模擬戦をするのは、この学校にいくつかある魔法耐性が部屋一面に施されている特殊な部屋だ。ここは屋内演習場といい、主に実技魔法の練習や今みたいな模擬戦なんかに使われる。
といっても、普通の生徒ではなかなか許可が下りずまた、教職員などの監視があるか許可を取らないと使えないのだ。
今回は生徒会と風紀員長という絶対的な信頼を持つ生徒からの要請ということもあり、生徒だけでの使用許可が得られた。権力まじパネーっす…
そして今ここにいるのは、生徒会長含めた役員と委員長、帰ろうとしたところ必死で呼び止めた司波兄そんで俺と、目の前で鬼の形相をしている
「準備はいいか1年」
この副会長だ。
もうなんか準備万端という風に腕に付けたCADを触りながら仁王立ちしている
だが、このまま始まってはせっかくの計画がおじゃんだ…どうにか時間を稼がないと
「待ってください副会長、まだ司波妹が来てませんよ?」
「それがどうした、会長が見届け人としていてくださり、審判は渡辺先輩が務めてくださる。このまま初めても何ら問題はない。司波さんには悪いがこのような些事で多忙な先輩方を長々と突き合わせるわけにはいかない。それにどうせ、勝負は一瞬だ…結果だけを伝えれば問題はない!」
なげーよ…よくそんな長いの噛まずにいえるな‥‥‥要約するとあれだろ
いつでも準備OK
仕事が忙しい
お前はもう死んでいる
みたいな事だろ?3行で説明できることをどんだけ長ったらしく言ってんだよ
しかも、早口で全く時間稼ぎになってないし、本当駄目だなこいつ。マジ空気読めよ
「…この模擬戦は生徒会認可のもとあの場にいた全員が承諾したんすよ?それなのに一人だけはぶるとか、生徒会の格がしれますね」
「っ!いい加減にしろよ、先ほどからの無礼な言動、それに加え今度は生徒会を侮辱するつもりか!!」
やっべ…これマジギレだ‥‥言い過ぎたが?なんかもう今にも飛び掛かってきそうで怖いとにかく怖いんですが
「待て、服部副会長。開始を指示した覚えはないぞ」
「渡辺先輩‥‥」
ここで風紀員長の渡辺先輩が助け船を出してくれた。
凛とした、立ち姿で副会長と俺の間に入り止める姿はもうなんか男前すぎる
そういえば、光井が渡辺先輩はファンクラブがありそれはほかの魔法科高校にもあってとかなんとか言ってたな…それを聞いたときはそんな馬鹿なと内心思い適当に相槌を打っていたが
こんな姿を見せられれば納得がいくな…
「比企谷のいう事も一理ある。この模擬戦はあの場にいた全員が納得した上で成り立っている。公平を期すためにも司波を待つべきだ、本人もすぐに来ると言っていたわけだし」
その言葉に、反論を出せない服部は眉間に皺をよせ渋々承諾した
そして、演習場の扉が開かれ息を乱している司波妹がやってきた。
その手にはアタッシュケースが抱きしめられており、それを見た司波兄は驚いたように妹に事情を聴く
「深雪…いったい何をしていたんだ?それにそれは…」
片手を胸のところにやり大きく深呼吸を一回、息を整え兄に向い微笑みを向け司波妹は
「はい、勝手で申し訳ありませんがお兄様のCADを持ってこさせていただきました」
「なぜ、そんな事を‥‥?」
疑問を出す司波兄だがその額には一筋の汗が流れ、このあと妹が言うであろう事を薄々分かってはいるようだ。
その証拠にほんの一瞬だが俺の方を見ていた。それも確実に怒っている感じの目で
「もちろん、模擬戦で必要になると思いまして勝手に持ち出してしまい誠に申し訳ありません」
申し訳ないとか言いながら、その顔に反省の色はなくただただ純粋に眩しいくらいの笑顔がそこにあった。
これには兄の司波も言葉がでない。いや言葉を失うとか言う方が正しいか…?
