翌日
時刻はちょうど昼時で、多くの生徒が学食に向け移動を開始していた
移動してるさなか廊下で、よく知った声が後ろから聞こえる
「お!比企谷じゃなか」
「げっ…委員長」
渡辺 摩利風紀員の委員長であり、今現在俺が司波の次に苦手としてる人だ
そんな彼女が手を挙げ気さくな風に話しかけてきた。はたから見ると後輩に声をかける先輩というありふれた場面だが、俺の口角は引き攣る
「おい、人の顔見るなりげっとはなんだ?」
「あれっすよ。休みの日にたまたま上司とあった時に感じるげっであり、そんな他意はないですよ」
「むしろ他意以外ないと思うが‥‥相変わらず失礼な奴だな」
「うす…」
ため息をこぼし片目を閉じて俺を見やる渡辺先輩
その顔はもう何かを諦めたような仕方がないという顔だ
「まあいい。それより今から学食か?」
「はい。急がないと席なくなるんで失礼します」
軽く会釈をし、その場を足早に去ろうとするが、先輩に右肩を掴まれそれを阻まれる
「まあまて、そう急ぐな」
「何すか?本当に席なくなるんで失礼しますよ」
足に力を入れそのまま行こうとするが、いくら力を入れても俺の体は前進できず、肩に乗せられた手もほどくことができない。むしろ手に力が入れられ肩が凄く痛い!
本当にこの人の力は熊並みである。どうなっているのやら、それとも俺がただただ非力なだけか?どちらも否定できないから困る
「だからそうやって逃げようとするな!少しは話をしろ!」
「はぁ…何すか?金なら少ししか持ってないですよ」
「お前は私をなんだと思っているんだ?そしてなぜ、態度は横柄なのに言ってることは低姿勢なんだ?まあいい、せっかくだからお前も一緒に生徒会室で食べないか?」
「お断りします」
「即答か…理由を聞こうか?」
理由も何もむしろなぜ俺が生徒会室で食事をとる理由があるというのかはなはな疑問である
それに、今日の昼はエリカから話を聞く約束があるので本当にいけないのだが、それを言うとさらにその理由を聞かれそうだ。
壬生先輩の事とかはいずれは風紀員に報告しなくてはいけないが今はまだ話す時ではない
何よりそのことを話すとやたら勘のいい先輩や生徒会の面々にも話が広まり、余計に大事になりかねない
出来れば最小限の被害と労力でこの事を終結したい俺からするとそれは問題だ
あまつさえ、この事を俺の口から言うとこの件に対し後々に仕事を押し付けられそうで嫌だ
とにかく嫌だ。できれば働きたくないむしろ働きたくない
なのでここはどうにかごまかす必要があるのだ
「あれっすよ。俺って副会長に何かと嫌われているので、俺が行っても飯がまずくなるだけですよ。そんなの俺もごめんなのでせっかくのお誘いですが遠慮します」
どうだ、このあたりさわりのない回答は
行かない原因を服部に押し付けさらに誘えてもらったことに対する礼儀もとうし渡辺先輩の顔をつぶさないようにした見事な模範解答だろう
ちなみに服部と俺との関係は向こうからしたらそれほど悪くないが、俺の方はあいつの事が嫌いなので非常に仲が悪い
どれぐらい仲が悪いかというと、話は基本的に事務関係以外しないし廊下で会ってもお互い軽く会釈するだけでとうりすぎるくらいだ‥‥‥ただの、仕事上の付き合いだなこれ。そう考えるとたいして悪い感じでもないのか?
