バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【バカテスト・現代文】
()に適語を入れなさい
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は()

姫路 瑞希、霧島 翔子の答え
(百合の花)

蒼介「正解だ。この内容は美しい女性の容姿や立ち居振る舞いを花にたとえて形容する言葉だ」

吉井 明久の答え
(彼岸花)

和真「不吉すぎるだろうが」

清水 美春の答え
(私と美波お姉様の愛の結晶)

蒼介「ブレないなお前は」

島田 美波の答え
(だから私は普通に男が好きって言ってるでしょ!)

和真「お前も直感力高いなオイ」



戦慄のトンファー流

文月学園の教育方針は「生徒を社会で実力を発揮できる人間に育てること」である。

それは勉学だけにおいてではなく部活の方面にも力を入れており、部活に使われる設備なども他校を圧倒しているため、運動部では歴史は浅いものの大会などで結果を残している部も少なくない。

その中でも、世間に最も注目されている部活が……

創部三年目でインターハイ団体戦を制覇し、個人戦ベスト8の秀才・橘 飛鳥と、インターハイ個人戦を含むあらゆる大会で無敗の天才・佐伯 梓を擁する柔道部である。

 

 

徹「やあ、そっちもそっちで大変だね(モッサモッサ)」

 

和真(チャイナ服装備)が特設ステージ前に着くと、燕尾服を着た徹が練乳を大量にかけたワッフルを頬張っていた。

 

和真(子ども執事…)「まぁた舌が疲れそうなモンを……つーかお前さっきも食って無かった?」

徹(なぜかイラッとしたけど気のせいか……)「さっきのは食後のデザート、これはおやつだよ」

和真「あっそ……」

 

徹の甘党は今に始まったことではないので、和真はこの話題をさっさと終わらせた。

 

和真「徹、言うまでもねぇと思うが、今回の敵はやべぇぞ」

徹「わかってるよ。橘も厄介な相手だけど、何より脅威なのはチャンピオンだね……」

和真「正直俺が一対一で闘っても、多分勝てねぇな」

 

いつも自身に満ちた和真らしくない後ろ向きな発言。

そう考えざるを得ないほど、今回の相手は圧倒的に強いのだ。

 

徹「君の腕輪を使うのはどうだい?今回の科目は古典なのだし」

和真「それができりゃ苦労はしねぇよ」

 

いくら闘いを楽しみたいからといって、それで負けるのは論外である。もし腕輪が使用可能だったら和真は躊躇いなく使用するだろう。

そう、もしも使用可能だったら、の話だ。

 

和真「佐伯先輩は去年の大会で青銅の腕輪を勝ち取っている。腕輪は使えねぇよ」

 

青銅の腕輪……これを腕につけている生徒が召喚フィールド内にいるとき、自分を含めた召喚獣は腕輪能力を使うことができない。

腕輪能力による蹂躙を封殺することができるが、使いどころを間違えると自らを弱体化させてしまうという、玄人向けの腕輪てある。

 

徹「ならばどうするんだい?」

 

和真「作戦は考えてある。今から説明するからよーく聞けよ。まず―」

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「-それでフィニッシュだ。わかったか?」

徹「……これは作戦と呼んでいいのかい?」

 

作戦の全容を聞いた徹は呆れるような目で和真を見る。その様子を見る限り、よほど杜撰な内容なのだろう。

 

和真「いいんだよ、闘う前の作戦なんざこんなんで。俺はアドリブの方が好きなんだよ」

 

和真は頭もかなりキレるが、雄二のような策謀を巡らすタイプでも、蒼介のように相手の作戦を先読みし先手を打つタイプでもない。作戦はシンプルに立て、闘いの中で即興で策を練っていくタイプの人間である。勿論例外はあるのだが。

 

徹「まあ君に複雑な作戦は似合わないから、それでいいけどね」

和真「ずいぶんな物言いだなオイ。ろくに作戦も立てられねぇ子ども執事風情が」

徹「言ってはならないことを言ったなキサマァァァァァァァ!

