バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【バカテスト・数学】
(x + 1)(x + 2)(x + 3)(x + 4)を展開せよ。

姫路 瑞希の答え
x^4 + 10x^3 + 35x^2 + 50x+24

蒼介「正解だ。解き方としては内側と外側をそれぞれ掛け合わせると、(x^2 + 5x + 4)(x^2 + 5x + 6)となるから、
x^2 + 5xをAと置いて展開すれば良い」

土屋 康太の答え
4x + 10 ()()()()

徹「邪魔だからって()を分別しないように」

吉井 明久の答え
姫路さんの答えが正しいことをここに証明する。

蒼介「証明ではなく展開しろ」




和真「ただいま……ってあんま客来てねぇな」

 

テーブルを取り替えたものの、何故か喫茶店内には客が殆どいなかった。

 

秀吉「お、戻ってきたようじゃの」

 

あまり仕事が無いようで、ウエイター(?)の秀吉も暇そうである。 

 

和真「もう昼前だってのに……このままじゃまずくね?」

秀吉「うむ、そうじゃのう……しかし一体どうすればよいものか」

 

二人がそう手をこまねいていると、明久が戻ってきた。

 

明久「ただいまー……って、あんまりお客さんがいないなぁ……」

秀吉「明久も戻ってきたようじゃの」

明久「無事勝ってきたよ。……根本君の尊い犠牲によって」

 

どんな試合内容だったのかとても気になる。

 

秀吉「それは何よりじゃ。ところで、雄二の姿が見えんが?」

明久「うん。トイレに寄ってくるってさ。それより秀吉と和真、これはどういうこと?お客さんがいないじゃないか」

秀吉「……むぅ。ワシはずっとここにいるが、妙な客はあれ以降来ておらんぞ?」

和真「俺は今さっき戻って来たとこだから知らねぇ」

明久「ってことは、教室の外で何か起きているのかな?」

秀吉「かもしれんのう」

 

三人が今後の喫茶店の経営について話し込んでいると、大会を済ませた翔子が帰って来た。

 

翔子「……ただいま」

和真「よぉ翔子、なんか久しぶりに会った気がするんだがまぁ気のせいだな。一応聞くが、勝ったか?」

翔子「……うん。ところで、なんでこんな状態なの?」

和真「さぁね」

 

『お兄さん、すいませんです』

『いや。気にするな、チビッ子』

『チビッ子じゃなくて葉月ですっ』

 

四人が話混んでいると、雄二と少女の声が聞こえてきた。

 

秀吉「雄二が戻ってきたようじゃの」

明久「あ、うん。そうみたいだね」

和真「子供を連れてるみてぇだな。随分面倒見が良いじゃねぇかお前の旦那」

翔子「……雄二は意外と子ども好きだから」

 

旦那発言に周りが一切違和感を覚えないのはご愛敬。

 

『んで、探しているのはどんなヤツだ?』

 

教室の扉が開き、雄二の姿をが見えた。雄二の話し相手の子は小柄なのか、雄二の陰になって姿が見えない。

 

『お、坂本。妹か?』

『可愛い子だな~。ねぇ、五年後にお兄さんと付き合わない?』

『俺はむしろ、今だからこそ付き合いたいなぁ』

 

二人はあっという間にクラスの野郎どもに囲まれた。客がいなくて暇なのだろう

明久「ねぇ和真……今一人ロリコンが紛れてなかった……?」

和真「下手したらそれが原因で姫路転校してしまうかもな」

誰だってそんな危ない奴がいる教室に娘を預けたくはないだろう。

 

『あ、あの、葉月はお兄ちゃんを探しているんですっ』

どうやら少女は人を探していて雄二に声をかけたらしい。

『お兄ちゃん?名前はなんて言うんだ?』

『あぅ……わからないです……』

『? 家族の兄じゃないのか?それなら、何か特徴は?』

 

名前がわからない相手でも探してあげようという雄二の温かい気遣いが感じられる。わざわざ屈んで目線を合わせてあげていることからも、子ども好きであることが伺える。

 

『えっと……バカなお兄ちゃんでした!』

 

なんとも凄いというか、不名誉な特徴である。

 

『そうか』

 

雄二が首を巡らせて、該当する人物を探す。

 

『……沢山いるんだが?』

 

Fクラスはバカの掃き溜めと揶揄されているくらいだから否定はできないだろう。

 

