バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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いよいよ覗き騒動も最終局面です。




栄光のウイニングロード

『いたわっ!主犯格の五人組よ!』

 

部屋を出てすぐのところに長谷川教諭率いる女子部隊が展開されていた。どうやら雄二達は徹底的にマークされているようだ。先陣を切るのはEクラス代表の中林宏美と副官の三上美子。

 

中林「長谷川先生!向こうの五人をやります!試獣召喚(サモン)」

三上「ここで沈めるわ!……サモン!」

雄二「サモン!」

 

先行してきた女子二人に対して雄二が召喚獣を展開する。

 

《数学》

『Fクラス 坂本雄二 283点

VS

 Eクラス 三上美子 108点

 Eクラス 中林宏美 116点』

 

中林「Fクラスの分際で……」

雄二「勉強してから出直してきやがれっ!」

「「きゃぁああーっ!」」

 

〈雄二〉が素早い動きで接近しそれぞれに拳を叩き込んだことで、二人の召喚獣は鎧袖一触とばかりに瞬殺される。ただでさえEクラスは戦闘経験に乏しい上に、Eクラスのエース級程度では既にAクラス上位レベルの雄二に叶うはずもない。

 

雄二「雑魚に構ってる暇はねぇ、先を急ぐぞ!」

長谷川「坂本君!待ちなさい!」

 

倒された中林達に遅れてこのグループの頭の長谷川先生が縋ってきたが、その判断はあまりにも遅すぎる。

 

須川「長谷川先生。残念ながらここは通しませんよ」

 

隙を逃さずクラスメイトの須川たちが長谷川先生と和真達の間に割って入る。

 

須川「坂本!ここは任せて先に行け!サモン!」

「「「サモン!」」」

 

壁を作るように須川たちが召喚獣を並べる。

 

明久「頼んだよ須川君!」

須川「任せろ!それより、きちんと鉄人を倒しておけよ!そうじゃないと、ここを片付けた後で覗きに行けないからな!」

明久「わかってるよ!ヴァルハラでまた会おう!」

 

須川たちに背を向けて廊下を走り出す俺たち。後ろからは教師を前に一歩も退かないクラスメイト達の怒号が聞こえてきた。

 

『翔子たん!翔子たん!はぁはぁはぁああっ!!』

『島田のぺったんこぉぉーっ!』

『姫路さん結婚しましょおーっ!』

 

和真(気色悪っ!?

もういっそのこと全滅してしまえ!)

秀吉「凄い士気じゃな。これならば三階の制圧は問題なさそうじゃ」

明久「皆の気持ちが一つになってるからね」

 

奥側の階段のところまで配置されていた教師は長谷川先生を含めて四人。共にした女子を含め、誰もがEクラスとFクラスの男子生徒に圧倒されていた。もはや三階は安全地帯と言ってもいいだろう。

 

ムッツリーニ「……だが、こっからが勝負」

雄二「そうだな。Dクラスだけで戦っているのか、Cクラスが参戦しているのか。援軍がいなければ、ここまでだな」

 

廊下でも戦闘の気配がする。もしDクラスだけで戦っているとしたら、教師の注意を潜って二階を通り抜けられるのほ難しいだろう。もっとも、二階を制圧されたら通過しても挟み撃ちにされてゲームオーバーなのだが。

 

ムッツリーニ「……躊躇っている時間はない」

和真「そうだな。鬼が出るか、蛇が出るかだ!」

 

 

広めの階段を五人で駆け下りる。二段飛ばしで進み、踊り場を曲がって見えた先には、

 

 

『俺たちの覗きの邪魔はさせない……サモン!』

『先生、覚悟してもらいます……サモン!』

『き、君たちまで……!どうして……!?』

 

 

《科学》

『科学教師 布施文博 563点

 VS   

 Cクラス 黒崎トオル 174点

Dクラス 平賀源二  149点』

 

明久「Cクラスの黒崎君に、」

和真「Dクラスの源二!」

 

昨日から力を貸してくれているDクラス代表の平賀と、参加を決意してくれたCクラスの中心である黒崎が、各クラスの男子を率いて応戦していた。

 

黒崎「ムッツリーニに見せてもらった浴衣姿の写真。この世に、あれほど胸を熱くするものがあっただろうか?」

平賀「俺達は心底、あの浴衣の中を見たいと思った!」

和真(格好良く言ってるけど、内容はただの変態だよなこれ……)

 

