バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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早く試召戦争を始めたいけどvsDクラスはイレギュラー二人が両方とも途中参加の分、原作と全く同じ展開になってしまうのでほぼダイジェストにするしかないというジレンマ。



戦争の引き金

雄二と明久、ついでに福原先生が教室に戻って来た。教卓を取り替えた後は特に何も起こらず、淡々とした自己紹介の時間が流れる。

 

福原「坂本君、キミが自己紹介最後の一人ですよ」

雄二「了解」

 

先生に呼ばれて雄二が席を立つ。180㎝以上もある身長に、やや細身だがボクサーのような機能美を備えた体型、さらに意思の強そうな目をした野性味溢れる顔つきをしており、堂々と教壇に歩み寄るその姿は、鳳 蒼介とは違った貫禄を身に纏っている。

 

福原「坂本君はFクラスの代表でしたよね?」

 

そう問われ、鷹揚にうなずく雄二。もっとも、クラス代表といっても最低クラスの成績者の中での一番に過ぎないので、雄二の本来の成績はともかくその点で彼が評価されることはないだろう。

 

雄二「Fクラス代表の坂本 雄二だ。俺の事は代表でも坂本でも、好きなように呼んでくれていい」

和真「マジでか。じゃあお前のこと『露出狂』って呼ぶように後で他のクラスにも通達しておくわ」

雄二「おーいお前ら、さっき言ったことは無しの方向で頼む。それよりも、皆にひとつ聞きたい」

 

雄二はゆっくりと、全員の目を見るように告げる。

間の取り方が上手く、全員の視線はすぐに雄二に向けられるようになった。それを確認した後、雄二の視線は教室内の各所に移りだす。

 

かび臭い教室

 

古く汚れた座布団

 

薄汚れた卓袱台

 

雄二「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが……不満はないか?」

 

 

 

『大ありじゃぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

 

和真を除くFクラス男子生徒の、心の底の底の底の底の底の底からの魂の叫び。

 

雄二「だろう?俺だってこの現状は大いに不満だ。」

『そうだそうだ!』

『いくら学費が安いからってこの設備はあんまりだ!』

 

堰を切ったかのように次々とあがる不満の声。この勢いはちょっとやそっとのことでは収まりそうもない。

 

雄二「皆の意見は最もだ。そこで、俺達FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」

 

代表・坂本 雄二は自信に溢れた顔に不敵な笑みを浮かべながら、戦争の引き金を引いた。

だが、

 

『勝てるわけがない』

『これ以上設備を落とされるなんて嫌だ』

『姫路さんがいたら何もいらない』

『霧島さん、愛している』

 

先ほどまでの勢いはどこへやら、盛り上がりがあっという間に収まった。先程までの不満はどうした不満は。まあそれも仕方ないのだが。

文月学園のテストは世にも珍しい制限時間内の問題数無制限というシステムだ。その為学力次第ではどこまでも点数を取ることができ、成績が優秀な生徒と低い生徒との明暗がはっきりと出る。一般的なAクラスの生徒の点数は大雑把に見てFクラスの生徒一人の3倍程もある。その戦力の差は歴然だ。

 

雄二「そんなことはない。必ず勝てる。いや、俺が勝たせて見せる。」

 

その戦力差にもかかわらず、雄二は自信満々にそう宣言した。しかしそれでもクラスメイトの猜疑心は拭えない。

 

『何を馬鹿なことを』

『何の根拠があってそんなことを』

雄二「根拠ならあるさ、このクラスには試召戦争で勝つ事のできる要素が揃っている。それを今から証明してやる」

 

この反応は予想通りと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた後、とある男子生徒の方を向く。

 

雄二「おい、康太。畳に顔をつけて姫路のスカートを除いてないで前に来い」

土屋「…………!!(ブンブン)」

姫路「は、はわっ」

 

必死になって顔と手を左右に振る否定のポーズを取る土屋。

あそこまで恥も外聞もなくローアングルから覗くとはそれはそれで大したもんだ。

 

雄二「土屋 康太。こいつがあの有名な、寡黙なる性識者(ムッツリーニ)だ」

土屋「…………!!(ぶんぶん)」

 

その名は男子には畏怖と畏敬を、女子には軽蔑を以て挙げられる異名だ。畳の跡を手で自分で押さえる土屋。既にバレバレだが、隠し通せていると本気で思っているあたり、この異名は伊達じゃないようだ。

また、彼の成績はほとんどがこのFクラス内でも最底辺だが、その並外れたスケベ心から保健体育は学年首席の蒼介をも凌駕する。そのことから土屋 康太という名も割と有名だが、Fクラス生徒のほとんどは成績上位者のことなどいちいちチェックしていないので、自己紹介では無反応であった。

 

『バカな……やつがあのムッツリーニだと…』

『いや、あれを見ろ!明らかにバレバレな証拠を未だに隠そうとしているぞ!』

『ああ、ムッツリの名に恥じない振る舞いだ…』

和真(それはどちらかと言うと恥じるべきなんじゃないか?あと毎回思うがあそこまでダイレクトに行動する奴はムッツリと言っていいのか?)