妹のブラコンぶりがあれだが兄のほうも間違いなくシスコンであると言える。
違いはその兄妹愛がlikeに近いかloveに近いかだろう。
妹は確実にloveだろうが、兄はおそらくlikeだ。でもlikeはlikeでもベクトルが違うだけでその重さ大きさは妹に引きを取らないと言える。
ただこのlikeとloveが違えば、微笑ましいと狂気的にその光景は変わるので注意が必要だ
「司波さん?今なんと…」
司波妹の言葉に一番最初に口を開いたのは服部だった。兄の方は相変わらず、何を言ったらいいか分からないといった感じだ。
「服部副会長との模擬戦で必要になるだろうと思い、兄のCADを取ってきていました」
「な!?司波さん…これは私とそこの一年との模擬戦であり」
一瞬驚いた後、すぐさま生徒会室の時のように諭すような口ぶりで何かを言いそうになるがその言葉は全部言い終える前に妨げる
「俺は模擬戦なんてしませんよ。」
ちなみに、言葉を遮る理由はまたなんか長い話をしそうだったんで、なんとなく遮った。別に悪意しかないのである…おっと、間違えた悪意はないのであるだ、ついつい本音が出てしまった
「なにを言っている!この模擬戦はお前から言い始めたことだろうが!」
「模擬戦云々は俺が言いましたが、何も俺が出るとは言ってませんし。むしろ俺は出られません」
困惑気味に怒っている服部を尻目に俺は淡々と言い放つ。
しかし、流石に訳が分からないと周囲の人たちも困惑しているようだ。そして、渡辺先輩が代表として真意を確かめる
「どういう事だ、比企谷?」
両手を胸の高さまで上げ手のひらを上に向けると、ヤレヤレといった動作を取り
できるだけ意識したうえで悪い顔を作り
口元をニヤつかせながら言う
「どうもこうも俺は初めから言ったじゃないですか、副会長は実力があるんですか?模擬戦で実力を証明してください。‥‥二科生より一科生の方が強いと、ってね」
最後の言葉を理解したのか、その場にいる全員がハッとした顔になる
そう、俺は初めから言っていたのは何も俺と服部が戦って実力を確かめるという事ではない。俺が言ったのは一科生と二科生で強いのはどっちだという事なのだ。
一科生VS二科生これがこの模擬戦の構図だ。
一科生は無論服部なのだが、同じ一科生である俺はこの模擬戦に参加資格が端からない
では、誰が出るのか?
あの場にいたものは俺と司波妹さらに生徒会メンバー全員一科生だ、二科生であの場にいたのはただ一人
「つまり服部副会長の相手はこの司波 達也がするっていう事です」
全員の視線が司波兄に降りかかり、本人は頭を抱えながら片目で俺を睨む
だがその目には先ほどまでの覇気がなく、むしろ恨みがましいという感じの目をしている
っふ。いくら睨もうが無駄だ、初めに俺を巻き込んだのはお前なんだしこれはその仕返しだ
厄介ごとを押し付けようとしたこいつ(達也)に対し、罪悪感なんてものはないのだ。
押し付けられた厄介ごとをさらに厄介ごとを増して押し付ける。これぞ本当の倍返しだ!!である
「そんなふざけた事認められるわけがない!!」
相も変わらず副会長はお怒りで、まあ俺が怒らしてるんだがな。
俺がやったのは端から見ればふざけた言葉遊びなのだろうが、れっきとした討論技術だ。まず相手を挑発し冷静な判断をできなくし、その上でわざと相手が誤解するように言葉巧みに誘導する。
そして、本人がはめられていることに気付けないからその周りにいる人もそのまま誤解するという寸法だ。
これは相手が信頼されていればしてるほど、周りの人間も騙されやすい。その分服部はやりやすかったな。
これが仮に司波兄相手だったら、また違っていただろう。そもそもあいつが本気で怒ったら有無も言わさず消されそうだな…流石にそんなことはないか‥‥ないよね?
とにかく、今更いくら言っても遅いのだ。はめられた奴が何を言おうとまさに、負け犬の遠吠え、後の祭り、最後のあがきだ
「副会長さっきも言ったじゃなないっすか。この模擬戦はあの場にいた全員が納得した上だと…それを今更曲げるのは生徒会の威信に関わります。それに何をそんなに焦ってるんですか、副会長は相手が俺でも司波でもただ単に勝てばいいんですから変わらないでしょう」
それとも勝てないんですか、と駄目押し紛いに語りかける。さっきの渡辺先輩との会話にあったように俺の言ったことは捻くれているが、何も間違えではない。
それに騙されたのは自分なのだから何も言えまい。
「もちろん、司波が負ければ土下座でもなんでもして身の程を弁えない発言の数々償いますよ」
これぞ本当の駄目押しだ。ここまで言われれば服部の答えは一つしかない
「…分かった、いいだろう」
同意した服部を見て、次に司波兄を見やる。俺の考えではこいつの説得が一番骨が折れると思うんだよな…さっきも言ったがこいつは一筋縄ではいかないし、俺のペースに持っていくなんて至難の業だ
生徒会室でも奇跡的に追いつめることはできたが、それは俺の手の内を知らなかった初見だからこそできた事で、今まで散々俺の手の内をさらしてしまったんだ次もうまくいくわけがない
そんな事を考えていた俺だが、以外にも司波兄は素直に模擬戦に出るそうだ。本人も別にやる気があるわけではないがどうやら妹に色々言われたらしい。
色々というのは別に「さっさと行って蹴散らしてきなさい!」みたいなのではなく、「お兄様頑張って」といった内容の事だそうだ、
分かるぞ司波、妹の期待を受ければそれに応えてしまいたくなるそれが、兄という生物の生態なのだからな
それに後日聞いた話だが、司波本人も妹の目が曇っているなんだの言われて不愉快に思っていたそうだ
そんな訳で服部なんちゃら副会長と司波 達也の模擬戦が始まった
俺はとりあえず、ほかの面々と同じで観客に周り、司波の事を応援していた
「妹のためにも頑張れー」
普通聞こえないだろ、というレベルの小声にギロリと司波の目が光る
あいつマジ怖いんだけど‥‥