話し合いはそのまま終了、というか壬生先輩が司波の尋問のような質問に答える事が出来なかったので、考えをまとめてまた後日、改めて話し合うという事で今回は解散された。
「で、お前はそんな恰好で何をしてるんだ?」
壬生先輩が足早にカフェを出て行ったあとに、今度は俺に矛先を向ける。
「なんの事やら、俺達はついさっき初めてあって――――」
「比企谷、風紀員の魔法の不正使用は厳罰だぞ?渡辺先輩に報告したらどうなるか」
「はい、すいません!これには事情があるんだって!だから先輩には言うな、いや、言わないでください!!」
丸いテーブルに頭を打ち付け、拝むように司波に嘆願する。
さぼりの件から俺の中では渡辺先輩はすっかりトラウマの対象になっている。だってあの人怒るとすげー怖いんだぜ?
一度本気で怒らせたら、一日中追いかけてきたし…あの人はまじでバーサーカー並みだから
ランスロットでもヘラクレスでも追いかけられた時の絶望感半端ないだろ?あんな感じなんだぞ!?
―――――――――――――――――――――
壬生先輩は答えが出せず、そのまま去っていく。
あんな無茶で計画とも言い難い計画を彼女は本気でやろうというのだろうか?
第一印象ではそこまで無謀な人とは思えなかったが……まあそれも、答えを聞かなければ判断の仕様もないか
さて、残る問題はこの目の前にいる、メガネをかけ髪を下ろしている比企谷だけか。
典型的な変装…それに、エンブレムの刺繍は光波振動系の目くらましの一種か
確かに見た目は完全に2科生だが知り合いが見ればすぐにばれるレベルだな
勧誘期間中もなにやら嗅ぎまわっていたようだが何をしてるのやら‥‥‥
こいつの挙動や魔法に関しては普通ではない物を感じる。魔法は勿論の事だが特に生徒会室でのやりとり、深雪と利害の一致があったとはいえ、ああも易々と深雪を利用することができるのは驚異的だ。
俺達の事情を考えれば深雪だって警戒心を持つのは当たり前、それを一日ほども立たずに性格、言動などを理解し意思疎通を図り誘導するその技術は明らかに素人の物ではない
むしろプロでさえ、そんなことができる者がいるのかさえ疑問だというのに‥‥‥
だが、こちら側の人間かといわれればそれはありえない。類似する人物のデータはない。そういう仕事や組織に携わる者は何かしらの痕跡を残す。無論素人には分からない物だがな
例外的に言えば俺のように軍関係で秘匿されてる場合か、四葉並みの情報統制ができる者が後ろにいる場合
少なくともこの国の軍関係の者ではないことは確認しているし、諸外国の諜報員という事もない。
家やその他関わりのありそうな者を調べてが、比企谷家は四葉どころかナンバーズにも及ばない上、家は取り壊し寸前だという
結果からすると比企谷を取り巻く周囲の状況は普通の一般人といえるが、卓越した人身掌握術、魔法術式の高性能さは専用の訓練を積んだプロ並みという不自然極まりない状態だ‥‥この際だ、少し探りをいれてみるか
「で、お前はそんな恰好で何をしてるんだ?」
「なんの事やら、俺達はついさっき初めてあって――――」
この男ここまで来てシラを切るつもりか?
額から流れる汗に焦点の合っていない目、明らかに動揺している。自分でもすでに、そんないい訳が通用するとは思っていないだろうに…そういえば、こいつは渡辺先輩に苦手意識を持っていたな
「比企谷、風紀員の魔法の不正使用は厳罰だぞ?渡辺先輩に報告したらどうなるか」
「はい、すいません!これには事情があるんだって!だから先輩には言うな、いや、言わないでください!!」
ゴンという音を鳴らし頭を打ちつけ、必死に弁解する姿からは覇気も脅威も感じない
しかし、それとは裏腹に森崎との一悶着の時や生徒会室での事、実力は未知数だが曲者である事には違いない
実態の見えない敵というのは厄介だ。いや、まだこいつが敵かどうかすら判断できないのだがな
「その事情とやらと、お前の名前が曳き 八になるのにどういう関係があるんだ」
しかし、捻りのない名前だな
「あー‥あれだ、説明すると長いしめんどくさいんだが…」
「それじゃあ仕方ないな、渡辺先輩に」
内ポケットから携帯を取りだし、操作するふりをする。
すると比企谷は案の定慌てて説明する
要点をまとめると、乱闘騒ぎの現場で司 甲の視線に気が付き、その後調べていたら勧誘期間中に俺が受けた数々の魔法攻撃の一部に司とその仲間が関わっておりそれはただの嫌がらせではなく何らかの目的があると判明
同じ部活の壬生先輩から普段の司 甲の様子を聞くために接触。変装は一科で風紀員の自分では警戒される恐れがあるため致し方なかったという事だ
一応筋は通っているが本来ならば信じられない
話の内容はこのさえ置いておくが、こいつの洞察力は一体なんだ?
