次回もいつに投稿になるか……
ツユカミと邂逅した次の日、さやかは鈴と夏目とニャンコ先生と共に七つ森に向かっていた。
さやかは特に気にしていなかったが、鈴の存在を知らない夏目は、それを質問してきた。
「なあ?三日月。その妖怪は?」
「この子は鈴。うちの用心棒よ」
「大昔に、さやかの先祖と契約して、今は用心棒のような事をしてるわ」
「ほう?で、対価は?」
「『精神』。月一にはげっそりとした顔の私が見れるわよ、夏目君」
さやかからのその言葉に、夏目はあからさまに顔を顰めた。
「対価って……」
「契約時になんのリスクもなく出来ると思わない事ね。貴方達人間も、何かと契約すればそれ相応のお金を支払ってるんじゃないかしら?それと同じよ」
「だけど、それは三日月が危ない……」
「私がそんなヘマをするわけが無いでしょう?精神力をもらってるってだけで、其処まで危なくないわ」
「そうそう。それに、其処は自己責任だしね」
「……そうか。それにしても、こっちに来るのは初めてだな。三日月は?」
「何度も来てるけど、さすがに祠があったなんて気付かなかった……?」
と、その言葉の途中で足元に桃が転がってきたのに気付いたさやか達は歩みを止めた。
「あらら、桃、落ちましたよ」
そう言いながらさやかは桃を拾い、それを落としたお婆さんに向けた。
「大丈夫ですか?」
夏目もそう言いながら桃を向けると、お婆さんは優しそうな笑顔を浮かべていた。
「あらあら、ご親切にどうも。痛んでなければもらってくださいな。一人では食べきれなくて」
「え、でも……」
「良いの良いの」
「あ、ありがとうごさいます」
さやかはお礼を言いながら頭を下げると、お婆さんはどういたしましてと返してくれた。
「今日は良いお天気ですね」
「そうですね」
「青空ですからね。入道雲もないですから、雨は無さそうですね」
「あら、雨がお好きなの?」
「青空も雨も好きですよ」
「そう、良かったわ」
お婆さんは嬉しそうにそう言うと、さやか達の前から去って行ったのだった。
さやかはお婆さんが見えなくなるまで見てから進もうとすると、其処には驚いた顔をしている夏目がいた。
「?どうしたの?」
「い、いや、俺と違って結構話せてたなって……」
「私にも友達がいるからね。その子達とよく話してるから、コミュニケーション能力はあるわ」
「友達って、この前教室に来た……」
「そ、あの子達」
そう言って進もうとすると、鈴がお婆さんの方を見ていることに気付いた。
「鈴?どうしたの?」
「ほう、お前さんも気付いたか」
「ええ」
「「⁇」」
さやかと夏目は何のことか分からず、首を傾げると、ニャンコ先生が簡単に言ってくれた。
「あのばあさん、そう長くないな」
「は?」
「あまり美味そうな匂いじゃ無かった」
「先生って、やっぱり人を食べる系の妖怪なのか?」
「当然よ。斑という妖怪は人も食べるわよ」
さやかの答えを聞いた夏目は、今後気をつけることを心に刻んだのだった。
***
七つ森にある祠まで来てみると、夏目の顔はサッと青褪めた。
「!祠に住んでるって……あんた神様だったのか⁉︎(やばい、祟られる……!)」
その時、夏目の脳裏に浮かぶは昨夜の事。
自身が寝ている布団の上で酒を飲みながら騒がしくするツユカミとニャンコ先生。
その後、「中年妖怪共!」なとと言いながら外へとポイ捨てしたこと。
(……っつうかレイコさん、なんて罰当たりな……)
「?どうしたのじゃ?夏目殿」
「お前さんが神様と知って昨夜の事を思い出したのじゃろ」
「?昨夜?」
「いやいや、そう呼ばれているが元は祠に住み着いた宿無しの物怪だよ」
「ツユカミの由来は昨日、勉強してきたわ。
ーーーある旱魃の時、村人が七つ森にある祠に祈った。すると、次の日には雨が降り、旱魃から人々を救った
私の家の書物にはそう書いてあったわ」
「そうじゃ。偶々雨が降って、それ以降、私は『露神』と呼ばれるようになり、供物もどっさり置いていくようになった。気付くと私は力に溢れ、姿もみるみる立派になった」
「前見たときは人間くらいの大きさだったわよね?」
「私とレイコがあった時もその位だったな」
「あの頃はな。今では殆ど人足も途絶えた。信仰で膨らんだ体は信仰が薄れるにつれて縮んだというわけさ」
「まあ、神様はそういうものよね」
さやかがその時に思い浮かべたのは、緑髪の巫女。
霊夢経由で知り合った巫女で、その巫女が務める神社にも神が二柱いるが、その神の力も、信仰が無ければ弱い。
霊夢の神社も思い浮かべたが、彼処には神さえいなかったと思い出すと、其処で考えるのを止めた。
そして思考を止めると、いつの間にやらもう一人の妖の姿を知ってるからと夏目の家に行こうという話になっていたのだった。
***
その後、ツユカミの絵を見せてもらったがどうにもキュウちゃんにしか見えず、夏目の部屋には爆笑する声が響いた。
その次の日、お昼休みにいつも通りに屋上に来てその話をしたさやか。
「き、キュウちゃんみたいな妖怪って……」
「ま、魔理沙、笑ったら駄目よ……ふふっ」
「アリスさんも笑ってるじゃないですか……ププっ」
