『胸三寸』という語句を使って例文を作りなさい。
霧島 翔子の答え
「上司の胸三寸で許可を出すかどうかを決められる」
蒼介「正解だ。『胸三寸』とは、心の中にある考えという意味になる」
吉井 明久の答え
「美波の胸は三寸だ」
和真「さっき明久がズタボロになってた理由はこれか……」
五十嵐 源太
「徹の身長は三寸だ」
蒼介「そして源太が半殺しにされていた理由はこれか……というか語句が変わってしまっている時点で確信犯だなこれは」
『お待たせしました!これより準決勝を開始したいと思います!』
和真達が特設ステージに到着すると、審判役の教師のアナウンスが流れた。
徹「まったく、時間ギリギリじゃないか」
和真「わりぃ、喫茶店が忙しくてな」
徹(うちも忙しかったけど早めに抜けてきたんだよね……もうオモチャにされるのは御免だよ)
心なしか、徹の背中に哀愁が漂っている。
『出場選手の入場です!』
アナウンスに従い、和真と徹はステージに入場する。
和真達の向かいからは対戦相手の、今日散々Fクラスの邪魔をしてきた常夏コンビがやってきた。
徹「どうも先輩方。生徒会役員ともあろう者が、随分とセコい小細工をしていたようですね」
ついさっき和真から事情を聞いていた徹は、揶揄するように夏川達に話しかける。
夏川「あれはあのバカ共が公衆の面前で恥をかかないように、という優しい配慮なんだよ。ま、Fクラスの奴なんかとつるんでるような奴のオツムじゃあ理解できなかったか?」
それに対して夏川は顎を手で擦り、挑発してきた。
徹「そうでしたか、だとしたら無駄な努力ですねぇ。あなた方は今ここで、僕達に無様に負ける運命なんですから」
その挑発を欠片も意に介することなく、ものすごく見下した表情で挑発し返す徹。
夏川「んだとテメェ……試召戦争は点数だけで結果は決まらねぇんだよ。お前らみたいなケツ青いクソガキに負けるわけ―」
徹「誰がガキだゴルァ! 顔の皮剥がされてぇのか、あぁん!?」
常夏「「いやなんでだよ!?」」
さっきまで憎たらしいくらいに冷静だった徹が突然ぶちギレる。
徹のあまりのキレっぷりに思わずたじろぐ二人。
ガキ、チビ、ミニ、リトル、スモール、チャイルド、その他小さいことを意味するワードは禁句である。
和真「……なぁ先輩、一つ聞きてぇんだけどよ」
しばらく静観していた和真が、突然おもむろに口を開いた。
夏川「? なんだよ?」
和真「なんであんたら教頭なんかに協力してんだよ?」
夏川「! ……そうかい。事情は理解してるってコトかい」
和真「最初にあんたらが妨害してた時に、率先して席を立ったのは教頭だ。二回目に教頭が来たとき明久のことを確認して、そしてその直後に明久が襲われた。それだけのことがあれば教頭とあんたら、ついでにあのチンピラどもがグルだってわかるわ。ついでにあんたらが何を狙ってるかも調べはついてる」
常村「……こいつは驚いた。お前、Fクラスのクセに随分頭が回るじゃねぇか」
和真「そいつはどーも。で、あんたらは何が目的なんだ?文月学園を潰そうとしてる奴に肩入れしてるんだ、何かしらあんだろ?」
夏川「進学だよ。上手くやれば推薦状を書いてくれるらしい。そうすりゃ受験勉強とはオサラバだ」
和真「……なるほど。常村先輩も同じか?」
常村「まぁな」
和真「…………ハァ」
二人の目的を聞いた和真は、呆れるようにため息を吐いた後、氷のように冷たい目で二人を見据える。
和真「…………気に入らねぇな……
俺は、あんたらが心底気にいらねぇ!!!」
夏川「なんだとコラ……先輩に向かって……!」
常村「まぐれで佐伯に勝ったことで調子に乗ってんのか? だったら俺達が現実っつうもんを教えてやるよ!」
『そ、それでは試合に入りましょう! 選手の皆さん、どうぞ!』
一色触発の雰囲気を察したのか、審判役の先生がたじろぎながら四人に召喚を促す。
和真「………………徹、すまん」
徹「? 何がだい?」
和真「この試合…………お前の出番は無さそうだ」
