バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【バカテスト・地理】
ベルギー・オランダ・ルクセンブルクからなる経済協力同盟をなんというか。

柊 和真の答え
『ベネルクス三国関税同盟』

蒼介「正解だ。この三国がEUの起源なので、決して忘れないように」

土屋 康太の答え
『EC』

源太「惜しいな、だがEC(ヨーロッパ共同体)はその三国以外にも加盟国がいるので不正解だ。
…………というかまともな間違い方初めてじゃねぇか、テメェ」

吉井 明久
『ETC』

蒼介「土屋の解答にTが加わっただけでここまで正解から遠ざかるとはな……」


撃退

おっちゃん「おーガキども、大丈夫だったか?……って、なんでお前さんだけ縛られてんの?」

秀吉「色々と事情があってのう……」

 

おっちゃんは優子に拘束されたときのロープをまだ持っていたせいで、一人だけ縛られた状態であった秀吉を解放する。 

姫路「あ、あのっ、助けて頂いてありがとうございました!」

おっちゃん「あー、まぁ気にすんな。おっちゃんも頼まれただけだし」

美波「頼まれたって……誰にですか?」

おっちゃん「すまんがそいつは言えねぇ」

秀吉「ふむ、そうか……まあ助けて貰った身じゃ、文句は言えん」

おっちゃん「いやいやいや、そいつと会う機会があったら言っとけ言っとけ。ミステリアスぶってんじゃねぇよ死ね、とでも」

美波「そ、それは流石に……」

 

なぜか個人的な恨みがあるかのような物言いである。

 

葉月「あっ!だるそうなおじさん久し振りです!」

 

一段落した後、恐怖から立ち直った葉月が、おっちゃんが見知った顔だとわかり挨拶する。

 

おっちゃん「あぁ? ……あー、お前さんあのときのチビガキか」

葉月「チビガキじゃないです葉月ですっ」

おっちゃん「へー、ほー」

葉月「む~」

 

まるで興味ありませんといった態度で、二本目の煙草に火をつけながら聞き流すおっちゃんに、葉月は不満気に頬を膨らませる。

 

美波「あ、あの……葉月と知り合いなんですか?」

 

助けてもらったとは言え、こんな胡散臭さを具現化ようなオッサンと妹が知り合いなのは複雑な心境なのか、美波は恐る恐る尋ねる。

 

おっちゃん「あぁ、以前こいつらの缶蹴りに強引に巻き込まれたことがあってな。よりによってせっかく仕事を部下に押し付けることに成功した日にな……」

美波(缶蹴り?そういえば今日そんな話を聞いたわね。

……それにしても、)

缶蹴り、と聞いて美波はクラスメイトの娯楽主義者がした話を思い出す。そして、

 

美波(ダメ人間ね、この人……)

秀吉(ダメ人間じゃな……)

姫路(ダメ人間、ですね……)

 

絶体絶命のピンチを救ったおっちゃんの株価が、急激に下落し始めたようだ。

 

チンピラA「ククク……いい気になるなよ…………

俺達の連絡が途絶えたことで、直に仲間がここに突入し―んごぱっ!?」

おっちゃん「誰が喋っていいっつったよ、だるいんだからそこで死んでろよ」

 

気絶から復活し不吉なことをいい始めたチンピラを、おっちゃんが再び首をねじ切って黙らせる。

 

秀吉「お、おい!? 今こやつ大事ことを話そうとしておったぞ!?」

おっちゃん「いいんだよ。そんなもんとっくに知ってる」

 

そう言うとおっちゃんはそのチンピラの懐をまさぐり、無線機を取り出した。

 

おっちゃん「あーあー、聞こえてるかー、こっちはガキどもの救出に成功したぞー」

チンピラ×10「」

鉄人「こちら西村、北側に待機していたバカどもの鎮圧を終えました」

 

チンピラに教育指導(物理)を施し、縛り上げた状態にしたまま生徒指導の鬼は任務完遂の報告をした。

 

鉄人「さて、他のブロックのバカどもも回収し補習室に連行しなくてはな。やれやれ……まさか校内生以外に生徒指導をすることになるとは」

チンピラ×10「」

秀介「こちら鳳 秀介とその息子蒼介、西側を制圧完了」

 

