バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【バカテスト・国語】
()内の『私』がなぜこのような痛みを感じたのか答えなさい。

父が沈痛の面持ちで私に告げた
『彼は今朝早くに出て行った。もう忘れなさい』
その話を聞いた時、(私は身を引き裂かれるような痛みを感じた)彼の事は何とも思っていなかった。彼がどうなろうとも知った事ではなかった。私と彼は何の関係もない。そう思っていたはずなのに、どうしてこんなにも気持ちが揺れるのだろう。

姫路の答え
『私にとって彼は自分の半身のように大切な存在であったから』

綾倉「そうですね。自分の半身のように大切であった為、いなくなったことで『私』はまさに身を引き裂かれたかのような痛みを感じたという事です」

徹の答え
『「私」という存在を定義する上で、「彼」は最早必要不可欠な存在になっていることに「私」は気づいてしまったから』

蒼介「内容は正しいが不正解だ。この回答では「引き裂かれるような痛み」に結びつかない」

明久の答え
『私にとって彼は自分の下半身の様に大切な存在だったから』

綾倉「どうして下半身に限定するのですか」

土屋の答え
『私にとって彼は下半身の存在だったから』

蒼介「お前という奴は…」



三巻開始・学力強化合宿に向けて

「翔子」

「……隠し事なんてしていない」

「まだ何も言っていないぞ?」

「……誘導尋問は卑怯」

「今度誘導尋問の意味を辞書で調べて来い。んで、今背中に隠したものはなんだ?」

「……別に何も」

「翔子、手をつなごう」

「うん」

「よっと……ふむ、MP3プレーヤーか」

「……雄二、酷い……」

「機会オンチのお前がどうしてこんなものを……何が入ってるんだ?」

「……普通の音楽」

 

 

……ピッ 《そして翔子、卒業したら結婚しよう。愛している、翔子》

 

 

「………」

「……普通の音楽」

「これは削除して明日返すからな」

「……まだお父さんに聞かせていないのに酷い……。手もつないでくれないし……」

「お父さんってキサマ……これをネタに俺を脅迫する気か?」

「……そうじゃない。お父さんに聞かせて結婚の話を進めてもらうだけ」

「翔子、病院に行こう。今ならまだ2,3発シバいてもらえば治るかもしれない」

「……子供はまだできていないと思う」

「行くのは精神科だ!……ん?ポケットにも何か隠してないか?」

「……これは別に大したものじゃない」

「え~、なになに?『私と雄二の子供の名前リスト』か。……ちょっと待てやコラ」

「……お勧めは、最後に書いてある私達の名前を組み合わせたやつ」

「『しょうこ』と『ゆうじ』で『しょうゆ』か。……なぜそこを組み合わせるんだ」

「……きっと味のある子に育つと思う」

「俺には捻くれ者に育つ未来しか見えてこない」

「……そんなことない。それは和真が一生懸命考えてくれた名前」

「この名前をお前に教えるとき多分あのボケは半笑いだっただろう?」

「……どうしてわかったの?」

「わかるわ!あの野郎面白半分でいらんこと吹き込みやがって!」

「……ちなみに、男の子だったら、『こしょう』が良い」

「しかも『しょうゆ』って女の名前かよ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期になって二ヶ月弱、日本国民の敵『梅雨前線』が日本を蒸し暑さと不愉快さが渦巻く混沌の地に陥れようと手ぐすねを引いている、ちょうどほどよい気温の時期。

そんな快適な環境のなか、我らが柊 和真はというと…

 

和真「よーし、今日の朝練はここまで!なかなかチームプレーが板についてきたじゃねぇか」

 

朝早くから登校して『アクティブ』のメンバーとともにラクロスの練習に励んでいた。

事情の知らない人からすればインターハイに向けてラクロスに青春を捧げた熱心な部活動にしか見えないが、彼等は別にラクロス部ではない。2ヶ月前の手痛い敗北が無ければ、彼等はここまで一つのスポーツだけに集中して取り組んではいない。彼等を突き動かす動力源は『ラクロス部へのリベンジ』ただ一つ。よくもまあ、ここまで負けず嫌いの連中が集まったものである。

 