 

本人は隠し通せてるつもりなので定義付けはムッツリでいいのだろう、多分。

 

雄二「姫路 瑞希、霧島 翔子、柊 和真。いずれも学年トップクラスの学力を持っている。三人とも、主戦力として期待しているぞ!」

翔子「……わかった」

姫路「が、頑張りますっ!」

和真「あいよ、頼まれるまでもなく盛大に暴れてやるぜ!」

 

Fクラスの生命線と言っても過言でない彼等はそれぞれやる気十分に返事をする。

 

『ああ、姫路さんがいればそれで満足だ』

『霧島さん、まずはお友達からでも!』

和真(さっきから熱烈にラブコール送ってる奴がいるなぁ。その積極性と正直さを1割でいいから島田に分けてやってくれ)

雄二「木下 秀吉だっている」

 

木下秀吉は学力はFクラスの中では優秀な程度だが、演劇部のホープとして期待されている優秀な若者だ。

 

『おお……!』

『ああ。アイツ確か、木下 優子の』

『戦力として期待できるな』

和真(残念だができねぇ。優子と違ってあいつの学力は正真正銘Fクラスレベルだ。だかあいつの強みは学力じゃねぇ。まぁここで名を挙げたのはこいつらの士気を高めるためだろーな)

 

雄二「島田、お前は数学は優秀だったよな?」

島田「漢字が苦手でもある程度なんとかなるからね」

和真(俺と真逆の成績だな。まぁその数学もAクラス相手では力不足だがな。だがあいつは前線で指揮を取れる。そういうやつは貴重だ。指揮なんざ俺は絶対やりたくねぇけど)

 

和真は団体行動より一人で切り込む方が性に合っているので、周りを動かす司令塔ポジションはノーセンキューなのである。サッカーでもMFは断固としてやりたがらない。

 

雄二「当然、俺も全力を尽くす」

『確かになんだかやってくれそうな奴だ』

『坂本って、小学生の頃は神童とか呼ばれていなかったか?』

『それじゃ、振り分け試験の時は姫路さんと同じく体調不良だったのか』

和真(あいつがFクラスなのは点数調整した結果だけどな)

 

『実力はAクラス上位レベルが四人もいるってことだよな?』

『もしかしたらいけるかもしれないぞこれは!』

 

気がつけば、一度ゼロにまで下落したクラスの士気は再び勢いを増していく。

 

 

 

 

 

 

 

雄二「それに、吉井 明久だっている」

 

……シンーー

 

そんな盛り上がった士気が、再び一瞬でゼロになる。

 

明久「ちょっと雄二!どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ!?全くそんな必要はないよね!」

 

オチ同然に使われた明久は雄二に猛然と抗議するが、当の雄二は知らん顔。

 

『誰だよ吉井明久って』

『聞いた事ないぞ』

明久「ホラ!せっかく上がりかけてた士気に翳りが見えてるし!僕は雄二たちと違って普通のにんげんなんだから、普通の扱いをーってなんで僕を睨むの?士気が下がったのは僕のせいじゃないでしょう!」

 

明久の抗議を余所に、吹き出しそうになるのを和真は卓袱台に突っ伏して必死にこらえる。

 

和真(確実に明久への嫌がらせだ……畜生雄二の奴、俺の腹筋を殺しに来てやがる!なんて奴だ!)

 

それは和真が勝手に自滅しているだけで、おそらく雄二にそんな目論見はない。

 

雄二「そうか。知らないようなら教えてやる。こいつの肩書きは……〈観察処分者〉だ!」

 

バンッ!という効果音を背景に、雄二が高らかに宣言する。

 

『……それって、バカの代名詞じゃなかったっけ?』

しかしクラスの誰かがもっともな事を言う。

明久「ち、違うよっ!ちょっとお茶目な十六歳につけられる愛称で」

雄二「そうだ。バカの代名詞だ」

明久「肯定するな、バカ雄二!」

 

〈観察処分者〉とは学園生活を営む上で問題のある生徒に課せられる処分で、明久がこの学園で唯一その処分を受けている肩書きだ。

 

姫路「あの、それってどういうものなんですか?