木刀でチンピラ共を昏倒させた秀介と蒼介は任務完遂の報告をした。

 

秀介「ふふふ、それにしても蒼介、随分と腕を上げたようだね」

蒼介「それでもまだあなたと同じ境地には辿り着けていませんよ、父様」

秀介「焦る必要はない。お前なら辿り着けるさ、明鏡止水の境地に。今後とも日々精進したまえ」

蒼介「……わかりました」

秀介「さて、一先ず学園に戻るとしようか」

蒼介「父様、そっちは学園と逆方向です」

 

チンピラ共を一子相伝の剣術で鎮圧した後、アグレッシブ社長&御曹司は文月学園へ凱旋する。

チンピラ×10「」

和真「こちら和真、南側のチンピラ共の殲滅が終わったぜ」

 

死屍累々に積み上げられたチンピラ共の山に腰かけ、和真はつまらなそうに任務完遂の報告をした。

 

和真「はぁ………やっぱ10人程度じゃ面白くもなんともねぇな」

 

チンピラ共を瞬殺した娯楽主義者は期待はずれといった表情で文月学園へ舞い戻る。

チンピラ×10「ぐぅっ……!」

高橋「こちら高橋、東側を制圧完了」

 

チンピラ達を召喚獣のムチで縛り上げた状態で、高橋先生は淡々と任務完遂の報告をし、鉄人が来るのを待つ。

おっちゃん「全滅させたようだな、結構結構」

 

満足そうにそう呟くと、おっちゃん手に持った無線機を無造作に投げ捨てる。

 

おっちゃん「じゃあなガキども。ミスドここに置いとくから、食べながら仲間が助けに来るまでここで待ってな」

 

そう言い残し三本目の煙草に火を点けながら、おっちゃんは部屋から出ていこうとする。

 

美波「ち、ちょっと待って下さい!助けに来るって、誰がですか?」

 

事態が飲み込めていない美波は慌てておっちゃんを引き留めようとするが、おっちゃんは面倒臭そうに返事する。

 

おっちゃん「そりゃあ、お前さん達のお友達だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀吉「……ということがあってのう」

明久(へえ……あのおっちゃんがそんなことを)

 

秀吉達からことの顛末を聞いた明久は、かなり下の方だったおっちゃんに対する評価を上方修正する。

 

美波「でも色々とわからないことが多いわねあの人。どうして面識のある柊はともかく、西村先生達や鳳親子ともパイプがあったのかしら?」

明久「言われて見れば確かに……まあ和真なら何か知ってるんじゃない?」

秀吉「少なくとも鳳についてならおそらく知っておるじゃろうしな」

美波「それもそうね」

雄二「…………………………」

 

三人が納得するなか、雄二は難しい顔をしたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誘拐騒ぎも解決して、喫茶店の一日目も終了したFクラスの教室。そこに明久と雄二と翔子が残っていた。(翔子には事情を説明済み。ちなみにチケットの説明の辺りで雄二が死にかけるハプニングがあったが、そこはまあ置いておこう)。

 

雄二「お前ら。そろそろ来る時間だぞ」

明久「? 来るって、誰が」

雄二「ババァだ」

明久「学園長がわざわざここに来るの?」

 

どうやらババァ=学園長ということは、いちいち説明しなくても伝わるようだ。

 

雄二「俺が呼び出した。さっき廊下で会った時に、『話を聞かせろ』ってな」

翔子「……雄二、相手は目上の人なんだから、用事があるならこちらから行かなきゃ」

雄二「用事もクソも……この一連の妨害はあのババァに原因があるはずだからな。事情を説明させないと気が済まん」

明久「ババァに原因が―えぇぇっ!? あ、あのババァ! 僕らに何か隠してたのか! そのせいで姫路さんたちが危険な目に遭いそうになるし、喫茶店の経営は苦労するし、ここは文句言ってやらないと!」

 

「……やれやれ。わざわざ来てやったのに、随分な挨拶だねぇ、ガキどもが」

 

声と同時に教室の扉が開き、学園長が姿を現す。

 

