バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【バカテスト】

以下の英文の( )に単語を入れて正しい文章を作り、訳しなさい
『She ( ) a bus』

姫路の答え
『She(took)a bus
訳:彼女はバスに乗りました』

和真の答え
『She(got)a bus
訳:彼女はバスに乗りました』

蒼介「どちらも正解だ。二人には簡単過ぎたようだな」


明久の答え
『She(is)a bus』

蒼介「この英文は何と訳すのだ?一見文章として正しく見えそうだが明らかに間違いだ。日本語として訳せないような文章を書くようではまだまだだな、吉井」


土屋康太の答え
『訳:彼女はブスです』

蒼介「……そうきたか」





自覚

和真がDクラスの面々と激闘を繰り広げている間に雄二の目論見通りに進んだようだ。

雄二は点数補充を終えた生徒を引き連れ、和真の突破力で混線状態のFクラス教室待機前を抜けて空き教室に突入して、清水の目の前で明久を粛清と言う名の生け贄にしつつ休戦を持ちかけた。清水にも色々思うところがあったのか、明久を放課後まで補習室に軟禁することを条件に全て水に流し休戦を受け入れた。

現在両クラスともほぼ全ての生徒が放課後になるまでそれぞれの教室で時間を潰している中、和真はとある目的のため屋上へ向かっている。

階段を上りきり扉を開けて屋上に出ると、一人の女子生徒が落ち込んだ表情で佇み、遠くの空を眺めていた。その女子は今回の騒動の発端でもある美波。

 

和真「よお、感傷に浸ってるとこ失礼するぜ。ほい、これ差し入れの飲み物」

美波「……柊、何でよりによっておしるこなわけ?」

 

和真は美波の隣に立ち、途中自販機で購入しておいたお汁粉を差し出す。もうすぐ真夏になるのに冷たいとは言え未だにお汁粉を常備している自販機も謎であるが、それをわざわざ差し入れにチョイスする和真の底意地の悪さに美波は思わずジト目になる。

 

和真「冗談だ。はいレモンティー」

美波「最初からそれ出しなさいよ……」

 

期待通りのリアクションを得られたのか、和真は満足した表情で美波に本命の差し入れを渡す。

冗談一つのためだけにジュース一本分の小銭を浪費した和真の悪戯根性に美波は呆れたように嘆息する。

 

美波「どうしてここがわかったのよ……?」

和真「知っての通り観察は得意なんだよ。お前は感情的に任せてやったことを後悔しているとき、誰もいない場所で一人落ち込むタイプだからな」

美波「一人になりたいって理解してるのに来ちゃう辺りがアンタらしいわね……」

和真「メンタルケアは俺の役目だしな。で、何をそんなに落ち込んでんだよ?」

美波「…………アンタを見ていると、自分が救いようのないバカだって痛感させられるからよ」

 

そう言って美波は顔を伏せる。何を悩んでるのかなんとなく理解はしたが、こういうときは溜め込んでるものを吐き出させた方が良いため和真はそういう方向に持っていくことにする。

 

和真「何でそこで俺が出て来るんだよ?」

美波「アンタ、普段マイペースで身勝手に振る舞ってるのに、翔子が倒れたとき本当は飛んで行きたいのにそれを押し殺してまでアキ達を説得してたでしょ?それに今回の試召戦争でも普段と違って坂本の気に食わない指示に、嫌々でも従ってたでしょ?」

和真「話が見えねぇな、それがどうしたよ?」

美波「アンタは自分を二の次にしてまでクラスのために行動していたのに、ウチは意地になって……ワガママばっかり言って……」

 

伏せているため見えないが多分涙目になっているだろうと推測するも、当然和真は空気を読んでそのことには触れなかった。

 

美波「下手したら瑞希が転校してしまうのに……心の底ではいつもアキに大事にされている瑞希に嫉妬して……それで余計意地になって……心底自分の全てが嫌になるわ!……こんなんじゃアキが振り向いてくれるはずないって、わかってるのにね」

 

感情が高ぶり、途中で堪えきれずに泣き出してしてしまう美波。最後の方には、泣きながら自嘲めいた笑みを浮かべていた。それは満面の笑みとはほど遠い、触れれば壊れてしまいそうな痛ましい笑顔であった。

