正純が示した理論は、確かに通じた。
歴史再現を悪用した処刑のシステム。それを持ち出してきたのだ。
だが、そんなことを言われて尚且つ極東の独立までも謳いだしたことで何も言わない教皇総長ではなかった。
結果として、教皇総長は乗り出した。
表示枠越しに、正純の論を詭弁を言った。
確かに詭弁なのだろう。だが意見として通じるものだ。
だが、正純も負けてはいない。
対論の並べあいをする教皇総長に対して、自分達は相容れない考えを持っていることを認めた。
これについては、話し合うことで同意が得られるということを教皇総長は言った。
が、正純はそれを待っていたかのように笑う。
自分達が何をしても、話し合うことで解決できると信じていてくれるという解釈をした。
これには流石に無茶苦茶だ、と葉月も神耶も笑った。
だが、極論をすればそういうことになる。
そして正純は三つの平行線を示す。が、教皇総長も食い下がる。
こちらは平和を願うが、そちらが戦うというのであるならばこちらも応じる。
争いか降伏かの二者択一。
そして、各地の金融凍結の解除や武蔵の移譲も無しでいいと逃げ道まで用意してきた。
(くっ……一方的だ)
『本多・正純。歴史再現の誤差というのは、自分と父親が襲名に失敗したからか』
そう、教皇総長は言う。
正純の父親は本多・正信を襲名しようとして、失敗。
そして、子である正純に、正信の子である本多・正純を襲名させようとした。
だが、本多・正純は男性。
そこで襲名の際、不利にならないように男性化の手術を受けた。
始めは胸を削り、性別の部分も男性にしようというときに、ある事件が起きた。
三河の人払いだ。
松平・元信公の命で、襲名者は自動人形が担当することになった。
そして、正純も襲名に失敗した。
結果として残ったのは、中途半端な自分だった。
だが正純は、眼下に広がる人々を見る。
その顔には、正純への疑念があった。
(この一言で、状況を…………)
もう駄目か、と諦めかけたがふとトーリが正純に近づく。
「おいセージュン! マジで女なのかよ!」
「え、あ、いや……」
トーリは、正純の制服の下を一気にずり下げる。
「はい確認でーす!」
無論、正純は胸を削ったとはいえ、まだ女だ。
故に、下着も女性のものを穿いている。
「超、女――――!!」
直後、周りから歓声が上がった。
この武蔵には、なぜか、何故か女性にモテない男性が多い。
故に、こういうことには皆敏感に反応した。
「ひゃあああああああ!!」
正純は慌てて穿きなおすが、今度はトーリが胸を触ってきた。
「ナーイス貧乳!」
「あーおーいー!!」
ガッ、と流石に衆目とかを考えずに蹴りを放った。
「……流石に目を逸らす時間がなかった。ゴメンね先生」
「あー。うん。まあノーカンにしてあげるから。後であの馬鹿シメるけど」
「つーかシロジロ。お前ハイディに目をブッ刺されたけど大丈夫か?」
「Jud.金になるからなこれは」
「命より金かよ!!」
梅組全員がシロジロにツッコミを入れる。
その様子を見ていた教皇総長が、表示枠越しに言う。
『煙に巻くつもりか? なあ、おい』
「ああ? 違ぇよ! いいか!」
ビシッ、とトーリは教皇総長を指差す。
「いいか! セージュンはな! 俺の代わりに言ってくれたんだ! ホライゾンを助ける理由をな! だから俺はセージュンを支持する!」
「葵……」
「俺にも、俺以外の誰にも言えないことをコイツは言ってくれた! だから俺はコイツの、コ・イ・ツ・の! 言ったことをを絶対に支持する!!」
その言葉に正純は、この場で自分に不審を抱く者のことが気にならなくなっていた。
(聖連の代表相手に、これだけ言うのか……私の言葉を、絶対に支持してくれると)
『ならば
「セージュンが分かってる! なあセージュン! ホライゾンを救いに行くのに、俺たち以外の他国向けの利益ってあんのかな?」
その言葉に、正純は冷静になる。
もう、自分は一人ではない。自分の言葉を支持してくれている
「葵・トーリ。まず言っておく。今後、他国との衝突は避けられないだろう。だが、ホライゾンを救うことで生じる利益はある。それは、三河と武蔵を併合し、彼女を極東の君主にするということだ!」
つまり、この武蔵の主権を確立するということだ。
だがそれは同時に、
『各居留地を見捨てる気か!?』
