午後の空。
白い雲もややオレンジ色に染まりつつあり、穏やかに流れていた。
だが、その穏やかな空も今日ばかりは慌しかった。
空では
その様子を、木の上から第一特務の点蔵は見ていた。
更に、自分達がこれから向かう場所である最初の関門、中央広場を見る。
そこには、大勢の三征西班牙とK.P.A.Italiaの学生が大きく細長い陣形を作り上げていた。
「どうだー点蔵?」
と、下から葉月が呼ぶ。
点蔵は下に降りると、状況を説明する。
「凄い、の一言に御座る」
「それは分かってっから」
「この先には三征西班牙とK.P.A.Italiaの混成部隊がいるで御座るよ。陣形の形からして、おそらく
「あー。アイツらのやりそうな手だな」
「どういうことだ?」
ノリキに聞かれ、葉月は答える。
「向こうは別に俺らを倒す必要性は無い。ホライゾンの自害の時間まで俺らを足止めしてりゃあいいんだからな」
『受けの一手って奴ですか?』
「だな。ってかアデーレ。お前のそれ、機動殻?」
アデーレの乗っている機動殻を指差して葉月は言う。
その形は全体的に丸く、青い色をしていた。
腰の部分には実践用の槍が装着されている。
『あ、はい。ただ、これちょっと遅いので、足引っ張っちゃったらゴメンなさい』
そういってアデーレは頭を下げる。
つられて周りの警護隊もいえいえと返す。
「で。全体的な状況どうなってんの?」
『それじゃあそこからは僕が説明するよ』
と、表示枠が現れた。
そこにはネシンバラが眼鏡を光らせながら映っていた。
『敵は、空に航空艦。地上には地上部隊。これで武蔵の行動を制限するつもりだね。おまけに西班牙方陣と来た。これは厄介だよ。移動は遅いが守りが堅い』
「完全に時間稼ぎしかしないよな。これ」
『Jud.でもね。これを見て』
そういうネシンバラ。
そこには、目的地であるホライゾンの居場所と現在の自分達の居場所が記されていた。
そこは、
「一直線か」
『そう。だからこの西班牙方陣を抜ければ、迷うことなく一直線のルートだ』
「問題は、どうやってあの陣形を崩し、突破するかだな」
それには一同頷く。
西班牙方陣は守りに優れた陣形で、非常にメジャーだ。
術式防盾により、正面からの攻撃には非常に強い。
更に、中には銃士隊もいて、そこから攻めることも出来る。
欠点としては真上からの攻撃だが、地上戦を行うのだ。上空からの攻撃はないものだろう。
『僕が言うのもアレだが、結構ピンチだよね』
「おい軍師が弱気になってどうすんだよ」
『現実を見ていなきゃ軍師は務まらないよ。だけどさ。ちょっといいかな皆』
ネシンバラは全部の表示枠に向かって言う。
『誰も戦争が好きなんて人はいないよね。命の奪い合いが好きなんて人は、それこそ狂人だ』
ふと、葉月は一瞬表示枠の隅に映る喜美に目をやるがすぐに逸らす。
『この戦闘に参加している皆。強制か任意かは分からない。でも、どうせ戦うんなら精一杯生きて、出来る限りカッコつけてみようよ。よく言うでしょ。生きることは戦いだって』
だから、
『皆、ちゃんと死亡フラグは建てたかい? 危険なときに救ってくれる友はいる? いざってときの逆転の隠し玉はあるかい? そして何より――――――帰るべき場所はあるかい、登場人物たち!』
「『Jud.!!』」
『よし。それじゃあ行ってくれ皆! そして主人公! そろそろ何か言ったらどうなんだい?』
ふと、ノリキが顔を上げる。
「おい。その主人公はどこ行った?」
辺りを見ると、トーリの姿が消えていた。
が、アデーレが機動殻の中からズーム機能でトーリを見つけた。
関所に向かって歩いていた。
向こうもこちらに気づいたのか、振り向くと手を振る。
「おーい! 何やってんだよ! あっちでホライゾンが待ってるんだろー! 早く行こうぜ!」
「ちょぉぉぉぉぉ!? ト、トーリ殿!?」
「何やってんだかあの馬鹿は……全員聞け!」
葉月は警護隊、及び梅組メンバーに言う。
「とりあえず、馬鹿が勝手に行っちまった! 後から追うぞ!」
「Ju、Jud.!」
やや戸惑うように返事をした全員はトーリの後を追う。
一番早い葉月と点蔵は、すぐにトーリの横に並ぶ。
「いやお前さ。ホライゾンに会いたい気持ちは分かるがもうちょい空気読めよ」
