バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【心理テスト】
以下の状況を想像して質問に答えて下さい

『あなたは今、独りで森の中で道に迷っています。明かりもなく暗い森の中を進むと、あなたは湖のほとりに小さな小屋を見つけました。これ幸いと中に入るあなた。すると、そこにはイスとベッドと肖像画が。さて、その肖像画に描かれている人物の特徴は? 頭に浮かんだものを3つ挙げてください』

姫路の答え
『1.楽しげな表情
 2.優しい瞳
 3.明るい雰囲気』

綾倉「これは『あなたの好きな人の特徴』についてわかる心理テストです。暗い森はあなたの不安を表し、そんな時に見つけた小屋の中にある肖像画は『あなたの心を支えてくれる伴侶』を表します。どうやら姫路さんの好きな人は、温和で明るくて楽しい人のようですね」


飛鳥の答え
『1.冷静沈着
 2.確固たる意思 
 3.妥協なき精神』

綾倉「それ、どうやって絵で表現すれば良いのですか?」


清水の答え
『1.気の強そうな目
 2.男らしい胸
 3.ポニーテール』

綾倉「最後の1つがおかしい気がします」


美波の答え
『1.折れた指
 2.捻じ曲げられた膝
 3.外された手首』

綾倉「全部おかしい気がします」


再戦、Dクラス!

『我々Dクラスは、Fクラスに対して宣戦布告を行う!』  

 

翌日の朝、HRの終了直後にDクラスの男子生徒がやってきて高らかにそう告げていった。

 

秀吉「ふむ、何とかここまでこぎ着けることができたのう」

和真「わざわざ飛鳥に借りまで作ったんだ、そうじゃなきゃ困る。あと雄二、貸し1だからな」

雄二「わかってるよ悪かったな……だがここからが正念場だ、ここまでやってDクラスに負けたら何の意味も無い」

 

どうやら翔子の容態は完全に安定したようで、今の雄二の表情に迷いは一切無い。

そう、確かに迷いは無いのだが、朝登校してきた雄二に明久達が翔子に何があったのか詳しく追求すると詳しくはわからないと嘯いていたが、人の表情の変化に聡い和真と秀吉は一瞬雄二の表情に違和感を感じた。間違いなく何かを隠していると和真は確信していたが今は試召戦争に集中しなければならないので、空気を読まず追求しようとした秀吉を黙らせたりした。

 

明久「それで雄二、作戦は?」

雄二「考えてある。だが、その前に戦力の確認だ。今和真と島田と秀吉以外に戦えるヤツがどの程度いるのかを調べる」

 

そう言うと雄二は立ち上がって教壇に上がり、クラスメイト達に指示をだす。

 

雄二「野郎ども、よく聞け!さっき言われた通り、これより俺たちFクラスはDクラスとの試召戦争に突入する!まずは戦力の確認だ!各自、自分の持ち点を紙に書いて持ってくるように!」

 

Dクラスの宣戦布告でザワついていた教室が静まり返り、クラスの全員が紙とペンを取り出す。

先日の覗き騒動である程度使ったからといって、完全に点数を失っているわけでもない。おそらく残りの点数具合から補充するメンバーを選定を行うのだろう。

それにならって明久達も現在の点数を書いて雄二に渡す。ちなみに和真は朝一で補充試験を2つほど受けていたため万全な状態である(400点縛りの枷はまだリスクが大きいので外していない)。

全員分のメモを受け取った雄二はそれを確認しつつみんなに呼びかける。

 

雄二「最初に下位十名に点数の補充をしてもらおう。補充組は教室に残ってくれ。尚、科目は数学を受けるのが七人、世界史と化学と保健体育を受けるのが一人ずつとする。各自の配置は点数確認を終えてから発表する」

 

メモを小脇に抱えて雄二が戻ってくる。

明久は卓袱台にメモを広げて人員配置を始めた雄二と和真に脇から話しかける。

 