「あはは!可笑しい‼︎何でキュウちゃんなのよ‼︎」
キュウちゃんの話をすると、四人は笑ってしまった。
そして、一番に笑い終えたのは妖夢であった。
「それで、そのキュウちゃんみたいな妖怪を探して、名前を返せば終わりということですね」
「そう、それで終わりなんだけど……あの絵を見て、思い浮かぶ妖怪が一匹だけいるわ」
「え?いるのか?」
魔理沙の問いに頷いて返すさやか。
その後ろから、鳥の羽が羽ばたく音が聞こえてきたために見てみると、其処には文がいた。
「どうもー‼︎清く正しい射命丸です‼︎」
「あら?丁度良いじゃない。此奴にキュウちゃんの事を聞けば?」
「ん?なんのお話でしょう?」
文は流石に話についていけずに首を傾げた。
そんな文にキュウちゃんーーー基、『ススギ』の事を聞くと、笑顔を浮かべた。
「その妖怪なら知ってます。昔、人から食べ物を貰って、夜の光源が無い時にその返しをしているのを見たことがありますから。
それでは!何か進展がありましたらご連絡しますね‼︎」
文はそう言うと、颯爽と飛んで行ってしまった。
「……あ、お弁当」
「……」
しかし、羽ばたいた時に出来た風の勢いで、霊夢達の弁当は無残にも地面に飛ばされ、もう食べれない状態となっていた。
「……絶対に、許さないわよぉぉぉぉ‼︎文ぁぁぁぁぁ‼︎」
屋上には、霊夢のそんな叫びが響いたのだった。
其処からずっと、三ノ塚でススギ(夏目はキュウ太郎と思ってる)探しをするが、全く分からなかった。
(これは文からの情報を待つしかないかな?)
そう思いながら窓の方に顔を向けると、夏目が疲れから寝ている姿が見えた。
(……早く見つけないと、時間がないんだから)
さやかはそう思いながらも本を読み始めた
***
その日の夜、さやかは家で鈴と話をしていた。
それは、この日の放課後にあった出来事が原因だ。
「……あの『ハナさん」ってお婆さん、昔、視えてたのかな?」
放課後、夏目と共にツユカミの祠まで来てみると、其処にはお婆さんが一人、祠で手を合わせていた。
そのお婆さんは小さな頃からその祠にお参りをしていたようで、女学生の時には、ツユカミの姿まで見たというのだ。
しかし、それ以降から見ていないと言うのだから、『視えた人』という可能性は少ないだろう。
「……昔は、三日月家もツユカミを信仰してたわね」
「え、そうだったの?」
「ええ。ただ、先代から信仰が消えたわ……あの子は、妖怪が嫌いだったからね」
「……」
その言葉でその場に暗い空気が流れた時、玄関扉をノックする音が聞こえてきた。
「‼︎誰だろ?妖怪退治人なら絶対に返すけど」
そう言ってその場から立ち上がり、玄関を開けると、そこに居たのはさ文だった。
「文?……あ、まさか‼︎」
「はい‼︎情報が手に入りましたよ‼︎」
その言葉に喜びを露わにしたさやかだった。
***
その次の日、さやかは夏目と共に三ノ塚まで来ていた。
「文の情報とツユカミ様の情報が合致して良かった」
「なあ?その文って誰だ?」
「機会があれば紹介するから」
そう言いながら周りを警戒していると、背筋に寒気が走った。
「‼︎夏目君、後ろ‼︎」
その言葉と共に後ろを見れば、木々の陰に妖怪が居た。
すると、その妖怪は姿を一度消し、今度は地面に出来た木影の中に居た。
「夏目‼︎さやか‼︎木陰から出ろ。此奴は強力な力をもつ。お前達を喰おうとしている」
「こ、こいつがキュウ太郎⁉︎字しか合ってないじゃないか‼︎」
「そんなこと言ってないで、早く木陰から出るよ‼︎」
そして、出ようとしたところで、後ろで何かを叩く音が聞こえた。
「‼︎先生‼︎」
ニャンコ先生が叩かれたのだと分かった夏目はすぐに振り返る。
しかし、その為に逃げる事が出来なくなり、夏目はあっさりとススギに捕まる。
「夏目君‼︎」
さやかは何も出来ない事を歯がゆく思いながら、手鏡を取り、影から手でススギに光を当てようとしたが、それよりも早くニャンコ先生が払いの光を出し、そのお陰で夏目はススギから解放され、ツユカミと共に名を返した。
しかし、二人同時に返した無茶が祟り、夏目は意識を失ったのだった。
***
「で‼︎その後、如何なったのですか⁉︎」
その日から二日後、屋上でいつも通りに弁当を食べていると、文がやって来て話を急かしてきた。
さやかは協力してくれたからと仕方なしに文に話をしている。
「その後、夏目君の意識が戻ったから、一緒にツユカミの祠に行ったのよ。そしたら、ツユカミは前よりももっと小さくなってて、そのすぐ後に光りだしたわ」
「おっと、それはもしかして……」
「そう。ツユカミを唯一信仰してたハナさんが亡くなったから、消えようとしてたの」
神は信仰が無くなれば儚く消えてしまう。
ツユカミもまた、例外無く同じである。
ハナさんという信仰してくれていた女性が亡くなり、信仰してくれる者は居なくなった。
力もなくなり、存在も維持出来なくなった為に、光出して、消えてしまった。
「……『私の友人』か。最後の最後まで、人間が好きな妖怪だったわね」
ーハナさんと、会えたらいいね、ツユカミー
弁当を食べながら騒がしく話してる魔理沙達を他所に、そう考えるさやかであった。