バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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強化合宿三日目の日誌を書きなさい。

土屋 康太の日誌
『前略。(坂本雄二に続く)』

蒼介「今度はリレー形式か。次から次へとよく思いつくものだな」


坂本 雄二の日誌
『そして翔子が俺の前で浴衣の帯を緩めようとした。俺は慌ててその手を押さえつけ、思い止るように説得した。ところが、隣では島田が明久に迫っていて妙な雰囲気になっており(吉井明久に続く)』
 
蒼介「お前達に一体何があったのだ!?土屋が略した部分が気になってしょうがないんだが!?」


吉井 明久の日誌
『後略』

蒼介「ここでその引きはないだろう……」


柊 和真の日誌
『続きは君の目で確かめよう!』

蒼介「ゲームの攻略本か」




最強(覗き)チームを結成せよ!

翌朝、和真は一番早くに起きて自己鍛練に精を出していた。別に昨日の敗北を引き摺っているわけではなく、日課のランニングの代わりにしているだけである。用意周到なことにわざわざジャージも数着持ってきている。

 

明久「夢オチ!?がっかりだよ畜生!」

和真「なんだ起きて早々喧しい」

 

一通りトレーニングを済ませて一息ついたところで、いつのまにか起きた明久が意味不明な叫び声を上げる。

 

明久「あ、和真おはよう。それより聞いてよ!折角秀吉が寝ボケて僕の布団に入り込んできて目の前にその可愛い寝顔をみせてくれた上に、あとちょっとで事故を装ってキスできると思ったのに……まさかの夢オチ!

木下さんと仲が良い和真なら、僕の悲痛な気持ちをわかってくれるよね!?」

和真「お前が俺をどう見ているかについては今度じっくり聞き出すとして……似たような状況ならお前の後ろにあるぞ」

明久「似たような状況?」

 

和真の少々意味不明な言葉に首を捻りながらも、とりあえず後ろを向いてみると……。

 

雄二「ぐう……」

明久「………最悪だ」

和真「似たようなシチュエーションだろ?違うのはキャストだけだ」

明久「一番違っちゃいけない部分だよそこは!?」

 

秀吉とは似ても似つかぬむさ苦しい男が明久の布団に入り込んでいた。明久が吐き気を催していることどいざ知らず、雄二は大きく身じろぎをし、口が大きく開いて吐息が洩れる。この光景だけ見ると、何故この男が学年でも屈指の人気を誇る翔子に惚れられているのかまるで理解できないだろう。

 

明久「起きろコラぁっ!タイガーショット!」

雄二「ぐふぁっ!」

和真「毎度騒がしいなお前らは(カチャカチャ……ジャー)」

 

この清々しい朝に反比例した最悪の気分を払拭すべく、雄二を布団から蹴りだす。

特に珍しい光景でもないので、和真は何故か充実しているティーセットを取りだし、紅茶を淹れ始める。上流階級出身の幼馴染み二人の影響かやけに手際が良い。

 

秀吉「んむ?なんじゃ?雄二はまた自分の布団から離れた場所で寝ておったのか」

 

目を擦りながら秀吉が上体を起こす。その隣ではムッツリーニも同じような動きをして意識の覚醒を促している。

 

明久「秀吉、またってどういうこと?」

和真(適度に蒸らして、と)

秀吉「いや、別に大したことではないのじゃが……雄二は寝相が大層悪いようでのう。明け方はワシの布団の中に入ってきておって……やめるのじゃ明久!?花瓶を振りかざしてどうするつもりなのじゃ!?」

明久「殴る!コイツの耳からドス黒い血が流れるまで殴り続ける!」

和真「朝からグロテスクなもん見せようとすんじゃねぇよ……」(暖めておいたミルクピッチャーにミルクを入れて紅茶に注ぐ、と)

 

ガチャッ

 

鉄人「おいお前ら!起床時間だ……ぞ……!」

明久「死ね雄二!死んで詫びるんだ!あるいは法廷に出頭するんだ!」

雄二「なんだ!?朝からいきなり明久がキまっているぞ!?持病か!?」

秀吉「落ち着くのじゃ明久!」

ムッツリーニ「………!(コクコク)」

 

