バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

90 / 219
【バカテスト・化学】
以下の文章の()に入る正しい単語を答えなさい。

『分子で構成された固体や液体の状態にある物質において、分子を結集させている力の事を()力という』

和真の答え
『(ファンデルワールス)力』

蒼介「正解だ。別名、分子間力とも言う。ファンデルワールス力はイオン結合の間に発生するクーロン力と間違えやすいので注意するといい」


源太の答え
『(van der Waals)力』

蒼介「今回は正解にしておいてやるが、次同じようなことしたら容赦なくバツをつけさせてもらう」

ムッツリーニの答え
『(ワンダーフォーゲル)力』

蒼介「何となく語感で憶えていたのだと言う事は伝わった。惜しむらくは、その答えが分子の間ではなく登山家の間で働く力だったと言う事だがな……」


明久の答え
『(努)力』

蒼介「……この解答は嫌いじゃない」


五十嵐源太暗殺計画

雄二「失敗もいいところだカス野郎」

 

美波と付き合っている演技していたはずなのに何故か恋敵役の姫路と教室に戻ってきた明久に対して、雄二が真っ先に投げかけた言葉は純度100%の罵倒だった

 

姫路「坂本君、失敗ってどういうことですか?」

雄二「どうもこうもあるか。このバカが最後に逃げ出してくれたおかげで、余計に状況が悪くなっちまった。あんなモンを見て島田と明久が付き合っていると思うヤツなんているわけがない」

 

和真が秀吉から聞いた話をまとめると、演技の途中で明久が指の関節を全て外されたらしく、そのことを詳しく説明しないまま保健室に処置の為に走り出したそうだ。タイミングの悪いことにその直前に姫路が演技で怒って屋上から走り出したところであり、結果的に美波からは明久が姫路を追いかけていったように見られてしまった。

せめて自分の指の関節が外れているとか保健室に行きたいとかそれぐらい説明してからなら美波も少しは納得してくれたかもしれないだろうが、明久は詳しい説明も無しに走り出してしまい、最終的に最悪の結果に落ち着いた。

 

和真(なんで付き合っている演技の最中に指間接全部外されるんだよ、なんて野暮なツッコミはしねぇぞ。いつものことだ)

秀吉「せめてもの救いは、島田が明久に好意があるという様子を見せられただけじゃが……恐らく清水を動かすには不十分じゃろうな」

雄二「オマケにもう一度トライしようにも、島田はあの調子な上にお前は姫路と仲良く一緒に戻ってくるときたもんだ」

 

明久が雄二に促されてが美波の状態を確かめるため視線を移すと、とうとう怒りが頂点に達したのか美波は雄二の席から離れた席で不機嫌そうな顔付きで明後日の方を向いていた。

 

姫路「ご、ごめんなさい。私と明久君が一緒に戻ってくるなんて、美波ちゃんと明久君が付き合っているのならおかしいですよね……」

秀吉「まぁ、それはクラスメイトじゃからそこまで不自然ではないのじゃが……。明久が島田を放置していった後で一緒に戻ってくるという状況がマズイのじゃ。周りにどう思われるか、ではなく島田に対してじゃがな」

雄二「とりあえず明久は島田に詫びの一つでも入れておいた方がいいな」

和真(いやいやいや、完全に逆効果だろうがよ……)

明久「そうだね。ちょっと行ってくるよ」

和真(いや行くんかい!?本当にこいつ脊髄反射だけで生きてるなオイ……)

 

明久が考えなしに死地に赴くのを見届けると、和真は雄二に呆れるような視線を向ける。

 

和真「お前バカか?今明久が何言っても火に油を注ぐだけだろうが」

雄二「そんなことはわかっている。アイツのせいで苦労しているんだ、代償くらい払って貰わないと割に合わん」

和真「外道にもほどがあるぞお前……」

雄二「お前にだけは言われたくねぇ」

 

お互いが自分を棚に上げて相手を外道呼ばわりしていると、突然美波の絞り出すような怒鳴り声が教室全体に響き渡る。

 

 

美波「……瑞希、瑞希って、アンタはいつもいつも!どうして瑞希ばっかりいつもお姫様扱いなのよ!じゃあウチはなんなの!?男だとでも思っているの!?どうしてウチにはいつもそんな態度なのよ!」