徹「! …………」(これは……相当イラついてるね、まあ無理もないか……)
『試獣召喚(サモン)!』
掛け声をあげ、それぞれが分身を呼び出した。
常夏コンビの召喚獣の装備は二人ともオーソドックスな剣と鎧。姫路の装備をワンランクダウンしたような感じである。
《保健体育》
『二年Fクラス 柊 和真 322点
二年Aクラス 大門 徹 315点
VS
三年Aクラス 夏川 俊平 195点
三年Aクラス 常村 勇作 203点 』
『それでは、準決勝開始!』
夏川「さぁて、三年の強さを思い知らせ…………」
夏川の言葉は最後まで続かなかった。
なぜなら……
自分の召喚獣が、〈和真〉が神速で投擲した槍に貫かれ、壁に突き刺さって息絶えてしまったからだ。
夏川「ば……馬鹿なッ!?」
《保健体育》
『二年Fクラス 柊 和真 322点
二年Aクラス 大門 徹 315点
VS
三年Aクラス 夏川 俊平 戦死
三年Aクラス 常村 勇作 203点 』
〈和真〉がやったことは至極単純。
全速力でダッシュしながら槍を投擲しただけだ。
ただし学園でもトップクラスのスピードで、だが。
その圧倒的な加速力が、〈和真〉の規格外の豪腕から放たれる槍のスピードをさらに加速させ、見てからではガードも回避も間に合わないほどの攻撃へと昇華されたのである。そしてこの技にはもう一つメリットがある。それは全速力で槍を放った相手の方向ににダッシュしているので、
和真「次ィ!」
すぐさま投擲した槍を回収できるということだ。
常村「っ!? こ、この野郎っ!」
槍を回収し、そのまま自分に襲いかかって来た〈和真〉を迎え撃とうと武器を構える〈常村〉。
和真「おらぁあああ!」
〈常村〉めがけて〈和真〉が槍を横に薙ぐ。
常村「喰らうかそんな攻撃!」
即座にしゃがんで槍の攻撃を回避しようとする〈常村〉に対して〈和真〉は、
和真「もらったぁあああ!」
横に振り切った槍の威力を損なわずに構え直し、〈常村〉の上から渾身の力で叩きつけた。
常村「………………嘘だろ?」
《保健体育》
『二年Fクラス 柊 和真 322点
二年Aクラス 大門 徹 315点
VS
三年Aクラス 夏川 俊平 戦死
三年Aクラス 常村 勇作 戦死』
『勝者、柊・大門ペア!』
審判の先生に勝ち名乗りを受け、観客の拍手喝采に包まれるも、和真は不満足げな表情をしていた。失望、落胆、脱力、そんな感情がむき出しになっている。
和真「……つまんねぇ…………今までで一番つまんなかったよ、この試合は」
和真は心底失望したような冷めきった目で常村と夏川を見下ろす。
常村「な、なんだと!」
夏川「この野郎!先輩に向かって……!」
和真「あんたらのしょうもなさを、他にどう表現すりゃあいいっつうんだよ? あぁん?」
夏川「テメェ……!」
常村「言わせておけば……!」
情け容赦無い罵詈雑言を浴びせられた二人は、今にも和真に殴りかかろうとしていた。
和真「……あのな、俺は別にあんたらが教頭に加担してこの学園潰そうとしていることを、ゴチャゴチャ言うつもりはねぇんだよ」
常村「…………なに?」
思ってもみなかった意外な発言に常村は予想外といった表情をする。
和真「俺は善人でも正義の味方でもねぇ。そういうのはソウスケとか飛鳥の役目だしな」
常村「……だったらお前は何が気に入らないんだよ?」
いよいよ和真の考えがわからなくなってきたのか、二人は困惑した表情になる。
和真「俺が気に入らねぇのはあんたらが他人にすがって、楽に生きようとしていることだよ」
夏川「他人に……すがってる……だと?どういう意味―うぐっ!」
夏川が言い終わらないうちに、和真は夏川の胸ぐらを掴む。
和真「お前らそんなに楽がしてぇのか。
誰かに命令されるまま他人の邪魔をして、その見返りを誰かから恵んでもらって、お前らはそれで満足なのか。
この先も嫌なことから逃げ続けるけるのか、誰かが助けてくれるのを待つのか、人の足平気で引っ張って甘い汁すすって生きていくのか。
甘ったれてんじゃねよ!!!
