バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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蒼介「前話に布施先生との闘いを追加しておいた。申し訳ないが今話の前に前話を見返してくれ」

徹「本来はその内容を今回するつもりだったんだけど、ちょうどいい区切れで切ると文字数が物足りなすぎたんだよね」

和真「後先考えない作者を持つと苦労するぜ……」

という訳で今回は学力強化合宿二日目をお送りいたします。
決して二回読ませてUAを稼ごうとか狡いことは考えておりません、文字数配分を間違えて変なとこで区切ったことが原因の純然たる凡ミスです……。


【バカテスト】
強化合宿二日目の日誌を書きなさい


姫路 瑞希の日誌
『今日は少し苦手な物理を重点的に勉強しました。いつもと違ってAクラスの人たちと交流しながら勉強もできたし、とても有意義な時間を過ごせました』 

綾倉「Aクラスと一緒に勉強する事で姫路さんに得られるものがあったようで何よりです。来年クラスメイトになるであろう人たちと交流を深めておくと良いでしょう、おそらく来年担任となる私も気が楽になりますし」

蒼介「綾倉先生、一言多いです」


大門 徹の日誌
『僕としてはやや苦手な文系科目を重点的にしたかったのだが、ここぞとばかりに理数系を教えを請うクラスメイト達が多く予定していたよりはかどらなかった。仮にも最優秀クラス所属なのだから少しはこちらの事情を察して欲しかった。そんな感じで僕も忙しかったので、僕以上に生徒に囲まれていた和真のSOSを無視したことに罪悪感はない』

蒼介「私がいない以上、二年で最も理数系に精通しているのはお前だからな。持つ者の義務であると我慢してくれ。カズマを見捨てたことに関して私がとやかく言うつもりは無いし、あいつはそんな小さいことを後から愚痴愚痴言う奴ではない。あまり気にする必要も無いだろう。
……別にお前に対して小さいと言ったわけではないと釘を刺しておく」


柊 和真の答え
『やけに俺に勉強を教えて欲しがるAクラス生徒(大多数)だの、工藤とムッツリーニに翻弄される明久だの、Fクラスに来てからどんどん暴力的になっていく姫路だの、言及したいことは多々あるが一番気がかりなのは優子に俺のプライバシーがどんどん流出していることだ。この合宿が終わった後の予定も決まった』

綾倉「柊君は多感なお年頃の君達高校生にとって、なかなかきついダメージを負ったようですね。 
悪巧みならいつでも相談に乗りますよ。以前手伝ってもらったお礼に、とっておきの策を伝授しましょう」

蒼介「綾倉先生、大分余計です」


土屋 康太の日誌
『前略。夜になって寝た』

蒼介「前略はそうやって使う物ではない」


吉井 明久の日誌
『全略』


綾倉「豪快な手抜きに思わず感心しました。今度学園長への報告書が面倒になったら使ってみようと思いました」

蒼介「綾倉先生、もしかしてわざとやっていませんか?私も怒るときは怒りますからね?」




慈愛の微笑み(憎)

『柊、平安後期の院政期についての記述問題がちょっと自信ないんだが添削してくれないか?』

『柊君、仮定法過去の応用部分でちょっと躓いちゃったんだけど……』

『あっ俺も俺も、古典の四鏡の-』

和真「聖徳太子か俺は!?いっぺんに聞いてくるんじゃねぇよ!?」

 

強化合宿二日目、今日の予定はAクラスとの合同学習となっていた。学習内容は基本的に自由。質問があれば周囲や外にいる教師に聞いてもよく、要するに自習のようなものであり机の並びも生徒同士が向かい合うような形になっている。

和真は苦手意識が無くなりつつある理数系を重点的に復習しようと思っていたのだが、Aクラス生徒に囲まれて全く自習が進まずにいた。

 

和真の成績はAクラス基準で考えても優秀であり、文系科目に至っては翔子に次ぐ成績を叩き出している。おまけにAクラスの生徒は真面目で人間ができているので和真に対して筋違いな妬みを抱いたりしないので、Aクラス内での和真の評価はとても高い。

それらの要素が合わさって現在のすし詰め空間が出来上がる。 

一度は徹に助けを求めたが無情にもスルーされたため、仕方なく和真は一人一人面倒を見てやることにしたのだった。何だかんだで面倒見の良い男である。

十数人を捌ききって流石の和真も疲れたのか、黙々と自習する気はとうに失せて優子達の方に勉強道具を持って移動する。

 

