バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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今回初めて一万字を越えました。

内容はバトル一色です。



祝!UAが15,000を越えました!
ここまでこれたのは皆さんのおかげです!


起死回生のオーバークロック!

【大門徹VS佐藤美穂】

 

徹「どうした佐藤さん、そんな単調な攻撃では当たらないよ」

佐藤「くっ……このぉ!」

 

 

《英語》

『Aクラス 大門徹 331点

VS

Aクラス 佐藤美穂 187点』

 

 

闘いが始まった当初は両者の点数にそれほど差はなかったものの、闘いを進めていくうちに佐藤の点数がほぼ一方的に削られていき、現在では倍近くの差となっている。

その理由は単純明快で、〈佐藤〉の攻撃がなかなか当たらないのである。〈徹〉はスピードを犠牲にしているため、本来なら〈佐藤〉の攻撃をいかに受けきって反撃するかで勝敗が分かれる、という展開になるはずであった。しかし〈徹〉は緩慢な動きではあるものの的確に相手の攻撃をかわしていき、隙を見つけては身に付けたガントレットでカウンターに転じている。一方的になぶられているわけではなく〈佐藤〉も何発かは当たってはいるのだが、〈徹〉の防御力の前では微々たるダメージでしかない。

 

 

《英語》

『Aクラス 大門徹 313点

VS

Aクラス 佐藤美穂 86点』

 

 

佐藤「まさか大門君が、ここまで召喚獣の操作に精通していたなんて……」

徹「さっき久保も言っていただろう?男子三日会わざれば刮目して見よってね。もっとも、これは一日二日で身につけた技術じゃないんだけど」

 

徹の脳裏に浮かぶのは、清涼祭のときの手痛い敗北。接戦だった雄二との闘いはともかく、手も足も出なかった小暮との闘いは未だに苦い記憶として徹の中に染み付いている。執念深いことで有名な徹は来るべきリベンジに備えて、あれ以降時間を見つけてBクラスの源太を誘いつつ入念に爪を研いで来たのである。

 

佐藤「やぁぁっ!」

徹「厳しいことを言うけど、戦闘経験の乏しい君程度では練習相手にも……ならないよ!」

佐藤「そ…そんな……」

 

 

《英語》

『Aクラス 大門徹 298点

VS

Aクラス 佐藤美穂 戦死』

 

 

一か八かで渾身の攻撃を叩き込もうとした〈佐藤〉よりも早く、〈徹〉は相手の顔面に拳を叩き込む。修練の末に身に付けた新技『真クロスカウンター』によって、〈佐藤〉は討ち取られた。

 

徹「さてと、どうせ必要ないとは思うけど一応和真の加勢に行くとするか……」

 

呆然とする佐藤をその場に残し、徹は和真のもとにゆっくりとした足取りで移動する。

 

 

 

 

徹、WIN!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【久保利光VS姫路瑞希】

 

姫路「申し訳ありませんが、早急に決着を着けさせてもらいます!サモン!」

久保「残念だが姫路さん、今の君には負ける気がしないよ。サモン!」

 

 

《英語》

『Aクラス 久保利光 408点

VS

 Fクラス 姫路瑞希 408点』

 

 

幾何学模様から飛び出した二人の召喚獣の点数は奇しくも互角であった。間髪入れずにすぐさま両者の腕輪が光り出し、〈姫路〉からは全てを蒸発させる熱光線が、〈久保〉からは全てを切り裂く鎌鼬が発射される。二ヶ月前の闘いと同じく、二つの力がぶつかり合い拮抗することでその場に留まり、風と熱のエネルギーはぶつかり合うごとに中心にどんどん溜まり続けていく。

そしてやはり同じように、限界に達したエネルギーは空気を入れすぎて破裂した風船のように大爆発し、二人の召喚獣を容赦なく飲み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久保「うぉぉおおおっ!!」

姫路「えっ!?」

 

同じ展開であったのはここまでであり、そこからの展開は二ヶ月前の闘いとは全く違っていた。前回と同じく遠くまで吹き飛ばされた〈姫路〉に対して、同じく爆発によって吹き飛ばされるはずだった〈久保〉はどういうわけか爆発の威力をものともせずデスサイズで斬りかかってきた。