雄二「来たかババァ」

明久「でたな諸悪の根源め!」

学園長「おやおや、いつの間にかアタシが黒幕扱いされてないかい? だいたいなんで部外者までいるんだい?」

 

学園長まるで被害者であるかのように肩をすくめた後、雄二の隣にいる翔子を見据えるが、

 

翔子「……さっき雄二から無理矢理自白させた」

学園長「そ、そうかい……」

 

翔子の恫喝報告にさすがの学園長も気圧される。

そもそも雄二も話すつもりは無かった。まぁ仕方ないだろう、力関係は圧倒的に翔子が上なのだから。

 

雄二「黒幕ではないだろうが、俺達に話すべきことを話してないのは充分な裏切りだと思うがな」

学園長「ふむ……。やれやれ。賢しいヤツだと思っていけど、まさかアタシの考えに気づくとは思ってなかったよ」

雄二「最初に取引を持ち掛けられた時からおかしいとは思っていたんだ。あの話だったら、何も俺達に頼む必要はない。もっと高得点を叩き出せる優勝候補を使えばいいからな。一緒にいた和真とか、前回チャンピオンの佐伯先輩にでもな」

明久「あ、そういえばそうだね。優勝者に後から事情を話して譲ってもらうとかの手段を取れたはずだし」

雄二「そうだ。わざわざ俺達を擁立するなんて、効率が悪すぎる」

翔子「……つまり、雄二達を召喚大会に出場させる為にわざと渋った?」

雄二「そういうことになるな」

 

せれが事実なら、中々に狡猾な方法を使うクソババァである。

 

雄二「明久。俺がババァに一つの提案をしたのを覚えているか?」

明久「提案? えーっと」

学園長「科目を決めさせろってヤツかい。なるほどね。アレでアタシを試したワケかい」

雄二「ああ。めぼしい参加者に同じような提案をしている可能性を考えてな。もしそうだとしたら、俺達だけが有利になるような話しには乗ってこない。だが、ババァは提案を呑んだ」

 

雄二の提案を呑んだということは、他の人ではなく明久達が優勝しなければ学園長が困るということだ。

 

雄二「他にも学園祭の喫茶店ごときで営業妨害が出たりしていたしな。何より、俺たちの邪魔をしてくる連中が姫路たちを連れ出したりしたのが決定的だった。ただの嫌がらせならここまではしない」

学園長「そうかい。向こうはそこまで手段を選ばなかったか……すまなかったね」

 

と、突然学園長が頭を下げた。とんでもなくレアケースなことである。

 

学園長「あんたらの点数だったら集中力を乱す程度で勝手に潰れるだろうと最初は考えてたんだろうけど……決勝まで進まれて焦ったんだろうね」

雄二「こちらのタネ明かしはこれで終わりだ。今度はそっちの番だ」

学園長「はぁ……アタシの無能を晒すような話だから、できれば伏せておきたかったんだけどね……」

 

誰にも公言しないで欲しい、そんな前置きをして、学園長は明久達に真相を明かし始めた。

 

学園長「アタシの目的は如月ハイランドのペアチケットなんかじゃないのさ」

明久「ペアチケットじゃない!? どういうことですか!?」

学園長「アタシにとっちゃあ企業の企みなんかどうでもいいんだよ。アタシの目的はもう一つの賞品なのさ」

翔子「……もう一つというと、『白金の腕輪』?」

明久「ああ。あの特殊能力がつくとかなんとかってやつ?」

 

白金の腕輪は二種類ある。

一つ目は点数を二分して二対の召喚獣を同時に召喚する腕輪。

もう一つは教師の代わりに立会人になって召喚フィールドを作る腕輪。こっちは使用者の点数に応じてフィールドの広さが変化し、科目は自由に選択できる。

 

学園長「そうさ。その腕輪をアンタらに勝ち取って貰いたかったのさ」

明久「僕らが勝ち取る? 回収して欲しいじゃないわけじゃなくて?」

雄二「あのな……回収が目的なら俺たちに依頼する必要はないだろう?そもそも、回収なんて真似は極力避けたいだろうし、な」

 

雄二が学園長を揶揄するように話を振る。

 

