次の文を英文に直しなさい。
その問題は難し過ぎて解けない。
柊 和真の答え
The question is too difficult to solve.
蒼介「正解だ。『too~to…』で『~過ぎて…できない』という意味になる」
土屋 康太の答え
The
飛鳥「訳せたのは『その』だけなのね……」
吉井 明久の答え
Me too.
蒼介「問題文に同意されてもな……それと否定文なので『Me either.』、もしくは『Neither do I. 』が適切だろう」
和真「はぁ……気が進まねぇ……」
校舎にある特設ステージに重い足取りで向かいながら、和真はぼやく。
この戦闘狂がここまでテンションが低いのは対戦相手のDクラス問題児コンビ、というよりその片方の玉野 美紀が原因である。去年同じクラスだった玉野と和真の間にはちょっとした因縁があり、数少ない和真の苦手としている生徒の一人なのである。
「おや、和真君じゃないか」
そんなローテンションな和真の後ろから一人の男性が声をかける。和真は面倒臭そうに振り向き、
自分の目を疑った。
その男性は大学生くらいの外見をしているが、実は40手前だということを和真は知っている。
長身で細身だが服の上からでもわかる引き締まった体つき、艶やかな黒髪に中性的で、それでいて芯の強さや品格、カリスマ性のようなものを感じさせる顔立ちをしており、無条件に人を惹き付けるその外見は和真のよく知る人物を思い起こさせる。
そして、片方の胸元に剣に朱雀―“鳳財閥”のマーク、もう片方に鳳家の家紋「鳳仙花」の刺繍が施された和服を来ていた。
和真「……なんでここにいるんすか、秀介さん」
この人こそが鳳家現当主であり“鳳財閥”会長、そして蒼介の父親……鳳 秀介(オオトリ シュウスケ)である。
秀介「ふむ、父親が息子の様子を見に来ることがそんなにおかしいかい?」
和真「いや、あんた自分の立場わかってるんすか?四大企業の一角の会長が仕事ボイコットするのはまずいでしょ」
秀介「それなら心配ないよ。“鳳”はこの学園のスポンサーだからね、『出資先の視察』という建前があるからこれも仕事のうちなんだよ。もっとも社長自ら来ているのは私だけらしいけどね」
和真「建前って言っちゃってるじゃないすか……というか、流石に付き人くらいは連れて来ましょうよ……」
秀介「とは言っても、私より強い付き人がなかなかいなくてねぇ……あ、そうそう、蒼介のクラスの教室はどこにあるんだい?さっきから探してるんだが全然見つからなくて」
和真「そうなるから付き人が必要なんすよ!あんた只でさえ方向音痴なんだから!」
秀介「知らないうちにウェイターをやることになったと珍しくぼやいていたけど、やっぱり息子が頑張っているすがたは見に行きたいからね」
和真「人の話を聞いてくださいお願いだから!」
常に周りを振り回している和真が逆に振り回されている、なかなかお目にかかれない光景だ。
ご覧のとおり、秀介はかなりの天然な性格である。蒼介のしっかりした部分は全て母親から受け継がれたようだ。
秀介「それで、二年Aクラスはどこにあるんだい?」
和真「いや、口で説明しても地図を渡してもあんたは迷うわ、断言できるわ。Aクラスまで連れて行くしかないけど、俺も時間ねぇし、誰かに頼むか……」
そう言って和真は辺りを見回す。
すると試召戦争後、最近理数系科目のコツを教えて貰っていた教師を見つける。
和真「おーい!綾倉センセ!」
名前を呼ばれたその教師は和真に歩み寄る。
栗色の長めの髪に、眼鏡をかけ柔和な笑顔を浮かべている糸目の男性だ。