徹「そういえば明日から強化合宿があるけど向こうでも朝練はするのかい?」

和真「そうしてぇが物理的に無理だろ。西村センセに練習道具没収されるオチが見えるぜ」

優子「勉強しに行くんだから没収されんのは当たり前でしょ。アンタ、向こうではいい子にしてなさいよ?」

和真「俺をガキ扱いとはさっすが余裕ですなぁ~、最近総合点で俺に抜かれた優等生様は」

優子「何ですってぇぇぇ!?アンタ一回勝ったぐらいで調子に乗ってんじゃないわよ!」

源太「だぁあああ!俺様の両隣で喧嘩するんじゃねぇよバカップルが!」

優子/和真「誰がカップルよ!?チンピラ顔の癖に!」「黙れ清涼祭ハブられ欠席馬鹿!」

源太「テメェら人の古傷抉ってそんなに楽しいか!?」

 

源太への深いダメージと引き換えに不毛な争いは一旦沈下した。どれだけスポーツで抜群のチームワークを発揮しようと彼等が多感な高校生であることに変わりはない。くだらない理由が発端の争いなど掃いて捨てるほど出てくるのだ。そして理由がくだらないからこそ、ちょっとしたきっかけですぐ収束するのもご愛敬。

 

和真「強化合宿と言えばソウスケ、お前欠席するんだっけ?」

蒼介「ああ。どうしても外せない用事があってな」

徹「まあ、君ほど今回の合宿に参加するメリットのない生徒はいないけどね」

 

学力強化合宿中といっても、この合宿の主な目的は生徒の成績を向上させることではない。そもそも勉強とは1日1日の努力を長期的に継続するからこそ実を結ぶもの。数日机にかじりついて勉強した程度上がる成績など一瞬である。

この合宿の目的はむしろ生徒の『学習意欲』の向上、つまり生徒に「勉強しよう」という心構えを持ってもらうことにある。和真や優子のような学年上位常連、より具体的なラインを言えば3000点オーバーを叩き出すような優等生はその気になればこの合宿を免除できる。ましてや、ほとんどの教師よりも優れた学力を備えた蒼介にとっては要らんお世話にも程があるだろう。

 

優子「てっきりアタシは和真、アンタも休むんじゃないかと思ってたんだけど」

和真「…まぁ俺にも色々あんだよ」

 

優子に訝しいとそう訪ねられても投げ遣りに返事をする和真だが、その内心では…

 

和真(俺の勘が告げている…この合宿には何かしらアクシデントが起こると!俺はそれに乗じて…ククク…

まあこんなことぶっちゃけたら優子にまたどやされるな、あっはっは)

 

案の定ろくでもない計画を立てていた。長い付き合いからそのことを少なからず察知した優子は猜疑心に満ちた目で追及しようとしたところで…

 

翔子「……和真」

優子「わっ、脅かさないでよ翔子!」

和真「どうした翔子?お前が雄二を持ち歩いていないなんて珍しいな」

 

いつの間にか優子の背後にいた翔子のお陰で和真は追及を免れた。和真は内心で翔子に感謝しつつ、半分冗談半分本気の疑問をぶつけた。

 

翔子「……和真が私を探してたって雄二が」

和真(……ほう?)

 

坂本 雄二は理由の良し悪し問わず無意味なことはしない男だ。彼が翔子を和真のいる場所に遣わした理由はおそらく教室で翔子に知られたくないことをしているのだろう。そのことを翔子に吹き込んで雄二を追いつめるのも一計、と割と外道なことを考えた和真だったがその選択は自らの娯楽をもおじゃんにしてしまうリスクがある、と思いとどまる。よって和真がとる行動は一つ、別のベクトルから雄二を追いつめることである。

 