明久「ねぇ雄二、和真」

雄二「なんだ」

明久「どうして点数補充をあんなに細かく分けるの?僕らは早く点数補充をしなくちゃいけないんだから、まずは採点の早い数学だけに揃えるべきじゃないの?」

和真「んなことしたらDクラスに備えが無いってバレバレだろうが」

雄二「和真の言う通りだ。今回は極力時間を稼ぐのが目的だからな、戦術云々というよりも心理戦による睨み合いが必要になる」

明久「でも僕らが点数補充をしてないのは皆にバレているんだよ?そんなことしても向こうは警戒してこないんじゃない?」

雄二「そこを警戒させるのが作戦ってもんだろうが。まぁいいから見ていろ」

 

雄二が点数の書かれたメモを見ながらノートを布陣に書いていく。もう頭の中には作戦が出来上がっているのだろう。明久の配置は点数補充ではなく、開戦直後は渡り廊下の防衛戦に参加、和真は……なんと教室待機。

和真は苦言を漏らそうとするも明久の方が早く雄二に質問したため見送ることに。

 

明久「あれ?僕は点数補充じゃないの?」

雄二「お前はまだ点数が残っていたからな。まずは戦死して0点になっている奴から補充していく。それに……お前は特別な人材だしな」

明久「特別って、いやぁ、そんな……」

 

和真は雄二の発言に照れる明久を心底憐れむような目で見てから雄二にも呆れるような目を向けるも、当の雄二はどこ吹く風であった。どうやらまた明久にろくでもない役回りを押し付けるようだ。

 

雄二「今回の作戦でお前は重要な役どころになる。キツいだろうが耐えてくれ」

明久「了解、そこまで言われたら頑張るしかないね」

和真(こいつも学習しねぇなホント……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「いいかお前ら!前回勝ったからと言って相手を舐めるなよ!今回の戦いでは姫路にも翔子にも頼れねぇ!下手に欲をかくと逆に手痛い目を見るハメになるからな!」 

 

出撃前のブリーフィングとして、雄二が教壇に立って皆に説明を始める。

 

雄二「どんなに有利な状況でも決して深追いはするな!決められた場所でひたすら防衛に徹しろ!」

 

下手に深追いなんてすると一瞬でこちらは蹴散らされてしまうだろう。なにせ事前に行った点数調査では、和真と美波と秀吉を除いたFクラス全員の総合点数は10000点未満。既に補充を終えているDクラスの女子が一人当たり約1400点程度とすると、Dクラスは女子だけでも35000点程度。それに更に男子がいるのだから、戦力差は歴然だ。

 

雄二「向こうは圧倒的に有利な女子の総合科目をメインに攻めてくる!島田と秀吉を主軸にうまく立ち回れ!限界まで粘ったら状況によっては教室前まで退いてもいい!以上だ!検討を祈る!」

 

雄二の説明が終わると同時に時計の針が音をたてた。開戦時刻の午前九時丁度だ。

 

『ぃよっしゃぁああーっ!!』

 

渡り廊下や階段を確保するのが目的なので、先行部隊が開幕ダッシュで現場を目指す。向こうもこちらに何かをされる前に勝負をつけようと目論んででくるはずなので、最初はスピード勝負となる。

 

和真「……ったく、この俺に教室待機なんてつまらねぇ役回り押し付けやがって」

雄二「まあ我慢してくれ、これも作戦だ」

和真「……仕方ねぇな、今回だけだぞ」

 

試召戦争における和真の役回りは遊撃がメインとなる。部隊に所属せず単独で行動し、敵のアキレス腱を見つけては攻め込んだり、劣勢に立たされている味方達のフォローに回ったりと、流転する戦況に合わせて臨機応変に立ち回らなければならないため、戦況を常に把握するセンスを問われるポジションだ。そのため、Fクラスで唯一雄二の指示に沿って動かない……のだが、今はクラスの状況が状況なので遊撃に回す余裕などあるはずもない。そのため今回ばかりは雄二の指示に従う必要があることを和真もわかってはいるが、いくら納得できようがどんな思惑があろうと教室待機なんて内容はつまらないのだろう。

 

『どうせウチのことなんて男らしいから一晩経ったら忘れてくれるとか思っていたんでしょこのバカ!もう話しかけないでって言ったでしょ!ウチのことは放っておいてよ!』

 