 

 

その後明久が弁解しようにも美波はもうとりつく島もなく完全に拒絶モードに入ってしまった。どうしようもないと判断した明久は、諦めたようにとぼとぼとこちらに引き返して来た。

 

明久「完全に怒らせちゃったよ……」

秀吉「そのようじゃな」

姫路「ごめんなさい。私も後で美波ちゃんに謝っておきますから……」

ムッツリーニ「……それは時間を置いてからにした方がいい」

秀吉「ムッツリーニの言う通りじゃ。今の島田には明久や姫路が下手なことを言えば逆効果になりかねんからのう」

和真「それどころか俺ですらフォロー仕切れねぇほどのキレっぷりだ。今はそっとしといてやれ」(それにしても島田……お前は何もわかっちゃいねぇよ……)

 

和真は片方の眼に姫路を写しつつ、もう片方の眼で美波を憐れむように見つめる。何か思うところがあるらしい。

 

雄二「それならその話は置いといて、だ。とにかく、このままだといつまで待ってもDクラスからの宣戦布告はないだろう。こっちから状況を動かす必要がある」

 

話題を切り替えても雄二の表情はいつになく硬い。どうやらFクラスの状況はかなり崖っぷちのようだ。

 

雄二「ムッツリーニ。Bクラスの様子はどうだった?」

ムッツリーニ「……現在七割程度の補充を完了。一部では開戦の用意を始めている」

雄二「予想よりも早いな、向こうも本気ってことか。となると……まずはDクラスに仕掛ける前に時間を稼ぐ必要があるな。ムッツリーニ、悪いが須川たちと協力してBクラスに偽情報を流してくれるか?」

ムッツリーニ「……内容は?」

雄二「Dクラスが試召戦争の準備を始めているって感じで頼む。その狙いがBクラスだということもな」

ムッツリーニ「……了解」

明久「ねえ和真、雄二は何を狙っているの?」

和真「多分ただの時間稼ぎだろ。Dクラスに狙われていると知れば、Bクラスは連戦を避けたいと考える。そうなると俺たちへの宣戦布告を躊躇うはずだからな」

 

Bクラスは連戦を避ける為にもDクラスの様子見を見るようになるだろう、場合によってはそのまま戦力をDクラスに向ける必要もあるだろうから。本当ならCクラスが狙っているという話にしたいところだが、残念ながらCクラスは四月にどこぞの蒼の英雄様たった一人に壊滅させられ、宣戦布告の権利を失っている。

 

雄二「それからある程度偽情報の流布が終わったらそっちは須川に一任してくれ。お前には更に他のこともやってもらいたいからな」

ムッツリーニ「……わかった」

 

そう静かに告げると、ムッツリーニは須川のところに向かっていった。情報操作は彼の十八番だ、任せておいてまず心配は要らないであろう。

 

雄二「さて、次は秀吉だな」

秀吉「む。なんじゃ?」

雄二「お前にはDクラスの清水を交渉のテーブルに引っ張り出してもらいたいんだが、頼めるか?」

秀吉「それは構わんが……交渉と言ってもどうするつもりじゃ?」

雄二「どうするつもりも何もこっちの目的は一つだ。清水を挑発して敵意を煽る。向こうが乗ってきたら成功、そうでなければ失敗。それだけだ」

秀吉「清水を引っ張り出しての交渉となると……その場に島田も連れて行く必要があるのじゃろう?」

雄二「ああ。その方が確実に挑発できるからな。下手に同席させると逆効果になることも充分考えられるが、その辺はまあ…和真ががうまくとりなしてくれるだろう」

和真「俺に丸投げかよ……」

 

まあこの男ほど場をとりなすことに適任な人物は他にいないだろう。何せ男嫌いで有名な清水とすら最低限とはいえ親交があるのだから。

 

秀吉「うむ。ならばそちらもなんとかしておこう。機嫌を取り戻すのは無理じゃろうが、交渉に同席してくれるように頼むくらいは可能じゃろ」

雄二「そうして貰えると助かる。今の島田のところに明久や姫路を行かせるわけにはいかないからな」

秀吉「心得た。交渉の場は空き教室、時刻は放課後直ぐで良いか?」

雄二「それでいい。そのくらいの時間までならBクラスの宣戦布告を遅らせることができるはずだからな」

秀吉「了解じゃ」

 

