今回の話の和真君の主張は賛否両論だとは思いますが、万人受けするものではないと自覚しているからこそこういう特殊な場面でしか語ろうとしません。さらにいえば今回の内容は深層心理で本人に自覚はなく、たとえ自覚しても所詮我が儘な押し付けでしかないと理解できるため、誰にも聞かせるつもりは無いでしょう。
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『柊君……別れましょう……』
ん……?……これは……夢か?
『あなたとはもうやっていけません……』
過去に破局した女子が次から次へと流れ込んでくる。やれやれ……明久達が痴情のもつれで揉めに揉めまくっているせいか、俺の見る夢もこんなんかい。
『先輩のバカ!もう知らない!』
そういやこんな奴もいたなぁ。クラスどころか学年も違うからもう名前しか覚えてねぇや。
『この無神経男!私の前からいなくなれ!』
こいつは学校が違うから完全に忘れてた、そう言えばいたっけ……どうでもいいか。
『Get out of my face! 』
こいつにいたっては国籍すら違うじゃねぇか……。どういう経緯で付き合うことになったんだっけ?流石にちょっと気になる。
『そんな人だとは思わなかったわ!』
まったく、今となってはどれもこれも大切な思いでかなぁ……
いや違うな。
大切でも何でも無ぇな、消え去ったところで何の感慨も無いだろうし。
『……いい加減にしてよ!もうあなたが何考えているか全くわからないわ!』
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『どうして私の言うことを聞いてくれないのよ!?』
しかしこうして今まで付き合ってきた奴らを見返してみるとと……改めて思うね、うん。
『アンタにとって、私はそんなに安い女に見えるのかよ!?』
恋愛とやらがみんなこのようなものだとしたら、どうして猫も杓子もこんなものを有り難がるのかねぇ……?
心底理解できねぇし、理解したくもない。
『アンタなんて大っ嫌い!!!』
いや、わかってんだよ。誰も彼もこんな恋愛ばかりしているとは思わねぇ。そんなことは翔子を見ていればわかる。
『もう顔も見たくないわ!』
だがよ、俺に寄ってくる女はどうしてこう……どいつもこいつもこんな奴らばっかなんだ?
『柊君……ちゃんと私を見てよ!』
こいつなんてその最たる例。
ちゃんと私を見て?そいつはこっちの台詞なんだよ。他人と関わることが多いせいか、人の観察には馴れてんだよ。
全部お見通しなんだよ……
お前らが俺の表面しか見えてねぇってことがな。
確かにルックスは良い方だと思うぜ?容姿は母さんに似たからな。親父に似ていたら話は別だったけど。
確かに運動神経は良いぜ?腹立つけど親父に似たからな。親父のどや顔が脳裏にちらついてムカつくが。
確かに頭は良い方だぜ?常識から外れたようなことも多々やっちまうけど、それは頭じゃなく人格の問題だし。
客観的に自己を分析すると、女子がが寄ってくる理由もまあ何となくわかるし別段不思議ではない。
ところでアンタらに聞きたいんだが、俺のことを宝石か何かと勘違いしてねぇか?恋愛対象じゃなく装飾品として俺を見てねぇか?実は俺が好きなんじゃなくて、俺と付き合ってるというステータスを得た自分が好きなんじゃねぇの?
ああ、我が儘だってわかってるよ。今朝襲ってきた須川達みてぇにモテたくてもモテない奴は大勢いる。
無条件でモテることに疑問や忌避感を持つこと自体とても贅沢なことだって理解している。
俺の人格面はお世辞にも評価される方ではないってこともまあ自覚している。
となると、ステータスを求めて寄ってくる奴が多いのは、それはもう仕方ないことなんじゃないかとわかっちゃあいる。
最悪、そんな見方をされるこはもう仕方ないことなんじゃないかとも……薄々思っていたりはする。
だがよ……何でそんな連中のために、俺が好きなことを我慢しなくちゃならねぇんだ?
この際ハッキリ言ってやるが、俺の人生は俺の、俺のもんだ。誰に指図される謂れは無ぇしもちろん従わねぇ。誰かに管理させる気もさらさら無ぇ。お前らが俺を宝石のように認識していることは百歩譲って妥協してやるとしても、俺を宝石のように大事にしまっておこうとするなんざ許されねぇし許さねぇ。自分勝手極まりねぇ、図々しいにも程がある……そうは思わねぇのか?