「ああ? 俺はいつだって空気バリバリ読んでるぜ! 例えば点蔵はパシリ大好きだからパシらせようとかな!」
「自分パシリが好きなわけでは御座らんよ!?」
「分かってるって。職業なんだろ?」
「パシリが職業ってもう既にその世界は末世迎えてるで御座るよ!?」
「お前ら余裕あんなー」
そんなことを言っていると、既に関所の門が見えた。
と、ここでようやく後続が追いついた。
「よっし開けるか!」
「まあ待てトーリ」
そういって葉月はトーリを止める。
「いいか? 向こうは三征西班牙とK.P.A.Italiaの連合なんだ。ここで普通に扉を開けてみろ。きっと反応は『普通過ぎてつまらんな』で終わりだぜ? 芸人のお前はつまらない登場の仕方をしたいのか?」
「そ、それもそうだな! 流石だぜ葉月!! でもどうやったらウケ取れんの?」
「ああ。簡単だ。ちょっとどいてみ」
言われてトーリは場所を空ける。
葉月は、五歩ほど後ろに下がった。
そして、
「オラァ!!!」
強烈な踏み込みから飛び上がり、木製とはいえ巨大な扉を二枚とも蹴り飛ばしたのだ。
扉は力によって強引に剥がされ、そのまま西班牙方陣に突っ込んでいった。
「……とまあこれが正しい開け方だ」
「す、すげえぜ葉月! でもそれって真っ向から喧嘩売ってるよな?」
「何言ってんだ? 元々そのつもりでやってんに決まってんだろ?」
そんなことを平然と言う葉月。
やがて煙が晴れてくると、そこには、唖然とした学生達がいた。
「そーら。気合入れていくぜお前ら」
葉月は杖を構える。
同時に、周りの空気も変わった。
「ぜってーにトーリをホライゾンのとこまで行かせるぜ!」
「Jud.!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その様子を艦上で見ていたネシンバラは呟く。
「……白百合君も、武蔵の空気に触れておかしくなった、か」
「フフフ同人作家? あんまり悪口言ってると、どこぞの巫女が砲撃してくるわよ」
「ああそうだったね。ゴメンゴメン」
『あの。そのどこぞの巫女って私ですか?』
「他に誰がいるのよ」
いきなり表示枠で浅間が抗議を始めたが、ネシンバラは気にせずに続けた。
「さて。向こうもそろそろこちらに対して攻撃を仕掛けてくる頃だね」
言うが早いか、三征西班牙の警護艦が砲撃を開始した。
だが、武蔵の重力障壁により。砲弾は届かずに、爆風も防いだ。
自動人形〝武蔵〟による操作だ。
砲弾は武蔵を狙うが、〝武蔵〟は次々と砲弾の位置に重力障壁を移動させていく。
更に、武蔵の巫女達が弓で狙撃し砲弾を破壊していた。
すると、〝武蔵〟の横に表示枠越しに〝浅草〟が現れた。
『〝武蔵〟様。三征西班牙の警護艦から高出力の流体反応が検地されました。主砲である流体砲です。術式操作があります――――――以上』
〝武蔵〟は上空を見ると、こちらを向く砲塔に流体が集められているのを確認した。
すると、武蔵は両手で重力障壁を流体砲の射線上に集める。
瞬間、流体砲が発射された。
一直線に武蔵に向かって放たれるが、重力障壁の壁に阻まれる。
障壁は、あっという間に半分以上砕かれたが、それでも流体砲の照準を逸らすのには十分で、武蔵からかなり逸れた場所に着弾した。
『お見事です――――――以上』
「今のは向こうの狙いが甘かっただけです。次は直撃します」
と、神耶が割り込んできた。
『〝武蔵〟さんナイス! 守り完璧!』
「ありがとうございます神耶様。このくらい、この〝武蔵〟にとっては朝の掃除前程度の問題です――――――以上」
『〝武蔵〟様。気分が高揚するのは分かりますが、武蔵全面に重力障壁を展開するのをお止めください。前が見えません――――――以上』
おっと、これはいけませんね。つい、と思いながら〝武蔵〟は障壁を解除する。
『二発目来ます――――――以上』
〝浅草〟が報告する。
『浅間様。よろしくお願いいたします――――――以上』
表示枠で〝武蔵〟が浅間に頼む。
浅間は、いつもの制服姿から、巫女装束になっていた。
巫女というのは、基本的に能動的な戦闘行為を禁じられている。
だが、
「浅間神社は、武蔵を守るために。その力を使用します」
パンッ、と手を合わせると地に円形の陣が出来た。
バインダースカートが開いていき、大規模射撃の用意をする。