まずはDクラスに向かうことにした秀吉は教室を出ていった。それを見届けてから雄二は和真に向き直る。

 

雄二「そして和真。お前は綾倉から対Bクラス用の暗殺道具を調達してきてくれ」

和真「なるほど、Dクラスへの使者を始末する用のやつだな」

雄二「相変わらず話が早くて助かる」

 

ムッツリーニにの偽情報でDクラスに狙われてると知ったBクラスは、おそらくDクラスと同盟を結ぶための使者を使わせるだろう。そうなると嘘の情報がばれてしまうのでDクラスに辿り着く前に使者を消してしまえ、というのが雄二の作戦だ。

 

和真「任せろ!正直あんま気に入らねぇやり方だが負けるよりはマシだしな、とびっきり強力なヤツを貰ってくるぜ!」

 

そういえば高橋先生すら葬った新作があると鉄人から聞いている和真は、その綾倉特性ドリンクを調達すべく意気揚々と立ち上がる。

 

雄二「よし明久、俺達は新校舎三階をうろつくぞ」

明久「え、時間無いのにそんな暇あるの?」

雄二「これも布石の一つだ」

和真(……布石、か。念には念を入れ、ついでに俺の保険の下準備もしておこうかな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事兵器を調達し終えた和真達一同が、誰にも見つからないように階段の近くで隠れながらBクラスの様子を見ていると、教室からある男子生徒が一人出てくるのが見えた。

 

明久(わ。本当に出てきた……あれ?五十嵐君?)

雄二(そのようだな。とりあえず俺の読みは当たっていたか)

 

出てきた男子生徒は『アクティブ』正規メンバーにしてBクラスの副官である強面の巨漢、五十嵐源太その人である。

 

明久(相手が五十嵐君一人っていうのも予想通りなの?)

雄二(まぁな。Bクラスは点数補充に忙しくて使者に人数を割けるわけがないからな。ここはおそらくDクラスが無下に扱えない奴一人を送り込むだろうと思っていた)

明久(無下に扱えない奴って?)

和真(クラスでも重要なポジションについている奴だ。流石に代表がわざわざ赴くと舐められるからNo.2の奴を送り込むのが定石だ)

雄二(それに五十嵐は合宿先で翔子を真っ向から撃破した実績がある。現在Bクラスでもっとも発言力のある男子だろうからな)

和真(まああいつはクラスを牛耳るとかは「かったりぃ」の一言で一蹴するだろうがな。それがわかってるからこそ根本も重要な役を任せることで何とか手元に置いておこうとしてるんだろうよ)

 

お世辞にも源太は人を率いるに適した人間ではないし、本人からして願い下げであろう。しかしそれとは裏腹に能力はあるため、根本のように権力欲の強い者からすれば絶対に手放したくない人材である。

 

明久(大丈夫かなムッツリーニ?和真の仲間って時点で嫌な予感しかしないんだけど……)

和真(心配すんな、あいつの強さは精々雄二程度だ。恐れるに値しない)

雄二(お前はホント俺を的確にムカつかせてくるなコラ)

 

三人が目をやると、源太はDクラスに向かって歩き始めていた。周囲には大勢というわけではないが人影が少し見える中、源太はBクラスとDクラスの間の短い道のりを悠々と歩く。このままだとあと三十秒もしないうちにDクラスの扉を叩くことになる。

 

明久(雄二、本当に大丈夫なの?)

 

明久が問いかける間にも源太の足は進む。

残りはあと三メートル。

 

雄二(大丈夫だ。ムッツリーニを信じろ)

 

あと二メートル。

ムッツリーニはまだ動かない。

 

明久(けど、もう距離が……!)

 

そして、あと1メートルでDクラス、というところでムッツリーニのカッターが明久達の視界を横切った。

 

カッ

 

明久(……え?)

