蒼介「あなたは何故、よりによってあいつにあんなものを与えたのですか……?」
綾倉「彼と私は色々と通じ合うものがあるので♪」
和真「さてと、優子達が来る前に西村センセを始末しておくか」
明久「あ、確かに鉄人に止められるかもしれないからね。でもどうやってあの鉄人を?」
和真「正攻法じゃなけりゃ、やりようはある」
そういうと和真はカバンから水筒を取りだし、部屋に備え付けてあるコップに中の液体を注いでいく。
濁った沼のような色をした液体を。
「「「「……ッ!?」」」」
雄二、明久、秀吉、ムッツリーニの四人はそれを見た途端に顔を強ばらせる。そんな四人に構うことなく、和真はコップを片手に廊下へと続くドアを無造作に開ける。
途端に鉄人の拳が飛んでくるが、和真はコップを持っていない方の手で難なくはたき落とす。雄二や明久用の手加減された拳のため、和真は中の液体を一滴も溢すことなく余裕で対処できた。
鉄人「……何のつもりだ柊」
和真「合宿先でも休むことなく激務に追われている西村センセに差し入れ持ってきただけっすよ」
鉄人「誰のせいで激務に追われていると思……っ!?」
呆れたような表情になる鉄人だが、和真の持っているコップに気付いた途端凍りついたように固まる。
和真「さぁ、グッといっちゃってグッと♪安心してくれ、神に誓って変な物は入れてないっすから」
鉄人「そのドリンク事態が既に変な物だろうが……。何で生徒のお前がそれを持っているんだ……
その、綾倉先生特製野菜汁を……」
和真「以前理数系の勉強教えてもらうついでに伝授してもらったんすよ」
鉄人「あの人は何てことをしてくれたんだ……」
特製野菜汁とは、綾倉先生が趣味で製作した悪魔のドリンクである。「栄養バランスに優れることや健康に良いといった大義名分を維持しつつ、どれだけ不味い飲み物を作ることができるか」という悪意に満ちたコンセプトで作られており、教師が何か軽い失態を演じる(例えば定期的に行われている教員用テストで目標点に届かなかったり)たびに綾倉先生が権力を行使して強制的に飲ませており、何故か平然としている高橋先生を除いた全ての教師が多大な被害を被ってきた。
無論、強靭な肉体を持つ鉄人でさえ例外ではない。
和真「さあさ飲んで飲んで。生徒の好意は素直に受け取るべきだぜ♪」
鉄人「あのな柊……」
和真「つうかよ西村センセ、」
非常に楽しそうに特製野菜汁を薦めていた和真だったが、何故か突然真剣な顔つきで鉄人を睨み付ける。
和真「俺に勝っといて、たかだか不味いだけの飲み物にビクビクしてんじゃねぇよ」
鉄人「む……」
和真「ああ、ぶっちゃけ面白半分で薦めてるよ。一昨日に土をつけられた腹いせも少しはある」
鉄人(薄々それはわかっていたが、少しは取り繕わんのかこいつは……)
和真「だけどアンタは言ったじゃねぇか……向かってくる生徒は正面から受け止めるって!あれは嘘だったのかよ!?」
鉄人「……!」
和真は悲痛そうな表情で声を荒げて鉄人を糾弾するが、勿論腹の中では爆笑している。
だが、生徒にここまで言われて立ち上がらない鉄人ではない。
鉄人「良いだろう!あのときの俺の言葉が、でまかせなんかではないと教えてやろうじゃないか!コップを渡せ柊!」
和真「西村センセ……!」
内心でガッツポーズを取りながら、和真は表面上は尊敬の眼差しを浮かべつつ特製野菜汁を鉄人に渡す。
鉄人(…………南無三!)