 

和真「……その様子だと、明久を嫌いになったわけじゃないみてぇだな。じゃあさっさと仲直りして来いよ」

美波「できるならしたいに決まってるでしょ!……でも、もう無理よ……アキに一方的に怒りぶつけて、自分勝手にヘソを曲げて……親友が困ってるのに何の力にもなれなくて……いくらアキでも、もうウチのこと見限ってるわよ……もう何もかも遅いのよ……」

 

そしてとうとう堪えきれず泣き崩れる美波。和真は下手にフォローをいれず、気のすむまで涙を流させた後、ようやく落ち着いた頃に本題に入る。

 

和真「……おい島田、お前に言っておかなきゃならねぇことが、二つほどある」

美波「……グスッ……何よ急に?」

和真「まず一つ目、お前はいつも明久に優しく気を遣われてる姫路が羨ましいんだろうが……姫路はむしろ、お前を羨ましいと思ってるんだぜ?」

美波「どういう……ことよ?」

和真「姫路が『オーバークロック』を発現させたことはもう知ってるよな?」

美波「知ってるけど……それがどうしたのよ?」

和真「誰かに守られてるだけの現状に甘んじてるような奴には、オーバークロックは扱えねぇんだよ」

 

腕輪能力の発展系『オーバークロック』の発現には、二つの条件が必要になる。

一つは召喚獣が戦死すること。これは故意にやっても意味は無く、死力を尽くした末に敗北しなければならない。だから未だ無敗の今の蒼介にはオーバークロックは扱えない。

 

そしてもう一つ必要になるのは……強くなりたいという、心の底の底の底の底の底からの切実な思いである。

 

和真「以前Aクラス戦で姫路が言ってたろ?Fクラスの皆が好きだから頑張れるってよ。まあおそらくその大部分は明久に向いているだろうがな。その後アイツは合宿での騒動で久保に敗北し大きな挫折を味わった。そして自立型召喚獣事件でさらに苦境に立たされたとき、明久の隣に立てるくらい……いや、明久を守れるくらい強くなりたいと心の底から思ったから、あいつはオーバークロックに目覚めたんだよ」

美波「瑞希が、そんなことを思ってたなんて……」

和真「そもそもだな、明久のお前への対応は確かにガサツに思うかもしれんが、言い換えればそれだけ姫路よりも距離が近いってことだしな」

美波「そう……だったんだ……」

和真「そしてもう一つ」

 

自分の嫉妬がてんで的外れなものであったと理解し呆然とする美波に、和真はすかさずあることを問いただす。

 

和真「お前と明久が仲良くなったのは、いったい何がきっかけなんだ?」

美波「えっ?それは……その……」

 

やや恥ずかしそうに美波は語りだした。まだ美波が日本語に不慣れで周りにも馴染めなかった頃に、わざわざ図書室で外国語を調べてまで友達になろうと言ってくれたのだと。

 

それはドイツ語ではなくフランス語だったため一時は勘違いですごい険悪になったけど、全てに気がついたときは自分の全てが救われたような気がしたと。

 

不器用で要領が悪くても明久が自分のために一生懸命になってくれたことが……とても嬉しかったのだと。

 

全てを聞き届けた和真はいつもとは違って優しい笑みを浮かべながら美波を諭すように言う。

 

和真「それをふまえて断言してやる。明久は……お前を見限ってなんかいねぇ……遅すぎるなんてことは断じてねぇんだよ」

美波「……え?」

和真「大して仲も良くない相手にそれだけのことができる奴が、どうしてそんな簡単に人を見限れる?それほどまでに優しい奴が、どうして勇気を振り絞って謝る女子を無下にできるって言うんだよ?」

美波「あ……」

 

心を縛り覆っていたものが全て溶けていくのを美波は感じた。自分はなんてバカなんだろう。どうしようもなくくだらないことをいつまでも悩んでいた。自分が好きになった相手は、バカで、不器用で、それでいて誰よりも優しい男のだというのに。

 

