問題(科学)
『ベンゼンの化学式を答えなさい』
姫路 瑞希の答え
『C6H6』
蒼介「正解だ。特に言うことは無い」
土屋 康太の答え
『ベン+ゼン=ベンゼン』
源太「テメェ化学舐めてんだろ」
吉井 明久の答え
『B-E-N-Z-E-N』
蒼介「お前達二人に布施教諭からの伝言、『あとで職員室に来るように』。わかったか馬鹿共」
雄二「明久。今日という今日はお前をコロス」
明久「あはは。やだなぁ雄二。目が怖いよ?」
翔子「…………(ウットリ)」
雄二は今にも明久に掴みかかりそうな表情をしており、それに対して翔子はとても幸せそうな表情をしている。
見た感じ明久達が無様に敗北した後の光景に見えるが、勝者は明久と雄二のペアだったりする。
準決勝、明久・雄二ペアの相手は翔子・優子ペア。
雄二の考えていた作戦は優子を秀吉と入れ換えて三体一で翔子を倒す、というものだった。
だがその考えは甘い。天津甘栗よりも甘い。
入れ替わりを行う以上本人を拘束しておく必要があり、秀吉がその役を買ってでたのだが、心技体全てにおいて上回る優子に敵うはずもなく、手も足もでず返り討ちに遭い逆に拘束されてしまう。
普段の雄二ならばこの程度のことを見落とすわけがないのだが、なぜか翔子が絡むと雄二の頭のキレが凄く悪くなるのだ。
作戦は失敗、まさに絶体絶命の状況をどのように切り抜けたかと言うと……
明久(雄二。僕に考えがあるから、指示通りの台詞を言って欲しい)
雄二(考え?一体何を―)
明久(今は迷ってる余裕なんてないよ。とにかくよろしく!)
雄二(お、おう)
自分の指示だとバレないように明久は雄二の陰にそれとなく身を隠す。そして念のためジェスチャーでムッツリーニに、救出された秀吉にこっちに来るように指示をだす。
明久(それじゃ行くよ。僕の言ったことをそのまま言うんだ。棒読みにならないようにね?)
雄二(わかった。今回はお前に任せよう)
明久<翔子、俺の話を聞いてくれ>
雄二「翔子、俺の話を聞いてくれ」
明久<お前の気持ちは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ>
雄二「お前の気持ちは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ」
翔子「……雄二の考え?」
明久<俺は自分の力でペアチケットを手に入れたい。そして、胸を張ってお前と幸せになりたいんだ!>
雄二「俺は自分の力でペアチケットを手に入れたい。そして、胸を張ってお前と幸せになりたい―って、ちょっと待て!」
慌てて明久の方をを向こうとするが、明久は後ろから強引に雄二の頭を押さえつける。
翔子「……雄二」
翔子はうっとりした表情で雄二を見ている。
明久(やはり僕の作戦に間違いはなかった)<だからここは譲ってくれ。そして、優勝したら結婚しよう>
雄二「だっ誰がそんなこと言うかボケェッ!」
明久(ふん、バカめ!キサマの反応などお見通しだ!)「くたばれ」
雄二「くぺっ!?」
明久が後ろから雄二の頸動脈を押さえつける。
翔子「……雄二?」
明久(秀吉、よろしく)
秀吉(うむ。了解じゃ)
ここにきてようやく待機させておいた秀吉の出番のようだ。秀吉は雄二の本人と区別のつかない声まねで最後の台詞を紡ぐ。
秀吉(雄二)「だからここは譲ってくれ。そして、優勝したら結婚しよう。愛してる、翔子」
明久(指示していない台詞まで追加されていたけと……実は秀吉もこういった真似が好きなのかな?)
翔子「……雄二。私も愛してる……」
雄二「ま、待て……。勝手に話を進め……こぺっ!?」
明久は雄二が反論できないよう首を捻りあげた。
明久「ふはははは! これで最強の敵は封じ込めた! 残るはキミだけだ、木下 優子さん!」
優子「ひ、卑怯な……!」
ちなみに翔子は雄二の亡骸に抱きついて、胸元に顔を埋めている。
雄二の手足は力なく垂れ下がっているが大した問題ではない、多分。
優子「こうなったらアタシ一人で片付ける! 『アクティブ』を舐めないでよね!