「見捨てない! 極東の各居留地を一時的な独立地区とし、その中での戦闘行為を禁じる。そして、ホライゾンを救うことで生じる他国へのメリット。それは、大罪武装の収集による、末世の解決!」
正純は止まらない。
予め用意してきた答えだ。
「武蔵は大罪武装を回収し、末世を解決する。このことで、武蔵は一切の見返りを求めないことをここに宣言する!」
『大量破壊兵器を持つことを許されると思っているのか!?』
「聖下。大罪武装は元々、ホライゾン・アリアダストの感情を元に作られたものです。その所有権は彼女にあります。各国。彼女の感情を奪い取って作られた大罪武装について、出来れば返却をお願いしたい」
そして、
「武蔵アリアダスト教導院代表、本田・正純がここに宣言する! 武蔵は各国との戦闘を望まず、末世解決に向けての協力を求める者であると―――しかし、末世解決を障害し、大罪武装を巡る抗争を激化し、更には一人の少女の感情を奪い取ったままであるならば! 武蔵は校則法に則り、学生間の相対をもってその対処に望む!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
正純が宣言した直後、教皇総長が指を鳴らす。
すると、教導院の校庭に、一人の魔人族が現れた。
K.P.A.Italia副長、ガリレオだ。
現れたと判断した瞬間、まず向かったのはウルキアガだ。
「拙・僧・発・進!」
彼は航空系の半竜。
故に、背には加速器を持っていて、おそらく魔女コンビの二人を除けばこのクラスでは空を単体で飛べるだろう。
彼は腰の異端審問用の道具を重ね合わせ、突撃する。
が、ガリレオに触れるか触れないかのところで、その勢いは止まった。
見ると、ガリレオの腰の辺りには何かがあった。
それは、
「杖!?」
「いや。これでも
それは、光を発し、ウルキアガの攻撃を止めていた。
「K.P.A.Italiaに預けられた大罪武装『淫蕩の御身』。私は正式な所有者ではないが、それでも対人レベルなら何とかなるのでね。効果は―――」
パキィン、とウルキアガの拷問器具が分解された。
「『対象の力を放棄させ、遊ぶ』といったところかな。蕩けるようだろ?」
「行け!」
その後ろから、ノリキが拳を構えながら来た。
繰り出された拳には鳥居形の印が出ていた。
その打撃は確実にガリレオにヒットした。
が、
「君の拳は軽いようだ。痩せすぎていることもあるようだが」
そういうと、ガリレオは手を地面に向ける。
「天動説」
すると、二人が地面に引きずられるように移動した。
そして、ガリレオは橋の上に移動する。
「移動術!?」
「先ほどの弁論、中々に興味深かった―――だが、ここまでだ」
そういって、ガリレオは正純に向かって手を振るう。
彼は元々戦闘系ではないが、魔人族の地力は人間を圧倒する。
故に、腕を振るうだけで、よかった。
その、はずだった。
そのガリレオの手を二人が止めたのだ。
一人は、葉月。
背負った杖を抜いて、正純と、正純を庇う様にしたトーリの前に出ていた。
そしてもう一人は、
「極東警護隊総隊長。本多・二代」
長い髪を一つにまとめた、凛々しい顔の少女だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ガリレオの介入は、武蔵王が二代と武蔵側の誰かと相対することで今後を見極めるということで引いた。
一方、武蔵側の生徒達は、
「正純。彼女は?」
「ああ。本多・二代。東国無双、本多・忠勝の娘だ」
「マジかよ……この中でガチで相対できるのってネイトとか点蔵くらいだろ」
「ああ駄目駄目。点蔵は駄目。だって向こうは「拙者」「御座る」だし。点蔵は「自分」「御座る」だし。キャラの時点で負けてるっつーの」
直後、点蔵が膝を着いた。
「自分……あそこまで開き直れんで御座るよっ……」
「で。誰がいく?」
「ここはやはり、私が銀鎖でドカンと!」
「確か蜻蛉斬には割断っていうのがあったよね。それで銀鎖がやられたら終わりじゃない?」
「ならアタシが『地摺朱雀』でバコンっていうのは?」
「加速術があるから無理だ。直政を直接狙うだろうな」
「それよりも、私が遠距離射撃でズドンは?」
「距離詰められたら即終了だろ。ってか何でお前ら揃いも揃って擬音系なんだよ……」