『あ、あの、そうじゃなくて、その……』

『うん?他にも何か特徴があるのか?』

『その……すっごくバカなお兄ちゃんだったんです!』

 

『『『吉井だな!』』』

 

明久を除くFクラス生徒全員の心が一つになった。

そして明久はクラスメイトの不名誉な認識に今にも泣きそうな表情をしていた。

 

明久「全く失礼な!僕に小さな女の子の知り合いなんていないよ!絶対に人違い……」

葉月「あっ!バカなお兄ちゃんだっ!」

 

明久の言葉が言い終わらないうちに少女が駆けていき、明久に抱きついた。

 

雄二「絶対に人違い、がどうした?」

和真「諦めろ明久、お前はそういう役回りだ」

明久「……人違いだと、いいなぁ……」

 

いつだって現実は非情である。

 

明久「って、君は誰?見たところ小学生だけど、僕にそんな年の知り合いはいないよ?」

 

ひとまず顔を見る為に明久は少女を引き剥がす。

 

葉月「え?お兄ちゃん……。知らないって、ひどい……」

 

少女の表情が歪む。どうやら泣かせてしまったようだ。

 

葉月「バカなお兄ちゃんのバカぁっ!バカなお兄ちゃんに会いたくて、葉月、一生懸命『バカなお兄ちゃんを知りませんか?』って聞きながら来たのに!」

明久「どうしよう、僕まで泣きたくなってきた…」

雄二「明久―じゃなくて、バカなお兄ちゃんがバカでごめんな?」

秀吉「バカなお兄ちゃんはバカなんじゃ。許してやってくれんかのう?」

和真「悪いのはバカなお兄ちゃんの頭であってバカなお兄ちゃんは悪くねぇんだ、責めないでやってくれ」

 

少女をなだめるためにこれでもかと言うくらい明久を罵倒する三人。ここまでバカを連呼された人間はそういないだろう。

 

葉月「でもでも、バカなお兄ちゃん、葉月と結婚の約束もしたのに―」

美波「瑞希!」

姫路「美波ちゃん!」

「「殺るわよ!」」

明久「ごふぁっ!」

 

ちょうど教室に戻って来た二人が明久にネプチューンマン顔負けのクロスボンバーをお見舞いした。

 

雄二「姫路に島田か。どうやら勝ったようだな」

和真「なんだかんだで全員勝ち残れてんな」

 

目の前でデンジャラスな光景が繰り広げられているにもかかわらずやけに落ち着いている二人。

 

美波「瑞希。そのまま首を真後ろに捻って。ウチは膝を逆方向に曲げるから」

姫路「こ、こうですか?」

 

それはもはやただの殺戮である。

 

明久「ちょっと待って!結婚の約束なんて、僕は全然―」

葉月「ふえぇぇんっ!酷いですっ!ファーストキスもあげたのにーっ!」

美波「坂本は包丁を持ってきて。五本あれば足りると思う」

姫路「吉井君、そんな悪いことをするのはこの口ですか?」

明久「お願いひまふっ!はなひを聞いてくらはいっ!」

 

このままだとクラスから幼女暴行犯がでた挙句、その容疑者が殺害される事件になりかねない。

 

和真(しかたねぇな……)「そろそろやめとけ二人ともー」

 

明久をリンチしている二人を制服の襟を摘まんで引き剥がす。

 

美波「ひ、柊!なにすんのよ!離しなさい!」

和真「そんな乱暴な性格だから女にしかモテねぇんだよ、お前は(ボソッ)」

美波「うぐぅっ!」

 

和真は美波の耳元で囁いた。

美波の精神に999ポイントのダメージ。

 

姫路「柊君、お仕置きの邪魔をしないでください!」

和真「体脂肪率が俺の五倍もある豚肉女は黙ってろよ(ボソッ)」

姫路「はぅあっ!」

 

和真は姫路の耳元で囁いた。

姫路の精神に9999ポイントのダメージ。

 

「「orz」」

 

二人は目の前が真っ暗になった…… 

 

明久「……助かったけど、二人に何を言ったの?」

和真「聞かない方がいいぜ?」

 

そう言ってニヤリと悪戯っぽく笑った。

持ち前の社交性でこれまであらゆる人間と接してきた和真は、相手が気にしていることやコンプレックスを見抜き、的確に抉ることができるのだ。

 