わけがわからない。

目の前で起こっている現実は姫路の理解を完全に逸脱しており、それゆえ姫路の思考はほんの一瞬だが停止してしまう。たかが一瞬されど一瞬、戦闘中にその思考の停止は致命的であり、〈姫路〉は体勢を立て直す暇もなく死神の鎌に両断された。ライバル同士の闘いは予想に反してあっさりと決着が着いた。

 

 

《英語》

『Aクラス 久保利光 176点

VS

 Fクラス 姫路瑞希 戦死』

 

 

姫路「ど…どうして、あの爆発の中を平気で……?」

久保「僕の召喚獣をよく見てみたまえ」

 

姫路は促された通りに〈久保〉を注視してみると、召喚獣の周りに竜巻がバリアのようにまとわりついている。そしてもう一つ…

 

 

《英語》

『Aクラス 久保利光 142点』

 

姫路「何もしていないのに……点数がみるみる減っていく……?」

久保「これが僕の新たな力、吉井君を守ると誓った僕が身に付けた能力、『風の鎧』だ。使用中どんどん点数を消費してしまうリスクがあるけどね。

……姫路さん、一つ良いかい?」

 

戦死してしまう前に召喚獣を消しつつ、久保は眼鏡に手を当てつつ真剣な表情ね問いかける。

 

姫路「な、なんですか?」

久保「以前の君との闘い、どちらが勝ってもおかしくない激闘だった。しかし今日君は僕にあっさり負けた。それはなぜか?単に僕の成績が向上したことや、僕が新しい能力を身に付けただけではないんだよ」

姫路「どういう……ことですか?」

 

言っている意味がわからないと困惑する姫路に、久保は容赦なく現実を突きつける。

 

久保「以前君は僕に言ったね。クラスの皆が好きだと。人の為に一生懸命になれる皆がいる、Fクラスが好きだと。

だから自分は頑張れるんだと」

姫路「はっ……はい……」

久保「あのときの姫路さんからは、その言葉に嘘偽りない強い意思と確固たる信念、そして凄まじい気迫が感じられたよ。

……しかし、今の君はどうだい?」

姫路「っ!?」

 

頭をトンカチで殴られたかのように衝撃が走る。

 

久保「君は覗きが許せないという正義感で武器を取っているのではないだろう?君は自分のプライドを守るために吉井君に剣を向けた。違うかい?」

姫路「そんな……ことは……っ!」

言い返そうとは思うものの、姫路の口からは否定の言葉がどうしても出ない。明久が自分以外の裸を見たいと思っていることが姫路の最も怒る理由であることは事実だからだ。言葉を返せない姫路に、久保はなおも突き放すように言う。

 

久保「今の君には、何があっても絶対に負けない。

大切な人を痛めつけようとした今の君には、負けるわけにはいかない。

吉井君を傷つけようとする今の君が、吉井君を守ろうとする僕に勝てる筈がない!……今の君はなんら警戒する必要は無い。悪いが失礼するよ」

 

言いたいことを言い終えた久保は、今にも泣きそうな姫路をその場に捨て置いて、さっさと和真のもとに移動する。

 

 

久保(這い上がってこい姫路さん。君は今まで何のために努力してきたのかを思い出せ!

突き放すように言ってしまったが、これが僕にできる精一杯の激励だ……

成績を争うライバルとして……そして、同じ人を思う好敵手として!)

 

 

 

 

久保WIN!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【五十嵐源太VS霧島翔子】

 

翔子「……五十嵐、邪魔をしないで」

源太「どうする坂本?どうやら俺様は邪魔者のようだが?俺様はあいつと闘えればそれでいいから、痴話喧嘩を先に済ませてしまえよ」

坂本「ふざけるな!全力で邪魔してくれお願いだから!そしてお前が助けてくれなかった場合に行われるのは、断じて痴話喧嘩なんて可愛いもんじゃねぇ……」

 

こちらはまだ闘い以前の小競り合いが続いていた。

源太としては翔子との決着は着けたいところであるが、馬に蹴られたくないので雄二達の小競り合いに首を突っ込むつもりはなかった。しかし死の危険を察知している雄二は源太を盾にしたまま梃子でも動かない所存である。

 

