空を飛ぶ、二つの人影があった。
一つは、黒髪に黒翼の少女。
一つは、金髪に金翼の少女。
武蔵の第三特務と第四特務、マルゴット・ナイトとマルガ・ナルゼだった。
彼女達は、遠くから来る武神を見つめていた。
「武神、かぁ。武蔵の防御掻い潜られたらヤバイね」
「まさか魔女として、Tsirhc側と戦うことになるなんてね」
二人は、物憂げに視線を交わす。
「Tsirhc教譜が恐れ、敵とし、滅ぼすことを決め。研究も満足にいかず、人々の間に隠れた術式、
「武蔵は、いい隠れ場だよね」
「……だったら」
と、ナルゼはナイトの箒から立ち上がる。
「魔女の身分を晒してでも、武蔵を守る意義は有り! 来るわよマルゴット!」
「Jud.!」
武神が専用の銃から撃ってくる。
二人はそれを回避すると、ナルゼはペンを、ナイトは箒を掲げる。
「「
二人はある企業のテスターをしている。
すなわち、『
この企業は主に魔女達に商品を提供している。
特に、魔女の武装関係を。
当然テスターである彼女達もその例に漏れず、今もこうして己が持つ『魔女の箒』を顕現させていた。
ナイトは黒い強化外殻に覆われた黒い箒。
ナルゼは白い強化外殻で作られた白い箒。
それぞれを、
そして、二人のことを武蔵の人間はこう呼ぶ。
「「完成!
白の衣裳を着たナルゼと黒の衣裳を着たナイトは空へと舞い上がる。
武神は二人に狙いを定めるが、小回りの効く二人の機動に翻弄されうまく当たらなかった。
先に武神に仕掛けたのはナルゼだった。
彼女は、得意の
それらを何枚にも重ね、そこに十円硬貨を投入する。
魔女達が使う攻撃方法、硬貨弾だ。
ナイトも同じく硬貨弾にて狙撃をする。
二人の放った弾丸は武神に直撃はするものの、一つ一つは威力の小さい弾丸。武神相手にはあまり効いていないようだった。
「流石武神、ってところかしら。たった数機で武蔵を監視するだけはあるわね」
「だね。いい攻撃術欲しいね」
「
「相手が速いよ!」
武神が旋回してこちらに戻りつつ、射撃を加えて二人を捉えようと手を伸ばす。
流石に、エースと呼ばれるだけはある。その腕は的確だ。
だが、
「こっちだって!」
「武蔵の代表なのよ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、武蔵アリアダスト教導院の橋上では、オリオトライと三要、神耶が二人の戦いを見ていた。
「神耶は皆と行かなくていいの?」
「Jud.葉月が向こうにいるってことは、僕はこっちで守りに専念しないといけないから」
「守り?」
「そう。守り」
そういうと、錫杖に巻かれた包帯がひとりでに外れていく。
そこから現れたのは、金色の錫杖だった。
遊環にすら巻かれた包帯も外れ、その色も同じく金色。
ただ唯一、持ち手にあたる部分が黒だった。
「……それ。結構な業物じゃないの?」
「んー。どうだろ。僕はただこれを貰っただけだから」
「誰に?」
「秘密」
と、指を口に当てて静かに微笑む。
それを見たオリオトライは同じく笑う。
神耶はそのまま橋の手すりまで近づくと、相対のときに見ていた場所を再び見つめた。
そして、余った男子制服の裾から目にも留まらぬほどのスピードで短刀を投げつけた。
「ちょっ! 不知火君!?」
「大丈夫よ光記。見なさい」
オリオトライは指差す。
すると、短刀が弾かれ、その先にはその場にいる誰もが今まで見たことが無い、黒いもやを纏った
神耶は橋から降り、モノと向き合う。
「君は誰?」
神耶は問うが、モノは答えず。ただその場に居続けるだけ。
錫杖を構える神耶。だが、それは唐突に消えていった。
「消えた?」
「神耶ー。大丈夫?」
「Jud.」
そういって神耶は戻る。
