バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【バカテスト・英語】
『Although Jhon tried to take the airplane for Japan with his wife’s handmake lunch,he noticed that he forgot the passport on the way.』

五十嵐 源太の答え
『ジョンは妻の手作りの弁当を持って日本行きの飛行機に乗ろうとしていたが、途中でパスポートを忘れていることに気がついた』

蒼介「正解だ」


土屋 康太の答え
『ジャンは』

綾倉「ジョンです」


吉井 明久の答え
『ジョンは手作りのパスポートを持って日本行きの飛行機に乗った』

蒼介「それだと不法入国じゃないか……」







空・恋・嵐

恒例の出撃前ブリーフィング。

 

秀吉「結局、手を貸してくれたのはD・Eクラスだけじゃったな」

雄二「まあ仕方ないだろう。Bクラスは代表がアレだからまとまりがないし、Cクラス代表はあの小山だから男子連中が尻込みするのも無理はない。五十嵐の協力が得られただけでも良しとするしかない」 

明久「でも和真、どうせだったら大門君を引き込めなかったの?」

和真「徹は無理だ。こいつと違って真正のムッツリだからな(チラッ)」

明久「え?(チラッ)」

秀吉「真正の……(チラッ)」 

雄二「ムッツリねぇ……(チラッ)」

ムッツリーニ「……なぜ俺をチラ見する……ッ!」

 

ムッツリと言う単語を聞いた瞬間にチラ見してきた三人にムッツリと言うにはオープン過ぎる寡黙なる性識者は憤慨するが、他の四人は全く悪びれない。

 

明久「けどD・Eクラスが協力してくれるだけでも、昨日よりずっと状況が良くなったよ」

秀吉「まぁそうじゃな。女子側とて入浴の為に最大でも半数しか出てこられんじゃろうし、教師を抑えることができればなんとかなるじゃろ」

和真「教師の召喚獣さえ倒せば、物理干渉能力を持たない召喚獣は無視して良いしな」

明久「でも、ここまで大きな騒ぎにすると女子の入浴自体が中止になったりしないかな?」

雄二「それはないだろ。教師側にもプライドがあるからな。『覗きを阻止できないかもしれないので入浴を控えてくれ』なんて言うと思うか?」

明久が「ああ、そっか」

 

教師としても意地がある。召喚獣を使った勝負で生徒に防衛戦を抜かれるなど屈辱に違いない。

というか、そんな弱腰なことを言ったとあの学園長に知られたら、下手すれば暇を出されかねない。

 

雄二「それと、これは憶測だが……教師側はこの事態を好ましく思っている可能性もあるな」

明久「え?僕らの覗きを?」

雄二「ああ。あくまでこの合宿の目的は『生徒の学習意欲の向上』だからな。目的がなんであれ、召喚獣を使って戦闘を行う以上勉強せざるを得ない。女子側も同様だ。防衛の為には召喚獣が不可欠だからな」

和真「まぁ俺達を確実に止めたきゃ、この時間に拘束するなり部屋で見張るなりするのが一番だろうしな」

雄二「そういうことだ。……さてムッツリーニ。作戦開始時刻と集合場所は両クラス、あと五十嵐に通達してきたか?」

ムッツリーニ「……問題ない」

 

作戦開始時刻は二〇一〇時。

一階にある大食堂に集合して、前半組が脱衣を終えて入浴しているところを狙って総攻撃を仕掛ける手筈だ。

 

和真「最大の懸念は雄二の作戦が翔子あたりに読まれることかな。こいつ翔子に滅法弱ぇし」

雄二「んだとコラ。俺の練りに練った作戦はあいつだろうとそう簡単に予想できるわけ-」

 

 

須川「大変だ!大食堂で敵が待ち伏せしてた!今は戦力が分断されて、各階で散り散りになってる!」

 

 

突如ドアが開かれ、須川がひどく狼狽した様子で飛び込んできた。全てを察した和真は呆然とした表情の雄二を明らかにバカにしたような冷めた目で見る。

 

