:名前のない彼らの思い
放送室ジャックの翌日、一校内はどこかピリピリとした活気に満ちていた。
昨日の事件を受け、生徒会長七草 真由美は立てこもった2科生徒との交渉の末、明日の放課後に彼らとの公開討論会で雌雄を決することとした。
それに伴い2科生内では自分たちの支援または討論会の視聴者としての出席を促す活動を行っている。勧誘に署名活動等を行いとにかく数をそろえることで会長に対抗としようというのだ。
昨日の話し合いで学校側で参加するのは七草会長一人だけであると事前に通達を受け、こちら側も直接討論に参加するのは数人と通達している。数をそろえる事により相手側にはプレッシャーを与え、自分たちの意志の強さを誇示する目的がある。
実際の話、一校の会長にして三巨頭の一人である彼女には並大抵のやからでは太刀打ちできない事だろう。魔法良し悪しだけにとどまらず、カリスマ性や手腕により会長の座に就き、その家系も日本魔法社会のトップ十士族が一つ七草家である。
こんな相手に一般の高校生、それも学内では補欠、劣等生などと呼ばれてる我々2科生が正攻法で戦い勝てるわけがないのだ
故に我らは万全を期さなければいけない。そのためのまず一つ、学園内でより多くの同士を募る事
数とはこの現代社会において確固とした力である。いや、現代に留まらず古の昔から数とは力である。一人の秀でた者に凡人が対抗するために用意る力こそが数である。
特に今回の場合1科生の興味はあまりないと言えるので、強大ではあるが七草会長は実質孤立無援といえる。そこに付け入る隙がある、むしろそこにしか隙なんてないんだろうが考えても仕方ない事だ。
凡人にできる事はただ愚直に最善を尽くすだけしかないのだから
「2科生の皆さん!我々は学内の差別撤廃を目指す勇士同盟です」
「今朝生徒会長から発表があったように明日は1科生と2科生の待遇について公開討論会が開かれます!」
「私たち2科生が今の待遇を改善するまたとない機会です。皆さんもぜひ討論会に来てください!」
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公開討論会当日
討論会が開始しもうすでに数十分の時間が過ぎている。2科生代表と七草会長らはその時間お互いに意見をぶつけ合いそつなく進行を進め、局面はすでに最終段階へと移っている
しかし、そんな雌雄を決する局面に突入する前から勝負の行方は目に見えていた。
2科生の代表たちは、それなりにやっていたと思う。部活や普段の生活環境、一科生の素行など限られた時間内で集められるだけの実情を上げたが、結果は惨敗
代表らに問題があったわけでもなく2~3年で構成された代表らはあくまで理性的に時に感情的に討論を進めていた。にもかかわらずこのようになったのはひとえに七草会長の手腕としか言いようがないだろう
どんな矛もその守りを崩す事かなわず、こちらの盾はいとも簡単に突き抜けねじ伏せる。そんな討論の果ては、七草会長の演説会といえるこの惨状
公開討論会は2科生の負けだ。これはどう言いつくろっても変わらない
でも、まだ私達が完全に負けたわけではない。
討論会が開かれることが決まったその当日の夜、私達は一さんに呼ばれそこである計画とこの指輪を受け取った。
計画内容は討論会当日の奇襲、3巨頭と風紀員が一堂に集まるこの討論会で一校の戦力の大半を集め、その隙に魔法大学経由のこの国の最先端魔法技術を入手する
私の役割は一さんの直々の部下という人たちと共に特別閲覧室までの案内を任されている。
もしこれが成功すれば魔法による差別の撤廃が‥‥…撤廃が‥‥どうするんだっけ?
あれ‥‥?差別の撤廃になんで最先端資料が必要なんだっけ?確か、一さんが必要だって言って・・・でも、なんでだっけ?
「壬生!そろそろ合図だ準備を」
薄茶色の作業負を着た太身の男性の声で我に返る。この人は一さんの部下のブランシュメンバーで、今回の計画で私と共に閲覧室までいき、ハッキングをかける人だ
私は今までの思考をいったん斬り捨て、気合を入れなおす。今はこんな事を考えるのではなく目の前の作戦に意識を集中しなければいけない。考えるのはまた、後にしよう
先ほどの考えがどうにも頭から離れず渦を巻いている。少しでも気を抜けばどうして?という疑問が脳内の占拠し正常な考えができない
一体どうしたのか、自分の事なのにまるで自分の事ではないようなおかしな感覚だ
「よし、作戦開始!B隊は体育館に向かい戦力の無力化又は足止め、C隊は侵入後戦闘を開始せよ!その間に我々A隊と学生組が図書館に突入する!」
今回の総指揮を任された男性が支持をだし、各自がそれぞれに振り分けられた役割に従い持ち場に向かう。
私も、3人のブランシュメンバーと共に閲覧室まで走り抜ける
考えても分からない、ならば今は自分のやるべきことをやるだけだ。
でも、どうしても頭の片隅から先ほどの問いが浮かび上がってくる
私は一体、何のためにこんなことをしているんだっけ‥‥‥…?