

 

 

 まるでそれが正しい行いだと言うように、龍之介は自らの歪んだ想いを語る。彼の瞳には英雄王の輝きすら、何の価値もない。例え彼がどんな英雄であろうとも、キャスターこそが龍之介の神であり友だ。黄金ではなく、臓物を賛美する狂人仲間。ただただ自らの欲望を満たし、答えを見つけるために龍之介とキャスターは罪を犯し続けるだろう。

 

 

「でも何だろうな。あの子は普通の人間とは違う感じがする。…………まっ、それで俺の作品に幅が出ると思えばラッキーだね!」

 

 

 人間芸術家、雨生龍之介はその確かな感性でリーゼロッテが『純粋な人間』ではないことを見破っていた。その呟きを聞いた者はいない。上機嫌に肩を揺らしながら、龍之介は手の甲を覗き見る。そこに刻まれた赤い刺青を宝石を扱うように優しく撫でて微笑んだ。

 

 

 

 これにて第四次聖杯戦争の第一戦目は幕を下ろす。

 されど少しずつ運命の糸は正史とは違いを生み、参加者たちを巻き込み、複雑に絡まっていく。その先に何が待ち受けていようとも、彼らに立ち止まることは決して許されない。

 

 

 




クラス:ランサー
真名:ディルムッド・オディナ
マスター:リーゼロッテ・ロストノート

パラメーター:
筋力B
耐久C
敏捷A+
魔力D
幸運C

スキル:
対魔力B
心眼(真)B
愛の黒子C

宝具:
『破魔の紅薔薇』
ランクB
詳細/あらゆる魔を打ち破るという伝説を持つ対魔の長槍。刃の触れている間だけ魔術を無効化する力があり、セイバーの鎧やリーゼロッテの結界など、その防御力を無視して攻撃できる。効果に限定はあるものの、非常に使い勝手の良い宝具である。
ディルムッドが養父アンガスより譲り受けた宝具。

『必滅の黄薔薇』
ランクB
詳細:この刃で傷をつけられれば、如何なる手段を持ってしても癒せぬとされる呪いの短槍。回復魔術すら完全に無効とされるので、マスターを伴っての戦闘では一方的に相手に傷を増やしていくことができる。尚、この槍で持ち主は傷を負わない。戦況を一撃でひっくり返せるわけではないが、非常に有用な宝具。
ディルムッドが育ての親である妖精王から贈られた由緒正しき宝具。

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