バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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強化合宿一日目の日誌を書きなさい。



姫路の日誌
『電車が止まり駅に降り立つと、不意に眩暈のような感覚が訪れました。風景や香り、空気までもがいつも暮らしている街とは違う場所で、何か素敵な事が起きるような、そんな予感がしました』

綾倉「環境が変わることで良い刺激を得られたようですね。姫路さんに高校二年生という今この時にしか作ることのできない思い出がたくさんできる事を願っています」

土屋の日誌
『電車が停まり駅に降り立つと、不意に眩暈の様な感覚が訪れた。あの感覚はなんだったのだろうか』

蒼介「それはおそらく乗り物酔いだ」


雄二の日誌
『駅のホームで大きく息を吸い込むと、少し甘い様な、仄かに酸っぱい様な、不思議な何かの香りがした。これがこの町の持つ匂いなんだなと、感慨深く思った』

綾倉「隣で土屋君が吐いていなければ、もっと違った香りがしたかもしれませんね」

和真の日誌『ちなみに電車のくだりは姫路の殺人料理スキルが消滅したせいで山場が無くなったのでカットするぞ』

蒼介「そんな報告を日誌に書くな」






乱入

秀介「ふう……どうやらなんとか間に合いそうだね」

蒼介「……父様が五度も迷子にならなければ4時間前には着くペースだったのですがね」

秀介「蒼介よ、それはちょっとせっかち過ぎやしないかい?その若さで落ち着きがないのはいただけないよ」

蒼介「……父様が単独行動を控えて私の指示に大人しくしたがってくれるのでしたら私も落ち着けるのですが」 

秀介「そうは言ってもねぇ、私も“鳳”当主の身の上、我が子の指示に従うというのはどうもねぇ」

蒼介「今回のことは当然母様に報告させてもらいます」

秀介「ふふふ、怖い怖い」

 

文月学園から遠く離れた地に、鳳 蒼介及び鳳 秀介は四大企業の一角“鳳”のトップ、及びその後継者の立場として足を運んだ。この地に至るまでの大冒険は質実剛健を地でいく蒼介が、実の父に対して不自然なまでに刺々しくなるまでストレスを溜め込むほど壮絶なものだったため割愛する。

ちなみに秀介は現在進行形で息子に詰るような眼で睨まれてもまるで堪えた様子が無い。口では怖いと言いつつも、口元に扇子を広げてにこにこしていては説得力がまるで無い。息子や妻が何を言ったところで暖簾に腕押しであろう。この態度は世界的企業を統べる者の貫禄であるのか、ただ天然なだけなのかは物議を醸すだろう。

 

秀介「それはそうと悪かったね蒼介、学校の行事とバッティングしてしまうなんて」

蒼介「大した問題ではありません。あの合宿は私が参加する意義はあまりありませんので」

秀介「しかしお前は確か生徒会長だろう?合宿先で生徒達が問題を起こせば、お前に監督不行届と責任が生じやしないかい?」

蒼介「確かに私達の学年は例年に比べて騒がしいと言われていますが、そうそう連続して問題行動は起こさないでしょう」

秀介「それもそうだね、あっはっはっは」

 

何が楽しいのかよくわからない秀介は放っておいて、蒼介は考える。確かに今回問題が起きることはまず無い。第一、いつも騒ぎを起こすあのクラスだが、試召戦争然り教頭室爆破事件然り、それらの行動の裏には何かしらの正当な理由を伴っている。あくまでも勉強をしに行くだけの合宿では騒ぎを起こす理由が無いのだ。他のクラスは例年通りまともであると思われるため、あのクラスが騒ぎを起こさない以上つつがなく平和に終わる可能性は極めて高いと断言できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介(この嫌な予感はなんだ……?さっきから収まらない胸騒ぎはなんなんだ……?私の思い過ごしか?)

 

その予感が思い過ごしではなかったと彼が痛感するのは、ほんの少し未来の話。彼の人生、本当に苦労が耐えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「まったく贅沢な学校だよな。この旅館、文月学園が買い取って合宿所に作り変えたらしいぞ」

秀吉「つまり召喚獣も召喚出来るようになってるわけじゃのう」

和真「四大企業がスポンサーなんだ、金なんざ腐るほどあるんだろうよ」

 

蒼介が遠くの地で苦労している一方、和真達は合宿先の旅館に到着し荷ほどきを済ませ、ムッツリーニを除く四人は部屋で寛いでいた。

サイズからして八人部屋のようだが和真、雄二、明久、秀吉、ムッツリーニの五人で使うことになっている。

問題児を一ヶ所に固めるためなのか、普段つるんでいるメンバーだからと手心を加えてくれたのかは教師のみぞ知る。

 