和真「あいつだろうとそう簡単に……何だって?」

雄二「和真ァァァ!余計なフラグ建てやがって!」

和真「逆ギレとは見苦しいな、この負け犬が」

 

どうやら翔子は雄二が戦力を増強して正面突破を図るのを読んでいたようだ。普通は隠密行動にでると考える所の裏をかいた作戦を読みきるあたり、完全に雄二の思考回路を熟知している。

 

ムッツリーニ「……迷っている時間はない」

明久「そ、そうだね!雄二どうする?」

雄二「どうするもこうするも、こうなっては作戦なんて殆どないようなものだ。分断された戦力を一旦編成し直すしかない!とにかく出るぞ!」

「「「了解!」」」

和真(こりゃ今日も失敗だな……。となると、俺はあいつらとの約束を優先するか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『このスケベども!おとなしくお縄に付きなさい!』

『覗きなんてさせないからね!』

 

『くそおっ!どうしてこんなところに女子が!?』

『知るか!とにかく応戦しろ!』

 

徒党を組んで攻め込んでくる女子生徒を相手に男子側は召喚獣を喚んで応戦するが所詮は下位クラス、点数差の暴力に次々と打ちのめされていく。

 

須川「皆落ち着け!召喚獣は俺達に触ることができない!無視して突っ切れば良いんだ!」

明久「須川君、駄目だ!気をつけなきゃいけないのは鉄人だけじゃないんだ!」

 

明久の静止も間に合わず、須川は女子の間を駆け抜けていく。一見理にかなっているがその判断は紛れもなく悪手……!

 

布施「Fクラス、須川亮君ですね?特別指導室に連行させてもらいます」

 

女子の陰から出てきた布施先生の召喚獣に即座に捕らえられる須川。召喚が行われているからには向こうには教師がいる。そのためここを突破するにはその召喚獣を倒す必要がある。だからこその戦力一点集中の作戦だった。あの和真でさえ一度に相手にできる数には限度があるのだ。教師の数は生徒ほど多くないため、頭数さえ揃えばどうにかできるはずだった。……こうまで後手に回らされてはその素晴らしい作戦も単なる悪足掻きでしかないのだが。

 

雄二「全員聞け!とにかく一点集中でこの場を突っ切る!俺の後に続け!」

明久「雄二!そっちは敵の層が一番厚いよ!?階段を下りたほうが突破し易いんじゃ!?」

雄二「だからこそだ!層の薄い方を突破すると、その先に罠が仕掛けられてる可能性がある!ここは苦しくても一番危険な方向を進むんだ!」

和真(相変わらず頭がキレる奴だ。だがおそらくこれは、翔子が仕掛けた二重のトラップ……)

 

先ほども作戦を先読みされたこともあり、和真には霧島の裏の裏をかいた作戦としか思えなかった。しかし既に敗色濃厚のため和真は雄二の指揮には口出ししなかった。

 

和真(まあ翔子のことだ、層の薄い方にもそれ相応の対策をしてあるだろ。……ん?) 「……お前ら、先に行ってろ」

明久「え!?どうしたの-」

 

 

小山「見つけたわよ柊ィィィィィィ!!!」

 

 

明久が理由を聞く前に鬼のような形相と共にCクラス代表の小山が召喚獣とともに突っ込んできた。どうやら(当たり前だが)初日のことを根に持っているようだ。全てを察した明久達はそそくさと先を急ぐ。

 

小山「アンタだけはアタシが始末してやるわ!さっさと召喚獣を出しなさい!」

和真「ちっ、めんどくせぇ。お前ごときが俺を倒す?寝言は寝て言えヒス女」

小山「Fクラスのバカの癖に、大口叩くのも大概にしなさいよ!」

和真「上等だ。そのまやかしの、ガラス細工の自信をバッキバキにしてやるよ」

 

鼻息荒く詰め寄ってくる小山をさっさと始末するため、和真は召喚獣を喚ぼうとする。

しかしそんな和真と小山の間に割って入る者が。

 