雄二「さっさと闘わねぇと科目切り替えるぞ!英語以外じゃ翔子には太刀打ちできねぇんだろ?」

源太「やれやれ、人遣いが荒いなテメェも。仕方ねぇから手伝ってやるよ。

……霧島、こういうのはどうだ?テメェが俺様に勝つか相討ちになったらこいつをテメェにくれてやる。そしたら煮るなり焼くなり好きにしろ。ただし俺様が勝ったら大人しく引き下がれ」

雄二「お、おい!?なに勝手に俺の命を賭け金にしてんだよ!?」

翔子「……わかった。絶対に負けない……!」

 

源太がどう考えてもこちら側が不利な提案をしたことに雄二は慌てふためく。それもそのはず、以前この二人が闘ったときは相討ちだったのだから。

 

源太「異論はないみてぇだな……じゃ、遠慮なくいくぜ。試獣召喚(サモン)!」

 

掛け声とともに、幾何学模様から源太の召喚獣が出現する。表示された点数は……

 

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 538点

VS

 Fクラス 霧島翔子 440点』

 

翔子「……っ!?」

雄二「う、嘘だろ!?」

 

学年首席の蒼介と同等……もしくはそれ以上の点数であった。敵である翔子は勿論、味方である雄二さえも開いた口が塞がらない。

 

源太「前にも言ったろ?俺様にとって高校レベルの英語なんざゴミ同然だって。あんときはイマイチだったが調子が良けりゃこのくらい余裕でとれる」

翔子「……それでも、負けるわけにはいかない……!アイスブロック!」

 

翔子の掛け声とともに、召喚獣の周りに氷の礫が幻想的に舞い踊る。それを満足そうに見届けると、源太は和真そっくりの不敵な笑みを浮かべた。強面な分童顔の和真より10倍怖いが触れてあげないのが情けというものだろう。

 

源太「そうこなくっちゃな。……だが、果たして俺様の新技を受けきれるかな?

 

 

 

千の刃!」

 

掛け声とともに〈源太〉の左腕から数えきれないほどの量の黒いナイフのようなものが次々と出現し、二人の召喚獣周囲に散布される。辺り一面どこを見回してもナイフで多い尽くされ、下手に動けばダメージを受けてしまうほどフィールド内に充満する。

 

翔子「……っ!」

源太「どうやら打つ手は無ぇみてぇだな。

……いくぜ、シュゥゥゥウウトッ!」

 

源太の合図と共に、ありとあらゆる方向から〈翔子〉目掛けてナイフの雨が降り注ぐ。〈翔子〉は生み出した礫を器用に操作しナイフを次々と打ち落としていくものの多勢に無勢、次第に圧倒的な物量に押されて〈翔子〉の体にナイフが刺さっていき、最終的には全身にナイフが突き刺さりまるでウニのような姿になってしまう。

当然点数など残っているはずもなく、この闘いは源太の完全勝利と言って良いだろう。

 

 

《英語》

『Bクラス 五十嵐源太 388点

VS

 Fクラス 霧島翔子 戦死』

 

 

翔子「……私の負け。でも一つ聞きたいことがある」

源太「腕輪能力のことだろ?」

雄二「翔子、何か気になることでもあるのか?」

翔子「……五十嵐の腕輪能力が以前闘ったときと異なっている」

雄二「なんだと?どういうことだ五十嵐?」

源太「こいつは『オーバークロック』ってやつでな、綾倉の先公曰く、腕輪能力の間違った使い方らしい」

雄二「間違った使い方だと?」

 

不可解な点に雄二は考え込む。“間違った”と言うからには何かしらの欠点があるはずである。

先ほどの戦闘を見るに、その能力は凄まじいものであったので、能力自体に欠点があるとは思えない。となると能力以外に何か問題が……?