士気にかかわるので、和真はふと思った本音を胸の奥にしまって厳重に封印することにする。

 

雄二「Cクラス・Dクラスの野郎ども、協力に感謝するっ!二階は……俺たちの背中は、お前らに任せるぞ!」

平賀「俺達も、お前らに夢を預ける!」

黒崎「D・Cクラス一同!あいつらに道を作るんだ!栄光の、ウイニングロードォォォ!」

『『『おおおーーっ!』』』

 

頼れる仲間に戦場を託し、雄二達はゴールに向かってひたすら突き進む。

 

明久「あのさ、こういうのって凄く嬉しいよね」

秀吉「そうじゃな。仲間が増えていく喜びとでも言うべきじゃろうかの」

和真「その分、仲間だった女子が敵だけどな」

明久「そこは気にしない方向で」

 

これで二階も制圧しただろう。残った問題は最大の難所である一階と風呂場前。

 

明久「この調子ならA・Bクラスもきっと協力してくれるよね!」

雄二「いや……Aクラスはわからん」

ムッツリーニ「……久保に、あの写真は聞かない」

明久「そんなぁ!?ま、まさか……久保君はもっとすごいコレクションを……?」

「「「「…………」」」」

 

更に階段を降り、一階に近づく。ここで両クラスの協力がなければ戦闘の音が聞こえないはずなのだが……。

 

『……護してくれっ……』

『……メだ!……倒的過ぎる……!』

 

どうやら一階で戦闘自体は行われているようだ。

 

明久「よしっ!これで一階の制圧もうまく……」

雄二「いや、違う!様子がおかしいぞ!」

 

踊り場で折り返し、階下の様子を見渡す。

するとそこには、教師・女子生徒連合軍に押されているBクラス男子の姿があった。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 霧島翔子 4762点

Fクラス 姫路瑞希 4422点

 VS   

 Bクラス 加西真一 1692点』

 

 

Fクラスの双璧である二人の圧倒的な戦力差に、為す術も無く仲間が倒されていく。

 

翔子「……………雄二。オイタはそこまで」

姫路「ここは通しませんよ、明久君」

雄二「翔子か……っ!」

明久「姫路さん……っ!」

 

地下へと続く階段の手前。そこには翔子と姫路が待ち構えていた。周囲には既に打ち倒された召喚獣が死屍累々と転がっている。和真は作戦のキーマンとして、腕を組んで後ろで壁に寄りかかって待機している源太に近寄る。

 

和真「聞くまでもねぇが、戦況は?」

源太「言うまでもねぇが、絶望的だ。まずAクラスが参加してねぇのが痛ぇ」

 

周囲を見回してみても、ここの総合科目戦闘でも、離れたところの物理科目戦闘でも、Aクラスの生徒らしき姿は見当たらない。どうやら立ち上がってくれたのはBクラスだけだったようだ。

 

源太「それに加えてこの用心深い布陣だ。ハッ、もう笑うしかねぇな」

 

階段前の向こうの配置に目をやり、源太は渇いた笑みを浮かべる。階段の真ん中に高橋先生がいて、先生はそこを動く気配を見せない。その周囲に霧島、姫路、優子、飛鳥に佐藤までも立っている。あくまで高橋先生は階段を通過しようとするヤツを打ち倒すだけで、あの場を動かない以上隙をついての突破は難しい。

 

明久(雄二、例の隙を作る方法は?)

雄二(それは問題ないが、通過したあとで地下で挟み込まれる。最低でもここの連中を退き付けておく程度の戦力がないと話にならない)

和真(認めたくねぇが……ここまでなのか……?)

 

高橋先生達だけでも手に余る上、Bクラスの大部分は途中にいる物理の木村教諭と英語の遠藤教諭に手間取っているようで援軍は期待できない。

あまりに絶望的な状況に、さしもの和真もいつもの笑みを浮かべる余裕も無いほどに、この合宿に来て初めて戦意を無くしそうになる。

 

『もうこれ以上は無理だ……。こんな絶望的な戦況、覆せるわけがない』

『だいたい、姫路と霧島が入っていないのなら、覗く価値がないじゃないか……』

 

そんな和真達の状態が伝染したのか、残されたBクラスの二人達が弱音を吐き始める。

 

明久「……諦めちゃダメだっ!二人が入ってなくても……女子が入っているんだよ!?」

『そんなこと言ったって……』

明久「この世に……除く価値の無い女子風呂なんてない!だからっ……だから!」

 