教室の外から美波の怒鳴り声が聞こえてくる。どうやらあの二人の関係も拗れるとこまで拗れたようだ。

 

雄二「……和真、後でフォロー頼む」

和真「……お前、面倒なこと俺に押し付ける癖あるよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「おう、戻ったか明久」

 

明久が戦線から撤退してくると、予備戦力数名を待機させつつ雄二と和真の二人は教室でまったりしていた。明らかに戦争中とは思えない呑気さに明久は頭の中が「?」で埋め尽くされる。

 

雄二「首尾はどうだ?」

明久「一応言われた通りにしてきたけど……雄二、それより作戦をそろそろ説明してよ」

和真「確かにそろそろ俺も聞きてぇな、なんで俺が教室待機なんだよ?」

明久「そうだよ雄二。どうして和真に残ってもらったの?和真が行けばもっと楽に戦えるはずだよね?」

雄二「そうだな。敵もきっとそう考えるだろうな」

明久「む。何か含みのあるいい方だね」

雄二「向こうはきっとこう考える。『Fクラスはこれだけの戦力を渡り廊下や階段に投入してきたのに、点数が無い姫路はともかく万全な柊が何故出てこない?廊下や階段を制したいんじゃないのか?』ってな感じでな」

和真(なるほどねぇ……)

 

雄二の狙っていることに気がついた和真は、よくここまで知恵が回ると感心する。

 

明久「でも実際に守りたいんでしょ?」

雄二「だからって戦力を注ぎ込んでどうする。俺たちの目的は制圧じゃなくて時間稼ぎだ」

明久「うん。だからこそ、向こうに釣り合う戦力を」

和真「明久、拮抗状態を作るには別にこちらの力を強くするだけが手じゃねぇ。向こうの戦力を小出しにさせることも有効ってことだ」

 

和真の補足を聞いて、明久は先ほど感じた戦闘中の違和感を思い出す。

 

明久「そう言えばDクラスの人達、和真がいないことを確認すると何人か撤退して行ったっけ……つまり、姿の見えない和真を警戒させて、クラス代表の防衛に戦力を割かせているってこと?」

雄二「そういうことだ。特に和真と親交のあるDクラスの代表はこいつの厄介さを熟知しているから、きっと面白いように警戒しているだろうさ」

 

向こうの戦力が少なければこっちの戦力の消耗も少なくて済む上、和真を温存できれば廊下や階段を突破された後の防衛が有利になる。平常時ならひっかからない可能性もあるが、以前の敗戦の経験や和真という抑止力だけでなく、今のFクラスの現状も影響している。

今のFクラスが勝つつもりなら正面突破ではなく奇襲で代表を討ち取るしかない。そんな状況下で十全の状態であるはずの最強の矛が姿を見せないとなれば、平賀は十中八九和真で自分の首を討ち取りにくると考えるだろう。そうなれば向こうも主戦力となる女子生徒をある程度代表付近に置くしかない。

 

明久「それで渡り廊下の女子が戻っていったってわけか……」

雄二「だが、それだけでは不十分かもしれないからな。向こうが強引に突っ込んでくることのないように、更にダメ押しをしておいた」

明久「ダメ押し?」

和真「情報操作か?ムッツリーニに点数補充をさせてなかったから何か企んでるとは思っていたが」

 

教室の中には保健体育の大島先生がいて補充テストもやっているが、保健体育一科目だけで総合点数のほとんどを補えるムッツリーニがいないとなれば、何らかの作戦を遂行しているに違いない。

 

雄二「アイツには『FクラスがDクラスとの開戦を待ち望んでいた』という情報をリークさせた。何の準備も無ければ不自然な情報だが、Dクラスには清水がいる。盗聴器経由でそれらしく伝えるのはムッツリーニなら造作もないことだ」

明久「ああ、そういえばさっきDクラスの人たちも『怪しい情報がなんとか』って言ってたような……」

和真(昨日あれだけ飛鳥に言われたのにまだ外してなかったのか、いや、試召戦争時の情報収集のために残したと考えるべきか)