そこまで考えが至った時点で、雄二は和真の第二の能力には凄まじい反動があったことを思い出す。

 

雄二「五十嵐、お前のオーバークロックとやらにはどんなデメリットがあるんだ?」

源太「本来ならクラスが違うテメェに教えるのはどうかと思うが、知られたところでどうってことないか……。

俺様のオーバークロックのデメリットは英語のみならず全教科から150点消費されることだ」

雄二「おいおい、リスクとリターンがまるで釣り合ってねぇじゃねぇかそれ……」

 

雄二の言う通り破壊力、制圧力ともに絶大だがあまりにも割に合わない能力である。

Bクラス最強クラスの源太でさえ一度使うと英語以外がFクラスレベルに下がってしまうというのだ。

普通の腕輪能力でさえ一般生徒程度なら一蹴することができるのに、わざわざこちらの能力を使う意義はほとんど無い。

 

そう、たとえば相手も腕輪能力持ちであったり、圧倒的不利な状況でもない限りは。

 

雄二「まあそれはともかく、五十嵐が勝ったんだから、大人しく引いて貰うぞ翔子」

翔子「……うん、約束だからしょうがない。

……でも雄二、一つだけ良い?」

雄二「な、なんだよ……?」

 

今度は何を企んでるのかと警戒する雄二だが、

 

 

 

翔子は目に涙を浮かべて上目遣いで訊ねる。

 

翔子「……どうしても、覗きを、したいの……?そんなに他の女の人が良いの……?

わ、私のことが、いっ、嫌に、なったのっ……?」

雄二「」

 

後半になると堪えきれなくなったのか嗚咽しながら、すがるように聞いてくる翔子を見て、

 

雄二、思考停止……!

 

雄二「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

翔子「……グスッ…………?……雄二?」

雄二「…………なあ翔子」

 

しばらくしてようやく意識が戻り、ばつが悪いのか照れ臭いのか頬を指で掻きつつ、雄二が口を開く。

 

翔子「………………何?」

雄二「俺が覗きをしないって約束したら、お前も俺達が学生でいる内には結婚云々の話は進めないって約束できるか?」 

 

そもそも雄二の当初の目的は、翔子に結婚の話を進めさせないことだ。翔子がそのことを我慢するなら、雄二には覗きに荷担する理由はなくなる。

 

翔子「…………わかった、我慢する」

雄二「…………そうか。お前がそう言うんなら、俺もバカな真似はやめよう」

翔子「……雄二……!」

雄二「……まあ確かに、お前と付き合っている身の上で覗きなんて駄目だよな-ってオイッ!?」

翔子「雄二っ!」

 

歓喜の表情で思わず雄二に抱きつく翔子。涙の跡を残しつつも、先程までとはうって変わって満面の笑みを浮かべて甘えてくる翔子に対して、雄二は顔を真っ赤にしつつも優しい笑顔で頭を撫でる。

 

そんな光景を呆れるような目で見る源太。

 

源太「やっぱ痴話喧嘩だったんじゃねぇかテメェら……。おい坂本、役目は果たしたし俺様はもう行くぜ」

雄二(そう言えばこいつがいたんだった……やべぇ死ぬほど恥ずい!)「お、おう……俺はここで脱落だ。手伝ってもらったのに悪いな」

源太「別に構いやしねぇよ。俺様も和真に一声かけてから抜けさせてもらうからな」

雄二「そ、そうか……俺が言うのもなんだが、ここまで手伝ったのに良いのかよ?」

源太「俺様の目的は霧島との決着だからな。……こんなナリしてっからよく誤解されるがよ、こう見えて倫理観はしっかりしている方なんだよ」

 

 

 

 

源太、WIN!

翔子もある意味WIN!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【和真VS優子、飛鳥、高橋女史】

 

高橋「私達を一人で……ですか……。随分と甘く見られたものですね」

優子「そうね、流石にカチンと来たわ」

飛鳥「私達が勝った後どうなるか、貴方なら勿論わかるわよね?」

 

捉えようによっては舐めてると思われても仕方がない宣言に、三人とも大層お冠の様子。

当事者でもない秀吉すらビクビクする一方、和真はそれでも余裕の態度を崩さない。心臓に毛が生えてるのではないかと邪推してしまうほどの豪胆さである。

 

和真「既に勝つことを想定してる辺り、アンタらも俺に負けず劣らず傲岸不遜だな。……サモン!」

 

軽口を叩きつつキーワードを口にする和真。

見慣れた幾何学模様から、巨大な槍を携えた和真の召喚獣が姿を現す。

 

 

《英語》

『Fクラス 柊和真 400点

VS

 Aクラス 木下優子 388点

 Aクラス 橘飛鳥 299点

 学年主任 高橋洋子 703点』

 

 

両者の点数の総計は絶望的なまでに差があるものの、和真の余裕を崩すには至らない。和真には既に勝利のビジョンが見えているのだから。

 

和真「まず優子、飛鳥。お前ら二人に謝っておくことがある」

飛鳥「いきなりどうしたのよ?」

優子「さっきの舐めた発言についてかしら?確かにカチンと来たとは言ったけど、そこまで怒ってるわけじゃ-」

 

 

 

 

 

 

和真「今回お前らのターンは無ぇってことだよ!