ゴクゴクゴク…
・
・
・
・
・
鉄人「少し席を外すが、部屋からは出るんじゃないぞ(スタスタスタ)」
和真「了解♪」
無謀にも一気飲みした鉄人はしばらく耐えていたが、限界が来たのかその場から席を立つ。廊下ではゆっくりと歩いていたが、角を曲がって和真の視界から外れた途端に全力疾走する音が聞こえてきた。
何とかギリギリのところで教師としての面子は守り通したものの、結果は惨敗と言って良いだろう。
和真「よし、邪魔者排除完了♪」
雄二「お前……悪魔だな……」
ムッツリーニ「……血も涙もない」
明久「さらば鉄人。安らかに眠れ……」
秀吉「中々の演技力じゃったぞ。今度演劇部に顔を出してみないかの」
和真「考えておく」
一仕事終えてスッキリした表情をした和真をドン引きした表情で迎える二人と、弔うように十字を切る明久。どうやら以前に綾倉特製ドリンクの威力を味わったことがあるようだ。一方、演劇バカの秀吉は和真の迫真の演技に光るものを感じたのか、さりげなく部活に勧誘をしていた。
コンコン
控えめなノックの音が扉から聞こえてきた。
明久「あ、いらっしゃい、姫路さんに木下さん」
優子「さっき鬼気迫る表情で全力疾走する西村先生を見たんだけど、アンタ達いったい何をやったの?」
和真「特製ドリンクで抹殺しただけだ」
優子「アンタ容赦ないわね……」
ちなみに最近和真は『アクティブ』内でもこのドリンクを罰ゲームに組もうとしている。どうやらサディストの考えることは一緒のようだ。
姫路「ところで、明久君はどうして浴衣姿なんですか?」
明久「これ?部屋にあったのを着てみたんだ。折角あるならと思ってさ、似合うかな?」
実は明久の着替えがガラスまみれになったからなのだが、いちいちそんなことを説明する必要もないだろう。
姫路「はい!綺麗な肌や細い鎖骨が凄く色っぽくて!」
明久「…そ、そうかな」
優子「和真、姫路さんは吉井君に何を求めているのよ……?(小声)」
和真「何も言うな優子。Fクラスの過酷な環境で生活するなかで、姫路は色々と大切なものが失われつつあるんだよ(小声)」
もう新学期の頃の清廉潔白品行方正な、優等生そのものだった姫路には戻れないと言って良いだろう。
雄二「二人とも、よく来てくれた」
姫路「こんばんわ坂本君」
優子「お邪魔するわ」
雄二「早速だが、プレゼントだ」
雄二が手に持っていたものを姫路達に手渡す。
瑞希「浴衣、ですか?ありがとうございます。ところで話って……?」
優子「……アタシ達に何をさせるつもりよ?」
姫路は何の脈絡もなく手渡された浴衣に戸惑っていた。
優子は薄々わかってきたが一応尋ねておく。
明久「話というか、二人にお願いがあるんだ」
姫路「お願い?」
明久「うん。実はね、その浴衣を着た二人の写真を撮らせて欲しいんだ」
姫路「え……っ?」
優子「そんなことだろうと思った……」
姫路は突然の話でパチパチと瞬かせ、優子はあまり当たって欲しくない推測が的中したのか嘆息する。
和真「明久、姫路に詳しく説明しておけ。優子はちょっとこっちに(チョイチョイ)」
優子「はいはい……」
明久「え!?あ~、その、なんて言うか……」
姫路に関しては明久が一人で説得した方が上手く行くと判断し、和真は優子を連れて二人から離れる。
優子「それで、何でアタシにそんなことさせるのよ?」
和真「詳しく話すと長くなるから簡潔に説明するが、A~Cクラスの男子を味方に引き込むためだ」
優子「……あのねぇ、一応アタシはアンタ達を止める側よ?堂々とそんな魂胆バラしちゃって良いの?」
和真「お前に半端な隠し事はすぐバレるからな。流石は秀吉キラー」
優子「誰が秀吉キラーよ……。わかったわ、引き受けて上げる。その代わり今度何か奢ってよ?」
和真「交渉成立だな。しっかしお前も随分柔軟になったもんだ、初めて会った頃はもっとガッチガチの堅物だったのによ」
優子「そう言うアンタこそ、初めて会った頃は今よりずっと無鉄砲な性格だったでしょうが。代表や飛鳥は随分苦労したそうじゃない」
呆れるように嘆息しつつも、あっさり了承してくれる優子。立場上止めなくてはならないものの、和真達が覗きそのものではない明確な目的があると薄々察しているためである。