葉月「あ、お姉ちゃん。遊びに来たよ……って、お姉ちゃん大丈夫です!?」

 

少女が島田を見て泣き止むが、そして真っ白になっている美波を見て驚く。

 

和真「そっとしておいてやれ葉月、そのうち回復するだろうから」

葉月「そうですか……あ、強いお兄ちゃんも久しぶりですっ!」

和真「おー、久しぶり」

明久「……ああっ!あのときのぬいぐるみの子か!」

和真「いきなりデケェ声出すなよ…って、やっぱり知り合いなんじゃねぇか」

 

明久は以前、姉にプレゼント(大きなぬいぐるみ)をしたいけどお金が足りない、という状況だった葉月を助けたことがある。

 

明久(その後監察処分者に認定されたりして色々とバタバタしてたから、すっかり忘れていたよ)

葉月「ぬいぐるみの子じゃないです。葉月です」

明久「そっか、葉月ちゃんか。久しぶりだね。元気だった?」

葉月「はいですっ!」

明久「うんうん。それは良かった。それにしても、よく僕の学校がわかったね?」

葉月「お兄ちゃん、この学校の制服着てましたから」

和真「偉いぞ葉月、明久には到底できねぇ頭脳プレーだ」

明久「和真、君とは一度拳で語り……やっぱりいいや」

和真「諦め早えぇなオイ……」

 

三人で仲良く談笑していると、瀕死状態からなんとか復活した美波が近寄ってきた。

 

美波「あれ?葉月とアキ達って知り合いなの?」

 

三人の様子を見て美波が首を傾げた。

 

明久「うん。去年ちょっとね」

和真「俺は以前公園で俺とこいつと源太、あと仕事サボって河原でのんびりしてたおっちゃんと缶蹴りした仲だ」

美波「アンタなにやってんの!?なんでその辺のおじさんを交えての缶蹴り!?」

明久(なんだろう……その人に凄く心当たりがある……)

 

河原、仕事サボってた、おっちゃん、と聞いて明久はある人物を思い浮かべた。

 

和真「あの時は大変だったなぁ、俺の蹴った缶がその辺を歩いていたチンピラにぶつかってよぉ、そいつが仲間を20人くらい連れて襲ってきてなぁ」

美波「アンタさらっととんでもない事件引き起こしてるのよ!?葉月大丈夫だったの!?」

葉月「はいっ!その時は強いお兄ちゃんと怖そうなお兄ちゃんとだるそうなおじさんが守ってくれたので大丈夫です!」

和真「あぁ、あのおっちゃんやけに強かったな」

美波「…………もうつっこむ気も失せたわ」

 

和真は基本的に周りを振り回すタイプの人間である。一部の例外(例:玉野、蒼介父)を除いては。

 

明久「そう言えば美波こそ葉月ちゃんのこと知ってるの?」

美波「知ってるも何も、ウチの妹だもの」

明久「へ?」

 

まじまじと葉月の顔を見る明久。なるほど言われてみれば確かに雰囲気や顔立ちが似通っている。

 

姫路「吉井君はずるいです……。どうして美波ちゃんとは家族ぐるみの付き合いなんですか?私はまだ両親にも会ってもらってないのに……。もしかして、実はもう『お義兄ちゃん』になっちゃてたり……」

 

姫路の思考回路は日に日に悪化の一途を辿っている。

もしかしたら姫路の父親の判断は正しいのかもしれない。

 

葉月「あ、あの時の綺麗なお姉ちゃん!ぬいぐるみありがとうでしたっ!」

 

そう言ってぺこりとお辞儀をする。闇の帝王も絶賛するほど礼儀正しい子である。

 

姫路「こんにちは、葉月ちゃん。あの子、可愛がってくれてる?」

葉月「はいですっ!毎日一緒に寝てます!」

姫路「良かった~気にってくれたんだ」

和真「つーか、お前ら二人とも知り合いかよ……明久襲う前に確認とれや……」

 

人の話を聞かない、それがFクラス・クオリティ。

 

雄二「ところで、この客の少なさはどういうことだ?」

 

教室内を見渡しながら雄二が皆に聞く。

元々それを考えていたのだが葉月の登場で全員がすっかり忘れていた。

 