轟け!一斉閃光砲撃(ガトリングレーザー)!」

 

 

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

高橋「これは……オーバークロック!?」

優子「しまった!?和真には腕輪が!」

飛鳥「まずい!避け…」

和真「もう遅ぇ!逃げ場なんざありゃしねぇよ!」

 

〈和真〉から瞬時に展開された40門の砲身から、眩い閃光と耳をつんざく爆音とともに光速の殺人光線が放たれ、三人の召喚獣を無慈悲に飲み込んだ。

 

 

高橋「……ッ!」

優子「きゃあっ!?」

飛鳥「くっ、眩しい……!」

秀吉「(ボソボソ)ンじゃ」

 

 

辺り一面を強烈な閃光が満たし、その場の誰一人目を開けることすらできないでいた。ようやく目が光に慣れてきた彼等の目に飛び込んできた光景は、武器も装備も破壊され尽くすもどうにか立っている〈高橋〉と、武器を抱えることすらできないほど弱体化した〈和真〉の二体だけであった。残る二人の召喚獣の姿は無いが、どうやら跡形もなく完全になく消し飛ばされたらしい。

 

 

《英語》

『Fクラス 柊和真 1点

VS

 Aクラス 木下優子 戦死

 Aクラス 橘飛鳥 戦死

 学年主任 高橋洋子 85点』

 

 

高橋「やってくれましたね……!あなたのオーバークロックがこれほど強力だとは……!」

和真「その分デメリットも半端じゃないがな」

 

敗北を覚悟した高橋先生は悔しそうな顔になる。この残り点数と召喚獣のコンディションでは〈和真〉は倒せても散り散りなった和真達の仲間が戻ってくるか、その他のA・Bクラスの生徒が一人駆けつければ倒されてしまうであろうと、頭脳明晰な高橋先生には冷静に分析できてしまった。

 

高橋「ですが私にも学年主任としての矜持があります。柊君、あなただけでも私の手で……」

和真「そんなボロボロな状態でよく言うぜ。武器も防具もなくなったってのに」

高橋「ボロボロなのはお互い様ですよ。それに、今のあなたの点数ならデコピン一発で決着が着きます」

和真「そいつは絶望的だな。……ところで高橋センセ、アンタにも謝らなきゃならねぇことがあるんだ」

高橋「私にも……?いったい何を-」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「俺一人で相手をしてやるなんて、大嘘ついてごめんなさい(ヒラリ)」

 

 

ザシュッ

 

 

高橋「なっ!?」

 

 

和真が手のひらを翻すと同時に、高橋先生の召喚獣は背後から薙刀で首を斬られて絶命する。

 

高橋先生の召喚獣の背後に立っていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《英語》

『Fクラス 柊和真 1点

 Fクラス 木下秀吉 89点

VS

 学年主任 高橋洋子 戦死』

 

 

優子「秀吉!?」

飛鳥「優子の弟さん!?」

高橋「木下君……!?」

秀吉「和真、お主の作戦通りじゃのう」

 

他ならぬ、今までずっと和真の背後で戦局を不安そうに見守っていた〈秀吉〉であった。

 

和真「秀吉、」

 

和真は満足そうに頷きつつ、手を上げ、

 

秀吉「和真、」

 

秀吉もやり遂げたという顔をしながら手を上げ、

 

 

「「っしゃぁあああ!」」

 

パァァァアアアアアアンッ

 

 

二人とも力を込めてハイタッチした。

その結果、完全に力負けした秀吉が吹き飛び、そのまま仰向けに倒れることになる。

 

和真「…………………………すまん」

秀吉「謝るでない!?後生じゃから、その申し訳なさそうな表情はやめてほしいのじゃぁあああ!」

 

罪悪感を感じた和真は申し訳なさそうに謝るが、一人の男としてのプライドをズッタズタのボロボロにされた秀吉は涙目で和真に懇願する。先程まで呆然としていた三人、特に実の姉である優子は同情の眼差しで秀吉を見つめる。