学園長「本当にアンタはよく頭が回るねぇ……そうさ。できれば回収なんて真似はしたくない。新技術は使って見せてナンボのものだからね。デモンストレーションもなしに回収したら、新技術の存在自体を疑われることになる」

 

できればということは、最悪の場合はそれも考慮していたんだろう。

 

明久「それで、何でその『白金の腕輪』を手に入れるのが僕らじゃないとダメなんですか?」

学園長「……原因不明の欠陥が生じたからさ」

 

苦々しく顔をしかめる学園長。技術屋にとって新技術に欠陥が発生し、しかもその原因がわからないことは耐え難い恥のはずだ。それを生徒である明久達に話すのだから無理もない。

 

雄二「その欠陥は俺達であれば問題ないのか?」

学園長「お前達というか吉井だね。欠陥が生じたのは片方だけだからね。吉井が使うんなら暴走は起こらずに済むのは、不具合は入出力が一定水準を超えた時だからね。だから他の生徒には頼めなかったのさ」

明久「えーっと、つまり……?」

学園長「アンタみたいな片方が『優勝の可能性のある低得点者』のコンビが一番都合が良かったってわけさ」

明久「よくわからないけど、とりあえず褒められてるってことでいいのかな?」

雄二「いや、お前はバカだと言われているんだ」

明久「なんだとババァ!」

雄二「説明されないとわからない時点で否定できないと思うんだが……」

学園長「二つある腕輪のうちの同時召喚用は、現状だと平均点程度で暴走する可能性がある。だからそっちは吉井専用にと」

明久「雄二、これは褒められていると取っていいだよね?」

雄二「いや、バカにされてる。お前は平均点すらとれっこないバカだと」

明久「なんだとババァ!」

雄二「いい加減自分で気づけ!」

翔子「……どう解釈したら誉められてると?」

 

それは明久のみぞ知ることだ。

 

雄二「そうか。そうなると、俺達の邪魔をしてくるのは学園長の失脚を狙っている立場の人間―他校の経営者とその内通者といったところだな」

明久「雄二、そうやって僕を会話から置き去りにするのはやめて欲しいな?」

翔子「……吉井、雄二達の邪魔をするのは腕輪の暴走を阻止されたら困るってこと。そんな学園の醜聞をよしとするのはうちに生徒を取られた他校の経営者くらい」

 

のみこみが絶望的に悪い明久に、翔子がわかりやすく説明する。

 

学園長「ご名答。身内の恥を晒すみたいだけど、隠しておくわけにもいかないからね。恐らく一連の手引きは教頭の竹原によるものだね。近隣の私立校に出入りしていたなんて話も聞くし、まず間違いないさね」

明久「それじゃ、僕らの邪魔をしてきた常夏コンビとか、例のチンピラとかは」

雄二「教頭の差し金だろうな。協力している理由はわからんが」

学園長「ついでに綾倉も教頭に味方しているようさね。うまく誤魔化してるつもりかしらんが、腕輪の欠陥はおそらく人為的である以上、そんな芸当ができそうな人間は奴しかいないからね」

雄二「綾倉? 三年の学年主任がか? 実の娘がこの学校に通っているのに何を考えているんだ?」

学園長「さぁね」

 

自分に聞くなと言わんばかりに学園長は肩をすくめた。

 

 

 

 

 

「おや、気になるのですか? ならば全て説明いたしましょうか?」

 

そう言って、綾倉先生がFクラスに入って来た。

教頭の味方と、ちょうど今学園長から聞かされたところなので、四人の顔が強張る。

 

学園長「綾倉先生……教頭サイドであるアンタがアタシらになんのようだい?」

 

綾倉先生を睨みつけながら学園長が問う。しかし綾倉先生はそんな学園長の様子を気にも止めずに悩む素振りをする。

 

綾倉「うーん……口で説明するよりこちらを御覧になられた方が早く済みそうですね」

 

そう言っておもむろに携帯電話をいじくり、学園長に渡した。

 

学園長「? ………………なっ!?」

 

訝しむように携帯を覗きこんだ学園長の顔が、一瞬にして驚愕に染まった。




はい、いいところでカットします。
さて、綾倉先生の見せた物は……?


では。

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