テーマ:ささいな怪我
優子「アンタ膝怪我してるじゃない!?」
和真「ああ、ちょっと擦り剥いただけだ。唾つけときゃ治る」
優子「ダメよ!悪化したらどうするのよ!?今治療するからじっとしてて」
和真「相変わらず心配性だなぁ……」
優子「痛いの痛いの……飛んでいけ……!」
和真「えっ!?まさかの念治療!?」
和真「まあそんなわけで、地方の領主は荘園の寄進先を摂関家から法皇へ乗り換え、この寄進された荘園からの地代が院政の経済基盤となり、寄進先の所有者の名を取って八条院領、長講堂領などと呼ばれるようになったわけだ。
試験の後半に記述問題で出題されたら、今重要だと説明した部分を主軸にしてまとめろよ?」
飛鳥「ええ、わかったわ」
優子「文系科目ならお手の物ね」
Aクラスとの合同授業中、和真は飛鳥とついでに優子に勉強を教えていた。文系科目のみならば姫路をも凌駕する和真の教え方は非常にわかりやすくかつ的確で、どうしてそれができて指揮のセンスは全く無いのか疑問が出てくる程であった。
和真「つーか徹はどこ行ったんだよ?あいつ文系あんまりできないのによ」
飛鳥(うん、貴方基準でだけどね……)
優子「徹なら佐藤さんに頼まれて物理を教えてると思うわよ。なんでももう少しで400点を越えそうだとか」
和真「流石Aクラス、日々進歩してんなぁ……。ところでお前らは400点越えそうな教科ねぇの?」
優子「この前の英語が点数が388点だったから、あと一息かな」
飛鳥「私はそもそも300点以上ある教科の方が少ないんだけれど……」
このことは別に飛鳥の成績が大したことないわけではなく、むしろ学年トップ10にランクインしている飛鳥ですら300点台は難しいということだ。400点台ともなると全国のどの学校に行こうと最優等生として扱われるレベルであり、ましてや500点オーバーなどもはや高学生レベルで取れる点数ではない。そう考えると、全教科500点オーバーの蒼介が代表を務めるAクラス打倒への道はまだまだ険しいようだ。
雄二「おい和真、こっちの準備は終わった。急いで指定の場所まで来てくれ」
和真「ん、りょーかい」
ある程度勉強が進んだところで雄二から催促が入る。
今からB・Cクラスへ交渉へ行くのだろう。
和真「んじゃ一旦席外すぞ。飛鳥、俺が戻るまでに古典の教材を開いとけ。優子もできる範囲で見てやってくれ」
飛鳥「わかったわ」
優子「……あのさ、和真」
飛鳥に次の準備を通達して席を立つ和真を呼び止める優子。何故かややバツが悪そうな表情をしている。
和真「なんだ?」
優子「アタシも飛鳥もアンタがどういう奴かわかってる。意味もなく覗きに参加する奴じゃないってのは理解している……」
和真「……」
一度顔を伏せ少しの葛藤の後、優子は黙って耳を傾けている和真に覚悟を決めたような表情で向き合う。
優子「だけど今日アタシ達は、アンタ達を止めるために動くわ!」
和真「だよな」
えっ、と言わんばかりの呆けた表情をする優子を、物珍しそうな顔でしげしげと見つめる。
この展開をだいたい予測していた飛鳥は苦笑する。
和真「むしろ何で昨日参加してなかったか疑問に思ってたぜ。お前ら二人に久保とソウスケを加えて、2年堅物四天王だもんな」
飛鳥「うん、そんな仰々しい呼ばれ方初めて聞いたんだけどね……」
和真「おまけに昨日久保に責任ある立場云々言われたところだし、俺達のことを率先して止めねぇと駄目だろ。何故迷った表情してたんだお前?」
優子「な…何よそんな言い方!アンタにも絶対に譲れない理由があるんでしょ!?それを邪魔するんだから多少の申し訳なさとか-」
和真「はぁ……」
やれやれまったくこいつは……、と言っているような仕草をした後、和真は優子に近づいて肩を組む。
優子「ふぇっ!?」
和真「いらん心配すんな。たとえお前らが俺をボロクソに負かしたとしても、そんなことでは俺達の関係は変わらねぇよ。そうだろ、相棒?」
優子「……そう言ってくれるのはうれしいんだけど……あの……その……近い」
和真「おっと、わりぃわりぃ」
真っ赤になって照れる優子から離れ、面白いものを見つけたと言わんばかりの笑みを見せる和真。
和真「意外と可愛らしいとこもあんのな」
優子「あ…あああああアンタねぇ!?」
和真「冗談冗談。んじゃさっさと終わらせてくるわ。
あ、そうそう、逆に俺がお前らをボロクソに負かしても恨まないでくれよ?」