生徒を起こすために部屋に入ってきた鉄人の目に飛び込んできた光景は、あまりにもエキセントリックなものであった。

 

和真「あ。おはよっす西村センセ(ズズ…)」

鉄人「あいつらが朝から何をやっているのかも聞きたいところだが……お前はお前で何故あれを放置して優雅にティータイムを堪能しているんだ?」

和真「Fクラスじゃ別に珍しいことでもないでしょ。それより西村センセも一杯どうすか?たまには安らぎも欲しいでしょ?」

鉄人「ありがたいが気持ちだけ受け取っておこう……」

 

その後、鉄人の介入でどうにか明久の殺戮衝動を阻止することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

寝起きのの騒動を終えた後の朝食時、メンバーは昨日得た情報を共有する。

 

明久「雄二、そう言えば昨夜妙なことを言われたよ」

雄二「ん?なんだ?」

明久「工藤さんに『脱衣所にまだ見つかってないカメラが一台残っている』って」

雄二「なんだと?」

明久「怪しいよね。そんなことを知っているなんて、やっぱり彼女が犯人じゃないかな?」

和真「だったらバラすメリットは無ぇだろ」

秀吉「それもそうじゃな。わざわざ怪しまれるようなことを言うとは思えん」

 

昨日の件で愛子への疑いを強めた明久だが、和真はその話を聞いて愛子が犯人という可能性を捨てる。

 

和真(もし清水が犯人なら、そのデジカメを回収すれば短絡的なあいつのことだ、強引に奪い返しに来るだろう)

ムッツリーニ「……確認するしかない」

雄二「やっぱりそれしかないか……」

 

話し合ったものの、結局昨日までと同じ方針のまま変化はなかった。

 

雄二「だが、工藤の情報はありがたいぞ」

明久「え?カメラが残っているってことが?」

雄二「ああ。それを工藤しか知らないってことは、そのカメラに女子の着替えが撮影されている可能性が高い。それを手に入れたら入浴していない女子の確認もできるからな」

ムッツリーニ「……隠し場所なら5秒で見つける自信がある」

和真「というか、俺から愛子に頼んで取ってきてもらうってのはどうだ?」

雄二「いや、まだ工藤が犯人だと言う線も捨て切れないからやめてくれ」

和真「…りょーかい」

 

目の前に労せず解決する手段が転がっているのに、明久達の愛子への信頼度の低さが原因で断念。

和真は内心で自分のことを棚に上げて愛子の日頃の行いを詰る。

 

明久「けど、本当にそんなカメラがあるのかも怪しいよ?」

雄二「いや。最初にカメラが脱衣所で見つかった方がおかしいんだ。あんなに盗撮や盗聴に長けている犯人のカメラが素人に見つけられるなんて考えにくい。となると……」

和真「隙を生じぬ二段構え、ってわけか」

雄二「どこの飛天御剣流だ……とにかく、最初に見つかったカメラはカムフラージュだった可能性が高い」

秀吉「用意周到じゃな」

 

あっさりと発見されたことで女子の油断を誘い、本命のカメラで無防備なところを撮影しようという魂胆で間違いないだろう。実に狡猾な手口である。

 

明久「だったらお風呂の時間を避けてカメラを取りにいけば解決ってことだね」

ムッツリーニ「……それは無理」

明久「え?なんで?」

ムッツリーニ「……時間外だと脱衣所は厳重に施錠されている」

和真「教師達も馬鹿じゃねぇってことだな」

 

初日のカメラ発見から二日間にかけての除き騒動が原因で、教師も厳重な警戒態勢を敷いているということだろう。

明久達のやることなすこと全てが裏目に出ているのは日頃の行い故か。

 

雄二「諦めて今までどおりの方法を貫けってことか……」

秀吉「そのようじゃな」

雄二「そこで昨日の反省だ。明久、昨日の敗因はなんだと思う?」

和真「俺が西村センセを突破できなかったからじゃね?」

雄二「流石にそこまで求めてない。というか、あの化け物に生身のままである程度対抗できたお前に俺は若干引いた」

和真「失礼な」

 