交渉を終わらせた和真達は明久達のもとへ移動する。明久と和真はアイコンタクトで、お互い交渉成立したことを伝え合った。
優子「さっさと済ませてしまいましょう」
姫路「そうですね木下さん。ちょっと着替えてきます」
明久「二人とも、ちょっと待って」
姫路「はい?」
優子「どうしたの吉井君?」
明久は二人を呼び止めると、和真と雄二にアイコンタクトで『姫路さんたちに写真を見せることを教えるからね』と送ってきたので、和真は『そりゃそうだろ』、雄二は『まさか教えないつもりだったのか?』と送り返す。
明久「実は撮る写真なんだけどさ、友達とかに見せてもいいかな?」
優子「……アタシは別に構わないわ」
姫路「浴衣姿をですか?そ、それは少し恥ずかしいです……」
和真から目的を教えられた優子はある程度覚悟していたのか少々躊躇いつつも了承するものの、事情を教えられていない姫路は恥ずかしがってやんわりと断ろうとする。
雄二「何を言っているんだ姫路。浴衣姿程度で恥ずかしいと思っていたら明久の存在はどうなる?バカの上に変態なんて、生きていけないほど恥ずかしいことじゃないか」
明久「放して和真っ!雄二の頭をカチ割ってやるんだ!」
和真「気持ちはわかるけど今は我慢しろ!」
優子「秀吉と和真から色々聞いてはいたけど、この二人って本当に友達なの……?」
秀吉「明久と雄二の絆はトイレットペーパーより薄っぺらいからのう……」
彼等二人の関係は、本人達曰くこの先いつまでも他人未満宿敵以上だそうだ。
雄二「とは言え、何もタダで頼もうってワケじゃない。それなりの礼はさせてもらおう。木下姉にも用意しているぞ」
そう言って雄二は明久や和真から遠ざけるように姫路達を手招きする。二人は特に警戒することもなく雄二に歩み寄り、三人は和真達に背を向けて小声で会話を始めた。
明久「何の話をしてるのかな?」
和真「さぁな」(姫路の方はだいたい予想はつく。大方明久の写真かなんかだろ。だが優子の方は何だ……?こそこそやってる以上俺に聞かれたくねぇってのはわかるが、俺と優子はそういうのじゃねぇしな……)
雄二「交渉は成立した。問題ないそうだ」
姫路「はいっ!少しくらいなら浴衣の裾をはだけてもいいですっ!」
優子「アタシも多少のことなら我慢するわ」
和真「お前何貰ったんだよ?」
優子「言いたくないって言ったら?」
和真「じゃあしゃあねぇな」
多少気になったものの、嫌がる相手から無理矢理聞き出してまで聞きたいとも思えないため、さっさと興味を無くす和真。
明久「とにかく協力してくれてありがとう。それなら早速準備をお願いできる?」
優子「わかったわ」
姫路「はいっ!」
浴衣を抱えて部屋のトイレに入る姫路と優子。衣擦れの音が妙に明久の心を乱している傍ら、和真は秀吉とあることについて話していた。今さらではあるが秀吉は既に撮影を済ませて、和真の指示に従って普段着に戻っている。
和真「秀吉、お前も浴衣着て撮影に参加したってことは優子には絶対に隠し通しておけよ」
秀吉「言われるまでもないのじゃ。ワシも命は惜しいからのう」
ただでさえこの部屋には鉄人をも葬り去る悪魔のドリンクがあるのだ。もしバレたら秀吉に対してやたら厳しい優子のことだ、どんな末路を迎えるのか容易に想像できる。
ムッツリーニ「……………(キュッキュッ)」
ちなみにムッツリーニは一心不乱にカメラのレンズを磨いている。妥協を許さない職人気質と言えば大分聞こえはよくなるだろうが、彼を突き動かすのは勿論欲望のみである。
明久「ムッツリーニ。お願いがあるんだけど?」
ムッツリーニ「……?」
明久「あのさ、一枚だけでいいから、その、僕と姫路さんのツーショットを……(小声)」
ムッツリーニ「……貸し、一つ(ニヤリ)」
なんやかんやでムッツリーニが血の海に沈んだりした為に若干時間はかかったものの、優子と姫路の浴衣は無事写真に収めることができた。
写真を撮り終えて二人が自分の部屋に戻ると、早寝早起きを心掛けている和真はもちろんのこと、明久達も昨夜に遅くまで鉄人のシゴキに遭っていたせいもあってか、部屋はすぐに電気を消してすぐに寝息が聞こえ始めた。
そのせいか、誰も部屋に誰かが入ってきたことに気づかなかった。
?「……キ、起きて……」