葉月と正純と神耶が律儀に全員にツッコミを入れる。
すると、喜美が一歩前に出た。
「フフフ愚衆共、そして愚弟。駄目なアンタ達を。この賢姉が助けてあげる!」
そういって、喜美は前に出た。
「ねえ浅間。喜美の術式は何?」
「え、えぇっとですね…………いつもの喜美、っていえば分かりますか?」
「あー、ごめんなんかそれで分かっちゃった自分がいるよ」
「ウズメの神辺りか?」
「Jud.」
そういって浅間は頷く。
正純は心配そうに聞く。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫です。喜美は負けません」
浅間は確信をもってそう言う。
「今まで、喜美が泣いたことはトーリ君のことで一度だけ。だから、トーリ君が見ている前では、決して喜美は負けません」
「ん? アイツ泣いたことあったっけ?」
「ああ。葉月がちょうどいなくなった時期だね」
「ふーん……そう睨むな浅間」
「睨みたくもなります。何も言わずに行っちゃうんですから」
「仕方ないだろ。色々あんだよこっちにも」
すると、トーリがヨシナオに向かって言う。
「おーい麻呂! 姉ちゃん勝ったらさ。俺に王様譲ってくれね?」
「はぁ!? 何故麻呂がそのようなことを!!」
と、ここでヨシナオは過去を思いだした。
ヨシナオは、かつては
だが、聖連により武蔵の王にならなければ土地を潰すといわれて、ここにやってきた。
望んでいたわけではない。だが、目の前の少年は王になることを望む。
王として、自分がしてきたことをこの少年はするという。
ヨシナオは聞く。
「お前は、王になって何をする」
「俺は、俺のせいで奪われたホライゾンの全てを、取り返したいだけさ」
そういった。
ヨシナオは、それ以降は何も言わなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
相対の結果は、喜美の勝ちで終わった。
そして、ヨシナオは宣言する。
「約束通り、生徒会、及び総長連合の権限をそれぞれに返還する!」
これには一同喜びの声を上げる。
だが、
「王権の移譲はない!」
『ハッ! そうだよな。そうだろうなあ、おい』
ただし、
「麻呂の補佐として副王を二人設ける。ホライゾン・アリアダストとトーリ・葵に、武蔵副王を任命する!」
『血迷ったか武蔵王! 学生に感化されたのか!』
「聖下。私は武蔵王。王である以上、最早民の下を離れず、その苦しみも困難も共に解決していく所存で御座います。もし麻呂達の行いに非があるのであるならば、聖連代表会議にて、ご決断を」
『聖連代表会議は国際会議。今の時代、それに値するような会議は聖譜には記されていない』
「いえ、あります!ヴェストファーレン会議が!」
ヴェストファーレン会議。
三十年戦争の終結講和や、いくつも国際法が制定された会議。
その開催時期は、
「半年後の、十月二十四日。その会議を以って、極東や武蔵の是非を図るというのは!」
葉月、神耶、トーリはにやっ、と笑う。
「トーリ。神耶」
「ん?」
「何?」
「俺ら、仲間に恵まれたな」
「Jud.」
「でも一歩間違うとどうして一緒にいるか不思議な連中に早変わりするけどねー」
「お前が言うな!!」
いい話が台無しだ、と葉月は苦笑しながら思う。
『聖連としては、武蔵の決断には危険を感じる。故に、当初の予定通り。こちらは姫ホライゾンの自害を進めることとする』
「……結局はそれかい。まったく」
そういって葉月は皆より一歩前に出る。
それにつられて、トーリと神耶も出る。
『ほう。
「Jud.顔を合わせるのは二度目ですかねぇ」
『Tes.まだガキだった貴様に、疲労符つけたのを覚えている』
「ハッ! 陰険なジジィになったなぁ」
『聖下と呼べよ小僧』
「そうかよ。じゃあ悪いが。俺もホライゾンを救いに行く」
そういって、葉月は不敵に笑う。
『貴様……まさかっ…………』
葉月は教皇総長の言葉を無視し、トーリを振り替える。
神耶は一歩下がってトーリを前に出す。
「葵・トーリ」
「Jud.なんだい。魔法使い」
トーリがいうと、葉月はその場に跪く。
「俺の杖と翼。アンタに預けるぜ」
「Jud.よろしく頼むぜ」
「トーリ」
と、今度は神耶だった。
「僕の力の全て。君に貸すよ」
「Jud.無駄にはしねえよ」
葉月が立ち上がると、背負っていた杖を引き抜く。