 

それは源太から少し離れた壁に刺さり、その先にはとある写真が貫かれている。明久達からは見えていないが、和真は天性の直感で何の写真なのかを理解してしまう。

 

『なんだ、アレ……?』

『先に何か貼ってあるな』

『何かの写真、か……?』

 

周りにいた人たちが壁のカッターと写真に注目し、刺さった壁の下にぞろぞろと集まりだした。そしてその最後尾に源太も来ていた。

 

『……(ススッ)』

 

音もなくその背後に迫るムッツリーニ。今は周囲の視線は全てカッターと写真に集まっている。源太を含め誰もその様子に気付かない。

 

『……(ガッ)』

『……っっっ!?!?』

 

暢気に写真を見ようと背伸びをしていた源太をムッツリーニが後ろから羽交い締めにして口を押さえる。源太は目を白黒させて突然の事態に驚いている。

そして、ムッツリーニの手に凶器が見えた。あれは紛れもなく『綾倉特性ドリンクver.3青酢』、あの難攻不落の高橋先生をも葬ったとされる殺戮兵器である。

 

『……(グッ)』

『─っ!─っ!』

 

ムッツリーニがコップを押しつけ、源太はそれを必死になって阻止しようとしていた。

 

他の生徒たちが写真に注目している背後で命を懸けた攻防が繰り広げられている。明久達が息を呑んで見守る中、その戦いはついに決着を迎えた。

 

ゴクッ

 

 

『』

『……(ググッ)』

 

たったひと口飲んだだけで失神した源太に対して、ムッツリーニは情け容赦なく更に青酢の残りを全て押し込んだ。完全にオーバーキルである。

 

ムッツリーニ(…………任務完了)

 

動かなくなった源太を抱えてムッツリーニがこちらに戻って来た。

 

雄二(流石だ、ムッツリーニ。惚れ惚れするような手際だった)

ムッツリーニ(……この程度、何の自慢にならない)

 

雄二の賞賛に対しても眉一つ動かさず、ムッツリーニは手際良く源太の死体をBクラスから見えてDクラスからは見えないような場所に押し込んだ。

 

ムッツリーニ(……これでBクラスが最初にこの死体を見つけるはず)

和真(源太よ、安らかに眠れ……)

雄二(よし。ならもうここに用はない。教室に戻るぞ)

明久(そうだね。次の手を考えないとね)

 

四人は何事も無かったかのようにFクラスへと続く渡り廊下を歩き出す。

 

 

『この写真に写ってるセーラー服の子、結構可愛いな』

『ああ。でもなんかFクラスのバカに似てる気がしないか?』

『私はそれでもいいと思うよ、可愛いし……トーコちゃんカズナちゃんに匹敵するかもっ!?』

 

 

和真(明久ドンマイ……。そしてスマン、美紀の興味がお前に向かえば俺のストレスの原因が消えるんじゃね?と一瞬本気で思っちまった。……青酢さえ残ってりゃ、この場で美紀も始末しているのになぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




しかし源太君、この章に入ってろくな目にあってないな……。彼のためにフォローしておくと、彼は決して弱くはありません。リアルファイトの実力は、『アクティブ』でも和真、蒼介に次ぐNo.3です(愛子以外とは割と接戦ですが)。
それをものともしないムッツリーニの隠密術を称賛すべきでしょう。

【ミニコント】 
テーマ:演劇

秀吉「お主には演技の素質がある!というわけで演劇部体験としてこれからワシと劇を一つしてもらうのじゃ」

和真「えらく唐突だなオイ。……まあ良いけど何やるんだよ?」

秀吉「テーマは【勇者と魔王の一騎討ち】じゃ。台詞はアドリブで頼むぞい」

和真「じゃあ勇者で。……コホン……とうとう見つけたぞ魔王よ!世界のため人々のため、貴様を討つ!」

秀吉「フハハハハハハ!神にでもなったつもりか愚かな人間よ!!我の産み出す深遠なる闇は森羅万象いかなるものをも飲み込み駆逐する!!故に滅びよ……勝つのは我だ!!新世界の開闢に散る華となれ!!!」

和真「……やっぱ俺魔王やりてぇ。すげぇ楽しそう」

秀吉「我が儘じゃのう……まだ始まったばかりではないか、もう少し頑張ってほしいのう……」
















▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。