和真「お前が意地を張っていたことを後悔してるなら、やり直すのは遅いどころか今が丁度良いんだぜ。素直に謝りさえすりゃあ仲直りなんざ容易だろうし……そもそもあいつ、はお前が悪いすら微塵も思ってないだろうさ」

美波「……ありがとう、柊。 

うん、そうよ、そうよね……つまらないことでくよくよするのはもうおしまい。

 

……ウチはウチらしく、格好よく前を向いていかなくちゃね!」

 

そう言って笑う美波の顔は先程のような弱々しいものではなく、憑き物が落ちたようにいつもの快活さも取り戻していた。

 

和真「これにてメンタルケア終了。何だったらこのまま勢いに乗じて告白まで……は無理だろうな」

美波「……なによその露骨にバカにしたような顔は」

和真「いやだってお前ヘタレじゃん。それもただのヘタレじゃなく、ヘタレの中のヘタレ……ヘタレの王者、キングオブヘタレじゃん」

美波「ヘタレヘタレうるさいわよ!ゲシュタルト崩壊するじゃない!?……だいたい、そういうアンタはどうなのよ!?」

和真「あん?俺が何だって言うんだよ?」

美波「アンタ優子が好きなんでしょ?なのに未だ友達関係のままズルズル引きずって……アンタも人のこと言えないじゃない!」

和真「………………」

 

拗ねたように言い放って美波は和真からプイッと顔を背ける。意地悪された意趣返しに、和真がどんな反論をしてきてもしばらく無視してやろうと美波は企んでいたが、いつまで立っても和真は話しかけてこない。流石に不審に思って和真に顔を向けてみると、口を閉ざしたまま右手を顎に当てて何やら思案顔で考えているではないか。

 

美波「ど……どうしたのよ?」

和真「そういやその内女子の誰かにでも聞こうと思ってたんだが……なあ島田、

 

 

 

 

 

 

 

恋愛って何だ?」

美波「…………は?」

 

予想だにしない和真の疑問に目が点になる美波。

何ヲ言ッテルンダコイツハ?ついさっきも、まさに恋愛のもつれから生じたわだかまりの解決法を教えてくれたではないか。

 

和真「いや、優子のこと好きか嫌いかで言えば断然好きだし、大切な存在であるか聞かれても否定はしねぇしできねぇ。……だがお前らが明久に、翔子が雄二に向けている好意と同じかどうか聞かれたら……正直答えられない。とぼけてるわけでも隠してぇわけでもなく、判別できねぇからわからないと答えるしかねぇ。丁度良い島田、恋愛とはどのようなものであるか、わかりやすく俺に教えてくれ」

 

和真の真剣な表情から本気で恋愛が何なのか理解していないことがわかると、美波は思わず頭を抱えた。

普段から子どもっぽいだの思春期すら来てないだの揶揄されているのは知っていたが、まさかここまで何もわかってないとは思わなかった。

美波は同級生相手ではなく、年下に教えるように噛み砕いて説明することに決めた。そういえばおあつらえ向きの心理テストがあったのを思い出す。

 

美波「じゃあ想像してみて……優子に嫌われたり、亡くなったり、誰か別の男と仲睦まじくしていたり、逆に優子に好きって言われたりするところを。もしそれで何も思わなかったら恋愛感情ではないから」

和真「なるほど、ふむ……」

 

言われた通りにそれぞれの光景を思い浮かべる和真。

 

 

最初の二つを想像すると、心が張り裂けそうになるのを感じた。

 

 

三番目の内容を想像すると、無性に腹が立つのを感じた。

 

 

そして最後の想像では……どういうわけか、体全体が暖かくなるのを感じた。

 

 

 

 

 

そして聡明な和真はすぐに理解できた。

 

 

 

和真(…………ふむふむ、なるほどねぇ……

 

 

 

俺、優子のことを……愛してるってレベルで大好きだったのか)

 

そこに思考が至った瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

和真「~~~~~~~~っっ!?!?!?!?!?!?」

 

未だかつて無いレベルで動揺した。

 

美波「…柊!?大丈夫なのアンタ!?」

 