しかし、明久の闘志だけは折れていない。

そんな明久の鼓舞を見て、秀吉と和真が驚いたような表情で訊ねる。

 

秀吉「明久。なぜここまで圧倒的に不利な状況にありながら諦めないのじゃ?お主は観察処分者じゃ。痛みのフィードバックもある。そこまでして写真を取り戻そうとして、苦しい思いをする必要はないじゃろう?」

和真「士気を下げるからできれば言いたくなかったけどよ、今更写真の一枚二枚じゃあ、お前の評価は大して変わらないんじゃねぇか……?」

 

秀吉と和真の疑問はもっともである。観察処分者のフィードバッグはちょっと痛い程度では済まない。ここまで圧倒的な、和真でさえ挫けそうな状況なら、恥ずかしい写真のことなんか諦めて余計な痛みを味わう前に投降するのが懸命だ。

 

明久「秀吉、和真……確かに最初は写真を取り戻すつもりだった。真犯人を捕まえて、覗きの疑いを晴らすつもりだった。……でも、こうして仲間が増えて、その仲間たちを失いながらも前に進んで、初めて僕は気がついたんだ」

和真(なんだろう、嫌な予感がする……そこはかとなく嫌な予感がする……)

秀吉「明久。お主、何を言って…」

 

明久「たとえ許されない行為であろうとも、自分の気持ちは偽れない……。

 

 

正直に言おう。僕は……

 

 

 

 

純粋に……!

欲望の為に!

女子風呂を覗きたいっ!!!」

 

秀吉「お主はどこまでバカなんじゃ!?」

和真(スマン明久……こんな奴に手を貸すんじゃなかったと割と真剣に後悔してしまった薄情な俺を許してくれ……)

源太(あの和真がすげぇ疲れた顔してやがる……こいつもこいつで色々苦労してるんだな……)

優子(あとで労ってあげよう……)

飛鳥(そりゃないでしょ吉井君……)

 

もうこのバカの頭の中には脅迫や真犯人のことなど存在していない!そこにあるのは、女子のいる風呂を覗したいという、純粋かつ下劣極まりない欲求のみである!

 

瑞希「明久君……!そこまでして、私じゃなくて美波ちゃんのお風呂を覗きたいんですね……!もう許しません!覗きは、いけないことなんですからねぇぇぇ!」

 

明久「試獣召喚(サモン)!

世間のルールなんて関係ない……誰にどう思われようと、僕は僕の気持ちに、正直に生きるんだぁぁぁ!」

 

突撃してくる〈姫路〉を迎え撃とうと、敵わないと知っていながら召喚獣を喚ぶ明久。

 

するとその時、

 

 

 

『よく言った、吉井明久君っ!』

 

 

聞いたことのある声が廊下に響き渡った。

 

姫路「だ、誰ですかっ!?」

 

気勢を削がれた形になり、召喚獣の動きを止めて声の主を探す姫路。声がした方向には眼鏡をかけた優等生、学年次席にしてAクラス代表代理の片割れ、久保利光が立っていた。後ろにはやる気に満ちたAクラス男子生徒の姿もある。

 

久保「待たせたね、吉井君。君の正直な気持ち、確かにこの僕が聞き届けた」

明久「久保君っ!来てくれたんだね!」

久保「到着が遅れてしまってすまない。踏ん切りがつかず、準備しながらもずっと迷っていたんだが……さっきの君の言葉を聞いて決心がついたよ」

明久「決心がついたって、それじゃあ……!」

久保「ああ。今この時より、Aクラス男子総勢二四名、吉井明久の覗きに力を貸そう!クラスの皆、聞こえているな?全員、吉井明久を援護するんだ!」

 

『『『おおおーーっ!』』』

 

秀吉「お主らは何を言っておるんじゃ!?全員正気を保ムグゥっ!?」

和真「気持ちはわかるが今は黙っててくれ!ようやくこっちに運が向いてきたんだからよ!」

 

勝ちの目が見えたことにより闘志を取り戻した和真は、余計なことを言いそうになる秀吉の口を慌てて塞ぐ。

 

明久「ありがとう久保君!君たちの勇気に心から感謝するよ!」

 

ついにAクラスが仲間になった。これで蒼介以外の文月学園第二学年男子全員が参戦したことになる。

 

久保「感謝するのは僕のほうだよ。君が言ったとおり、自分の気持ちは偽れない。

世間には許されなくても、

 

 

