美波「……いい加減機嫌直しなさいよ、ウチもからかいすぎたと思ってるから」
和真「やかましいわボケ、全然悪びれてねぇのが見え見えなんだよ。……つーかよ、余裕でいられんのも果たしていつまで持つかねぇ?これからお前には『明久と和解する』っつう最難関ミッションが待ってるんだからな」
美波「アンタ言ってたじゃない、ウチが素直になれば全部元通りだって。ついさっきあんな珍しいもの見ちゃったウチに恐れるものは何もないわ」
和真「こいつの今日一日の記憶を跡形もなく抹消してやりてぇ……そうだ、簀巻きにして清水の前に放り出してやろうかな」
美波「悪かったから!本当に悪かったと思ってるからそれだけはやめて!?」
和真と美波はFクラス教室に向かっていた。放課後になったのでDクラスとの試召戦争は終結したので、明久も鬼の補習から解放されて教室に戻っているだろう。
美波「そういやアンタこれからどうするの?また……えーと、『アクティブ』だっけ?の活動でもするの?」
和真「いや、ちょっと用事ができたから今日は休みにしておいた」
美波「ふぅん、用事ねぇ?何々、優子に告白でもしちゃうわけ?」
和真「あぁそうだが、だったらどうだっつうんだよ?」
美波「ごめんごめん、冗談に決まって…………え?」
ちょっとした意地悪のつもりで聞いたつもりが、まさかの即肯定に美波は目を点にしてしばらくフリーズする。しばらくして脳が情報を処理し終えると、美波は困惑した表情で和真に詰め寄る。
美波「いやいやいやいや待って待って!?もう告白!?決断早過ぎない!?さっきまであんなに動揺してたのにもう耐性がついたの!?」
和真「大声で捲し立てんじゃねぇよ……だいたい耐性に関してはお前が原因だっつの」
今さら言うまでもないが和真は割とプライドが高く、それでいて比肩する相手が蒼介しかいないほどの、度を越した負けず嫌いだ。いつまでも良いように弄られるのはとても腹が立つので、全細胞、全神経がすぐさま羞恥に対する免疫を作り出したのだ。
美波「いや、でも……そんなすぐに告白しちゃって良いの?」
和真「あいつのこと大好きだってわかったんだ、しない選択肢なんざ無ぇよ。俺は自分に正直に生き、言いたいことは言っちゃうし、やりたいことはやっちゃう人間なんだよ。ツンデレのお前とは違ってな」
美波「誰がツンデレよ!?…………でもアンタが羨ましいわ、ウチはなかなか勇気が出せないってのに。アンタ、振られたらどうしようとか思わないの?」
美波が明久への好意を自覚しているにもかかわらずまるで進展しないのは、姫路の存在やついつい照れ隠しに逃げてしまうことももちろんあるのだが、一番の理由は振られることを恐れているからだ。なのにこの男はそんなこと何でもないかのように告白を決断したのだ。思わず嫉妬してしまうほど美波にとって羨ましいことだ。そんな美波の心情とは裏腹に和真は何でもないように告げる。
和真「そもそも前提からして違うな、振られることを恐れてないんじゃねぇ、振られるとは微塵も思ってねぇんだよ」
美波「そ……それはちょっと自信あり過ぎない?優子に好かれてる確信でもあるの?」
和真「ある」
美波「え!?」
和真「何度も言ってるだろ?観察は得意だって。というか、さっきアホみたいに悶えまくった理由の半分くらいは自分の気持ちを自覚したのと同時に、今まで謎だったあいつが俺に向けている感情についてわかっちまったからで…………」
顔を赤面させ思わず目線を明後日の方向に向ける和真。どうやら完璧に克服できたわけではなさそうだ。美波はまたからかいたい衝動に駆られるものの、簀巻きにされては敵わないので断腸の思いで我慢することにした。この男はやると言ったら本当にやる男だ。
そんなこんなで気がつけば教室に着いていた。
美波「着いたわね。……どうしよう、今更緊張してきた」
和真「ホントお前は俺の予想通りの反応をするよな…………あん?」
『~~~っ!!』
ドアの前で美波が躊躇していると、中から明久らしき騒ぎ声が聞こえてくる。和真は人差し指を口元に当てて美波に静かにするよう指示し、バレないようにドアをそっと開ける。