神耶は抱えていた錫杖を構えなおす。
トーリはそんな二人をいつもの笑顔で見ていた。
と、そんな中、
『成程なぁ。王に仕える、か』
「ああ。王族護衛だ」
『ならば、こちらもそれ相応に対処をしよう』
そういうと表示枠が消えた。
「さて。ちょっと行ってくるか」
そういって、トーリは歩き出した。
その横を葉月と神耶が並ぶ。
「トーリ。昔の約束は?」
「覚えてんに決まってんだろ」
「それもそっか」
三人はまるで思い出話をするかのように話す。
やがてその後ろから次々とやってきた。
浅間・智が。本多・正純が。葵・喜美が。ネイト・ミトツダイラが。
直政が。シロジロ・ベルトーニが。ハイディ・オーゲザヴァラーが。
マルゴット・ナイトが。マルガ・ナルゼが。キヨナリ・ウルキアガが。
ネシンバラ・トゥーサンが。アデーレ・バルフェットが。東が。本多・二代が。
点蔵・クロスユナイトが。ペルソナが。鈴が。御広敷・銀次が。ノリキが。
ハッサン・フルブシが。ネンジが。伊藤・健二が。
皆が皆、自分達の王に道をつけるべく、ついてきた。
「ネイト。頼りにしてるぜ。昔に約束したよな? 騎士様」
「古いことばかり覚えているのですね。存分に我が王。今こそ、私の騎士としての力を見せますわ」
「Jud.で。東。お前出てきて大丈夫かよ?」
「大丈夫だよ。余にも、出来ることがあるはずだから」
「そっか。じゃあネシンバラ。お前警護隊と連携して作戦とか立ててくれよ」
「Jud.」
「頼むわ。で、浅間。
「……」
「フフ、愚弟。大事なこと忘れてないでしょうね?」
「ああ。大丈夫だよ姉ちゃん。もう絶対に死のうなんて思わねえ。だから頼む」
「……嫌だって言っても聞かないでしょうしね」
「ありがてえ。あと二代」
「何用に御座るか?」
「お前、うちのガッコ入れよ。臨時副長ってことで」
「拙者侍ゆえ、貴様ではなく君主であるホライゾン様に使える所存に御座るが、それでもいいというのならば」
「それでいい」
トーリは次々と指示を出していく。
人は彼を不可能男と呼ぶが、それでも、彼の周りには彼に出来ないことをやってくれる仲間がいる。
そして彼は、そんな仲間の不可能を一身に背負っていく。
階段を下りると、そこには酒井がいた。
と、トーリの目の前に表示枠が出た。
それは、ホライゾンの入学申請書だった。
「お前さんに送っておいた。必ず。ホライゾンを含めて全員で帰ってきなよ」
酒井は見る。
これから旅立つ。若き鳥達を。
「いいか。現場においては頑張るな。努力するな――――――ただ、今まで積み重ねてきた全力を出しなよ。それで駄目なら、生還しなよ」
「Jud.!!」
と、トンッ、と何かが乗る音が聞こえた。
全員が見ると、そこには、教皇総長の隣にいた少女がいた。
「また移動術!?」
「惜しいわね」
そういうと、少女は腰の剣を引き抜く。
「K.P.A.Italiaパドヴァ教導院所属。
葉月が一歩前に出る。
「極東。武蔵アリアダスト教導院。
お互いに名乗りを上げる。
「封印は、まだ解けていないようね」
「だから、何だ?」
「別に」
少女―――レベッカがそういうと、葉月も杖を構える。
「安心しなさい。ここではやらない」
「そうかい。安心したよ」
「ただ、警告よ。去りなさい」
「だ・が・こ・と・わ・る」
「……いいわ。なら最後に一つ」
そういうと、レベッカは踵を返した。
「潰すわ。貴方を」
レベッカは消えた。
「ククッ、最初ッからクライマックスになりそうだな」
「だな」
トーリは過去に皆の前で言ったことを思い出していた。
もう十年も昔のことだ。
最初は、そう。ホライゾンに夢を持たせたかった。
その夢が今、現実になろうとしている。
「じゃ、行こうか皆! ―――頼りにしてるぜ!」
「Jud.!!」
どうもKyoです。
うわー。無理やり詰め込みすぎたー……
とりあえず次回から一気に戦闘入ります。ゴメンなさい。
麻呂の「Te……いや。Jud.発音がこれでいいかね?」を入れたかった……無念也。
二代と喜美の相対は、んー。最初からあまり入れる予定がなかったので。
本来ならここでちょっとした小競り合いを葉月とレベッカに起こして欲しかった。
最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
それでは。