いやでも、相手側が決定的に空気を読めないのでやっぱり仲が悪いであってるのか
あの後も何度か目撃するが、生徒会の面々と司波がいる時のKY感が異常なんだよな。
会長が司波にちょっかいをかけ、司波がそれをあしらい、それが気に入らない服部が注意する(初日ほど強い口調ではない)、司波妹が不機嫌になるというのが何度かある流れだ
その度に司波は妹の機嫌を戻し、会長や先輩たちが服部を制止するという感じでやたら居心地が悪い空間が誕生する
風紀員の事務作業で渡辺先輩に同伴していた俺はその空気の中ずっと押し黙る羽目になり大変迷惑している
本当に少しは空気を読む技術を学んでほしいものだ。俺の中の魔法科高校空気読めないランキングで常に上位を独占しているんだぞ、あいつ。ちなみにほかには森とかがランクインしている
「それなら大丈夫だ。服部は今日用事があり生徒会室にいないし、今日は達也君もいるから男一人になる事もないし心配はいらんぞ」
服部以上に厄介な存在がいるのにどこをどうしたって心配しかないだろそれ?いや、まあ確かにあの面子で男一人は辛いが、それ以上に司波と一緒に食事というほうが色々辛い
ただでさえ昨日は見られたくない所を見られたんだ、多分先輩達に言ったりしないだろうけどなんとなく気まずいだろ
というよりその状況ってもしかして
「副会長、ついにはぶられましたか‥‥‥」
哀れ服部(笑)あまりの空気の読めなさにとうとう生徒会からはぶられてしまったのか…
自業自得過ぎて同情する余地がないが、とりあえず黙祷でも捧げとくか
「いやいや違うから!そういうのではなく本当に服部は用事があるだけだから!‥‥‥まったく、お前は本当に私達の事をなんだと思ってるんだ?今度じっくり話す必要があるぞ」
ふむどうやらハブではないようだ。とりあえず良かったな‥‥‥…ッチ
それと最後のほうなにやら不吉な言葉が聞こえてきたけど、先輩と2人でじっくり話すなんて俺の身が持たないから断固としてお断わりさせていただきたい
「それより、どうなんだ?お前の苦手な服部はいないし来ないのか?」
「ええ、何より今日はちょっと約束があるので」
仕方ないので全部は言わず、断片的な真実を話してどうにか逃げよう
こういえば、大抵の人は引くだろう
「お前に約束‥‥‥?」
おいこら、なんだそのありえない物を見るような目は?俺だってそれなりに人間関係を生成してるんだぞ‥‥友達はともかく知り合いなら結構いるんだからな、友達はともかく
「何か失礼な事考えてません?」
「そ、そんなことはないぞ!そうか…それなら仕方ないな。それじゃあまた今度誘うとするよ」
そのまま渡辺先輩は慈愛に満ちな眼差しで俺を見た後、生徒会の方へ歩いていく
なんだあの、出来の悪い息子の成長を垣間見たお母さんのような目は?
つーか、誰が出来の悪い息子だ。俺だってそれなりに出来はいいんだぞ!
勉強だってできる方だし運動神経だってそれなり、顔だって悪くないむしろなかなかのハイスペックである。ただちょっと、友達がいなくて目が濁っていると言われたりしているけどな
さて、少し時間がたってしまったし早く行くとするか
じゃないと呼び出したエリカに文句を言われること請け合いだからな
「遅い!」
学食に行くと案の定エリカは怒っていた。だけど、来る時に買ったジュースを献上することで何とかその場は怒りを収めてもらい話を聞くことができた
「剣道部の壬生先輩?」
「ああ、司波から聞いたが中学の頃と今じゃあ剣筋が違うんだろ?それってどういう事なんだ」
「そんな事も言ったけど、なんでそんなことを聞きたいのよ?もしかして気があるとか!」
なんかさっきより目を輝かせているが、小町にしても女子はなぜこういう話になると元気になるんだろうか?