雄二「昨日の目的不明な交渉も含めて、Dクラスの清水と平賀には思い当たるフシが幾らでもあるはずだからあっさりと信じてくれるだろうな」

和真「確かにその話が伝わればDクラスは更に俺達を警戒するだろうな。『勝ち目のない勝負で開戦を望んでいたとは思えない。Fクラスは何か秘策があるんじゃないか』って」

明久「……あっ!そっか!昨日僕と雄二がDクラスの前をフラついていたアレも!」

雄二「まぁ一応そういうことだ。あの時は単純に点数補充をしてないというアピールが目的だったが、今となっては意味合いが変わってくる。向こうにしてみれば『校舎も違って用が無いはずの坂本と吉井がいたなんておかしい。アレは俺たちを開戦に踏み切らせる為の芝居だったんじゃないか』なんていう疑問になる。偶然が二つ三つと重なるとは考えないのが人間だ。その向こうに何か目的があるんじゃないか、と疑問に思うのは当然だろうさ」

和真(流石の俺も言葉も出ねぇな……こいつならソウスケの“読み”を上回れるかもしれねぇ)

 

こういった話となれば雄二は恐ろしく頭がキレる。伊達や酔狂で神童などとは呼ばれていなかったというわけだ。

 

雄二「向こうは今頃開戦を後悔し始めているだろうな。なにせハイリスクノーリターンの戦いだ。何か切っ掛けがあればすぐにでも休戦に応じるだろうよ」

明久「何かきっかけがあれば、ってことは、更にもう一押しする必要があるの?」

雄二「ああ。最後にもう一つ、手を打つ。敵の頭を討つ為にな」

明久「敵の頭っていうと平賀君?でも、そんなことができるなら休戦なんて……」

雄二「平賀は無理だ。こっちを警戒しているから、間違いなく前には出てこない。だが、今回の勝負ではDクラスの頭は平賀だけじゃない」

和真「……清水か」

雄二「ご名答。清水を落とせばDクラスの開戦派はおとなしくなる。休戦協定を結ぶ為のきっかけ作りにおあつらえ向きの状況が出来上がるだろうさ。……そんなわけで明久。お前には隣の空き教室で清水と一騎討ちをしてもらう」

明久「え?僕がやるの?」

 

予想だにしない指名を受け明久は困惑する。平常時ならいざ知らず、現在の消耗しきった状態でどうこうできるほど甘い相手では無いはずである。

 

雄二「ムッツリーニは点数補充できてない。和真は姿を見せるワケにはいかないし、いざとなったら防衛に加わってもらう必要がある。つまりお前しかいないんだよ」

和真「それに清水の敵意は多分お前に向いている。この空き教室に引っ張り出すには好都合だ」

明久「えっと……ごめんどういうこと?」

 

和真は広げられた校舎の地図の、Fクラスの隣の空き教室に配置された明久の名前を指すが、明久は予想通りいまいち理解できていなかった。

 

雄二「そうだな……。例えば、この空き教室に須川が配置されていたとしよう。もしもお前が戦っている相手だとしたら、そこに須川がいることについてどう思う?」

明久「どう思うも何も……意味のないものにしか思えないけど」

和真「まあそうだな。それじゃあ条件を一つ加えるぞ?そうだな、例えば須川とお前が姫路を巡って争っていたとすると、どう見える?」

明久「……………………須川君が僕を待っているように見えるかな。姫路さんを巡っての話に決着をつけるために」

和真「そういうことだ」

雄二「つまり、だ。この配置は他の連中には首を取る必要もない明久が意味もなく空き教室にいるだけだに見えるだろうが、清水にとってはそうじゃない。明久が決着をつける為に清水を待っているように見えるってことだ」

 

万全でない明久を前線に出したのはこのためである。敢えて最前線に加わらないことで清水に対するアピールとなるのだ。

 

雄二「そんなわけで明久、そろそろ隣の空き教室に移動してくれ。いつ防衛戦が突破されるかもわからないからな」

明久「……わかった、今すぐ移動するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「で?何企んでるんだよお前?」