明久「んむぅ……」
明久はゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚に意識が覚醒しそうになるものの、非常に疲れてるため無視することにした。
?「もう、どうして寝てるのよ……」
ユサユサ
明久「んにゃっ!」
鬱陶しくなったのか、揺さぶる手を払いのける明久。
?「起きなさいっての」
ゴキッ ゴキン
明久「っっっ!?」
侵入者は明久の左手の関節を外し、さらに証拠隠滅の為にハメ直した。もう既にお察しであろうが、侵入者の招待は先ほど明久から告白紛いのメールを受け取ったらしき美波である。
美波「アキ。起きた?」
明久「え?ああ、なんだ美波か。それなら納得だよ」
そこは納得するところではないと思うが、明久ひいてはFクラスに生半可な常識は通じない。
明久「ってどうして美波がムグゥッ!?」
美波「大声ださないのっ」
慌てた様子で美波が明久の口と、何故か鼻も塞ぐ。
美波「目が覚めた?落ち着いたなら手を離すけど……」
明久「……!(コクコクコク!)」
美波の言葉に激しく頷く明久。ちなみにこういう場面で塞ぐのは口だけで充分である。
美波「大きな声を出しちゃダメだからね……」
そう告げて美波は明久の気道を開放する。明久は足りなくなっていた酸素を充分体に蓄えてから、もう一度正面にいる姿をじっと見る。
明久「……え~っと、美波、だよね……?」
美波「……なによその目は?」
どうやら明久は髪を下ろしていつもと大分印象の変わった美波に見惚れている様だった。
美波「……アキ……?」
不安げに明久を見つめている美波は、常日頃の勝ち気で男勝りな雰囲気とはうって変わって心細そうで、とても彼女にしたくないランキング上位に名を連ねている女子にはとても見えない。
明久(……でも、どうして美波が夜中に僕の部屋にいるんだろう?)
このような時間に女子が男子部屋に来るなど余程のことが無い限り有り得ない。服装もかなり薄着なのだから、何らかの間違いが起こる可能性もゼロではない。
そこまでのリスクを冒してまで美波が来た理由は何なのか?
そこまで考えて明久は、疲れで脳が麻痺していることも上手い具合に作用したのか、
明久(もしかすると、だけど……美波は僕のことが好き、だとか……?)
普段ならば決してたどり着くことの無い核心へと迫る。
が、
明久(いやいやいや、落ち着け僕!そんな短絡思考でどうする!いつもはバカだバカだと言われているけど、本当は物事をよく考える頭のいい男のはずだろう?この程度のシチュエーションで向こうが僕に惚れているなんて考えるのはあまりに単純じゃないのか?)
深読みし過ぎた明久は、いつものように核心から遠ざかっていく。
明久(以前和真にも言われたじゃないか!困ったときには冷静に物事を整理して考えるんだ。状況を分析にして、じっくりと考えてみよう)
《クラスの女の子が薄着で真夜中に僕の前にいる》
↓
《イケるっ!》
明久「あれ!?やたらと単純!?」
美波「アキッ、邪魔者が起きちゃうでしょ!?」
奇しくも再び核心に近付くものの、美波によって再び口を塞がれたため、明久はさらに考えを巡らせる。
《イケるっ!》
↓
《でも本当に僕のことが好きなんだろうか?》
↓
《今までの行動を見る限り有り得ない》
↓
《そういえばさっき告白紛いのメールを送ってしまった》
↓
《きっと美波は気分を害している》
↓
《美波は全てをなかったことにしようと考える》
↓
《夜中+浸入+全身凶器》
明久「……美波。せめて苦しまないように頼むよ……」
美波「……アンタってどういう思考回路しているの……?」
紆余曲折を経て最終的に暗殺、闇討ちなどの結論に達してしまったようだ。まあ普段の美波の行動を考えればそういう結論に至ったのも仕方ないことも事実ではあるが。
美波「……その、ウチだって勇気を出してここまで来たんだよ……?だから、その、ああいうことはメールじゃなくて、きちんとした言葉で……」
明久「ほぇ?」
一瞬混乱した後、既に暗殺だと断定している明久は辞世の句的な意味であると解釈する。そしてやはりまだ死にたくないので、周囲の状況を見回して打開策を考える。
今、明久の周囲にあるものは……
・可愛らしい秀吉の寝顔