この格好で僕がどれだけ屈辱を味わったか、 テメェにはわからねぇよぉぉぉぉぉぉ!」

 

全力で悔し泣きしながら和真にキレる徹。

しかも「しくしく」でもなく「メソメソ」でもない、「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」といった感じの本気泣きだ。

徹の脳裏に浮かぶのは、さきほど接客中「可愛い」だの「ちっちゃい」だのほざく客の女どもにいじくり回された苦い記憶。お客様相手なのでキレることもできないことがなんとも歯痒い。

 

和真「お、そろそろ時間だな。泣いてねぇでいくぞ徹」

徹「ぐすっ、えぐっ…チクショウ…絶対テメェよりデカくなってやる……」

和真「わかったわかった悪かったよ、お前はいつか大きくなるよ」

 

徹をヨシヨシと宥めながら特設ステージへ向かう和真。

果たしてこの光景を見て、二人が同年代だと思う人はいるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

『それでは四回戦を始めたいと思います。出場者は前へどうぞ』

 

マイクを持った審判の教師に呼ばれ、四人はステージへと上がる。外部からの来場客の為に作られた見学者用の席はほぼ満席の状態だ。よく見るとその席に鳳秀介が茶を啜りながら観戦している。

 

佐伯「おう柊、この前の合同稽古以来やな」

飛鳥「あなた達が相手でも、手加減はしないわよ」

 

和真達の対戦相手の二人が話しかけて来た。

片方は金髪のセミショートの凛とした顔立ちの女子生徒、“橘社”の令嬢、橘 飛鳥。

もう片方はエメラルドグリーンの髪をツインテールにし人懐っこそうな笑みを浮かべた、和真や徹に負けず劣らずの童顔な女子生徒……チャンピオン・佐伯 梓。

 

和真「凡骨にタレ目先輩……」

佐伯「誰がタレ目先輩や。先輩を身体的特長で呼ぶのやめぇ」

飛鳥「凡人は自覚してるけどその呼び方はやめて……さすがに傷つくから……」

 

聞き捨てならない和真の愛称に律儀につっこみをいれる二人。

 

和真「ところで1つ聞きてぇんだが……飛鳥、なんでお前も燕尾服来てるんだ?」

飛鳥「……愛子に需要があるとか言われて、強引に着せられたのよ」

佐伯「飛鳥あんた女の子にもてるからなぁ。先日も稽古の終わりに女の子からラブレター貰ってたし」

飛鳥「梓先輩、それは言わないでください……」

 

どうやら飛鳥はそんじょそこらの男よりも男らしいという評価を、少なからず気にしているらしい。

 

佐伯「じゃあウチも1つ聞きたいんやけど……大門に何があったん?」

飛鳥「あ、私もそれ気になってた」

 

さきほどの悔し泣きによって徹の目は真っ赤に充血し、涙の跡がくっきりと残っていた。

 

徹「ほうっておいてください……」

佐伯「さ、さよか……」

飛鳥「わ、わかったわ……」

 

追及すれば八つ裂きにしてやると言わんばかりにの鋭い眼光に、流石の二人も引き下がる。

 

『四人とも、そろそろ良いですか?』

佐伯「えらいすんませんな、ほんなら……」

『試獣召喚(サモン)!』

 

お馴染みの魔方陣から召喚獣が飛び出した。

飛鳥の召喚獣は忍装束に二刀流のクナイ、

佐伯は防刃スーツにトンファーだ。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 400点

二年Aクラス 大門 徹 268点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 392点

二年Aクラス 橘 飛鳥 289点』

 

 

観客に配慮して大型ディスプレイにそれぞれの点数が表示される。佐伯は三学年次席というだけあってかなりの高得点であるが、文系科目のため和真はそれを上回る。飛鳥は全教科似たような点数だが、生粋の理系である徹はAクラス平均より少し上くらいの点数だ。

 

『では、四回戦を開始します!』

 

審判の向井先生の開始の合図とともに、先ほどの試合と同じく両端に移動する和真と徹。

 

佐伯「チーム戦の意味無いやんその戦法……飛鳥、大門は頼むわ」

飛鳥「了解!」

 

佐伯と飛鳥も二人を追ってそれぞれ両端に移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【柊 和真VS佐伯 梓】

 

和真「しかしアンタら柔道部なのに、二人とも両手ふさがる武器なんすね」

佐伯「アホ、試召戦争と柔道は全く別モンや。こんなチンチクリンのボディーで技かけられるかいな」

 

先ほどからお互い様子見と言わんばかりに、距離をとって攻防を繰り返してる。

相手の戦闘スタイルの観察という目的もあるが、この戦いから一般公開されるので、観客に対するファンサービスも兼ねている。

二人の目論見通り、召喚獣の戦いを見届けている観客のボルテージは右肩上がりしている。

 

佐伯「さてと、観客へのサービスはこのぐらいにしておいて……そろそろ攻めるで?」

 

〈佐伯〉がトンファーを構え直し、力を溜めるようなポーズをとる。

 

和真(あん? 何をする気だ?)