和真「俺が考えたお前らの子どもの名前、あいつはどう言ってた?」

翔子「……不満そうだった。良い名前なのに」

和真「いーや、あいつが不満だったのは子どもの名前じゃねぇ。あいつは素直じゃねぇから言葉通りに受け取っちゃいけねぇぜ?」

翔子「……和真は何が不満なのかわかるの?」

和真「わかるわかる。ツンデレ検定準1級の俺からすれば朝飯前よ!」

優子「何よその怪しげな検定……。聞いたことな-」

和真「ほらあいつってああ見えて子ども好きそうじゃん。清涼祭のときも葉月に対して優しかったし」

翔子「……確かに」

優子「へぇ、意外な一面ね」

和真「つまりあいつが不満だったのは名前の候補の数だ。もっと子ども欲しいのに5~6こしか用意してないんじゃそりゃ拗ねるわあいつも」

翔子「!……それは盲点だった」

優子「いやその理屈はおかしくない!?明らかにこじつけ-」

和真「いっそのこと22こぐらい考えようぜ!サッカーできるぐらいいりゃ欲張りなあいつでも流石に満足するだろ!」

優子「多っ!?限度ってものがあるでしょ限度ってものが!」

翔子「……和真、」

優子「翔子も言ってあげて、流石に付き合い切れな-」

翔子「私は30人以上欲しい」

優子「こっちもこっちでぶっ飛んでたぁーっ!?」

和真「良いじゃん良いじゃん♪こういうもんは妥協したらダメな奴だぜ。まあ長くなりそうだからこれについては合宿後に改めて考えるとして、そろそろ時間だから教室戻るか。よし、解散!」

 

とても良い笑顔を浮かべて教室へと歩を進める二人を呆然と見送る優子の両肩に、同情するような眼差しを送りつつ蒼介と源太は手を置く(徹はいつの間にかいなくなっていた)。

 

蒼介「木下、気に病む必要はない。ああなったカズマは私でもどうすることもできない」

源太「ま…まあ、あいつらは楽しそうだったしいいんじゃねーの?満面の笑みで帰っていったしよ」

優子「少なくとも片方は、蟻の巣に水を流し込んで全滅させた子が浮かべるような笑顔に感じたけどね……」

 

三人「「「………………………………南無」」」

 

三人は憐れなFクラス代表に黙祷した後、教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「お、西村センセじゃん」

翔子「……おはようございます」

鉄人「ん?柊に霧島か、おはよう」

 

教室に向かう途中、大きな箱を抱えた鉄人こと西村教諭と会ったので三人は一緒にFクラスに向かう。二人とも成績優秀の優等生(異論は全て認めるが表面上は優等生なのでグレーゾーンと見逃していただきたい)なので、明久や雄二と比べれば鉄人の対応も大分柔らかい。ちなみに箱は鉄人のプライドを尊重して和真は持って上げる気はさらさらなかった。

三人が合宿の内容や予定について話してるうちに教室にたどり着く。

 

鉄人「遅くなってすまないな。強化合宿のしおりのおかげで手間取ってしまった。HRを始めるから席についてくれ。」

 

ムッツリーニ「……とにかく、調べておく。」

雄二「すまん。報酬に今度お前の気に入りそうな本を持ってくる。」

明久「僕も最近仕入れた秘蔵コレクションその二を持ってくるよ。」

ムッツリーニ「……必ず調べ上げておく。」

 

怪しい会話をしていた三人は鉄人に目をつけられないうちにいうちに素早く席に戻る。和真はその様子を面白そうに見届けた後、黙って席についた。

 

 

鉄人「さて、明日から始まる『学力強化合宿』だが、だいたいのことは今配っている強化合宿のしおりに書いてあるので確認しておくように。まぁ旅行に行くわけではないので、勉強道具と着替えさえ用意してあれば特に問題はないはずだが」

 

前の席から冊子が回ってきたので、和真は一冊撮って後ろに回した。表紙には挿絵も一切なく、『学力強化合宿のしおり』と楷書で書かれているのみの無機質な一品。変なとこで合理主義な学校である。

 

鉄人「集合の時間と場所だけはくれぐれも間違えないように」

 

鉄人のドスのきいた声が教室中に響き渡る。和真は冊子を捲って集合時間と場所を確認する。今回向かうのは卯月高山という避暑地で、この街だと車でおよそ四時間ぐらい、電車とバスの乗継だと五時間ぐらいかかるところだ。

 

鉄人「特に他のクラスの集合場所と間違えるなよ。クラスごとでそれぞれ違うからな」

 

AクラスやBクラスは立派な高級車などで快適に向かうんだろうが、最底辺のFクラスはせいぜい鉄人が引率する程度の待遇であろう。

 

鉄人に「いいか、他のクラスと違って我々Fクラスは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現地集合だからな」

『『『案内すらないのかよっ!?』』』

 

あまりの扱いにクラス中が涙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




またまた蒼介君の出番カット。
いやね…堅物くそ真面目の彼は三巻の騒動が起こると間違いなく和真達と敵対しちゃいます。そうなると彼の格を落とさないで話を進めると詰んじゃうんですよ。

強すぎる力はときに足枷となるのさ……!

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