・普段とは全く別物の、和真の純粋無垢な寝顔
・カメラを構えているムッツリーニ
・浴衣姿で雄二の布団に侵入しようとしている翔子
明久「………………」
何か色々間違っているように思えた明久は、もう一度よく観察してみることにする。
・あどけない秀吉の寝顔
・もし強引に起こそうものなら容赦なく私刑を執行してくるような奴には思えない、和真の人畜無害そうな寝顔
・静かにシャッターを切るムッツリーニ
・慌てふためく雄二をよそに浴衣の帯を緩めようとする翔子
現実は非情である。
明久「困った……今の僕の役に立ちそうなものがない」
雄二「その前に俺を助ける気はないのかっ!?」
美波「ちょ、ちょっと!柊と木下以外は全員起きてるの!?早く言いなさいよねっ!」
明久の超至近距離にいた美波は慌てて距離を取る。
美波「そ、そっか。周りが起きてたんだ……だからアキは知らない振りをしていたのね……」
そして美波が都合の良い勘違いをしていると、ドアが急に開く音がした。
清水「お姉さま無事ですか!?美春が助けに来ましたよ!」
明久(わかってた。この程度で終わるわけないなんて、予想通りだよ畜生!)
美波「み、美春!?どうしてアンタがここにくるのよ!」
清水「さっきお姉さまのお布団に入ったら誰もいなかったから、もしやと思ったら……!やっぱりここに探しに来て正解です!」
『布団に入ったら誰もいない』なんて、探そうとした切っ掛けからして普通ではない。合宿三日目で思いきって大勝負に出たのだろうか。
美波「あ、危なかったわ……。昨日で懲りたと思って完全に油断していたもの……」
どうやら既に実行済みだったようだ。
清水「お姉さま!男の部屋に来るなんて不潔です!おとなしく美春と一緒に裸で寝ましょう!いえ、勿論イロイロするので寝かせませんけど!」
明久「やめるんだ清水さん!それ以上の会話はムッツリーニの命に関わる!」
ムッツリーニ「……………!!(ボタボタボタボタ)」
翔子「……雄二、とにかく続き」
雄二「お前は本当にマイペースだな!?」
秀吉「な、なんじゃ!?目が覚めたら女子が三名もおる上に雄二は押し倒されてムッツリーニが布団を血で染めておるぞ!?」
和真「……zzz」
明久「ああああっ!皆してそんなに騒いじゃダメだよっ!このままじゃ鉄人に気づかれて…」
鉄人『なにごとだっ!今吉井の声が聞こえたぞっ!』
階下から聞こえてくる鉄人の声。
「「「「「……………」」」」」
明久「え?なに?なんで全員が『吉井が声を出したせいで見つかったじゃないか』みたいな目で僕を見るの?」
鉄人は日頃苦労させられている明久の声には凄く敏感になったいるため、この状況は正しく明久のせいである。
雄二「くそっ!明久のせいで面倒なことになった!とにかくお前らは見つからないようにここから逃げろ!」
明久「なんだか納得いかない物言いだけど雄二の言う通りだ!とりあえずここは僕らに任せて!」
美波「で、でも……」
清水「お姉さま、躊躇っている時間はありません!とにかく服を脱いで美春の部屋にいきましょう!」
美波「美春は黙ってなさいっ!」
この状況で尚口説きにかかる清水はある意味大物だ。
『吉井に坂本ぉ!お前らだとはわかっているんだ!その場を動くなよっ!』
バタバタしているうちに再度ドスの利いた声が廊下から響いてくる。もう一種のホラーゲームのようだ。
明久「鉄人の声だ!もうかなり近いよ!」
雄二「時間がない!こうなったら俺が『必殺アキちゃん爆弾』で鉄人の注意を引き付けるから、その間に三人は部屋を出ろ!」
美波「わかったわ!」
明久「美波!そこはわかっちゃダメだ!」
雄二はいつものように明久をデコイにして事を治めようとするも当然明久は断固拒否する。
明久「まず僕と雄二が飛び出して鉄人の注意を引き付ける。その隙に三人はドアから出て一気に部屋まで走るんだ。いいね?」
美波「うん。ごめんね。ウチらの為に」
翔子「……ありがとう」
清水「お姉さま、愛しています」
状況を理解していない奴が一人いるものの作戦は決まった。あとは実行するだけである。
明久「雄二、行くよ!」
雄二「仕方ない、付き合ってやる!」
ドアの取っ手に手をかけ、二人が一気に押し開けた。
バン! ガスッ!