そして自分にその攻撃が向いたらと想定して、雄二は背筋がヒヤッとした。

まあ女装ネタでも振らない限り、和真が人に殴りかかることはないのだが。

 

明久「あはは……えっと、向こうが女子の半分を防衛に回してきたことじゃないかな?」

 

教師側が一昨日と同じ戦力であれば用意に勝利できたであろう。ネックであった鉄人も和真がある程度渡り合えることがわかった以上尚更だ。

 

雄二「そうだ。昨日の敗因はAクラスを含め、敵の戦力が大幅に増強されていたことだ。そこで、こちらも更に戦力を増強しようと思う。Fクラスだけではなく他のクラスも味方につけて対抗するんだ」

 

いつものように困難な状況に対抗するべく雄二が元神童の頭脳を駆使して作戦を提案するが、何故か明久が腑に落ちないという表情をしていた。

 

秀吉「む?明久、どうしたのじゃ?」

明久「う~ん。なんか、この作戦がいつものやり方と違う感じがしてなんだか……。ほら、向こうの戦力が大きいからってこっちの戦力を増やすっていうのが、イマイチ僕達らしくないというか……」

和真「そりゃ、保険の意味も兼ねているからな」

明久「へ?保険?確かに日々金欠の僕には願ってもないことだけど……」

雄二「生命保険と勘違いしてないかお前?そうじゃなくて、戦力を増強する以外にも、俺達の保身という狙いがある」

明久「僕らの身を守る?誰から?」

雄二「いいか?今のところは未遂で終わっているから大した問題になっていないが、覗きは立派な犯罪だ。作戦が成功して女子風呂に至ったとしても、例の真犯人が見つからない限り俺たちは処分を受けることになる」

 

もし突破が成功したとしても、真犯人及び犯行の証拠を抑えられない場合明久達の無罪を証明する手立てがない。そうなれば何らかの処分は逃れようもなくなる。

 

雄二「それを避ける為の戦力増強……つまり、メンバーの増員だ」

明久「増員が処分を逃れる手段になるって?」

和真「人数を増やせば特定は難しくなるだろ?向こうだって戦いながらその場にいる全員の顔を覚えるのは厳しいだろうし」

明久「でも、既に僕らは面が割れてるよね? それなら無意味なんじゃないの?」

 

珍しく明久が的を射た意見を言うが、雄二はその答えを待っていたかのような不敵な笑みを浮かべて説明を続ける。

 

雄二「文月学園は世界中から注目を集めている試験校だからな。そんな不祥事があった場合はひた隠しにするかキッチリと一人残らず処分をするかのどちらかしか選べない。中途半端に一部の生徒だけを罰するようなことになれば、ただでさえ叩かれている『クラス間の扱いの差』についてマイナス要因を増やすだけだからな」

 

もし明久達だけを罰する事になったら、『出来の悪いFクラスだけは処分を受けて、他の優秀なクラスは手心を加えている』と言う風に差別してるのではないかと見えてしまう。

世間から注目されている上に四大企業に恨みを抱えている敵の多さを考えれば、学校側はバッシングの元になるような話は避けて隠蔽するに違いない。

 

明久「なるほど。流石は雄二。汚いことを考えさせたら右に出る人はいないね」

和真「よっ!生徒版綾倉センセ!」

雄二「知略に富んでいると言え明久。それから和真なんだそのおぞましい肩書きは」

 

脳内に浮かぶのは清涼祭のときの、綾倉先生が張り巡らせたえげつないトラップの数々。

 

秀吉「ふむ。ならば今日は協力者の確保を主軸に行動するわけじゃな?」

雄二「ああ。幸い合同授業の上に殆ど自習みたいなものだからな。動きは取り易いはずだ」

明久「それじゃ、まずはどこから行く?」

雄二「当然Aクラスからだ。同じ手間なら能力が高い方が良いからな」

秀吉「Aクラスならば昨日の合同授業で交流もあるしのう。話もしやすいじゃろうて」

和真「しかしソウスケが合宿に参加してなくて心底良かったぜ」

明久「えっ?どうして?鳳君がいたら百人力なんじゃない?」

和真「その百人力の強さが向こう側に持ってかれるからだ。あいつは堅物を擬人化させたような奴だし」

雄二「もしそうなっていたら流石に詰んでたな……。あっぶねぇ……」

 