和真「あぁ…疲れた……いよいよこの合宿に参加したメリットが無くなったなオイ」

優子「まあアンタは普段が普段だから、アンタに勉強を教えてもらう機会なんて限られてるからそうなるのも無理は無いんじゃない?」

飛鳥「それにほら、貴方だけじゃなく姫路さんの周りにも人が集まってるわよ」

和真「それにしては翔子には誰も集まってないな」

優子「坂本くんと勉強する時間を減らしたくないって翔子に頼まれたから、アタシが事前に根回ししておいたわ」

和真「良い仕事したな副隊長」

優子「誰が副隊長よ」

 

ちなみにFクラスとAクラスを合同でやらせているのにはちゃんとした理由がある。

以前も述べた通り、この合宿の趣旨はモチベーションの向上である。AクラスはFクラスを見て『ああはなるまい』と、FクラスはAクラスを見て『ああなりたい』と考えさせることがこの合同自習の目的だ。

まあ、怠惰と無気力の極みである我らがFクラスが、たかだか数日程度優等生達と一緒に勉強したところでモチベーションなど向上するはずがないのだが。

事実、現在真剣に自習に取り組んでいるFクラスの生徒は1割にも満たない。この合宿のプログラムを真剣に考えたであろう先生はマジで泣いていい。

 

飛鳥「あら?いつのまにか愛子が霧島さん達に合流してるわ」

和真「悪戯好きなあいつのことだから、大方弄られキャラとして天下に名高い明久を弄ろうとでも思ってんだろ?」

優子「愛子もアンタにだけは悪戯好きとか言われたくないでしょうね……」

 

《工藤さん》《僕》《こんなにドキドキしているんだ》《やらない?》

 

和真「予想通りだったな」

優子「愛子ったら……。先日うちのクラスでもあの小型録音機で男子をからかって遊んでいたのよね」

飛鳥「最終的には蒼介に正座させられて説教されてたわね」

 

悪意のある編集に明久が悶えている後ろの方で、絶対零度の微笑をたたえて立ち上がるFクラス女子が計二名。

 

美波「……ええ。最っっ高に面白いわ」

姫路「……本当に、面白い台詞ですね」

 

そのまま二人は机に勉強道具を置き去りにして、学習室を出ていった。

入れ違いで入ってきた秀吉に何かを訪ねられた明久の顔から見る見る冷や汗が。

 

優子「秀吉の奴、吉井君に何を言ったのかしら……?」

和真「あー、多分拷問器具運ぶの手伝って欲しいだの姫路達に言われたことについてだろ」

飛鳥「待って和真。どうしてあの二人は拷問器具なんて所持してるの?万歩譲って持ってること事態は良いとしても、どうして学力強化合宿に拷問器具を持ってきたの?」

和真「旅館にあったんじゃねぇの?昨日あいつらだけじゃなくCクラスの小山達も持ってたし」

優子「あ、そうそう。昨日、で思い出したんだけど」

和真「あん?いきなり何だ(ガシッ)……あ、やべ」

 

優子は何のことだかわからないと言った表情をしている和真の頬を両手でガッチリと掴む。

優子が何を言いたいのかを察したのか、しまったという表情になるが時既に遅し。

優子はそのまま和真の両頬をぐにぐにと伸ばす。

 

優子「風の噂でアンタと秀吉を含むFクラスのバカ5人が女子風呂を覗こうとして教師に捕まったって聞いたんだけど、そこのところどうなのかしら和真~♪」

和真「いひゃひゃひゃひゃひゃ!?ほおをひゃっはうあ!?」

優子「あーあー、何て言ったか聞こえな~い♪」

 

元神童の雄二ですらつけいる隙を見つけることができなった和真を、ここぞとばかりにこれでもかと懲らしめる優子。

満面の笑みを浮かべてはいるが、「怒ってます」と雰囲気だけで察することができる。

飛鳥はそんな優子の暴走を諌めることはせず、それどころか和真の背後に回り込み脇の下に手を添える。

 

和真「!?!!?!??あ、あふかへめぇ!?」

飛鳥「確か貴方、脇の下が弱点だったわよね?」

 

こちらも笑ってる気がしない満面の笑みを浮かべている。

どうやらAクラスの真面目系女子二人は、余程昨夜の和真達の行動にご立腹らしい。

 

《僕にお尻を見せてくれると嬉しいっ!》

 

向こうではまた明久が愛子に陥れられているらしいが、飛鳥はそんなことなどお構い無しに和真の脇の下を全力でくすぐる。

 

こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ…

 

和真「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!や、やみぇ…やみぇおぉぉぉおおお!!」

 