雄二「何だ藪から棒に」

和真「今の明久の点数じゃあ清水を討ち取れる可能性は極小だ。俺好みのジャイアントキリングな展開ではあるが、お前がこんな分の悪い賭けに全てを賭けるとは思えねぇ」

雄二「お前はホント勘が良いな。そう、俺の本当の作戦は明久の首を手土産に清水に休戦を持ち込むことだ」

和真「相変わらず呼吸をするかの如く明久を生け贄にする奴だなお前は……」

雄二「文句は受け付けんぞ?明久の犠牲一つで戦争を乗り切れるなら他の連中も文句は無いだろうしな」

和真「はいはい。……ところで雄二、もう一つ聞きたいことがあるんだが」

雄二「今度は何だ?」

和真「昨日何があった?」

雄二「っ!?…………悪い、答えられねぇ」

 

突然の問いかけに一瞬呆気にとられる雄二であったが、和真相手に誤魔化しは効かないと判断したのか、正直に拒否することにした。

 

和真「……何かあったことは否定しねぇんだな。まあ、言いたくねぇなら無理に聞きだしゃしねぇよ」

雄二「お前は本当、勘の良い奴だな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「……そろそろ時間だな。野郎共、準備は良いか!?」

「「「おうっ!」」」

雄二「ならば良し!敵(明久)は空き教室にありだ!」

和真(光秀かお前は……)

 

点数補充を終えたメンバーと和真を引き連れて、雄二はFクラス教室から出る。戦場は混線状態になっていて、このままではとても空き教室にはたどり着けない。雄二は和真にアイコンタクトで指示を出し、それを受けた和真は一歩前に出る。

 

和真「試獣召喚(サモン)!」

 

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

幾何学模様から出現した召喚獣の周りに、計10発の大砲が展開される。和真の腕輪能力『一斉砲撃(ガトリングカノン)』である。

 

『げぇっ!?あれは柊の大砲!』

『ま、まずい!皆避けろぉぉぉ!』

『お、おい柊テメェ俺らごと殺る気か!?』

和真「死にたくなきゃ死ぬ気で避けやがれぇぇぇ!(ダダダダダダダダダダ!!!)」

 

和真は召喚獣を呼び出すと同時にガトリングカノンを発動する。やや距離があったため両クラスの生徒達は命からがら避けられたものの、もとより当たるかどうかは二の次だ。砲撃で戦場に雄二達が通れるスペースを作ることが目的なのだから。

 

和真「今だ、さっさと行け!」

雄二「言われるまでもねぇ!」

「「「オォォォォ!」」」

 

雄二率いる明久討伐隊は、空き教室までの道のりを全力で疾走して駆け抜ける。

 

和真「お前らもここは俺に任せてさっさと別の戦場にでも行け!」

『ありがとよ畜生!』

『この恩と恨み忘れねぇからな!』

 

和真はすぐさま闘っていたFクラス生徒達を逃がして殿ポジションに着く。結果、まんまと出し抜かれてやや怒り気味の生徒達に囲まれることとなる。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 柊和真 3006点

VS

Dクラス 生徒×10 平均1222点』

 

 

『なんだあの点数……?』

『そういえばさっき、総合科目で腕輪能力を使った!?』

『ということは4000点オーバー!?』

 

あまりの点数差に怒りが挫けそうになる女子一同。

そう、和真が受けた補充試験は2つ。1つは合宿先で極限まで点数を消費した英語、もう1つは……かつて苦手としていた数学。英語は枷を嵌めたままなので400点ジャストであるが、数学の点数はもともとは精々Bクラス程度であった4月の頃と比べると、なんと334点まで上昇した。和真の打倒Aクラスに向けての本気度が伺い知れる。

 

『これじゃ四月のときと同じじゃないか……!』

和真「……チッ……なんだよ、せっかくの絶好のチャンスだってのにもう諦めちまうのかよ」

『え?』

 

心底軽蔑したような表情を浮かべる和真に、Dクラス一同は思わず呆気にとられる。

 

和真「どいつもこいつもまるで意味がわかりませんって面ァ並べやがってボケが……おい女子どもよぉ、あれほどぶっ倒したかった元凶の一人が、のこのこと戦場にでてきてんだぜ?」