視線を受け相手の敵意や含みがあるというのは俺も感じられるが、あの場には多くの生徒がいてその中には俺に対し敵意や興味といった視線を向けてくる者も多くいた。
話を聞く限りあの襲撃者は司で間違いない。俺が見たのと話に出てきたリストバンドは一致している。
さらに、その白い帯に赤と青のラインが入ったリストバンドは反魔法国際政治団体『ブランシュ』の下部組織『エガリテ』のシンボルマークに違いないだろう
校内にエガリテの工作員が潜んでいることも驚きだが、なによりその存在を知らない比企谷がピンポイントで工作員達を割り出しているといことにさらなる驚きがある
この話を素直に信じるなら、不特定多数の中から特定の視線を感じとり、その人物は実は工作員の主軸的存在だったのを前情報がない状態で偶然見つけたと言っている様な物だぞ
幾つか穴があるといっても、勧誘期間から今日までの短い間でよくそこまで調べられた物だ素行調査に至っては一日で全てを終わらせてるし…これで、本人が事の重要性を正しく理解していないとは‥‥もはや、何とも言えないな
「で、お前の方はどうなんだよ」
話を終えた比企谷は今度は俺に聞き返す。
「どうとは何がだ?」
「この話を聞いてどうって事だよ。」
正直な感想を言えば、お前の能力の高さに驚愕しているし、それを本人が無自覚というとこに頭を抱えたい心境だ
「この話の中心がお前なんだし、今まで何もしてこなかったわけじゃないんだろ?それに壬生先輩の話を聞いた限りじゃ、あの人もソッチの人だぜ。そんな人がお前を口説こうとしてんだから何かあるだろ」
確かにあのリストバンドを見た後に調べ、ブランシュやエガリテの存在は把握している。しかし、現状では比企谷の方が俺より彼らに対して詳しいようだったがな
だが、この話を聞き相手の事をより知ることができたがだからといい今どうこうできるというわけでもない
「あれを口説くといういい方にするのは無理があると思うが」
「無理も何も女が赤面しながら男を誘ってるんだからあってるだろ」
言ってることはあっているが、2つの事柄をまとめたうえでのこの言い回しに悪意を感じるな
「まあいい…話を戻すが、剣道部に入るつもりもないし、彼らの目的とやらにも興味はない。現状では静観するほかないだろ」
このままいけば厄介ごとになる可能性も大いにあるが、今の状態でできることはない。勧誘期間の俺に対する魔法の使用も証拠はあるようだが、せいぜい風紀員から数日停学にするレベルの処置がされ問題の解決には至らない
逆に悪い状況になる可能性の方が大きいためやらない方が利口だ。なにより
「壬生先輩が一味だとして、交渉を持ちかけてる間は以前のように攻撃される心配もないだろう。精々気負つけるようにするがな。お前はどうするんだ」
「あん?‥‥俺は成り行き上もう少し調べる今度は壬生先輩あたりを」
「そうか」
今、本当に脅威なのはブランシュより計り知れないこいつの能力だ。
まさかとは思うが、俺や深雪、四葉の事を勘ぐられる可能性もある。流石にそれはないと思うが、今日の話を聞く限り完全に否定ができない
何より優先させるのは俺と深雪の平穏な学園生活
それを脅かす者は容赦しないし決定的に敵対するのであれば容赦なく叩き潰せる…が
美月や比企谷のように無意識に秘密を知られる恐れがあるうえ、敵対の意思がないとは、何とも質が悪い……
なるべく俺達に意識を向かないようにするのが上策か‥‥
「そういえば、エリカが言っていたが、壬生先輩は中学の頃と剣筋がまるで違うらしい」
「どういうことだよ?」
「さあ?俺もそちら方面にはあまり詳しくない。知りたいのなら本人にでも聞いてくれ。まあ、それと今回の事がなにか関係してるかは知らないがな」