一通り優子をからかったから、和真は悠々と指定された場所に向かっていった。
取り残された優子は羞恥と怒りが混ざりあった表情で憤慨する。
優子「ア・イ・ツ・は~!こっちの気持ちも知らずに平然と肩なんか組んできて……!少しは動揺しなさいよ……!飛鳥!絶対和真に勝つわよ!いいわね!?」
飛鳥「はいはい、わかったからあんまり騒がないの」(少しは動揺……ねぇ……ふふふ)
怒り狂う優子をなだめつつ、恐らくは本人すら気づかないであろう幼馴染みの変化に思わず吹き出しそうになる。
明久「あっ和真、やっときた……どうしたの!?」
秀吉「なぜ涙目になっておるのじゃ!?」
和真「いや大したことねぇんだけど、ここに来る途中机に足の小指ぶつけてよ…痛ぇ……」
ムッツリーニ「……珍しい」
秀吉「うむ、天性の直感を持つお主らしくもない。どこか具合が悪いのかの?」
和真「いや、特には。……まさかもう体の衰えが?」
明久「昨日鉄人と互角に闘っておいて体の衰えがどうとか言われても……」
和真「まあそれもそうか。となると、流石に勉強合宿三日目ともなると気が抜けてきてんのかもな」
気を抜いた状態では和真の直感は仕事しない。
他にも、疲れきったときやかなり動揺しているときも同じく役に立たなくなる。
雄二「ほーう、なるほどなぁ(ニヤニヤ)」
和真「なんだよ雄二気持ち悪いな」
何かを悟ったのか、うっとうしいほどのニヤケ面を向けてくる雄二に和真は多少イラっとする。
雄二「いやいや、お前にもちゃんと弱点はあるんだなと安心してよぉ」
和真「要領を得ねぇな、スキンヘッドにするぞ」
雄二「ペナルティが斜め上過ぎるぞ!?」
痛め付けるのが好きなのではなく、追い詰めるのが好きな和真に下手な挑発など問題外だ。突然の毛髪の危機に雄二は何とかして話題を変えようとする。
雄二「ま、まぁ和真も合流したことだし、次はBクラスとCクラスだな。もう一度頼むぞ明久」
明久「そう簡単に引き受けるわけにはいかないよ。さっきの勝負も納得がいってないし、もう一度勝負だ!」
雄二「別にいいが、時間の無駄だと思うぞ?」
明久「ふふ、そうかな?僕をさっきまでの僕と思わない方がいいよ」
和真「秀吉、勝負ってなんのことだ?」
秀吉「先ほどE・Dクラスに侵入する際、教師を引き付ける囮役を古今東西で決めたのじゃ」
和真「なるほどね。いつもの雄二の汚い手ではなく普通に負けたわけか。明久、俺も参加してやるよ」
明久「いいの?今の僕は和真が相手でも手加減とかしないよ?」
秀吉(明久……和真が雄二よりずっと英語得意なことをすっかり忘れているようじゃな……)
ムッツリーニ(……どう考えても勝ち目がない)
古今東西に参加しない二人は明久の負けを確信していた。
明久「それじゃあ、吉井 明久から始まるっ」(明久のコール)
「「「「イェーッ!」」」」(雄二と秀吉とムッツリーニと和真の合いの手)
明久「【O】から始まる英単語っ」
パンパン→明久の番
明久「オーガスト!(August)」
和真「おい源太」
明久が頑張って先生を引き付けているうちに、和真達は合同学習室に侵入する。
雄二がBクラス代表の根本及びCクラス男子の中心である黒崎に交渉している傍ら、和真はライオンのような髪型の男子生徒、『アクティブ』メンバーである五十嵐 源太のもとに駆けつける。180㎝超えの悪党面が黙々と自習に励んでいる姿はかなりシュールである。
源太「あ?和真じゃねぇか?俺様になんかようか?」
和真「ほれ渡したぞ。じゃ、俺急いでるから」
本来ここにいるはずのない怪訝な表情をしている源太に和真はメモ用紙を渡すと、さっさと学習室から出ていってしまう相変わらずせわしない奴だなと呆れつつ、メモ用紙に書いてある内容に目を通し、直後ギラついた表情になる。
源太「……くくく、ははははは。丁度いい、俺様も勉強漬けの合宿には俺も飽き飽きしていたところだ」
『翔子との決着をつけたくはないか?だったら今夜俺達に協力しろ』
和真「久しぶりの源太の出番だな」
源太「ものの数行で終わったがな……」
蒼介「私もカズマと並ぶ主人公格という設定なのに、後書きと前書きくらいしか出番が無いのはどういうことだ……」
飛鳥「それにしても、一・二巻ではつけ入る隙がまるでなかった和真にどんどんポンコツ属性が追加されてるわね」
和真「キャラに深みが出てきたと言ってもらおうか」
徹「ポジティブだね」