『姫路さん、美波。よく聞いて。

さっきのは誤解で、僕は《お尻が好き》って言いたかったんだ。《特に雄二》《の》《が好き》ってムッツリィニィィーッ!、後半はキサマの仕業だな!?うまくやるって、工藤さんよりも上手に僕を追い込むってことなの!?』

 

愛子とムッツリーニの小競り合いによって同性愛申告に加工された明久の弁明を伴奏に、和真の悲鳴が部屋中に響き渡る。

レアケースにもほどがある状況に、騒動の中の明久達を除くほとんどの生徒の目が和真達に集中する(Fクラスの生徒は嫉妬から上履きを和真にぶつけようとする本能と、後々起こるであろう報復の恐ろしさを計算する理性の間で揺れていた)。

 

美波「アキ……。そんなに坂本がいいの……?ウチじゃダメなの……?」

姫路「前からわかっていたことですけど、そうはっきり言われるとショックです……」

明久「二人ともどうしてすぐに僕を同性愛者扱いするの!?僕にそんな趣味は」

 

明久が否定しきる前に突如学習室のドアが開きDクラスの清水 美春が登場。明久達を険しい目つきで睥睨し、声高に告げる。

 

清水「同性愛を馬鹿にしないで下さいっ!」

明久(ああ、また変な人が増えたよっ!?)

 

こちらはこちらでどんどん収拾がつかなくなってきたが、優子達はお構い無しに私刑を続ける。

というか、いつの間にか優子と飛鳥のポジションが入れ替わっている。

 

美波「み、美春?なんでここに?」

清水「お姉さま!美春はお姉さまに遭いたくて、Dクラスをこっそり抜け出してきちゃいましたっ!」

 

美波の姿を確認した途端、清水はルパンダイブの体勢で勢いよく飛びつく。

しかし美波は邪な気配をすぐさま察知し、近くにいた須川の後ろに回り込む。

 

結果、清水と須川が抱き合う形に。

 

美波「須川バリアー」

清水「け、汚らわしい!腐った豚にも劣る抱き心地ですっ!」

 

盾にされた挙句に腐った豚以下の烙印を押された須川は涙を堪えるように上を向いている。

これには流石に同情を禁じ得ない。

 

清水「お姉さまは酷いです……。美春はこんなにもお姉さまを愛しているのに、こんな豚野郎を掴ませるなんてあんまりです……」

美波「ちょっと美春!こんなところで愛してるとか言わないでよ!アキに勘違いされちゃうでしょ!?」

 

部外者まで乱入し、そろそろいつもの生徒指導教師が怒鳴り込んでくるのではないかいうときに、

 

「君達、少し静かにしてくれないか?」

 

部屋中に凛とした声が響き渡る。

声の主は学園次席にして蒼介が不在の間、Aクラスのまとめ役を任されているインテリ眼鏡、久保 利光のものだった。

 

明久「あ、ごめん久保君」

久保「吉井君か、とにかく気をつけてくれ。まったく、姫路さんといい島田さんといい、Fクラスには危険人物が多くて困る。……それから、」

 

明久に注意したあと、久保は優子達の方にも非難するような目を向ける。

 

久保「木下さん、橘さん。いったい何があったのかはしらないが流石に悪ふざけが過ぎないかい?代表代理、生徒会副会長という自分達の立場をよく考えて行動してくれ」

優子「ご、ごめんなさい久保君……」

飛鳥「少し思慮が足らなかったわ……」

 

有無を言わさぬ眼差しで注意を受けた二人はばつが悪そうな表情で和真を解放する。

地獄から解放された和真だが未だにどうにか肩で息をしている状態であった。

 

和真「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ……はぁあああ……

助かったぜ久保、今度流しそうめん奢ってやる」

久保「気持ちだけ受け取っておくよ」

 

クールな対応を崩さず和真の微妙に嬉しくない誘いに丁重に断りを入れた後、再び明久達に向き直る。

 

久保「それと、同性愛者を馬鹿にする発言はどうかと思う。彼らは別に異常者ではなく、個人的嗜好が世間一般と少し食い違っているだけの普通の人達なのだがら」

明久「え?あ、うん。そうだね」

 

何故だかわからないがまるで実体験のような重みが感じられる久保の台詞。

和真にはひとつの可能性がよぎるが、まだ確定材料が少ないと頭から振り払う。

 

呼吸が完全に落ち着いてきた和真に優子と飛鳥は申し訳なさそうに声をかける。

 