 

〈和真も〉も槍を構え直し、敵の攻撃を警戒する。

 

佐伯「トンファー流奥義……」

 

突然〈佐伯〉が〈和真〉の方に向かって走りだした。

 

和真(突っ込んで来たか……上等だ!カウンターに『こいつ』を食らわせてやる!)

 

和真の召喚獣はバッティングフォームを構え、相手がギリギリまで接近してくるのを待つ。

 

 

 

 

 

 

佐伯「トンファーキィィィィィック!」

和真「なにィィィィィ!?」

 

トンファーで殴りかかると見せかけて、〈佐伯〉は〈和真〉を思いっきり蹴り飛ばした。

予想外の出来事に不意をつかれ、ガードしきれずふっ飛ぶ〈和真〉だが、なんとか上手く着地し武器を構え直す。しかし装甲の薄さが災いし、ただの蹴りとは言え結構ダメージを負ってしまった。

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 307点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 392点』

 

和真「ふざけんじゃねぇぞなにがトンファー流だ!?トンファー両手に持って蹴っただけじゃねぇか!」

佐伯「やかましいわ!トンファー持っとるからこその『トンファーキック』なんや!串カツかて串に刺さっとらんかったらただのカツやろうが!」

和真「なんだそのムチャクチャな理屈!?」

 

トンファーを持って行った攻撃はいかなるものであろうと、全て奥義として認められる……それが『トンファー流』である。

 

佐伯「ほんなら次いくでぇ、トンファー流お-」

和真「くたばれぇぇぇぇぇ!」

佐伯「はぁぁあああ!?」

 

再びトンファーを構えるも、佐伯が奥義の口上を言っている途中に〈和真〉が槍で思いっきりしばく。〈佐伯〉はガードするも、腕力に差があり過ぎるため吹っ飛ばされる。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 307点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 285点』

 

 

佐伯「あんたそんなんありか!?口上述べてるときはおとなしくせぇよアホ!」

和真「知るかぁぁぁ! 俺は戦隊物の脇役じゃねぇんだよ! むざむざやられてたまるかボケ!」

 

和真は目上の人間には多少くだけてはいるがきちんと敬語で話すのだが、今はそれも忘れて佐伯とレベルの低い口喧嘩をしている。二人とも精神はどちらかというとお子ちゃまなのである。

 

佐伯「……ま、ええわ。おふざけはこのくらいにしておくか」

和真「あぁん?」 

 

不毛な口喧嘩を急に終わらせて、一旦目を閉じる佐伯。そして目を開き和真を見据えてこう告げた。

 

佐伯「ちょっとでも気ぃ抜いたら……終わるで?」

和真(っ!?雰囲気がガラリと変わりやがった!?)

佐伯「じゃあ、行くでぇ!」 

 

そう言うと〈佐伯〉は右手のトンファーを構え、高速で〈和真〉に殴りかかった。

 

和真「真っ向勝負か、上等だ!」

 

相手の攻撃に対して〈和真〉は防御でも回避ではなく攻撃を選択し、槍で薙ぎ払おうとする。

しかし〈佐伯〉は横からきた槍を上からぶっ叩き地面に激突させ〈和真〉の懐、トンファーの射程範囲内に入り込む。

 

和真「甘ぇよ!」

 

持ち前の豪腕を活かして〈和真〉は相手がトンファーで攻撃する前に槍を構え直す。これでどんな攻撃をしてこようが迎撃することが可能となった。

 

 

 

 

 

 

佐伯「甘いのはそっちや」

 

ただしその攻撃が、ダメージの通りやすい部分への攻撃だったらの話だが。

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 289点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 285点』

 

和真「肩に攻撃……だと?」

 