先程のハイタッチの威力は、いつも優子が和真としているものと大体同じくらいの強さであったそうな。

今度からはもう少し優しくしてやるかと、弟に対する接し方を改めつつも、ふと先程のことに疑問が生じる。

 

優子「ちょっと待ちなさい秀吉。あんた、いつ召喚獣を喚び出したのよ?」

和真「秀吉、(ボソボソ)」

秀吉「…!……ゴホン……一体いつから、召喚獣を喚び出してていないと錯覚していた?」

優子「しばき回すわよ」

秀吉「わかった!おとなしく白状するからその拳をおろしてほしいのじゃ姉上!」

和真「なんでお前はいつも秀吉に対してだけやたら暴力的なんだよ!?」

 

悪戯心に満ちた和真の入れ知恵でやたら完成度の高い某五番隊隊長の物真似を披露するも、お姉ちゃん特権(脅迫)発動で泣く泣く素直に白状することに。

 

秀吉「和真の召喚獣が腕輪を発動させた直後、閃光と爆音に紛れてこっそりとサモンと唱えたのじゃ」

高橋「なるほど……慣れてきたとはいえ目もまだ眩んでいましたので、召喚してからも身を隠そうと思えば隠せたでしょうね」

飛鳥「やけに自信満々だったのは和真お得意のハッタリじゃなくて、勝利までの道筋がはっきりと見えていたからなのね」

優子「それにしても、よりによって秀吉にまんまと出し抜かれるとはね……」

 

三人とも和真達の作戦に感心しつつも、圧倒的戦力差を覆されたためとても悔しそうな顔をしている。

昨日までの借りを返せたことに満足しつつ、和真は秀吉と肩を組んで優子と飛鳥に向けて言い放つ。

 

和真「目には目を、連係プレーには連係プレーを、だ。Fクラスの底力、思い知ったか!」

飛鳥「……ええ、私達の完敗ね」

優子「…………むぅ」

 

飛鳥が負けを認める一方で、優子はやや不機嫌になる。目線が二人の組んでいる肩に集中している所を見ると、どうやらこれは負けを認めたくないからではないようだ。優子の心情を理解した秀吉は、冷や汗をかきつつもすぐさま和真と肩を組むのをやめる。

 

和真「とにもかくにも俺達の勝ちだ。

というわけで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

給水ターーーイム♪」

「「「「え?」」」」

 

 

突然テンションが不自然なほどアゲアゲになった和真に対して呆気にとられる四人。お構いなしに和真は懐から水筒とコップを3つ取り出し、それぞれに中身の液体を注いでいく。

 

 

 

 

 

濁った沼のような色をした液体を。

 

「「「……ッ!?」」」

高橋先生「おや、それは」

 

優子、飛鳥、秀吉の三人はそれを見た途端に顔を強ばらせるが、高橋先生だけは嬉そうにその液体を眺める。

和真は敵対していた三人に強引にコップを握らせると、やけに恐ろしく感じる満面の笑みで非情にも言い放つ。

 

和真「お馴染みの、綾倉特製野菜汁で~す♪

三人ともさっきまでの激戦で疲れているでしょ?

疲れた体を癒すには、これが一番だぜ♪」

優子・飛鳥(疲れた体にトドメを刺すの間違いでしょこの飲み物は!?)

高橋先生「まあ、お気遣いありがとうございます。では、いただきます」

優子・飛鳥「「!?」」

 

ゴクゴクゴク…

 

何の躊躇いも無く飲み干した高橋先生を、二人は信じられないような目で見つめる。このドリンクはあの鉄人でさえも葬った悪魔の兵器である。それを水みたいに飲むことができる高橋先生は、二人には別の生き物にしか思えなかった。

 

高橋先生「フゥ、やはり栄養補給にはこれに限りますね。……おや、どうしたのですか二人とも?」

飛鳥「いや……あの……」

優子「アタシ達は……そのぅ……できれば遠慮したいかなぁって……」

高橋「いけませんよ二人とも、他人の厚意は素直に受け取っておくものです。あまりに謙遜が過ぎることは美点にはなりませんよ」 

和真「まあまあ二人とも、遠慮することは無いんだぜ♪お前らには色々と迷惑かけたから、そのお詫びと思ってくれ!」

二人((絶対に厚意じゃない!絶対こいつはお詫びの感情なんて欠片も持ち合わせていないんです先生!))