源太「待てよ和真、ここは俺様に任せてもらう。丁度科目も英語だしな」

和真「源太?良いのか?」

源太「どっちみち今日は失敗くせーだろ?霧島との決着の前に、新しい力の試運転をしておきたくてな」

和真「なにそれスゲー気になる。気になるが、そんな場合じゃないか……ここは任せた」

 

源太の新しい力とやらは和真の琴線に触れたが、状況が状況なのでさっさと明久達を追いかける。こうなると面白くないのはもちろん小山である。

 

小山「待ちなさい柊和真!絶対に逃がさないわよ!」

源太「そうはさせねーよ。試獣召喚(サモン)!」

 

幾何学模様と共にトマホークを携えた源太の召喚獣が出現し、小山の行く手を阻む。

 

小山「何なのよアンタ!?邪魔よ!」

源太「邪魔してんだよ。月並なセリフだが、ここを通りたけりゃ俺様を倒してからにしな」

小山「上等よ!さっさと片付けてやるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「いったあああああッ!?これは凄く痛い!?流石は拷問用の道具だよ!!!!」

和真「ちょっと目を離した隙にもうやられてる!?」

 

遅れて合流した和真を出迎えたのは明久の絶叫だった。

どうやら学年主任の高橋先生の召喚獣(装備:鞭)の前に無惨にも散ったようだった。

 

《総合科目》

『学年主任 高橋 洋子 7792点

VS

Fクラス 吉井 明久 1036点』

 

それはもう比較するのも馬鹿らしくなるような圧倒的点差だった。学園全体を見ても、この人より高い点数を取れるのは三年学年主任の綾倉先生しかいない。

 

雄二「仕方がない。こうなったら各自の判断で行動しろ!」

『『『おうっ!任せておけっ!』』

 

事実上の撤退宣言が雄二から発せられた。

作戦の指示がなくなり、全員がそれぞれの判断で行動を始める。果して彼らはどのようにしてこの場を切り抜けるのだろうか。

 

『…………』(←土下座)

『…………』(←土下座)

『…………』(←土下座)

 

明久(バカばっかりだぁっ!?)

高橋「吉井君と坂本君と柊君は彼らのような真似はしないのですね。指揮官としての矜持というものですか?」

 

土下座に移行しない明久達を見て、高橋先生が感心したように目を細めた。しかしその予想はてんで的はずれである。

 

雄二「違うな、高橋女史。俺たちにはわかっているのさ」

明久「ええ。雄二の言う通りです。僕らにはわかっているんです。そんなことをする必要はないということが」

和真「というかそもそも俺指揮官じゃねーし」

 

明久と雄二は何かを悟っているような笑みを浮かべている。事情を知らない高橋先生から見れば余裕の笑みに移るかもしれない。

 

高橋「いくら柊君でも、この私を突破するのは難しいと思いますが?」

雄二「違うな。アンタは何もわかっちゃいない」

明久「そうですね。僕らが言っているのはそういうことじゃない」

 

明久と雄二が土下座をしない理由。それは指揮官としての矜持でもなければ和真頼みになっているわけでもなく、ましてや援軍を期待してるわけでもない。

正解は--

 

 

姫路「坂本君、明久君。覗きは立派な犯罪なんですよ?」

美波「そういえばアキには昼間のお礼もしないとね?」

霧島「……雄二。浮気は許さないと言った」

 

土下座しても許してもらえそうにないからだ。

 

 

和真「……サモン!」

 

今にも始末されようとしている明久達を放置して、和真はいつもの笑みを浮かべながら召喚獣を喚び出す。

 

高橋「この状況でもまだ諦めないとは。荷担している内容はともかく、その心意気は素晴らしいことです。

いいでしょう、かかってきなさい!」

和真「却下」 

高橋「えっ」

 

〈和真〉を迎え撃つため意気揚々と戦闘体制に入った〈高橋〉だったが、和真の予想外の拒否に珍しく間の抜けた表情になる。

 

高橋「えっと……あの……」 

和真「混乱させて悪いな。あんたと闘り合うってのも充分そそられるんだがよ、今日は先約が入っていてな。

……出てこいよ、二人とも!」

 