雄二「具体的には教師の雑用係だな。力仕事などの類の雑用を、特例として物に触れられるようになった召喚獣でこなすといった具合だ」

 

召喚獣は本来は召喚獣以外の物に触れる事ができない。もっとも学園の床には特殊な処理が施されて、立つことはできるらしい。

しかし明久の召喚獣は雄二の言うとおり、物に触れられる特別仕様だ。

もっとも、物理干渉能力のある召喚獣は召喚獣の負担の何割かは召喚獣の召喚者にフィードバックされるというデメリットつきだが。

 

『おいおい。〈観察処分者〉ってことは、試召戦争で召喚獣がやられると本人も苦しいって事だろ?』

『だよな、それならおいそれと召喚できないヤツが一人いるってことだよな』

 

観察処分者の召喚獣の仕様を知っている生徒も何人かいるようで、それぞれが苦言を呈する。

 

和真(まあ確かにリスキーだが、それ相応の見返りはあるんだがな)

 

無制限腹筋耐久地獄からどうにか復活したらしく、和真は観察処分者としての利点を冷静に考察する。

 

雄二「気にするな。どうせ、いてもいなくても同じような雑魚だ」

明久「雄二、そこは僕をフォローする台詞を言うべきだよね?」

和真「そうだぞ雄二。いざというときにストレス解消のサンドバッグにもなれるし、壁にぶち当てて壁を破壊して予想外の方向から奇襲をかけられる」

雄二「おっ、いいなそれ。採用」

明久「キサマらはホントに人間か!?」

 

しかし頭で考えてることよりも悪ノリを優先する和真。

明久のいじられキャラポジションが新クラス内で早くも固定固定されつつある。南無。

 

和真「まあ悪ふざけはこの辺にしとくか」

雄二「そうだな。とにかく、俺たちの力の証明として、まずはDクラスを征服しようと思う!皆、この境遇は大いに不満だろう?」

『当然だ!』

 

雄二の言葉に触発され、クラス中が大いに盛り上がる。翔子や姫路もその雰囲気に圧されたのか、小さく拳を作り掲げていた。

 

雄二「明久にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。無事大役を果たせ!」

 

明久を捨てゴマにすることに関して定評のある雄二は、ここぞとばかりに明久に貧乏くじをさりげなく押し付けようとする。

 

明久「……下位勢力の宣戦布告の使者ってたいてい酷い目に遭うよね?」

雄二「大丈夫だ。やつらがお前に危害を加えることはない。騙されたと思って行ってみろ」

明久「本当に?」

雄二「もちろんだ。俺を誰だと思っている。そもそも乱闘が起こるなら真っ先に和真が行こうとするだろ?」

明久「それもそうだね、わかったよ。それなら使者は僕がやるよ」

雄二「ああ、頼んだぞ!」

 

クラスメイトの拍手と歓声に送り出され吉井は毅然とした態度で教室を出て行った。その様子を見送ったあと、和真は呆れ半分面白半分といった表情で雄二に向き直る。

 

和真「お前も悪どいなぁ、同学年で俺に喧嘩ふっかけるやつなんざいねぇの知ってんだろ?」

雄二「知ってるのはあいつもだろ?なのに騙されるバカなあいつが悪い」

和真「まぁそうだが……あいつのためにここに来たのに随分扱い悪いじゃねぇか」

雄二「………何を言ってるんだお前は?俺はただ、学力が全てじゃない事を証明したいだけだ」

和真「…そうかい」

 

 

 

明久「騙されたぁ!」

 

しばらくして、見るも無惨にズタボロの姿になった明久が教室に転がり込んできた。すごい剣幕で雄二に詰め寄るが雄二は毅然とした表情で返答した。

 

雄二「やはりそうきたか」

明久「やはりってなんだよ!?やっぱり使者への暴行は予想通りだったんじゃないか!?」

雄二が「当然だ。そんな事も予想できないで代表が務まるか」

明久「少しは悪びれろよ!」

 

猛然と抗議するが、初めから明久を陥れるつもりであった雄二は当然相手にしない。

 

姫路「吉井君、大丈夫ですか?」

明久「あ、うん、大丈夫。ほとんどかすり傷」

 

唯一駆け寄ってきてくれた姫路を心配させまいと強がる明久。そんなかすり傷があってたまるか。

 

島田「吉井、本当に大丈夫?」

 

明久のあまりの痛々しさに、珍しく島田も心配しだした。

あまりに不自然な光景に和真も思わず目を見開く。

 

和真(ん? いつもと違って素直に心配すんのか)

明久「平気だよ。心配してくれてありがとう」

島田「そう、良かった…。ウチが殴る余地はまだあるんだ……。」

和真(訂正、いつもの島田だった)

明久「ああっ!もうダメ!死にそう!」

 

腕を押さえて転げまわる明久。

毎回こんなかんじで、島田は上がった明久の好感度を次々とどぶに捨てているのである。

 

雄二「そんなことはどうでもいい、それより今からミーティングを行うぞ」

 

雄二は扉を開けて外に出て行った。それに続く和真、明久、翔子、姫路、島田、ムッツリーニ、秀吉の7人。

開戦のときは近い。

 




もともと私は読み専だったのですが、実際に書いてみると予想以上に難しいですね。

では。

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