「そんなんじゃない、仕事の一貫みたいなもんだ」
「ふーん」
そう答えると先ほどまでの元気はどこにやら、急に勢いが消え興味をなくしたように手元にあるジュースを飲みだした
「ま、いいわ。どっちにしても壬生先輩は達也君にお熱らしいしね」
「あん?なんだそれ」
「知らないの?昨日カフェで達也君が壬生先輩の事を言葉攻めにしたとかなんとか噂になっているのよ。なんでもそのカフェにたまたま居合わした生徒が見たんだって」
それは多分昨日の放課後の事だろう、確かに昨日の壬生先輩の様子は赤面しながらもじもじしたりとそれらしい感じだった。それに加え目の前にいるのが司波(イケメン)という事もあり、校内でも美少女と有名な壬生先輩の事だ、そういう噂の1つくらい流れるのも必然といえる。
ただもしこれを聞いたとき司波妹がどうするのか、いささか怖いな‥‥最悪巻き添えでなぜか俺に被害がこうむる可能性がある
それともう一つ、確かその場には俺もずっといて同じテーブルについていたのだが、なぜに俺の存在が抹消されているのか?別にそんな噂を流されたいとかいうわけではないが、ナチュラルに俺が見えていないという現状がどうしても解せぬ
まあ、いいや今はそれよりもだ
「それよりだ、どうなんだよ?俺には分からないがその剣筋とかっていうのが違うっていうのは」
「相変わらずこういう話に興味ないのね………ん~そうね、比企谷君て剣道と剣術の違いって分かる?」
少し考えてからエリカはそういったが
確かあれだろ、剣術は魔法なんかを併合したので剣道は魔法を使わないって感じだろ。これがどう関係しているのか分からないが、まあいい話を進めよう
「魔法を使うか使わないかって事か?」
「それもあってるけど、ちょっと違うわ。剣道っていうのは魅せる剣技っていう意味合いが強いわ、相手をいかにルールの中で倒すかそれを競うのが剣道」
「逆に剣術は極端な話がいかに相手を殺すかっていう競技なの。もちろん高校生の試合とかじゃそんな事起きないけど、魅せる剣と殺す剣、その本質まったく別にある」
「中学のころの彼女はまさに剣道を極めているって感じの綺麗な演武だったんだけど、勧誘の時にみた彼女の剣には強さを求めているような荒らしい印象を受けたわ。実力はもちろん今の方が強いわね」
「なるほど‥‥‥」
うん、なんとなくは分かるけどよう分からん。いやだって、剣道とか俺知らないしそんな専門家の意見みたいなこと言われても良く分からないのは仕方ないでしょ!
「もしかして、あんまり分かってない?」
ギクリッ
「そ、そんなことないぞ、参考になったよ…?」
「ふーん」
エリカのめはジトーと半目になり、俺の事を見る。ッグこいつ雫並みのジト目をするなんて!?
「そ、それともう一つ聞きたいんだが」
ジト目に耐え切れず、話をそらす。普段明るい奴のこういうのは結構効くんだよな…
「中学時代の壬生先輩の実力で、この高校の2,3年女子の中で対等かそれ以上の実力を持ってる奴っているか?」
「何よその質問は?そうね…それって剣道部だけで?」
「いや、剣道部でも剣術部でもそれに属してなくても剣さえやってればいい。誰かいるか」
さっきよりも真剣に考えてるようだが、なかなか該当者がいないようで結構長い時間考えている。
「そうね…剣道部も剣術部も女子じゃあそこまで有名な人はいないと思うわ、あとそれ以外って言っても公式戦に出てないんじゃね。私もそこまで詳しい訳じゃないし」
「そうか」
先輩の話だし仕方ないか、後は自力で探すしかないか
と、これからのめんどくさい調べものの事を考えて、肩を落とそうとしているときだ
「あ!」
エリカからなにやら、心当たりがあるようで、声が上がる
しかし、どうもばつの悪い顔だ
「誰かいるのか?」
「‥…ええ、剣術で女子の中でもトップで中学時代の壬生先輩より強いかもしれない人なら一人」
なんとも歯切れの悪い感じだが、正直今はそこまで気にしている余裕もないので、そのことにはあえて触れずに話を聞く
するとエリカの言ったその人物は、俺の良く知っている人物でなおかつ俺が苦手にしている人の名だった