明久「ムッツリーニはどこに行ったの?覗き?盗撮?」

秀吉「友人に対してそんな台詞がサラッと出てくるのはどうかと思うのじゃが……」

和真「まあこればっかりは日頃の行いだな」

 

当人のいないときに言いたい放題いっていると、ちょうどいいタイミングでムッツリーニが部屋に戻ってきた。

 

ムッツリーニ「………ただいま」

明久「おかえりムッツリーニ。どこ行ってたの?」

ムッツリーニ「……例の情報集め」

雄二「昨日俺と明久が頼んだ例のヤツか。随分と早いな」

和真「そういや昨日怪しい取引してたなお前ら。ムッツリーニになんか頼んでたのか?」

 

昨日のことを思い出したように和真が訪ねると、明久となぜか秀吉は気まずそうに顔をそらす。

一方雄二は苦々しい顔で返答した。

 

雄二「和真、お前清涼祭で俺たちが翔子・木下姉ペアにどうやって勝ったか聞いているよな?」

和真「優子から恨み言とセットで聞いてるぜ。確か明久が雄二を気絶させて翔子に秀吉の声真似で作ったプロポーズの台詞を聴かせ……まさか」

雄二「察しが良くて助かる。その時の捏造プロポーズがMP3プレーヤーに録音されてて、婚約の証拠として父親に聞かせようとしてるらしい」

和真「そのMP3は没収しただろうがおそらくコピーだな。で、オリジナルを見つけようとしてるわけか」

雄二「ああ、翔子は機械音痴だからおそらくその手に長けた協力者がいると思ってな、ムッツリーニに頼んでたんだ」

和真「それで昨日の朝翔子を俺のもとに遠ざけてたのか。こんなこと聞かれたら100パー妨害されるだろうし」

雄二「そういうことだ」

 

雄二の内容に関しては納得したのか、和真は明久の方に向き直り説明を催促する。しかし明久は和真と目を合わせようとしない。よほど聞かれたくない内容なのだろうか。根掘り葉掘り聞き出しても口を割らせることは難しいと判断したのか、和真はムッツリーニの方に視線を移し話の続きを促す。

 

ムッツリーニ「……昨日、犯人が使ったと思われる道具の痕跡を見つけた」

明久「おおっ。さすがはムッツリーニだね」

ムッツリーニ「……手口や使用機器から、明久と雄二の件は同一人物の犯行と断定できる」

雄二「そうなのか。まぁ、そんなことをするヤツなんて何人もいないだろうし、断定しても間違いなさそうだな」

 

誤解なきよう釘を刺しておくが、彼等は一般高校生であって諜報機関ではない。そのようなことに精通した人間が二人もいる時点で異常なのである。

 

明久「それで、その犯人は誰だったの?」

明久が尋ねるものの、ムッツリーニは申し訳なさそうに首を縦に振った。

明久「あ、やっぱり犯人はまだわからないの?」

ムッツリーニ「………すまない」

明久「いや、そんな。協力してくれるだけでも感謝だよ」

和真「盗聴の犯人なんざそんな簡単に見つかるもんでもねぇだろ、気にすんな」

ムッツリーニ「………『犯人は女生徒でお尻に火傷の痕がある』ということしかわからなかった」

明久「君は一体何を調べたんだ」

和真「絶妙に使いづらい情報だなおい……」

 

二人の呆れるような視線をスルーして、おもむろにムッツリーニは小さな機械を取り出す。形状から見てどうやら録音機のようだ。スイッチを押すと、内蔵されている音源からノイズ混じりの音が部屋に響いた。

 

明久「随分と音が悪いね」

雄二「校内全てを網羅したなら仕方ないだろう。音質や精度に拘る余裕はないからな」

和真「本当にこのクラスはどこまでも崖っぷちだな。ムッツリーニ、ソウスケにバレんじゃねぇぞ?」

ムッツリーニ「……任せろ」

 

《……雄二のプロポーズを、もう一度お願い》

 

ようやく女の声が聞き取れるようになった。この独特の話し方と台詞の内容から翔子である事は言うまでもない。

 

雄二「しょ、翔子……アイツ、もう動いていたのか……!」

明久「よっぽど早く手に入れたいんだね」

和真「雄二が絡めばあいつの行動力は俺以上だからな」

 