ただでさえ全教科教師レベルの点数に加えて反則的なまでのランクアップ腕輪。教師に金の腕輪がついてないことを考えると下手すれば高橋先生より厄介かもしれない。

 

雄二「それじゃ決まりだな。合同授業の間にAクラスと話をするぞ」

明久「了解。ムッツリーニと和真もそれでいいよね?」

ムッツリーニ「……問題ない」

和真「あっわりぃ、俺参加できねぇ」

明久「えっ!?ど、どうして?」

 

まさかの非協力に狼狽する明久だが、別に和真は意地悪で断ったわけではなく、単に先約があっただけである。

 

和真「昨日飛鳥に勉強教えて欲しいと頼まれててな、全教科」

明久「飛鳥っていうと……橘さん?へぇ~、柔道で凄い結果を残してるのに勤勉だね」

和真「『部活に全力で取り組むことは、勉学を疎かにして良い理由にはならない』ってのがあいつのポリシーだからな。聞いてるか秀吉?」

秀吉「意地悪言わないでほしいのじゃ……」

 

演劇にのめり込むあまり成績を落としFクラスになった秀吉は耳の痛い内容に頭を抱える。Eクラスの面々もこの話をすれば秀吉と同じようなリアクションをするであろう。

 

和真「そのポリシーが優子の耳に入ったらお前が大変なことになると思って事前に箝口令を敷いた俺に何か言うことは-」

秀吉「(ガシッ)お主が姉上と友達で、そしてワシとお主が友達で本当に良かったのじゃ」

和真「お前も割と現金なやつだな……」

 

秀吉は輝く笑顔を浮かべて、和真の手に必要以上に固く握手をする。生きる喜びを噛み締めているような溢れんばかりの笑顔である。 

 

 

明久「あのさ、秀吉。そこまで木下さんが怖いの?」

秀吉「うむ、切実にの。和真と仲良くなってからは多少理不尽さは薄れたのじゃが……」

和真「それでも秀吉がアレな行動をすると容赦なく私刑に処すぐらいには秀吉に厳しいし、そもそも、力の差がありすぎるってのがな」

雄二「以前木下姉の佇まいを間近で見たから相当できる奴ってのは知っているが、実際秀吉とどれだけ差があるんだ?」

和真「ドラゴンボールで例えると、ラディッツとドドリアぐらいの差かな」

秀吉「その例えはあんまりじゃなかろうか!?」

 

ラディッツ……1500

ドドリア……22000

 

悲しすぎる比較に全秀吉が泣いた。

 

雄二「まあ先約があるなら仕方ないな。仲間集めは俺達でなんとかしておくから気にすんな」

和真「あ、待った。Bクラスに行くときは呼びに来い。あいつには大きな強みがあるし、もしクラス全体は協力してくれなくても俺が誘えばあいつは乗ってくるはずだ」 

雄二「Bクラス……あいつか。わかった」

 

和真達は方針を決めると、俺と同じく朝食を再会した。

 

 

 

 

 

 

 




【ミニコント】
テーマ:明久は知っている

明久「勉強に興味が持てないよ~……」

姫路「そうですね……。あっ!勉強を明久君が大好きなRPGだと思ってみるのはどうですか?」

明久「宿題を経験値稼ぎだと思えば頑張れるんじゃないかってこと?……うーん…」

姫路「そうですね♪他にも、雰囲気を出すために教科書を古の魔導書って言い換えてみたり…」 

和真「姫路、それ以上何を言っても無駄だ」 

姫路「ふぇっ!?どうしてですか?」

和真「明久の目を見てみな」

明久「フッ…………」

和真「あれは知ってる者の目だ……現実ってヤツをな!」

姫路「……」

















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