行くわよ―試獣召喚(サモン)!」
明久「ふふっ。それはどうかな? この勝負の科目が保健体育だったことを恨むんだね!」
そう言ってムッツリーニに目配せする。これは元々雄二(故)が考えていた秘策である。
明久「行くよっ!新巻鮭(サーモン)!」
ムッツリーニ「…………試獣召喚(ボソッ)」
喚び声に応え、出現する召喚獣。それはたとえ優子であろうと太刀打ちできない強さを持った―
《保健体育》
『二年Fクラス 土屋 康太 583点
VS
二年Aクラス 木下 優子 353点』
優子「……え!?それ、土屋くんの……」
―ムッツリーニの召喚獣だ。
明久(これが秘策、『代理召喚(バレない反則は高等技術)』だ!)
ムッツリーニ「…………加速(ボソッ)」
優子「ほ、本当に卑怯―きゃぁっ!」
まあ要するに、雄二の自由を生け贄に勝利をもぎ取ったというわけだ。雄二が翔子が関系したことに弱いのと同様、翔子も雄二が関係したことに弱いのだ。
やり口が外道そのものだが、雄二も普段明久を陥れているので文句を言える身分ではない。
『アクティブ』のメンバー達のような「助け合う友情」でもなければ、和真と蒼介の「競い合う友情」でもない。
この二人は言わば「蹴落とし合う友情」である。それを友達関係と呼んで良いのか甚だ疑問であるが。
明久「だいたい、雄二の作戦が読まれていたのがいけないんじゃないか。木下さんと秀吉の力関係を考慮していなかったなんてらしくないよ?」
雄二「ぐっ。それを言われると反論できん……」
このように、雄二は翔子が相手だと冷静さを失ってしまうのである。
雄二「ところで翔子、姫路や島田は教室にいるのか?」
翔子「……確認はしてないけどまだ喫茶店でウェイトレスをやっている時間」
雄二(多分、そろそろ仕掛けてくるはずだと思うんだが……)
ムッツリーニ「…………雄二」
教室の前まで戻ってくると、ドアの前に立っていたムッツリーニが駆け寄ってきた。
雄二「ムッツリーニか。何かあったのか?」
ムッツリーニ「………ウェイトレスが連れて行かれた」
明久「えぇっ!? 姫路さんたちが!?」
雄二「やはり俺達と直接やり合っても勝ち目がないと考えたか。当然といえば当然の判断だな」
確かに中学時代喧嘩に明け暮れていた雄二は並の人間ならだろう。さらに、Fクラスにはその雄二を遥かに凌駕する化け物もいるのだ。相手がそう考えたと判断するのが妥当だろう。
明久「ってそんなことより、姫路さん達は大丈夫なの!? どこに連れて行かれたの!? 相手はどんな連中!?」
雄二「落ち着け明久。これは予想の範疇だ」
翔子「……そうなの?」
雄二「ああ。もう一度俺達に直接何かを仕掛けてくるか、あるいはまた喫茶店にちょっかいを出してくるか。そのどちらかで妨害工作を仕掛けてくることは予想できたからな」
雄二はどうやら今回はウェイトレスを連れ出すという喫茶店の妨害と予想しているらしい。確かにそんなことをされては売り上げに影響が出るだろう。
明久「なんだか随分と物騒な予想をしてたんだね。今回の場合下手をすると警察沙汰になるというのに」
雄二「引っかかることが随所にあったからな」
ここ最近の雄二の考えるような素振りはなにかしら違和感を感じていたからであろう。
ムッツリーニ「…………行き先はわかる」
と、おもむろに取り出したのは何かの機械。
明久「なにこれ? ラジオみたいに見えるけど」
ムッツリーニ「………盗聴器の受信機」
明久「オーケー。敢えて何で持ってるのかは聞かないよ」
これも下手したら警察沙汰になるだろう。
雄二「さて、場所がわかるなら簡単だ。かる~くお姫様たちを助け出すとしましょうか、王子様?」
明久「そのニヤついた目つきは気に入らないけど、今回は感謝しておくよ。姫路さん達に何かあったら、召喚大会どころの騒ぎじゃないからね」
雄二「……それが向こうの目的だろうな」
明久「え?」
雄二「とにかく、まずはあいつらを助け出そう。翔子は教室で待っていてくれ」
翔子「……わかった」
まず最初に翔子を危険から遠ざけようとする辺り、なんだかんだで大切にしているようだ。
雄二「ムッツリーニ、タイミングを見て裏から姫路たちを助けてやってくれ」
ムッツリーニ「…………わかった」
明久「雄二、僕らはどうするの?」