葉月「そういえば葉月、ここに来る途中で色々な話を聞いたよ?」

雄二「ん?どんな話だ?」

 

再び屈んで葉月の目線に合わせる雄二。

 

葉月「えっとね、中華喫茶は汚いから行かない方がいい、って」

雄二「ふむ……。例の連中の妨害がまだ続いてるんだろうな。探し出してシバき倒すか」

 

口元に手を当て、まるで確信しているかのように断言する。

 

明久「例の連中って、あの常夏コンビ?まさか、そこまで暇じゃないでしょ」

 

どうやら明久は常夏コンビをただの嫌がらせ目的のチンピラぐらいにしか認識してないようだ。

 

和真「明久、学園祭の出店の悪評流すような暇な連中はあの先輩達しかいねぇだろ」

明久「あ、それもそうか」

 

和真の説明を聞いて明久は納得する。

 

和真「んじゃ、Bクラスに行くぞお前らー」

雄二「待て、どうしてBクラスなんだ?」

和真「悪評広めたいなら人が集まっているところでするのが効果的だろうが」

翔子「……それだったらAクラスの方が」

和真「ソウスケのテリトリーでそんなふざけたことやってみろ、悪評が広まる前にスープのだしにされてるわ」

 

女子一同「スープのだしに!?」

男子一同「やっぱりそれ!?」

 

初めて聞いた女子と以前聞いていた男子で反応が違っているが、その場にいる人間全員が戦慄する。

果たして和真は蒼介をどんなキャラに仕立て上げたいのだろうか?

 

秀吉「和真よ、Bクラスにも五十嵐がおったじゃろう?あやつも大層腕っぷしが強いと聞いているが」

和真「源太はいねぇよ」

明久「え、どうして?何か病気とか?」

和真「Bクラスも喫茶店なんだがよ、アイツ料理できねぇからホールに回ろうとしたんだが…」

『ふむふむ』

和真「あいつ顔が怖いだろ?店のイメージが悪くなるから清涼祭中教室に来ないでってクラスの奴に言われてな、それで拗ねて休むらしい」

『…………………………』

 

非常にいたたまれない気持ちになる一同。

いかつい顔をしている人ほど繊細な性格だったりするのである。なお、この件をきっかけに源太はメキメキと料理の腕を伸ばすことになるのはまた別の話。

 

雄二「じ、じゃあとりあえずBクラスの様子を見に行くか」

明久「そ、そうだね」

 

強引に気まずくなる話を切り替えたた二人。

見事なファインプレーである。

 

葉月「お兄ちゃん、葉月と遊びにいこっ」

明久「ごめんね、葉月ちゃん。お兄ちゃんはどうしても喫茶店を成功させなきゃいけないから、あんまり一緒に遊べないんだ」

葉月「む~。折角会に来たのに~」

 

明久は葉月の頭を撫でながら諭すように言うが、葉月は不満げに頬膨らませる。

喫茶店の成功は姫路の転校にダイレクトに関わる問題だから明久としても全力を尽くしたいのだろう。

 

雄二「それなら、そのチビッ子も連れて行けばいい。飲食店をやっている他の店を偵察する必要もあるからな」

 

そこで雄二のフォローが入る。

敵情視察は経営戦略の基本である。

 

明久「ん~、そっか。それじゃ、一緒にお昼ご飯でも食べに行く?」

葉月「うんっ」

 

膨れっ面から一転して満面の笑みになる葉月。

 

美波「じゃあ葉月、お姉ちゃんも一緒に行くね」

秀吉「ふむ。ならば姫路も雄二と一緒に行くと良いじゃろ。召喚大会もあるじゃろうし、早めに昼を済ませてくるとよい。霧島は―」

翔子「……私も行く」

秀吉「―聞くまでもなかったのう」

 

これでBクラスに偵察に行くメンバーは7人となった。

混雑する学園祭の中を歩き回るには結構な人数である。

 

雄二「それじゃあ行くか、獲物を狩りに!」

『了解!』

 

こうしてFクラス殲滅班がBクラスへ向かった。




はい、というわけで葉月ちゃん登場回。
和真君の交遊関係は相変わらず広すぎです。

それにしても……幼女、おっさん、童顔高校生、強面高校生が公園で仲良く缶蹴り、か

……シュール過ぎる
ちなみに鬼は半ほとんど源太君でした。
缶蹴りは戦場である。

では。

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