好きなものは好きなんだ!!!」

和真(そしてこいつは真性だった、と……今までの俺の抵抗を返してくれ)

姫路「お仕置きの邪魔をしないで下さい!」

久保「そうはいかないよ姫路さん。僕ら彼に協力すると決めたんだ。西村先生を打倒する唯一の力を、ここで失うわけにはいかない!……サモン!」

 

久保の掛け声と共に、幾何学模様から召喚獣が出現する。二刀流のデスサイズという、久保の性格に反した超攻撃的スタイルの召喚獣が、〈姫路〉と鍔競り合う。

遅れて点数が表示される。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 姫路瑞希 4422点

 VS   

 Aクラス 久保利光 4438点』

 

 

「「「な、なにィィィ!?」」」

和真(知らん内にここまで伸びてたのかよ!?)

姫路「うっ……前より力が……!?」

久保「男子三日会わざれば刮目して見よと言うだろう?

二ヶ月前の借り、ここで返させて貰う!」

 

以前よりもパワーアップした久保が姫路を押さえ込み、Aクラス生徒達が戦況を巻き返し始める。千載一遇のチャンス到来だ。

 

和真「雄二、今だ!」

雄二「わかっている!明久、ムッツリーニ!階段へ向かって走れっ!」

 

援軍に驚いている翔子達を抜いて、和真と雄二が高橋先生の前に走り出た。明久とムッツリーニもそれに続く。

 

高橋「まさか、Aクラスまで協力するとは思いませんでしたが……問題はありません。ここは誰であろうと通しませんから……サモン!」

 

高橋先生の召喚獣が姿を現すが、そんなことは雄二達にも折り込み済みだ。

 

雄二「高橋女史!悪いがここは通らせてもらうぜ!」

和真「雄二、英語だ!」

雄二「わかっている!……起動(アウェイクン)!」

 

雄二の掛け声を受け、白金の腕輪が起動する。雄二の腕輪の能力は、召喚フィールドの作成。

つまり……

 

高橋「干渉ですか……!やってくれましたね坂本君……!」

雄二「行けぇ、明久っ!鉄人を倒して、俺たちを理想郷に導いてくれ!」

和真「こいつらを倒してから俺達も加勢に行く!せめてそれまで持ちこたえろよ!」

明久「任せとけっ!」

 

異なる二種の召喚フィールドが同じ場所に展開され、双方の効果が打ち消される。今この場に召喚獣は一体もいない。そうなれば相手は生身の女。体力バカの明久達にとって脇を駆け抜けることなど造作もない。

 

『吉井たちに続けーっ!』

高橋「く……!吉井君と土屋君は逃がしましたが、あなたたちまで通しません!」

 

明久達に他の男子が続く前には、既に高橋先生が召喚獣を喚び直していた。

 

雄二「流石は高橋女史。判断が早い……!」

 

どうやら高橋女史は自分の召喚フィールドを消したようだ。そうなると雄二の召喚フィールドが残って召喚獣が再び姿を現す。白金の腕輪は少々点数を消費する上に使用中は使用者が召喚獣を召喚できないから雄二は簡単にフィールドのON・OFFができない。そして現在の科目は和真の指定した英語。

 

和真「予定通り、ここからは俺達の仕事だ!源太は翔子を、久保は姫路を、徹は佐藤を倒せ!他の奴はその他の雑兵どもを刈り取るんだ!」

 

『了解!』

 

和真の指示にしたがって、相手側の特に厄介な戦力をこちらのキーパーソンで仕留めにかかる。翔子達もプライドを刺激されたのか、真っ向から迎え撃つ。

 

高橋「中々バランスの取れた戦力割り振りをしますねすね」

木下「でも、まだまだ甘いわね」

飛鳥「フリーになった私達は、いったいどうするつもりなのかしら?」

 

昨日自分に土をつけたAクラスコンビとラスボスに真正面から向かい合う。不安そうに見ている秀吉を庇いつつも、和真はいつもの不敵な笑みを浮かべて言い放つ。

 

和真「おいおい慌てなさんな。安心しろ、アンタらは……俺が一人で相手してやるからよ」




科目:英語

源太VS翔子
久保VS姫路
徹VS佐藤
和真VS優子、飛鳥、高橋先生
ムッツリーニVS愛子、大島先生
明久VS鉄人

綾倉「どの試合もかなりの好カードですね。どちらが勝ってもおかしくない」

蒼介「約一部とんでもない戦力差だがな……」



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