AB=4、AC=3、角BAC=150度の三角形ABCの面積を求めよ
島田 美波の答え
『3』
蒼介「正解だ。
三角形の面積は1/2×sinBAC×AB×ACで求められる」
吉井 明久の答え
「わかりません!!!!!」
飛鳥「そんな力強く書かなくても……」
綾倉先生の携帯電話に表示されていたのは、なんと竹原教頭が警察に連行されている画像であった。
明久・雄二・翔子の三人もその画像を見て驚愕する。
無理もない、この一連のゴタゴタの首謀者だとついさっき聞かされていた相手が、既にドロップアウトしていたのだから。
雄二「……綾倉先生、どういうことか説明してもらおうか」
綾倉「答えられることであるなら」
雄二は値踏みするように綾倉先生を睨めつけるが、睨めつけられた本人はどこ吹く風、いつものニコニコ顔で微笑んでいる。
雄二「まず、なんで竹原は逮捕されたんだ?」
綾倉「盗聴した情報の漏洩と暴力教唆が主な理由ですね」
学園長「盗聴!? まさか学園長室にかい!?」
綾倉「ええ、ほんの少し前からですね。
……ああご心配無く、先程外して処分しておきましたので」
雄二「なるほど……あいつらは俺達の妨害してきたが、よく考えれば俺達とババァのつながってるとバレてたのは不可解だな」
ちなみに日本の法では、「販売・購入・設置」「盗聴波の傍受」だけでは盗聴器を罪に問うことはできない。
しかし傍受した情報を第三者に漏らすと電波法に触れてしまう。
雄二「暴行教唆ってことは、姫路達を拐ったあのチンピラどもの目的は……」
綾倉「ええ、決勝に進出したあなた達を、大会に出場できないよう痛めつけることです」
学園長「…………それだけのことがわかっていながら、アンタは教頭の側にいたのにもかかわらず止めなかったのかい? アンタ、それでも教育者かい?」
綾倉「そうは言っても未遂なら証拠不十分とされる可能性がありました。あの男はその方面にもコネがあったので。確実に検挙するために、言い逃れできない証拠が欲しかったのですよ」
学園長は責めるように言うが、それでも綾倉先生は表情を崩さない。
明久「ふざけるな! それって僕達を利用したってことじゃないか! 姫路さん達にもしものことがあったらどうするつもりだったんだよ!」
人質にされた生徒の安全を度外視していたかのような綾倉先生の態度に明久は憤慨し、彼の胸ぐらを乱暴に掴む。
綾倉「ゲホッ……まるで私が彼女達を見捨てたかのような言い方ですね」
明久「違うとでも言うのかよ! たまたまおっちゃんや和真達が助けてくれたから良かったものの-」
「そんな都合良すぎる偶然があってたまるかよ…」
呆れるような声とともに、和真、蒼介、秀介、鉄人、高橋先生の5人が教室に入ってきた。
明久「和真!? 鉄人!? ど、どういうこと!?」
鉄人「吉井、まずは綾倉先生から手を離せ。それと鉄人ではなく西村先生と呼べ」
鉄人に咎められて、明久は一先ず綾倉先生の胸ぐらから手を離した。
雄二「なるほど……ずっと都合が良すぎると思ってたんだ、竹原があちこちに待機させていたチンピラ共が全滅したことも、俺達と大したつながりがないオッサンが姫路達を助けに来たこともな。綾倉先生、アンタが全部裏から手を回してたな」
綾倉「ええ、生徒を危険に晒すわけにはいかないので、彼らには随分と手伝ってもらいました。特に、柊君には一番身近で吉井君の護衛を」
その言葉を聞き、明久は四回戦前の出来事を思い出す。
どうして和真は明久がチンピラ達に襲われることを、前以て知っていたかのように行動したのか。
和真は直感だと説明したが、和真の勘は自分に関したことでなければ必中というわけではないのだ。
種明かしをすれば、竹原の策略を聞いていた綾倉先生が、和真に情報をリークしていたのである。
綾倉「あの男は、私が腕輪の欠陥の糾弾を提案しなかろうと、遅かれ早かれ行動していたでしょう。
三年学年主任として、生徒に危害を及ぼそうが気にも留めない教師を私は許せません。
また父として、娘が通うこの学園を潰そうとする輩を放っておくつもりもありません」
つまり、それが綾倉先生の目的。
腕輪に欠陥が生じるよう細工したのも、独りよがりな野心で学園を脅かそうとする竹原を追放するための罠ということである。
彼は生徒を見捨てたのではない。自分の出来る限りのの手を尽くして、生徒を守ろうと行動したのだ。
明久「あ、あの……さっきはすみません……」
先程早とちりで怒りに任せて暴行を加えてしまったので、明久はばつが悪そうに謝罪する。
綾倉「気にする必要はありません。
友達のために怒ることができることは、とても素晴らしいことだと私は思っていますよ」
明久「先生……」
鉄人「まあお前は後で指導するがな」
明久「台無しだよ鉄人!」
鉄人「だから西村先生と呼べ!」
そんな感じで教室内で騒がしくなってきたのだが、学園長は苦々しい表情で綾倉先生他五名にに疑問を投げかける。
学園長「……そんな大事なことを、どうしてアタシに黙ってたんだい?」
学年主任、生徒指導、スポンサーのトップを含めた学園の関係者が、自分の知らないところで『竹原(社会的)抹殺計画』を進めていたことが、学園長にとっては面白くないようだ。
その疑問にそれぞれが答えた。
綾倉「たまには学園長を手のひらで転がしたくなったので」
高橋「教えるメリットが無かったので」
鉄人「開発にかまけてばかりいる学園長にはいい薬になるかと」
秀介「私は忙しいので」
蒼介「同じく」
和真「ばーさんがやきもきしているのが笑えるから」
学園長「あんた達とは個別にじっくり話し合う必要があるようだね………………まあいい。綾倉先生、腕輪の欠陥についてはどうするつもりだい? あしたは決勝戦だよ?」
綾倉「腕輪の欠陥ならすでに修復していますよ」
学園長「…………何から何まであんたの計算通りってわけかい……なんか腹立たしいね」
学園長は疲れたように嘆息する。この男、ありとあらゆる点で学園長より一枚上手だったようだ。
雄二「ということは、学園の脅威は全て片付いたわけだな」
明久「そうだね。あとは和真達にわざと負けて貰って、教室の改修をしてもらって、めでたしめでたしだね」
学園長「? なに言ってるんだい?学園の問題が片付いたんだから-」
和真「はいばーさんストーップ!」
学園長が何かを言いかけるが、和真はそれを制止する。それを見た雄二は、なにやら嫌そうな表情になる。
学園長「……ったく、お前はどこまでも自由だね」
明久「? 学園長、どうしたんですか?」
学園長「いや、なんでもないさね」
明久「???」
というわけで、竹原に執行された処刑方法は「これといった描写も無くリタイアさせられている」でした。
ある意味何よりも悲惨な末路ですね。
綾倉先生はどうやら腹黒属性&親バカのようです。
腕輪の欠陥は既に修理してある以上、もし明久達が脱落しても学園長室から盗聴器を回収し、他校とつながっている証拠を学園長にリークするだけで竹原は詰んでました。
つまり事態がどう転ぼうが竹原は学園から追放される運命でした。
学園の危機など無かった。
では。