〈佐伯〉は攻撃する瞬間左手のトンファーを反対に回し、〈和真〉の召喚獣の肩を貫いた。

召喚獣の急所などは人間とだいたい同じである。点数差がどれだけあっても首を飛ばされたりすれば即死する。

だからこそ急所への防御は必須スキルであり、一年生の頃から練習させられている。

反対に肩のような部分は点数が一桁でもない限り致命傷にはならない。ゆえに、そのような部分を狙う人間はまずいない。

しかし、どれだけ小さくてもダメージを食らうことには変わりは無いのである。そして誰も狙わないということは、普段狙われないということであり、学校側も訓練で教えたりは特にしていない。つまり、誰もがその部分の防御が慣れていないということだ。

 

 

佐伯「あんたの闘い方はだいたい読めたわ。あんたはその高い攻撃力と機動力のために防御を犠牲にしとる。一発でもまともに攻撃を食らえば勝負が終わってまうほどまでな。せやからそういう攻撃には人一倍対処が上手い。それを攻略するのは流石のウチでも骨が折れるわ」

 

〈和真〉を怒濤の攻撃で追い詰めながら佐伯は言う。

先ほどの戦闘だけでそこまで見抜かれていたことに、和真は表面上は冷静そのものだが内心少なからず動揺する。

その心の隙を見抜いているのか、佐伯は攻撃の手を緩めない。せやけどな、と佐伯は言葉を続ける。

 

佐伯「それやったら小っさいダメージを蓄積させていけば済む話や」

 

言葉通り、〈佐伯〉のジャブを繰り返すかのような攻撃を喰らわせ続け、和真の点数は見る見る削られていく。

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 241点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 285点』

 

 

和真「ハッ、簡単に言ってくれるぜ。そんな芸当、アンタか明久ぐらいしかできねぇよ……」

 

鍔迫り合いの最中にローキックを足に喰らい転倒した召喚獣をすぐさま起き上がらせながら、和真は揶揄するように言う。

 

言うが易し行うが難し。

佐伯の考えた作戦を実行するには、極めて高度な操作技術が必用不可欠である。

和真の操作技術とて並ではないのだ。その戦法で和真に攻撃を当てるためには、攻撃を防がれてから二撃目、三撃目とありとあらゆる方向から攻撃を繰り出していけるようなレベルでなければ話にならない。

しかし、そのレベルは普通に学校生活を送っているようでは決して到達できない境地である。

召喚獣を自分の手足のように操ることができる明久ならそれも可能であろう。

もっとも、明久では点数差がありすぎて勝負にならないだろうが。

ではなぜ佐伯は観察処分者でもないのに操作技術が高いのか。

その理由は佐伯の他の追随を許さない戦闘経験にある。Aクラス次席として試召戦争では、クラス代表が自由に戦えないので、佐伯はクラスの最大戦力として常に最前線で闘って来た。

学園の宣伝の為の召喚獣の大会などにも積極的に参加し、その全てで王者で居続けた。

ついでに柔剣道場の第四土曜日の使用権を剣道部主将と毎回フリスペで取り合っていた。

それらの経験が、佐伯の操作技術を明久と同等にまで引き上げたのだ。

 

佐伯「いや多分高城もできるで?観察処分者が出るまで生徒会が手伝ってた召喚獣絡みの雑用を、ウチが散々騙して押し付けてきたから」

和真「……高城先輩不憫過ぎる。そんな悲しい理由で操作技術が上がったなんて」

 

 

《古典》

『二年Fクラス 柊 和真 213点

VS

三年Aクラス 佐伯 梓 276点』

 

 

そうこうしているうちに和真の点数がAクラス平均レベルにまで削られていた。

 

佐伯「さぁて、このままやと終わってまうで?」

和真(チィ…………覚悟してたとはいえ……ここまで手も足も出ねぇとはな……徹、しくじんなよ)

 

 

 




というわけで、佐伯先輩無双回でした。
点数もほぼ互角、両者ともトリッキーな戦闘スタイルなので、操作技術が勝敗の分かれ目となります。
果たして和真君達の作戦とは……?

橘 飛鳥
・性質……速度重視型
・総合科目……3100点前後 (学年10位)
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……C+
機動力……A
防御力……C+

小暮と同じく素早い動きと手数の多さで敵を翻弄するタイプ。前回に続いて今回も徹にとって相性の悪い相手だが果たして……

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