「何だったのかしらね。あれ」
「分からない。けど、多分あのK.P.A.Italiaの子が仕込んでいたもの、だと思う」
「根拠は?」
「流体反応が全く無い」
そう神耶は言い切った。
この世界の構成要素は流体。それは人間や動物、植物なども例外ではなく、「無」といった概念にさえ流体は宿り、この世に流体の無い場所はないとされる。
それが、流体が一切無いというのは、
「別の、異質なモノって考えたほうが早いかな。葉月に聞けば何か分かりそうだけど」
「今は最前線にいるのよねー。邪魔は出来ないし」
そういって、神耶とオリオトライは上空にいる
すると、ナイトが武神の飛翔器の圧により飛行を乱され、ナルゼの白嬢が破壊された。
「……出来る、かな」
「心配?」
「Jud.」
「なら、行ってあげてもいいと思うわよ。私」
ただ、
「あの二人は、めっちゃ悔しいと思うでしょうね」
「……なら。二人を信じる」
「Jud.本当に危なくなったら、行ってあげなさい」
「Jud.」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ナイトは、半ば意識を失いかけていた。
武神の飛翔器の圧力により、機動を乱された。
遠くでは自分の相方の白嬢が破壊されたのを感じ取った。
(うっわー……ケッコーキツいねー。武神相手って)
ナイトは落ち行く中で、そう思った。
何しろ、自分達にとって初めての戦い。その相手がいきなり武神なのだ。
薄れゆく意識の中、ナルゼが自分に向かって叫ぶのが聞こえた。
自分達飛行種族は、背中の翼で飛ぶことも出来る。
ただし、武神と比べると当たり前だが遅い。
『起きなさい!』
と、そんな叱咤の声が聞こえた。
ナルゼとナイトの隣に現れた
〝
その後ろにもたくさんの人がいた。
武蔵の上空で行われている加重空間レース。そのメンバーだった。
『武蔵の空を預かるアンタたちが、今それを守れずどうするよォ!』
『アタシから、『見下し魔山』のテスター権奪った根性見せてみな!!』
『
と、青年が中央で仁王立ちをしている老人に言う。
老人は一歩前に立つと、魔術陣に移る二人に向かって、
『聞け。魔女達。この中で一番先に負けたのが、この俺だったよなぁ――――だが、コイツらの中で、俺が一番強いんだぜ?』
だから、
『分かったらとっとと目ぇ覚ませ――――――
刹那、ナイトの意識が覚醒した。
ややふらふらになりながらも、それでも黒嬢からは手を離さなかった。
目が覚め、手に入る力も強くなっていった。
「――――その後、時速200キロまでの加速用紋章十枚展開、大きさは定型十分の一で各200エーテル消費で――――」
ナイトが呟くそれは、魔女たちの呪文詠唱。
ナイトは落ちかけた体を黒嬢を支えにし、その砲塔を武神に向ける。
「ガッちゃん速筆だから、避けきれなかったよ、ね!」
そのままナイトは腰の棒金が入ったケースを開け、ありったけの棒金を箒の先端に押し込む。
「白の魔術はプラスの力を作る!」
すると、箒が光り、射線上に魔術陣が現れた。
「黒の魔術はマイナスの力を作る!」
武神は流体反応が急激に増加したことで攻撃を一時停止。
ナイトはそれを見て、いつものように笑った。
「二つの力が合わさるとどうなると思う! ――――十円銅貨千円分の棒金十本! 行くよ、平均日給!!」
そして、トリガーを引く。
「――――Herrich!!」
直後、流体光を纏った棒金の弾丸が武神に向かって放たれた。
武神はすぐさま回避機動を取るが、十本全てが武神を追っていた。
それは、ナルゼが武神に白嬢を破壊される前に、武神の首部分にマーキングしていたためである。