『何を言ってるんですかっ!いつもお姉さまに悪口ばかり言って、女の子として大切に扱おうともしないで!』
『うん。それは清水さんの言う通りかもしれない』
『だったら、お姉さまの魅力の何を知っていると言うんです!』
『確かにお姫様みたいに扱っているわけじゃない。男友達に接するみたいに雑な態度になっているかもしれない。けどね……』
清水「この声……アキと美春?」
和真「おそらくムッツリーニが昨日の会談の最後に清水と話し合ってたのを盗聴してたんだろ」
教室内で明久が暴れるのを秀吉が押さえ込んでいる。どうやら明久にとってよほど聞かれたくないことなのだろうが、好奇心旺盛な二人は盗み聞きを続行する。
『けど、なんですか?』
『……けど、僕にとっては美波は、ありのままの自分で会話できて、一緒に遊んでいると楽しくて、たまに見せるちょっとした仕草が可愛い、
とても魅力的な女の子だよ』
隣にいた美波が先ほどの和真に負けず劣らず顔を真っ赤にして、脱兎のごとくすさまじいスピードで逃走するを見届けた和真は思わず肩を竦める。
和真(やれやれ、当初の予定とは違ったが……これでもう丸く収まっただろ)
ムッツリーニ「……和真、今島田がいなかったか?」
気配を察知したムッツリーニが、ややばつが悪そうな表情で教室から出てきた。
和真「さぁてな、聞かれて困るもんでもねぇしどうでもいいだろ」
ムッツリーニ「……それもそうだな」
その後、ムッツリーニとともに教室に入った和真に羞恥で自暴自棄になった明久が襲いかかるも、結果はまあ……お察しである。
明久への私刑を終えたのち、和真は校門で待たせている優子のもとに急ぐ。校門にたどり着き、優子の姿を確認すると嫌でも意識させられたものの、高いプライドと秀吉に太鼓判を押された演技力を駆使して表に出さないで声をかける。
和真「よう優子、待ったか?」
優子「あ、和真。……?……!……待ったわよ、わざわざメールで場所を指定しておいて、それで遅れてくるってどうなのよ……」
優子は一瞬何か不可解な表情をしたのち、すぐに何かに納得した表情に変わり、そして呆れたように和真を詰る。
和真「あー……スマン、襲ってくる明久(バカ)を入念にいたぶってて」
優子「つまり早めに切り上げてれば遅れなかったわけね……それで和真、どうして今日アクティブの活動を行わなかったのよ?」
和真「そりゃあ試召戦争で疲れて-」
優子「つくならもう少しまともな嘘を選びなさい。アンタはテスト勉強関連でたまった鬱憤は、思いっきり体を動かして晴らすタイプでしょうに」
和真「……やれやれ。わかっちゃあいたが、今の俺じゃどうしようもねぇな」
平常時でも優子に隠し事をするのは至難の技なのに、表面上は取り繕っていても心の中ではがっつり動揺してる今の和真では腹の探り合いで優子にかなうはずもなかった。
和真「優子、お前に言いたいことがあるんだ」
優子「うん」
静かに傾聴する優子の目を真っ正面から見つめ、覚悟を決めて和真は想いを打ち明ける。
和真「あなたを心から愛しています。
もしよければ、これから先もずっと俺の側にいてください、優子」
優子「その言葉をずっと待っていたわ。不束者ですが、こちらこそよろしくお願いします、和真」
やや顔を赤らめながら手を差し出した和真に対して、優子は心の底から嬉しいと言わんばかりの満面の笑みで手を取り、告白を受け入れた。
手をつないで下校中、和真は先ほどどうしても納得のいかないことがあったので優子に訊ねる。
和真「……なあ優子、一世一代の告白をしといてなんだが……いくらなんでもあっさり受け入れ過ぎというか、もう少し慌ててくれてもいいんじゃねぇか?」
優子「薄々予想できたからよ。アンタ、隠せてたつもりか知らないけど、来たときからすごく動揺してたでしょ?」
和真「……オイマテ。ってことは何か?お前、俺がどうやって切り出そうか内心ですごく葛藤してたこととかその他色々、全部筒抜けだったと?」
優子「アタシを誰だと思ってるのよ?自他共に認める演劇バカの姉よ?ふふ、恥ずかしがりながらもアタシに想いを伝えようと頑張っていた和真、とっても可愛かったよ♪」
和真「男に可愛いとか言うんじゃねぇよ畜生!?