浅間の隣に浮いている
『位置関係禊終了ー』
浅間は、片手に構えた弓を接続する。
片梅と片椿。二つを重ねることによって出来る大弓。
「白砂台座『梅椿』、接続!」
傍らにある砲撃禊用の矢を番え、構えると足の固定用ピックが打ち込まれる。
狙いは、二発目を撃とうとしている航空艦。その流体砲だ。
「500メートル辺り、二拝気確定して!」
『拍手!』
弓を引き絞り、右目の義眼〝木葉〟で照準を調整する。
そして、
「会いましたっ!!」
放たれた矢と同時に、向こうの流体砲も発射された。
二つの砲はぶつかり合い、やがて流体砲は禊にて消失。
残った矢はそのまま進み、流体砲の砲身に入り、内部を爆発させた。
「ふぅ」
浅間は一息つくが、気づくと自分の周りにいくつか表示枠が出現していた。
皆、一様にこちらを見ている。
「な、なんですか?」
『……流石武蔵が誇る最強巫女型決戦兵器ね』
『おいおいおい浅間。お前カッ飛ばしすぎじゃね?』
『ククク愚弟? 浅間にとってはこの程度はまだまだよ。何故なら浅間はあと二回の変身を残しているからよ!』
『撃ち終えた後の浅間の顔を見たか? 満足気な表情だったぞ。これで撃つのは好きじゃないというから、拙僧、そろそろ本気で身の危険を感じるのだが』
「味方はいないんですか味方あー!!」
表示枠からクラスメイトによる自分の評価を聞いていると〝武蔵〟から通達があった。
『武神の射出音を感知しました――――――以上』
武神。
航空戦力の要であり、武蔵を数機で監視する各国の重要な戦力だ。
無論、武神戦力がないところもある。
武神に乗れるのは一部の選ばれたエリートのみ。搭乗者の意識とリンクさせて動く。
ネシンバラは武神の戦闘を任せられる二人に指示をする。
「それじゃあ頼むよ! ナイト君、ナルゼ君!」
それは、武蔵上空を飛んでいる黒翼匪堕天の少女と、金翼墜天の少女だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、ここは中央広間。
アデーレの機動殻が、敵の迫撃砲を防いで、敵に動揺が走っていた。
「おーい葉月ー。これどういうこと? アデーレの機動殻ってまさかスーパーアーマー?」
「いや違うから。多分、一昔前の重装甲型の機動殻なんだろうな。ただ、今は高速化の戦場だからぶっちゃけ言うと。あまり役には立たない」
『し、白百合さんはっきり言わないでください!』
「でも壁にはなるで御座るな」
『第一特務! 壁って何ですか壁って!!』
「ちなみにアデーレ。今の砲撃でどのくらい装甲削れた?」
『ほぇ? いえ? ただ今のをあと十発くらいもらうと表部装甲が剥がれますかねー』
十発、というのを聞いた敵陣営が苦い顔をした。
アデーレの破壊は無理と判断したのか、隊長らしき人物は今度は先頭に立っている葉月に狙いを定めた。
「やべえ! アデーレ早く盾! 盾プリーズ」
「葉月殿! 早くアデーレ殿壁に!」
『アデーレ! 壁として葉月君を守ってください!』
「なんで私を盾前提として話し進めてるんですか!?」
『ククク愚衆共。早くアデーレを盾にしないと、浅間が中央広場を吹っ飛ばす威力の矢を放つわよ! 愛の力で!! 自分で言ってて熱いわ! ええゲキ熱よ!!』
『愛ってなんですか愛って!! あとそんな威力のものなんかおいそれと撃てませんよ!』
撃てるんだ、という全員の心の声が一致すると共に、葉月に向かって迫撃砲が発射された。
だが、葉月は杖をその射線上に添え、
砲弾をそのまま受け流し、空へと弾いた。
それを見た一同は、再び呆然とした。
「よしてくれよ。迫撃砲なんてさ」
そういう葉月は杖を肩に乗せ、片手で向こうに「かかってこい」と挑発する。
「俺を倒したかったら。流体砲をダース単位くらいは持って来いよ。ま、片端から潰すけどな」
どうもKyoです。
アデーレのあの機動殻は本当に防御系のチートですよねー。移動までついたらどうなることやら……あ、ペルソナ君がいるか。
次回は、双嬢の戦いと、いち早く神耶の力のお披露目、が出来たらいいなと考えております。
序盤がグダグダしすぎたので、一気に加速していきます。
最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
それでは。