俺の交遊関係は俺が決めるし、俺はスポーツを控えるつもりはさらさら無い。休日にじっとしてることなんざ俺には絶対我慢できねぇし我慢しねぇ。
それでもお前らが俺と一緒にいたいというなら、お前らが俺と同じ土俵まで這い上がってくるしか無ぇだろ?
お前らにとって俺は宝石なんだろ?だったら何の努力もせず、対価すら支払わず手に入れようなんざ……烏滸がましいと思わねぇのか?
思わねぇんだろうな……。
どいつもこいつもすぐに根を上げて、みっともなく文句を垂れ流すだけの根性なしの軟弱者だったからなぁ……!
そのくせ、そうなったら反吐が出るような我が儘を好き放題言った挙げ句、一方的に別れを切り出してくる。
見損なった?もう耐えられない?そんな人だと思わなかった?無神経にも程がある?……ははっ
ふざけてんじゃねぇよ甘ったれ共が!
自分の言うことを何でも聞いてくれる人がお前達にとっての理想か?そんな相手を探し求めることが……恋愛だとでも言うのか?
もしそうだと言うなら、そんなもの俺は認めねぇ……!断じて認めるわけにはいかねぇんだよ!
そうだな……例えば、だ。結婚を恋愛の延長戦だと考えるなら、一生を添い遂げようって奴等が対等でなくてどうする?背中すら安心して預けられないような伴侶と、永遠の愛など誓えるとでも思っているのか!
……あぁ、流石にそれは言い過ぎだな、俺もそこまで頭が堅いわけじゃねぇ。訂正しよう、対等でなくても別に良い。
ただ、対等で“あろうとしている”ならばそれで良い。
力が足りなくても、頭が足りなくても、分不相応の関係であると周りにとやかく言われたとしても、好きになった相手と並び立とうとがむしゃらにもがいているならばそれで構わない。そんな相手ならば俺も安心して背中を任せられるし、たとえそいつが原因で苦しむことになっても俺は間違った相手を選んだとは思わねぇし、そいつを誰かが責めることは是が非でも俺が許さねぇ。
そんな相手と結ばれるために頑張ることが恋愛だと言うなら、それはとても素晴らしいものだと心から思えるね。
……ん?
誰かが俺を呼んでるな。
そろそろ起きる時間かな。
ったく、らしくもなく押し付けがましい美意識を長々と語っちまったな……
こんなこと……起きている間は……誰にも聞かせられ……ない……な……
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和真「……んむ?」
秀吉「おお、起きたか和真」
和真「……秀吉か……一応聞いておくが明久達はどうなった?」
秀吉「お主の言った通り失敗じゃった……おまけに島田はもう協力してくれないじゃろうな」
和真「そんなことだろうと思ったぜ。そもそもあのファンタジスタが恋愛絡みで作戦通りに行くと思うこと自体間違いなんだよ」
秀吉「あとはもう、お主達の言う保険とやらが頼りじゃよ……」
和真「まぁ、いざとなったら任せておけ」
そう言っていつもの不敵な笑みを浮かべる和真は、先ほどの夢のことなど欠片も覚えていなかった。
綾倉「柊君からスポーツを取り除くことは誰にもできそうにありませんね」
蒼介「そもそもカズマは誰かに縛りつけられたりすることを心底嫌がる奴ですからね。納得できない指図は受けないし、誰かに従うのもご免被る、ましてや束縛なんて以ての外……常に自由でいることが、あいつの信条なのでしょう」
綾倉「あと、柊君は他人に求めるハードルが随分高いようですね」
蒼介「幼馴染みが私と飛鳥ですからね。昨日より今日の自分が、今日より明日の自分が秀でるようになるため私達は努力を怠らない。特に飛鳥は才能に恵まれなかろうが決して腐ることなく努力し続けてきた女性だから、和真はどうしても比べてしまい、失望せざるを得ないのです」
綾倉「おや?だったら橘さんに告白していてもおかしくはないですね」
蒼介「ところがそうはなりません。まだ明かすつもりは無いですがが、飛鳥と和真は恋愛面において、今回のテーマとは別の所で相性があまり良くありません。そして二人ともそのことを早い段階から薄々わかっています」
綾倉「……なるほど、おおよそ検討が付きました」
蒼介「そんなわけで、木下が自分のシゴキから逃げずに這い上がり対等に肩を並べるようになったことには、内心すごく喜んでいたと思いますよ?」
綾倉「橘さんと違って相性も良さそうですしね。……それにしても艶っぽさの欠片もない恋愛観ですね」
蒼介「ええ、これでは恋人と言うより相棒ですね……」