白魔術と黒魔術は引き合う。その性質を利用した誘導弾。
だが、武神も追尾してくるそれらを回避し続ける。
それでも避けきれないものは腕でガードをした。しかし、その一瞬の隙を突き、弾丸の一つがマーキングされた部分に着弾した。
「
直後、武神の頭部が爆発した。
武神の乗り手自体は、その前に合一状態を解き、ダメージは無かったが。それでも解いたことにより武神は制御を失い、落下していった。
「ははっ、やった……」
見ると、ナルゼが自分の近くまで飛んできていた。
ナイトはナルゼを受け止めると、自分の方に抱き寄せる。
すると、再び魔術陣が開いた。
ネシンバラだ。
『いいかな?』
「ネシンバラ。武神、やったよ」
『ああ。見てたよ。二人ともありがとう。戻ってくれ』
「「Jud.」」
そういって、魔術陣を消す。
二人は顔を見合わせると、笑った。
「あはっ、ガッちゃん
「いいの。黙って」
「……ガッちゃん、震えてる?」
「マルゴットこそ」
そういうと、二人は笑い、見詰め合う。
「今くらい、いいよね?」
そういって、二人は唇を交わした。
「戻ろっか。武蔵に」
「Ju、マルゴット、アレ!!」
ナルゼが指差すその先には、小さい影が見えた。
魔術陣で拡大してみると、そこには武神が映っていた。
「武神!? だってさっき……ッ」
「ネシンバラどういうこと!?」
『おそらく三河で破壊された武神だ! 中途半端な修理で出てきたんだね……』
「なら倒せる!」
そういって、ナイトとナルゼは黒嬢を構える。
『無理だ! 今の君たちはもうさっきので全部使っただろ!?』
「一発で武神の弱点撃ち抜ければッ……」
『武装はしっかりしてるから攻撃してくるよ!』
言うが早いか、向こうは撃ってきた。
狙いが定まっていないのか、見当違いの方向に行ったが。
『浅間君! 武神を狙い打てるかい!?』
『やってみます! ナイトとナルゼは早く武蔵に!!』
二人がそういったその瞬間、武神が二人に向かって突撃を仕掛けた。
おそらく照準部分がやられているので、特攻を仕掛けることにしたのだろう。
その速度は、今の二人にかわせるものではなかった。
「あーもう! こんなことなら死亡覚悟で神耶と葉月の同人誌書き上げるんだった!」
「あはは、ガッちゃん相変わらずだねー……」
『というか二人とも! 早くこちらに戻って!!』
浅間は言うが、武神はもう目の前に来て、その巨大な拳を振り上げていた。
二人は、来る衝撃に目を瞑る。
「四聖二十八宿・南方朱雀・『
が、来たのはただの風圧だった。
二人が目を開けるとそこには、神耶が立っていた。
武神の拳をその細腕一つで押さえ込んで。
そして、傍にいるのは赤い大狐と額に「柳」の文字が書かれた子狐だった。
「言ったでしょ。僕を題材に同人誌書きたかったら、ちゃんと一言言ってって」
「ジンヤん……」
「神耶。アンタそれは……」
「Jud.」
シャン、と遊環を鳴らし、二人の目の前に立つ。
そして、武神と向き合い錫杖を突きつける。
「武蔵アリアダスト教導院。『飯綱使い』不知火・神耶。不出来な武神さん。ここから先は、神秘の見せ場だよ」
どうもKyoです。
ようやく出せたー。次回は神耶無双になりそうです。苦手な方は見ないでね!
というか元ネタ知ってる人はいるのかなー……
先に言いますと、「ふしぎ遊戯」という少女マンガからです。
あと武神に関しては、まあ修復途中と治療途中だったのに飛び出していった無銘さんといった感じです。
この世界、モブが無駄に熱いからこのくらいは敵方にもいるでしょう、という私の安直な考えです。
最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
それでは。