《毎度。二度目だから安くするよ》

《……値段はどうでもいいから、早く》

《流石はお嬢様、太っ腹だね。それじゃあ明日……と言いたいところだけど、明日からは強化合宿だから引渡しは来週の月曜日で》

《……わかった。我慢する》

 

雄二「あ、危ねぇ……。強化合宿があって助かった……」

明久「タイムリミットが来週の月曜までに延びたね」

和真「つっても、土日はほとんど行動できないだろうから、こいつの命運は実質あと四日で尽きるな(ニヤニヤ)」

雄二「ずいぶん楽しそうだなキサマ」

ムッツリーニ「………それで、こっちが犯人特定のヒント」

 

和真のいじめっ子気質がだんだんとにじみ出てきたところで、ムッツリーニが機械を操作する。

 

《相変わらず凄い写真ですね。こんな写真を撮っているのがバレたら酷い目に遭うんじゃないですか?》

《ここだけの話、前に一度母親にバレてね》

《大丈夫だったんですか?》

《文字通り尻にお灸を据えられたよ。全くいつの時代の罰なんだか》

《それはまた……》

《おかげで未だに火傷の痕が残ってるよ。乙女に対して酷いと思わないかい?》

 

それ以降は他愛のない商談が続くだけでめぼしい情報は得られなかった。

 

ムッツリーニ「……わかったのはこれだけ」

明久「なるほどね。それでお尻に火傷の痕か」

雄二「今の会話を聞いても女子というのは間違いなさそうだな」

明久「口調は芝居がかっていたけど女子なのは間違いなさそうだね」

和真「自分で乙女とか言っちゃってる以上女だろ。そっちの人って可能性もあるが、この合宿に参加している生徒に少なくともそういう趣味だと周りに公言している奴はいないしな(久保の奴は少しベクトルが違うし)」

秀吉「さらっと言ったがお主の社交性は相変わらず恐ろしいな……」

明久「犯人を特定できる有益な情報だけど、お尻の火傷か……仮にスカートを捲ったとしてもわからない可能性があるし、う~ん……!」

雄二「赤外線カメラでも火傷の痕なんて写らないだろうしなぁ……」

 

明久と雄二は真顔で女子の尻を見る方法を考える。最も学習意欲向上が必要なクラスの中でも特に問題児である二人がこのザマである以上、今回の合宿は早くも失敗の可能性が高まってきている。先生方も大変だなと和真が他人事のようにしみじみと思っていると明久が妙案を思いついたように立ち上がる。

 

明久「そうだ!もうすぐお風呂の時間だし、秀吉に見てきてもらえばいいじゃないか!」

秀吉「明久。なぜにワシが女子風呂に入る事が前提になっておるのじゃ?」

和真「お前そろそろ諦めたら?その方が楽だぜ?」

秀吉「お主も涼しい顔して何を言うか!?嫌に決まって-」

雄二「それは無理だ明久」

 

秀吉の抗議を遮りつつ、雄二は何明久に合宿のしおりを放ってよこした。

 

明久「どうして無理なの?」

秀吉「いや、じゃからワシは男じゃと」

雄二「3ページ目を開いてみろ」

 

明久がしおりの3ページ目を開いてみると…

 

~合宿所での入浴について~

・男子ABCクラス…20:00~21:00 大浴場(男)

・男子DEFクラス…21:00~22:00 大浴場(男)

・女子ABCクラス…20:00~21:00 大浴場(女)

・女子DEFクラス…21:00~22:00 大浴場(女)

・Fクラス木下秀吉…20:00~21:00 個室風呂④

 

明久「……くそっ!これじゃ秀吉に見てきてもらうことができない!」

雄二「そういうことだ」

秀吉「おかしいじゃろそれ以前に!?どうしてワシだけ個室風呂なのじゃ!?」

和真「諦めろ。お前はもうそういう役回りって世界が認識してるんだよ多分」

 

そんなふうに五人はてんやわんやしながら妙案が浮かばずに唸っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員手を頭の後ろに組んで伏せなさい!」

 

怒号と共に凄い勢いで部屋の扉が開け放たれ、怒りの表情を浮かべた女子達がぞろぞろと中に入ってきた。

 




秀介さんの方向音痴ぶりを体感したい方へ。


①まずコイン(裏表あるもの)を用意します。
②目的地(例:家から駅まで)を決めて出発します。
③別れ道の選択はは全てコインに委ねてください。


秀介さんのファンタジスタぶりを嫌というほど体感すること請け合いです。




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