 

 

高橋先生に飲むように促され、しどろもどろになっている二人に、とても良い笑顔を浮かべた和真が後ろから肩を組んで追い込みにかかる。先ほど秀吉に焼き餅らしきものを焼いていた優子も、こんな悪意に満ちたものを望んでいたわけじゃないだろう。

いかにも追い詰められたという表情を浮かべた二人に、和真は満面の笑みのまま高橋先生や秀吉には聞こえない声量で死の宣告を言い放つ。

 

和真「昨日の屈辱を俺がさらっと水に流すとでも思っていたのか……?お前らさっさと飲まねーと、無理やりにでも押し込むぞゴルァ♪」

 

和真は意外と執念深く、受けた屈辱はやり返すまで永遠に根に持つタイプである。無理矢理押し込む云々も当然ハッタリでもなんでもなく、このままゴネ続ければ情け容赦なく実行するであろう。それを付き合いの長い二人は察知したのか、恐怖に歪んだ表情から一転して覚悟を決めた表情になる。

 

優子・飛鳥(…………………………………南無三!)

 

 

ゴクゴクゴク

 

 

二人「くわぁっ!?」

 

 

ドサッ ドサッ(二人が崩れ落ちる音)

 

 

高橋「……おや?木下さん、橘さん、突然倒れたりしてどうしたのですか?」

和真「疲れて眠ったんじゃないですか?この合宿中ずっと頑張っていたし」

高橋「そうですか……。教師として恥ずかしいですね、二人のそんな状態に気付かず手伝わせてしまったなんて……」

和真「アンタに気付かれないよう隠してたんだと思うぜ?こいつら二人は真面目で責任感が強いから、たとえ疲れてようがどうしてもアンタ達教師を手伝いたかったんだろ。覗きなんてもんに荷担した俺が言うことじゃねーが、この二人のそういうところは……親友として誇りに思っている」

高橋「……きっとこの二人も、あなたと親友でいることを誇りに思っていますよ」

 

高橋先生の優しい言葉に対して照れ臭そうに目を反らす和真を、秀吉は複雑そうに見つめる。白々し過ぎやしないかというような眼差しで。

 




綾倉「終わってみれば男子勢の圧勝でしたね。今回のMVPは高橋先生を討ち取った木下君に決まりですね。今後この作品内での彼には『高橋女史を倒した木下秀吉』という肩書きがつくでしょう。ちなみに不安そうな表情などは全て彼の演技です」

梓「その大層な肩書き、重荷に感じなきゃええけどな。しかし原作通りの成績のままここまで戦果を挙げた木下弟は数ある二次創作でもかなりのレアちゃう?」

綾倉「今回のタイトルも【起死回生の(秀吉)!オーバークロック(もあるよ)!】に変えてもよろしいかと。
まあぶっちゃけると、99%柊君の活躍で、彼はおいしいところだけかっさらっていっただけですがね。事前に彼がこの作戦を嫌がっていたのは、柊君に対して申し訳なく思ったからです」

梓「どんな闘いをしようが勝ったモン勝ちやけどな。和真の方はそこんとこようわかっとる」

綾倉「さて、雑談はこのくらいにして本編で出た『オーバークロック』の説明をしたいと思います
このシステムは私がほんの遊び心で、学園長に無断で組み込んだものであり、コンセプトは『コストパフォーマンスを度外視した超必殺技』です。どれもこれも普通の腕輪能力を遥かに凌駕する強さを備えています。しかし全てに何かしらの重いデメリットを持っていて、格下相手に使う意義はオーバーキル過ぎてまるでありません。尚、強力であればあるほど比例してデメリットも大きくなります」

梓「ふーん、面白そうな能力やな。ちなみに腕輪持ちでも使える奴とそうでない奴がいるようやけど?」

綾倉「まだ秘密ですが、習得するには共通のある条件が必要になります」

梓「ある程度勘の良い読者やったら、あっさり気付いてまうかもな」

綾倉「さて、次回の後書きは『オーバークロック』の能力の詳細について発表しますよ」

梓「本編の予告はせんのに後書きはすんのかい!」


























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