鉄人「ふぬぉぉっ!?よ、吉井、キサマぁああ!」
明久「げっ!?鉄人が扉を頭で痛打したみたいなんだけど!?」
雄二「それはファインプレイだ明久!」
そのファインプレイで生じた鉄人の怒りが明久に向かうのは言うまでもないだろう。
雄二「逃げるぞ明久!」
明久「了か……」
そこで明久達にとって計算違いが起きる。鉄人が頭を打って出遅れたせいで、部屋の中を覗き込もうとしていた。
明久「鉄人!僕はこっちだよ!」
必殺アキちゃん爆弾を仕掛けようと後頭部を鷲掴みしている雄二の手を振りほどき、明久は浴衣の帯に手をかけながら鉄人に駆け寄る。明久の声にいち早く反応したため、中にいる三人は見つからなかったようだ。
鉄人「貴様は西村先生と呼べと何度言えば……」
明久「どりゃぁぁあーっ!」
迷いの無い手つきで鉄人の顔に着ていた浴衣を巻きつける明久。
鉄人「こ、こらっ!何を」
明久「おまけっ!」
さらにその上から帯で縛り付ける。
明久「今のうちだ!」
間髪いれず明久が美波たちに指示を出す。三人は頷いた後、全速力で廊下を走って行った。
鉄人「吉井。貴様はつくづく俺の指導を受けたいようだな……」
そしてこれからは怒り心頭の鉄人による明久への鉄拳制裁が始まろうとしていた。
雄二「明久、あとは頑張れよっ」
明久「西村先生すいません!坂本 雄二がこっそり持ち込んだ酒を隠す為に注意を逸らせと言ってきたものですから!」
雄二「キサマなんてことを言ってくれるんだ!?」
鉄人「吉井……。坂本……。貴様ら……覚悟は出来ているんだろうなぁぁああっ!」
「「出来てませんっ!」」
雄二と明久は鉄人が顔にかけられた浴衣を剥がし終わる前に走り出し、怒りの形相を浮かべた鉄人が追いかけていく。もう完全にそこらのホラーゲームより恐怖感を掻き立てられる。
秀吉「やれやれ、当面の危機はさったようじゃな」
ムッツリーニ「……(コクコク)」
部屋に取り残された秀吉とムッツリーニがほっと一息つく。そして二人はもう一人残っている人物に視線を移す。
和真「…………zzz」
秀吉「あんな騒ぎがあったのに和真はどうして何事も無く熟睡しておられるのじゃ?」
ムッツリーニ「……しかし無理矢理起こされたときの和真の機嫌を考えると、起きなくて良かった」
秀吉「寝惚けてるせいか、いつもの10割増しで容赦がなくなるからのう……」
余談だが、結局あの後捕まった明久と雄二は三日連続で鉄人と熱い夜を過ごしたようだ。
綾倉「というわけで、姫路さんの必殺料理の代行を勤めるのは、私特製の尋常じゃないほど不味いドリンクでした」
飛鳥「不味くなるように作っている時点でこの人の性格の悪さが滲み出てるわね……」
徹「ちなみに元ネタはテニスの王子様の『乾汁』だよ」
【ミニコント】
テーマ:原因追求
飛鳥「今回の中間テスト、前より成績下がってしまったわ……。ごめんなさい優子、わざわざ勉強見てもらったのに……」
優子「飛鳥はちょっと落ち込みすぎ。そんな風に自分を責めてたら身が持たなくなるわよ?」
飛鳥「だけど……」
優子「ほら、多少下がっても冷静な徹を見習ったら?」
徹「僕の成績が下がった要因は……。
試験日の朝の冷え込みが0.4%
朝食のバランス0.2%
新しいシャーペン0.5%
学校近くの工事の音3%
朝の占い0.1%
寝る前に読んだ本のチョイス0.1%
枕の高さ0.1%
星の配列0.05%……(ブツブツ)」
優子「……まぁアレはちょっと森羅万象に責任転嫁し過ぎだけど」
飛鳥「星の配列って……」