雄二「王子様の役目は昔から決まっているだろう?」
茶目っ気を含んだ目を明久に向ける雄二。
明久「王子様の役目って?」
雄二「お姫様をさらった悪党を退治する事さ」
……と、まあそんな感じで意気込んで文月学園から歩いて五分程度のカラオケボックスのパーティールームに乗り込んだのだが、
葉月「あ、バカなお兄ちゃんです! (モッサモッサ)」
美波「来るのが遅いわよ(モッサモッサ)」
姫路「駄目ですよ美波ちゃん、そんの言い方しちゃ(モッサモッサ)」
秀吉「心配させたかのう? (モッサモッサ)」
「「「ど う し て そ う な っ た !」」」
なぜか誘拐された四人は、パーティールームでドーナツを頬張りながらくつろいでいた。
周りには気絶したチンピラ七人が、縄で縛られて無造作に転がっていた。
雄二「……あれ、お前らがやったのか?」
美波「そんなわけないでしょ。いくらウチでも七人は無理よ」
明久「……じゃあ誰がやったの?」
秀吉「ふむ、一から説明した方が良さそうじゃな」
そう言って秀吉は一部始終を語り始めた。
葉月「お、お姉ちゃん……」
美波「ちょっとアンタたち! 葉月を放しなさいよ! ウチらをどうするつもり!」
美波達四人はチンピラ達に葉月を人質に取られ、ろくに抵抗もできずこの部屋まで連れてこられていた。
チンピラA「まあそう焦んなよ。お嬢ちゃん達は吉井と坂本を呼び出すエサになってくれればいいんだから」
姫路「よ、吉井君達に何をするつもりですか!?」
チンピラB「そりゃ勿論適度に痛めつけるんだよ。かつて『悪鬼羅刹』と呼ばれた坂本だろうが、人質がいるんならろくに手出しできねぇだろうからな~」
秀吉「なんと卑怯な奴等じゃ! 根本の奴がマシに見えてくるぞい!」
人として最低のことをしようとしているチンピラ共を嫌悪に満ちた表情で睨む秀吉と美波。
チンピラC「おいおい口の聞き方に気をつけた方がいいぜ? 依頼人からはお前らをどうしようが構わないって言われてんだからよ」
『ギャハハハハハハハ!』
吐き気すら覚えるような笑い方をし、下卑た目で秀吉達をみるチンピラ共。秀吉と美波は悔しそうに唇を噛む。
チンピラA「まあしばらくおとなしくしてな無事に帰りたけりゃあよ」
「そいつの言う通りちょっとの間おとなしくしとけよガキども。巻き込まれたくなけりゃな」
『ギャハハハハハハハ!』
『……………………は?』
いつの間にか一人の男がチンピラ共の隣に立っていた。
「くたばれ」
チンピラA「がはぁあっ!」
チンピラB「げぼぉっ!」
そのことをその場にいる全員が認識した瞬間、チンピラの一人が顔面をぶん殴られて吹っ飛ばされ、一人を巻き込んで壁に激突して気を失った。
チンピラC・D「「な、なんだテメ―ぐぎゃあっ!?」」
二人のチンピラの言葉が言い終わらないうちに、男は両手で二人の頭を掴み、シンバルの要領でおもいっきりぶち当てた。
そして男はすかさず残り三人の中で一番手近にいた一人の足を掴み、逆さ吊りにし、
チンピラF「な、なにするんだテメ―ほごあぁぁぁっ!」
チンピラE「く、来るな!?あがぁぁぁっ!」
鈍器のように別のチンピラに殴りかかった。
「はい、おしまい」
男は鈍器にしたチンピラを無造作に投げ捨てた後、即座に上半身を低く沈め、そのまま空中で一回転、後ろ足を蠍のように跳ね上げ、最後のチンピラの土手っ腹に全体重を載せた蹴りを炸裂させた。
最後の一人は肺の酸素を全て吐き出させられ、声を上げることもできずに意識を失った。
「さてと、仕上げだ」
男は倒れているチンピラ共を持参した縄で手際良く縛り上げた。
チンピラA「テ……テメェはなんなんだよ?…… (ゴキュッ)ゴファッ」
意識を取り戻したチンピラの一人がそう言うも、男に首を捻られ再び失神する。
「あ? 俺? 俺は―」
その男は、
所々はねまくったボサボサの黒髪
あまり手入れされていない口元の無精髭
すごくだらしない着方をしたスーツ
そして……覇気の欠片も感じない濁った目をしていた。
男は煙草に火をつけながら気だるげに答えた。
「通りすがりのちょっと無気力なおっちゃんだ」
原作通り姫路達は誘拐されましたが、再登場したおっちゃんがスピード解決しました。無駄に強い……
しかし、竹原の配下はまだ40人ほど残っています。
では。