もう嫌、泣きそう……」
優子「(キュン)……よしよし。ごめんなさい、からかい過ぎたわ」
身につけた耐性を嘲笑うかのような特大の羞恥に襲われ、やや涙目になり思わず顔を覆ってしまう和真を見て、潜在的な母性が爆発したのか、優子は慈しむような笑顔を浮かべながら和真を抱き抱えて頭を優しく撫でる。あやされてるようで余計恥ずかしくなるものの、正直満更でもなかったため和真はしばらくされるがままになる。
しばらくして持ち直すと、和真はやや名残惜しそうにしつつも優子から離れ、下校を続ける。
和真「そ、そろそろ家の方向違うな。また明日-」
優子「待って和真。アタシからも一つ聞きたいんだけど、こうして恋人同士になったわけだけど、以前とどう変わるの?」
和真「……」
何気ない優子の問いに、和真はしばらく右手を顎に当てて熟考し、しばらくしてから結論が出る。
和真「いや、特に変化は無いな」
優子「でしょうね……そもそもアンタ今までも誰かと付き合ったからといって、生活パターンの変化まるで無かったもんね……」
和真は優子を愛しているのと同じくらい、スポーツもこよなく愛している。そして優子も和真の影響で文武両道に目覚めているため、今後も二人の関係はデートスポットのチョイスに登山だのストバスだのといった、過剰なほど健全な付き合いをしていくのだろうと容易に想像がつく。
優子としてもAクラス代表代理として不純異性交遊に現を抜かすのはどうかと思っているのでそのことに対して特に不満は無かったが、同時に一つぐらい恋人らしいことをしたいと思ったからといって、いったい誰が咎められようか。
そこまで考えてから優子は、告白は向こうがしてきてくれたんだし、今度はこちらが勇気を出す番だと考え、和真に気づかれないように顔を近づける。優子は和真を害するつもりは微塵もないので、お馴染みの天性の直感は今回クソの役にも立たないのが幸いし、楽々と接近に成功する。
優子「ねえ、和真」
和真「なんだゆう……!?!?!?」
気がつけば優子の唇が和真の唇に重ねられていた。
鼻腔に入り込んだシャンプーのいい匂いと柔らかく温かい唇の感触を脳が理解すると同時に、和真は弾かれたように優子から距離を取った。
和真「お、おおおおおおおおおお前!?いき、いきなり何してんだよっ!?」
優子「恋人同士なんだしキスくらい良いじゃない♪というか和真、アンタあれだけの数の女子と付き合ってたのにウブにもほどがあるんじゃない?」
和真「ふざけんじゃねぇよ!?そう易々と誰かに唇を許すほど俺の貞操観念は緩くねぇんだよ!」
優子「そういえばそうよね……アンタ軽薄そうでいて、実はそっち方向にはガッチガチの堅物だもんね……代表と飛鳥の影響かしら?」
名家出身の蒼介と飛鳥の二人は時代錯誤と言っても過言でないほど堅物といえる。具体例を上げれば婚姻を結んでいない異性とは、同じ部屋で寝ることすらタブーと考えている。たとえやましいことを考えていなくてもだ。
和真はそんな二人と幼馴染みなのだ、おそらく二人の影響を受けて貞操観念がしっかりしたのだろう。
そこまで考えて、優子はあることに気づく。
優子「あれ?ってことはさっきの……アンタのファーストキス?」
和真「……………………(コクリ)」
何度目になるのかわからないがまた顔を赤面させて頷く和真に、優子は何と声をかけていいのか戸惑う。
優子「えーっと…………………………ごちそうさま?」
和真「もう無理ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
羞恥心がキャパシティを天元突破したのか顔色が茹で蛸のように真っ赤に染まり、とうとう耐えきれなくなり世界を狙えるのではないかと思うほどのスピードで逃走する和真。