「どうかしましたか?柊君」
名前は綾倉 慶(アヤクラ ケイ)。数学教師にして三年学年主任という肩書きを持つ。
試召戦争を用いるこの学年では学年主任及び補修担当の生徒指導は全ての教科に秀でた教師のみが着ける役職だ。
その中でも、文月学園は進学校なので、進学にダイレクトに関わる第三学年主任には学園で最も秀でた教師しか着くことができない。
つまりこの綾倉先生は、文月学園教師陣の頂点に君臨しているということである。
和真「この人が二年Aクラスに行きたいらしいんすけど俺もうすぐ召喚大会なんで、代わりに頼んでいいすか?」
綾倉「えぇ。お安いご用ですよ」
和真「あざーす。じゃあ俺そろそろ行くんで。秀介さん、綾倉センセ、サイナラー」
秀介「ああ、頑張りなさい」
和真「はいよー!」
そう言って特設ステージに走っていった。
綾倉「ではいきましょうか」
秀介「すみませんねぇ。昔からよく道に迷うもんで」
綾倉「人間ひとつやふたつそういうところがあるものですよ」
秀介「ははっ、違いないですね」
軽く談笑しながら歩き出す二人。実は彼等は生徒会の顧問と出資者として知った仲である。
綾倉「そうそう鳳さん、例の件ですが……」
徹「相変わらず君は来るのが遅いね。僕もさっき来たところだけど」
相変わらず特設ステージ前で壁にもたれかかり腕を組んで立っていた。
和真「わりぃな、今回は早く来ようと思ったんだけどよ、来る途中ものすごく自由な人に振り回されてよ」
徹と特設ステージに向かいながら和真が説明する。
徹「もう少しまともな言い訳は無いのかい?君より自由な人間などいるわけないだろう」
先ほどの試合を思い浮かべながら揶揄するように言う。
和真「……いや、いっぱいいるだろ。例えば俺等の対戦相手とか」
徹「……それもそうか」
そして二人ともテンションががくっと下がる。どうやらやる気が無いのは和真だけでは無いようだ。
重い足取りで特設ステージに向かうと、対戦相手は既にスタンバイしていた。
「ようやく来ましたね!待ちくたびれました!」
「カズナちゃんトーコちゃん久しぶりっ!」
不機嫌そうにしている女子生徒が清水 美春。
ドリルのようにロールしたオレンジ色の髪を左右に垂らしている。
和真達を特殊な愛称で呼んだ女子生徒が玉野 美紀。
黒髪を三つ編みにしており、なぜか熱っぽい表情で和真達をおかしな名前で呼ぶ。
和真「わりぃな清水、次からは気をつけるわ。美紀はもう死んでくれねぇかな?」
徹「まぁ時間には間に合ったんだし、別にいいじゃないか。死ぬのがいやならせめて転校してくれないかな玉野さん」
玉野「二人とも酷いっ!?」
血も涙も無い暴言を浴びせる二人。
しかし彼等は理由も無くこんな冷たい対応をしているわけではない。
玉野「私は二人に可愛い服を着て欲しいだけなのにっ!」
和真「だからそれが嫌だっつってんだろォォォ!いい加減諦めろやクソがァァァ!」
玉野「大丈夫だよ!きっと似合うから!」
徹「似合う似合わない以前にそんなもん来たら社会的に抹殺されるわァァァ!」
その理由がこれだ。玉野は可愛らしい顔立ちの男子生徒に可愛らしい服を着せたがるという、はた迷惑な趣味を持っている。誰が見ても童顔な和真と徹は去年ことあるごとに被害を被りかけた。同じクラスということもありその回数は尋常じゃない。
〈例〉
・体育の時間に制服をゴスロリにすり替えられそうになった。
・部活に参加している最中に部室においていた制服をメイド服に(ry
・家庭科の調理実習に使うエプロンを(ry
・毎朝の挨拶が「おはよう!それじゃあちょっと着替えよう!」with女子制服
etc...