『……!』

和真「男子もそうだ。お前らが肩身狭い思いをしている現状を作った原因の一人だぜ俺は。悔しくねぇのかよ?」

『……!』

和真「……はぁ、白けた。お情けで能力は使わねぇでやるからよ、せめて少しは食い下がれよ腰抜けども」

 

侮るように、蔑むように、見下すように、嘲笑の笑みを浮かべながら和真は戦闘体制に入る。

 

『…………ス……め……な』

和真「あん?聞こえねぇよ。言いてぇことがあるならよ、腹から振り絞って声出せやヘタレ共が!!!」

 

 

 

 

 

 

 

『『『俺(私)達を……Dクラスをなめるなぁぁぁあああああ!!!!!』』』

 

闘志を極限まで爆発させて襲い来る一同に対して〈和真〉は無造作に槍を振るうが、全員すぐさま武器でガードの体勢に入り必死に受け止める。当然腕力差で一人残らず吹き飛ばされるが、そんなことではDクラスの戦士達は闘志を消やしない。すぐさま体勢を立て直し今度は時間差で和真の召喚獣に突っ込む。

 

和真「そうだそれだよちっとはマシになったじゃねぇか!タイマンで勝てねぇなら数の利を活かせ!どんな状況下でも思考を止めるな心を燃やせ!ちっとばかり格上にぶつかった程度で臆してんじゃねぇぞ!」

 

鬼気迫る表情で向かってくる軍団にやや劣勢に立たされ、直撃はさけてはいるがチマチマと点数が削られていく。しかしそれでも和真は満足気な表情を浮かべていた。

そうだ、勝って当たり前の勝負など不粋極まりない。格上や不利な状況に立たされてこそ戦士としての真価が問われるというものであろう。

我が槍を恐れて闘志を失うなど言語道断、たとえ刺し違えてでも相手の首筋に牙を突き立ててやろうという気概も無しにこの戦場に立つことは許さない。なぜならそんな相手との闘いは、もはや闘いではなく作業でしかないのだから。

逆に言えば、例え格下だろうが相手にそういった修羅の矜持さえあれば和真の乾きは潤う。

 

“闘っている”と実感できる。

 

 

和真「殺されるかもしれねぇって思えなきゃ……ぶっ殺しがいがねぇもんなぁぁぁ!」

 

戦死すら恐れず死に物狂いで向かってくるDクラスの召喚獣達に窮地に立たされていたものの、追い詰められながら〈和真〉はさりげなく一ヶ所に集まるように動きをうまく誘導していた。

 

和真「楽しませてもらったぜ。こいつは俺からの餞別だ、これから先また闘うことがあったら……また闘ろうや」

 

並外れた腕力を駆使して〈和真〉は百烈突きを放つ。Dクラスのメンバーはなんとか避けて反撃しようとするも、一ヶ所に集まった大群など〈和真〉からすればもはや的でしかない上、圧倒的なリーチの差は相手に食い下がることすら許さない。

そして、先ほど彼らが〈和真〉の攻撃をガードできたのは本来の攻撃とは違っていたからだ。槍とは殴るものではなく突き立てるもの、真の力を発揮した巨槍はDクラス程度の守りなど鎧袖一触で貫いた。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 柊和真 1782点

VS

Dクラス 生徒×10 戦死』

 

 

和真「楽しかったぜ、これこそ闘いだな。……さてと、あっちもあっちでケリが着いてるだろうな」

 

 

 

 

 




雄二に何があったのかはいずれ必ず書きますので気長に待っていてください。短期間で風呂敷を広げ過ぎてもあれなので。

和真君が敵に塩を送るときは、もう当初の目的ざ確実に果たせる段階であることがほとんどです。
つまり、まあ……趣味ですね。バトルジャンキーここに極まれり。

そして明かされた『カズマホームラン』及び薙ぎ払いの弱点。本来の槍の使い方ではないので槍の破壊力や耐久性が落ちてしまうのです。ですから、今回みたいにある程度の負傷は覚悟して全力でガードすれば受けきれないレベルではないし、以前スカイラブハリケーンとぶつかり合ったときあっさり折られたりもしました。






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