この日……柊和真は木下優子に、ありとあらゆる面で敗北を喫したと言えるだろう。
そう、例えば……我慢比べや演技すらも。
優子「…………ふうっ……危ないところだったわ」
【島田家】
ガチャッ
「あ!お姉ちゃん、お帰りなさいですっ!」
「た、ただいま……」
「?お姉ちゃん?どうかしたですか?お顔が真っ赤ですよ?」
「葉月、どうしよう」
「???何がですか?学校で何かあったですか?」
「あのね、葉月……」
「はいです」
【木下家】
ガチャ
「ただいま帰ったぞい」
「~~~っっっ!!!」
「ん?姉上、なんで顔を真っ赤にしながらソファーに顔を押し付けてるのじゃ?」
「……秀吉……どうしよう……」
「???いったい何があったのじゃ?」
「あのね、秀吉」
「んむ?」
「「お姉ちゃん……もう、どうしようもないぐらい、人を好きになっちゃったかも……」」
蒼介「さあ、今回で第四巻は終了だ」
飛鳥「試召戦争はほとんどカットして、潔いぐらい恋愛一色だったわね」
徹「さて、今回は主人公である和真が見事!優子と結ばれたことを記念して、」
源太「俺様達『アクティブ』に所属しているメンバーが大集合だぜ、イェーイ!」
和真「……お前らアレだろ、わかってんだよ。記念とか何とか言ってるけどよ、それにかこつけて俺を弄り倒そうって魂胆なんだろ?」
源太「よくわかってんじゃねぇか。なあ?可愛い可愛い和真君♪」
和真「走れ稲妻!(ズガァァァァァン!)」
源太「ごっふぁあああっ!?」
飛鳥「雉も鳴かずば何とやら……」
蒼介「10mくらいは飛んだな」
徹「まあ、ここで弄るのはやめておこうか」
和真「む。えらく素直じゃねぇか?」
徹「どうせしばらく本編でも弄られ続けるだろうし」
和真「……ハァ……世界滅べ」
蒼介「お前はテロリストか」
和真「優子に手玉にとられるならまだしも、第三者につっつかれると死ぬほど腹立つんだよ!」
飛鳥「優子になら良いのね……」
蒼介「ここだけの話、カズマの裏設定の一つに『意外と甘えたがり』というものがあってだな」
和真「ちょっと待てソウスケ!?なんだよそれ、初耳だぞオイ!?」
蒼介「和真は作中でも述べられた通り父親とは隙あらば喧嘩する仲だ、甘えるという選択肢など始めから無い」
和真「当たり前だ」
蒼介「そして、母親はというと……カズマの母親は日頃父親の起こした騒動の尻拭いを嫌な顔一つしないでして回っているという非常に人間の出来た人でな、カズマはそんな母を尊敬していると同時に、これ以上負担をかけてはいけないと幼少の早い内から遠慮を覚えたようだ。結果、両親に甘えたことが今までほとんどなかったらしい」
和真「あー、うん。まあ、そうだな……」
蒼介「だから和真は深層意識で人に甘えたいと思っていた。だから普段から側にいてくれて、自分の身体を心配してくれたり、色々と甲斐甲斐しく世話をしてくれる木下に心底惚れ込んだというわけだ」
和真「冷静に分析されると余計恥ずいからやめてくんない!?幼馴染みからの心からのお願い!」
徹「本編では他人に甘ったれだの何だの言っておいて、蓋を開けたら自分が一番甘えたがっていたと……ぷっ」
和真「轟け雷鳴!(ズガァァァァァン!)」
徹「がはぁあああっ!?」
飛鳥「後書きだからってポンポン必殺技打つのやめなさいよ……」
和真「仕方ないだろ?これは衛生上の問題だ。アイツらは臭い、生かしてはおけない」
飛鳥「どこの世紀末よ……」
蒼介「メンバーも大分減ったようだしそろそろお開きにしようか。差し支えなければ、これからも読んでくれると嬉しい」
和真「じゃあな~」
飛鳥「ばいばい!」