美波が思わず慌てふためくのも無理はない。

あの和真がとてつもなく狼狽している。いつもの死角の一切無いマイペースで飄々とした態度は見る影もなく、ただひたすら余裕をなくして狼狽している。

目の焦点が上下左右に動き回り、動悸はどんどん激しさを増し、沸騰したかのように全身が汗だくになり、さらに顔を真っ赤にして慌てふためくことしばらく……。

ようやく落ち着いたかと思えば、和真は手で顔を覆ってその場にうずくまってしまった。もう何から何まで美波にとっても和真本人にとっても未知の光景である。

 

美波「あ、あの…………柊?」

和真「ヤベェ死ぬほど恥ずい何だよこの展開蓋明けたらベタ惚れじゃねぇか俺骨の髄まであいつにメロメロじゃねぇか俺何かここ最近不注意でぶつかって転んだりとか俺らしくねぇ凡ミスが多くて不可解に思っていたがなんのことはねぇ思い返してみれば全部優子関連だったよあぁ納得しちゃったよ今だけは恨むぞ俺の洞察力何故か最近雄二がことあるごとにやたらニヤニヤしてたのも絶対これ関係だよあの野郎全部知ってやがったないや待てそんなこと今はどうでもいいそれよりもどうしよう俺今後優子の顔直視できる自信無ぇぞオイあいつの笑顔想像しただけで悶え苦しむほど耐性が無いんだぞ今の俺実際に見たら恥ずかしさでショック死するかもしれねぇぞ恐ろしいなオイかといって変に距離置くのは駄目だよなそれこそ追求されて余計追い込まれ-」

美波「ストップストップ!いったん落ち着きなさい!いくらなんでも動揺しすぎでしょ!?」

 

某橘社取締役の如く、壊れたテープレコーダーのように延々と独り言を流し続ける和真を何とかなだめる美波。自らが優子に抱いていた感情を自覚した和真は、今まで平然としていたツケを払うかのごとく羞恥がとめどなく溢れ出ていく。

しばらくしてようやく落ち着いた和真は、美波に視線を移しつつ今までの認識を改める。

 

和真「島田……さっさと告白しちまえばいいのにとか今まで心の中でこけにしててスマンな」

美波「心の中だけじゃなく普通に口に出してたような気がするけど……まあいいわ、続けて」

和真「正直恋愛ナメてた……ここまで感情を掻き乱されるものだとは思ってもみなかった……改めて思うが翔子すげぇなオイ、なんであいつあんな平然としてられるんだ?」

美波「……へぇ~……。……ふふ」

 

落ち着いたものの未だ不安定な和真を見て、ふと美波の嗜虐心に火が点いた。

そういえばこの男には色々辛酸をなめされられたのを忘れていた。缶蹴りの缶を側頭部にぶつけられたり、油性マジックで悪戯書きされたり、実は知らない間に清水への生け贄にされてたり、その他諸々……。

 

 

復讐のとき、来たれり。

 

 

美波「いや~意外ね~、アンタにも意外と可愛いとこあるじゃない♪」

和真「……何が言いてぇんだコラ?」

美波「否定できないでしょ?実は優子にメロメロだった可愛い可愛い柊和真く~ん♪」

和真「~~~~~っ!!!」

 

視線のみで殺せるのではないかと思うぐらいの形相で睨めつけるも、これでもかと赤面した状態では恐くもなんともない。事実、優位に立っていることを自覚している美波相手にはどこ吹く風。反論しようにも自らの感情に嘘を着くのは矜持に反するため、和真は何も言えずに押し黙る。

 

その後、和真がひたすら美波に手玉にとられているうちに放課後を告げるチャイムが鳴った。

のちに和真は語る、これほど動揺した日も、これほどの屈辱を受けたことも、自分の人生で最初で最後の日であったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼介「さて、今回の話でようやくカズマが優子への想いを自覚したわけだが……」

飛鳥「正直、和真以外にとっては今さらよね」 

徹「何だったら当事者の優子ですら薄々気づいていたぐらいだもんね」

源太「優子本人は自覚してくれるまで待つつもりだったみてぇだけどな」

蒼介「さて、恋心を自覚した和真はどういった行動を取るのか、次回を楽しみに待っていてくれ」


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