和真の呼び掛けと共に、奥の扉から優子と飛鳥がゆっくりと姿を現した。

 

優子「待たせたわね……サモン!」

飛鳥「サモン!……高橋先生、すみませんが下がっていてください。和真の相手は私達がしますので」

高橋「……なるほど、そういうことでしたか。わかりました。健闘を祈ります」

 

点と点が繋がったような納得の表情で、高橋先生は言われた通りに後方で待機する。この時点でもう突破は不可能であろう。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 木下 優子 3943点

 Aクラス 橘 飛鳥  3088点

VS

Fクラス 柊 和真  3927点』

 

 

和真「げっ!?いつの間にか抜かれてやがる!?

コソ勉しやがったな優子このやろー」

優子「堂々と勉強したわよ!そう簡単に学年5位の座を死守できると思わないことね!」

和真「そして飛鳥、微妙に下がってるじゃねぇか!?」

飛鳥「面目ない……もうすぐIH予選で……」

 

覗く側とそれを阻む側とは思えないほど和気藹々とする三人。ちなみに彼らのすぐ近くでは実に惨たらしい結末を迎えているバカが約二名。

 

和真「さてと、じゃあ始めるか」

優子「あ、待って和真。私達と一つ、賭けをしない?」

和真「賭けだと?」

飛鳥「なに、簡単な賭けよ。この勝負に負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くってのはどう?」

和真「あからさまに俺に不利な条件だなオイ」

 

ただでさえ二体一の時点でフェアなんて言葉はどこにも見当たらないというのに、和真が負けたら飛鳥と優子に一つずつ、つまり実質二つ言うことを聞かなければならない。

 

和真「総じて、受け入れられると思っている時点で正気の沙汰とは思えないな」

優子「そう。で、返答は?」

和真「面白ぇ!受けて立ぁぁぁつ!」

優子「それでこそ和真ね♪」

飛鳥「つくづく損な性格ね……」

 

ぐちぐちとマイナス要素を並べていたのも当然全て前振り。和真のモットーは「365日誰からの挑戦でも受け付ける」なので断る理由が見当たらなかった。

 

和真「それじゃあ行くぜ!二人がかりだろうが、急造コンビにやられるほど俺は甘くねぇぞ!」

 

槍を構え、意気揚々と疾走する〈和真〉。

装甲を犠牲にした分パワーだけじゃなくスピードも桁違いに速い。

 

優子「急造コンビかは、」

飛鳥「その目で確かめることね!」

 

和真に啖呵を切ると共に〈飛鳥〉が〈優子〉の前に走り込み、そして何を思ったのか〈優子〉はランスを振りかぶる。その様子を見た和真はとある光景とデシャブした。

 

和真(あれは……俺の得意とするデコイ戦術?)

 

デコイ戦術とは、和真が格上の相手を倒すためによく用いるテクニック(?)の一つ。文字通り、自分以外の召喚獣を犠牲にして相手の隙を作るという、いかにもFクラスらしい極悪非道な戦法である。

 

しかし、

 

和真(何だよ……期待させておいてやることは猿真似かよ……つまらねぇ……)

 

和真に浮かんだ感情は『失望』。

デコイ戦術はあくまで相手の相手の不意をつくからこそ効果的なのである。あらかじめわかっていれば何てことはない、デコイとなった召喚獣を手堅くカウンターで討ち取り、本命の召喚獣にも警戒しておくだけで事足りる。

和真はこの二人のことを舐めてはいない。いやむしろ女子の中では特に一目置いている二人であるため、自習の時間に優子が宣戦布告をした段階から今この瞬間まで二人との闘いを楽しみにしていた。それが蓋を明けたら二人の取った手段が自分がお遊びとして用いているだけに過ぎない戦術と来た日には、ガッカリするなと言う方が無茶な話であろう。