優子「和真、その、ゴメンなさい……。ちょっと調子に乗りすぎちゃった」

飛鳥「されるがままになってる和真は滅多に無いから、つい……」

和真「終わったことだし大して気にしてねぇよ。この借りは合宿中にしっかり返させてもらうから、お前らもあまり気にすんなよー」

優子「しっかり根に持ってるじゃない!?」

飛鳥「そんな不吉なこと言われたら気にするに決まってるでしょう……」

 

とてもとても爽やかな笑顔で報復宣言をした和真に、二人はばつが悪そうな表情から一転して呆れるような表情になる。

 

優子「だいたいアンタとアタシ達じゃ腕力に差があるんだから、振り払おうと思えばできたでしょう?どうして抵抗しなかったのよ?」

和真「お前ら二人はボンクラがつくほど真面目だからな、どんな事情があろうと覗きなんてやろうとした日にゃ、烈火の如く怒ることは用意に想像できる」

飛鳥「うん、とりあえず『ボンクラ真面目』なんて不名誉な称号初耳なのだけれど」

和真「お前らには怒るに値する理由があるからな。みすみす捕まる気はもちろん無かったが、もし捕まったら捕まったでお前らが何してこようと甘んじて受けるつもりだっただけだ」

優子「アンタって相変わらず、人の神経を嬉々として逆撫でする割には意外と義理固いわね……」

 

それならもうちょっと普段自重して欲しいという、叶いそうもない願望を頭から追い出しつつ優子はため息をつく。

 

優子「何か事情があることぐらいわかってるわよ。去年アタシがしっかり処世術を教え込んだんだから何の考えもなく覗きなんてするはずがないし、そもそもその手の本すららくに直視できないアンタが覗きなんてできるとは思えな-」

和真「ちょっと待て優子、俺がエロ本すら直視できないことヲ何故オマエガ知ッテイル?」

優子「ひっ」

 

さらりと爆弾発言をした優子に和真がストップをかける。

無表情ではあるが、動揺を隠しきれないかのように後半片言になっているのがやけに怖く、優子は思わず小さく悲鳴を上げる。

さらに和真はもうひとつ気がかりなことを思い出したのか、やけに威圧感のある無表情のまま飛鳥の方に首だけ向き直る。

 

和真「飛鳥もさ、何で俺が脇の下くすぐられるのに弱イッテ知ッテルンダ?」

飛鳥「えっ…と。その……」

和真「ソノ?」

 

下手にごまかせば命は無い、と思わせるような和真のいまだかつてない威圧感に耐えられなくなったのか、二人は本来黙秘しなければならない犯人の情報をリークする。

 

優子「アタシは、その、アンタのお父さんが……」

飛鳥「私も、守那(カミナ)さんに聞かされたわ……」

和真「………………………………………………そうか」

 

二人から元凶を聞き出した和真は瞑想するように目を閉じた。脳内に実の父のバカ面が克明に浮かぶ。

 

 

 

和真「………………やっぱりあのクソ親父か」

 

優子と飛鳥は目を閉じたまま沸々と怒りのボルテージを上昇させている和真を黙ってみてることしかできなかった。

正体不明の圧迫感が和真を中心に広がっていき、優子達は心なしか息苦しく感じ始める。

向こうで明久達がまた騒ぎを起こして鉄人が襲来して来ているようだが、優子達にはそちらに意識を割く余裕など欠片も無かった。 

 

いつ爆発するのだろうかと、まるで不発弾処理現場にいるかのように戦々恐々していた優子達だったが、ふと和真から発せられる圧迫感が一瞬で雲散霧消し、ようやく目を開けた和真は優子達に向けて何故か慈愛に満ちた表情をしていた。

 

正直ぶちギレた顔よりも遥かに怖い。

 

優子「か、和真……?」

和真「さっき合宿中に借りを返すっていったよな?やっぱあれ無しにしてくれ」

飛鳥「えぇ、と……いったいどうして?」

和真「お前らには今、十分すぎるほど返して貰ったからな」

 

そう言って優子達に微笑んだ後、和真は教科書を広げて自習を始めた。

これ以上この話題に触れれば取り返しのつかないことになりかねないと判断した二人は、まるで何事も無かったかのように自習を再会した。

 

このとき優子と飛鳥は「読心術でも使えたらよかったのに」と思っていたようだが、二人が読心術を使えなくて本当によかった。

 

 

 

 




和真君、弄られる。
やっぱ二次創作とは言えバカテスの主人公を名乗るなら一度は弄られないとね。

本文でも述べた通り、雄二ですら舌を巻いた和真君の世渡りの上手さは優子さんが下地を作ったようです。

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