他人に支えてもらわなきゃ、テメェは立ち上がることもできねぇのか!
つらい? しんどい? 投げ出したい? 誰か助けに来て欲しい?
あぁそうだよ! 生きてりゃそんなこと腐るほどあるわ!
だがなぁ! たとえ困難障害艱難苦痛不幸不条理に悩まされようと、自分だけで乗り越えていかなきゃならねぇことがあるんだよ!
それに立ち向かうのが人生だろうが!…………少なくとも俺のダチは立ち向っているぜ、どんな不条理なことが起きようともな」
言うだけ言うと和真は夏川から手を放し、夏川はそのまま床に崩れ落ちた。
和真「俺の言いたいことは以上だ。それでどうするかはあんたらの自由だ。行くぞ、徹」
徹「了解」
放心したように押し黙っている二人を捨て置き、二人は特設ステージから立ち去った。
夏川「…………なあ、常村」
常村「…………なんだ?」
夏川「……俺達……いつから後輩に説教されるほど落ちぶれちまったんだ?」
常村「……さあな。もしかしたら俺達……受験勉強から逃れたいばかりに、すごく情けない人間になってたのかもな……」
二人がこの後どうなったかは、
今は語るときではない。
徹「やれやれ。結局僕はなにもしてないよ」
階段を上りながら、試合中完全に空気だった徹は和真を詰るように愚痴る。
和真「そいつは悪ぃな。飛鳥の過去を考えると、どうもムカついて」
徹「まぁ、そんなことだろうと思ったよ。
確かに人生には不条理なことが多いよ……身長とか背が伸びないこととか常日頃カルシウム過剰摂取してるのにまるで効果がないこととか」
和真「お前そればっかじゃねぇか……それにカルシウムっつったって、お前が摂取してるのは練乳だろうが」
徹「練乳=砂糖+牛乳じゃないか。まさに趣味と実益を兼ね備えた至高の一品だろう?」
和真「実益は備えてねぇだろ、伸びてねぇんだから」
徹「…………グスン」
気にしている部分にダイレクトアタックされ、徹は今にも泣きそうな表情になる。
徹「……伸びるもん……絶対にいつか伸びるもん」
和真「わかったわかった悪かったって」
セカイーヲーテラーシテーク- ヨゾラーノーツキーノヨウニー♪
和真「お、俺の携帯だ。……はいもしもーし!」
徹(意外な着信音のチョイス……)
和真「…………了解。それじゃあ」
そう言って和真は通話を切る。
和真「それじゃあ徹、また明日」
徹「……ああ、また明日」
そのまま和真はなぜか上ってきた階段を、また下りていっていってしまった。
徹「……何か面倒ごとを引き受けたようだね、和真」
帰ってきた和真君無双。
まあ本作品最強候補の梓さんと闘った後で、今更得意科目でもない常夏コンビに出て来られてもねぇ……
新技『カズマジャベリン改』を習得した。
ただしこの技、相手に向かってなりふり構わず全力疾走するため、避けられると相手にカウンターされて即死という危険があります。
もし梓さんなんかに使ったりした日には……
和真君は本人の性格とある事情から、他人をあてにして生きているような人が大嫌いです。
あと、何気に常夏コンビに更正フラグが建ちました。
では。