ややテンションを下げつつも、〈和真〉に『カズマホームラン』の構えを取らせる。このままが射出されるやいなや〈飛鳥〉は仕留められるであろう。

しかし〈優子〉は相手がカウンターを狙ってようがお構い無しフルスイングし、ランスはそのまま〈飛鳥〉にぶち当たる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「なっ!?」

 

寸前で、〈飛鳥〉はタイミング良くジャンプして〈優子〉のスイングをかわした。一度出した指令はもう止められない。〈和真〉はそのまま盛大に空振りする。

 

飛鳥「ここよ!」

優子「ここで決めるわ!」

 

〈飛鳥〉の後を追うように〈優子〉も跳躍する。ひと足先に落下を始めた〈飛鳥〉はそのまま空中で半回転し、背中から地面に着地し足の裏を天に向けつつ膝を折り畳む。そして〈優子〉は〈飛鳥〉の足の裏に着地し、同じく膝を折り畳み足をドッキングさせる。

 

和真(この技は……まさか!?)

 

飛鳥「いくよ、私達の…」

優子「空中必殺技…」

 

 

二人の召喚獣は敵の方向に焦点を合わせ、タイミングを揃えて折り畳んでいた足を一気に伸ばす。

 

 

 

結果、

 

 

 

「「スカイラブハリケーン!」」

 

反動で超加速した〈優子〉がランスを突き出し、空振りして隙のできた〈和真〉目掛けて突撃する。

 

和真「舐めるなぁ!」

 

多少呆気に取られたもののこのまま反応もできずにやられるほど、和真の反射神経は鈍くない。並外れた俊敏さで即座に超高速で突っ込んでくる〈優子〉に焦点を合わせ、〈和真〉はバックハンドでフルスイングする。

 

二つの槍の真っ向からのぶつかり合いを制したのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「まさか俺が……力負けするとはな……」

 

 

《総合科目》

『Aクラス 木下 優子 2876点

VS

Fクラス 柊 和真  戦死』

 

 

〈優子〉の方だった。

スカイラブハリケーンの超加速が加わったランスの一点突破力は凄まじく、フルスイングされた〈和真〉の槍をへし折り、その勢いのまま敵を貫通した。

ちなみに点数が減っている理由は〈和真〉の反撃を受けたわけではなく、着地に失敗して喰らったダメージである。

 

和真「…………」

 

始めて真っ向から打ちのめされたのがよほどショックだったのか、和真は目を閉じて黙ったままである。

この言いようもない空気に耐えられなくなったのか、二人が声をかけようとしたそのとき、

 

和真「あぁ……ほんとに悔しいなぁ畜生ォォォ!」

二人「ビクッ」

 

よほど悔しかったのか、廊下全体に響く程の大声で叫んだ後、その場に大の字に寝転がる。

 

その表情は、どこかスッキリとした表情をしていた。

 

和真「次は……俺が勝つからな!」

飛鳥「……ふふ、そうはいかないよ」

優子「次も返り討ちにしてやるわ!」

 

やや心配そうな表情をしていた二人も一転、楽しげな笑顔を浮かべる。

優子の懸念は完全に杞憂であったようで、

その場にはヒビひとつない絆が存在していた。

 

和真「……それにしても、スカイラブハリケーンなんてよく一発で成功させたな」

 

思い出したように起き上がり、和真は不思議そうな顔で尋ねる。確かにぶっつけ本番で成功させるのは厳しい大技だ。

と言うのも、ジャンプの時間差、背中からの着地、足裏に正確に着地、飛ぶ角度、膝を伸ばすタイミング、その他どれか一つでもミスをすれば失敗する高等技術である。

 

優子「あのさ和真、アタシ達が昨日参加しなかったことを不思議がっていたでしょ?」

和真「ああ。……なるほど、そういうからくりか……」

優子「そう。アタシ達が昨日参加しなかったのは、奥の方で高橋先生に許可をもらって連携の特訓をしていたからよ」

飛鳥「あの技は偶然思い付いたものだけどね」

和真「コソ勉じゃなくてコソ練をしてたわけね……」

 