そんなわけで和真達の玉野への対応は基本突き放し気味である。突き放しどころかもう突き落とす勢いである。
玉野「私が勝ったら今日こそはこのメイド服を着て貰うからね!」
徹「上等だよ……打ち砕いてあげるよ。君の野望も、君の召喚獣も……ついでに君自身も」
和真「……んで清水、お前の目的はやっぱりプレミアムチケットか?」
面倒臭くなったのか玉野をスルーして和真がもう一人の女子生徒に確認するように聞く。
清水「当然です!これから私と美波お姉さまのシンデレラストーリーが始まるのです!」
このセリフからわかる通り、清水は生粋の同性愛者だ。ちなみに細身の貧乳美人が好みである。
和真「誘う相手が島田だけってことは、飛鳥のことは諦めがついたみてぇだな」
その条件にはAクラスの橘 飛鳥も当てはまるため、以前は二人とも手中に納めようという野望を持っていた。
清水「とても悲しいことですが…………飛鳥お姉さまが私に振り向くことは……ありませんので……」
今にも泣きそうな表情で告げる清水。どう見ても未練タラタラで振り切れていない。
なあなあですませている美波とは違って、以前飛鳥は蒼介という婚約者がいるという理由で清水の告白をはっきりと断っている。
その後清水は自分にとって邪魔者である蒼介を排除しようとするが手も足もでず返り討ちに遭う。
そしてその後、飛鳥のストーキングを実行するがそのことが“橘”にバレてしまい、筆舌に尽くしがたいほどのこの世の真の恐怖を味わった後、あやうく社会的に抹殺されそうになった。
そのときは話を聞き付けた和真と蒼介の口添えで事なきを得た。そのため男子嫌いの清水であるが和真とはある程度友好的な関係を築けている。
「それでは、試験召喚大会二回戦を始めて下さい」
立会人の遠藤先生かそう告げる。
『試獣召喚(サモン)!』
掛け声と共に四体の召喚獣が出現する。
遠藤「それでは始めてください」
清水「さあ、覚悟しなさ(ダダダダダダダダダ!)さい……って、えぇぇぇぇ!?」
玉野「そんなっ!?」
《英語W》
『Fクラス 柊 和真 300点
Aクラス 大門 徹 329点
VS
Dクラス 清水 美春 戦死
Dクラス 玉野 美紀 戦死』
鎧袖一触とはまさにこのこと。
清水達の召喚獣は〈和真〉の腕輪能力『一斉砲撃』のあっとうてきな?火力を前に、一瞬で肉塊と化した。
遠藤「勝者、柊・大門ペア!」
清水「お姉さま……非力な私を許してください……」
orzの体勢で落ち込む清水。
心なしか清水のバックに木枯らしが見える。
玉野「カズナちゃん……トーカちゃん……次こそは、可愛らしいお洋服を着て貰うからねっ!」
徹「もう口閉じててくれ、一生」
和真「諦めろよ、そこで試合終了だ」
安西先生もビックリな突き放しっぷりである。
これで和真達の三回戦進出が決まった。
その頃、Aクラスでは…
蒼介「お帰りなさいま……父様?」
秀介「やぁ蒼介、随分繁盛してるねぇ」
【執事喫茶 お嬢様とお呼び!】は通常の六倍の広さにもかかわらずほぼ満席となっていて、和真と別れてから今になってようやく教室の中に入ることができた。
まあここまで繁盛している理由の半分以上は蒼介にあるのだが。
秀介「ふむ…親の贔屓目を抜きにしても似合ってるね」
蒼介「それはどうも」
今、蒼介は薄いグレーの燕尾服を来ている。コバルトブルーの髪と非常にマッチしており、それに蒼介の上品な佇まいが合わさり、神聖さすら感じさせる。
秀介「しかし、どう見ても人に仕えているようには見えないね」
蒼介「クラス全員から同じ感想を聞きました」
口元に扇子をあてて笑いをこらえる秀介。
これではよっぽどの相手でなければ引き立て役になってしまうこと請け合いである。
そういう意味では、誰よりも執事に向いていない男と言えるのかもしれない。
というわけで本作品リアルファイト最強候補&試召戦争最強キャラが登場しました!(綾倉先生は既に出ていたけど)
キャラ紹介は巻のラストにまとめて掲載しますのでそれまでお待ちください。
闘う機会はまだまだ先ですが、綾倉先生の数学と物理はチートを通り越してもはやバグです。和真君だろうが蒼介君だろうが太刀打ちできません。