一本とられたと苦笑する裏で、和真はAクラス打倒がまた遠ざかったのではないかと懸念する。あれだけの技を苦もなく成功させたんだ、それ以外の連携もおそらく半端なものではないだろう。

 

和真「それで、お前らは俺にどんな命令をするんだ?」

優子「実を言うとまだ考えてないから、アタシは保留にしておくわ」

和真「保留!?そんなのアリかよ!?」

優子「アリよ」

 

365日誰からの挑戦でも受け付けるのがポリシーであったが、和真は安易に引き受けたことを後悔する。

いつどこで何を要求してくるかわからないため、保留という選択は正直怖すぎる。

 

和真(まあこいつはなんだかんだで優しいから、そこまで酷い命令はしてこないのが救いだな)「……で、お前はどうするんだ、飛鳥?」

飛鳥「うん、それなんだけどね……」

 

既に意識を失っている雄二と明久に視線を移してから、飛鳥は再び和真に向き直る。

 

飛鳥「吉井君や坂本君がああなっているのに、貴方だけ楽するのはフェアじゃないと思わない?」

和真「…………何が言いたい?」

 

嫌な予感が体全体を覆い尽くし、今すぐにでもここから逃げ出したい衝動に駆られつつも、敗者の義務感と持ち前のプライドを駆使して押し留め、黙って飛鳥の言葉に耳を傾ける。

 

すると飛鳥は優子を引き連れて和真に近づいてくる。

 

悪戯っぽい笑顔を浮かべ手をわきわきさせながら。

 

 

飛鳥「今からしばらく脇をくすぐるけど、一切抵抗しちゃ駄目よ♪優子、後ろに回って抑えてて」

優子「あ、うん。……和真、ごめんね」

和真「…………マジかよ」

 

 

先程の絶叫よりもずっと大きい和真の笑い声が、廊下全体に響き渡ったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、足止めを任された源太はと言うと…

 

 

源太「こんなところか。なるほど、制圧力はスゲェがその代償もデカイな……」

小山「嘘よ……!こいつ一人に……こんなことって……」

 

死屍累々となった召喚獣を眺めつつ、新しい力のメリットとリスクを考察する。

戦死しているのは小山の召喚獣だけではなく、その場の女子生徒10数名、ついでに味方であるはずの男子生徒数名、挙げ句の果てには教師の召喚獣さえも討ち取られてしまったようだ。

 

源太「じゃあな、俺様は部屋に戻らせてもらうぜ」

小山「あっ……ま、待ちなさいよ!?」

 

そう言われて待つはずもなく、源太はさっさと寝室に戻っていった。教師の召喚獣が倒されてしまったので女子陣営には源太を止めるすべは無く、女子達は悔しそうな表情で源太の帰宅を見送った。

 

 

 

 

 

源太(テストプレイは上々、決戦は明日だな。

次は勝たせてもらうぜ霧島ァ……!)

 

 

 

 

 

 




和真「だぁぁぁっ!また負けたぁ!」

徹「まさかのスカイラブハリケーンだったね」

蒼介「『キャプテン翼』の超人サッカープレイの一つだな。現実でやれば一発退場ものだが」

飛鳥「非紳士的行為で反則取られるのよね」


【ミニコント】
テーマ:無限ループ

明久「あっ、このゲーム良いなぁ。……でもこれ買っちゃうと、今月水だけで生活しなくちゃいけなくなるよなぁ」

雄二「相変わらずギリギリの生活送ってるな……」

和真「明久、そういうときは三日買うかどうか考えてみろ。三日後も買いたいなら、それは本当に買いたいものっつうことだからよ」

明久「ん~、わかった。やってみるよ」

《三日後》

明久「何か欲しいものがあった気がするけど、忘れちゃった」

和真「忘れるくらいなら、大して欲しいものでもなかったんだろ」

明久「そっかぁ……あっ、このゲーム良いなぁ。……でもこれ買っちゃうと今月水だけで生活しなくちゃいけなくなるよなぁ」

和真(明久!?)

雄二(それ三日前のやつじゃねぇか!?)









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