バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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蒼介「新たなる神器、唯我独尊の力でドンを倒した植木。しかし、満身創痍の植木にロベルト十団の次なる刺客・マルコと鈴子が襲いかろうとしていた」

徹「今回は植木の法則かい?そろそろこのくだりもマンネリ化してきたような気がするよ」

蒼介「ストックが切れるまでは続けようと思っている。ちなみに前回のあらすじは慌てるひじき、だ」

徹「そのワンフレーズから前回の話を誰が推測できるんだい……」

蒼介「前回の話を読めば推測できるだろう」

徹「あらすじの意味が無いじゃないか」


上達

美波「いつもはただのバカに見えるけど、坂本の統率力は凄いわね」

明久「ホント、いつもはただのバカなのにね」

翔子「……雄二はやる気を出しているときは頼りになる」

和真「やる気を出してないときは粗大ごみ同然だがな」

 

清涼祭初日の朝。

Fクラス教室は普段の小汚い模様を一新して、中華風の喫茶店に姿を変えていた。

 

明久「このテーブルなんて、パッと見は本物と区別がつかないよ」

 

教室のいたるところに設置されているテーブルは、実は積み重ねて小綺麗なクロスをかけて作ったみかん箱だったりする。

 

姫路「あ、それは木下君が作ってくれたんですよ。どこからか綺麗なクロスを持ってきて、こう手際よくテキパキと」

 

尊敬の目で秀吉を見る姫路。

つまりこのクロスは演劇部で使ってる小道具だ。

 

秀吉「ま、見かけはそれなりのものになったがの。その分、クロスを捲るとこの通りじゃ」

 

秀吉がクロスを捲ると、その下には見慣れた汚いみかん箱が。不衛生極まりないが無い物ねだりしても仕方がない。

 

美波「これを見られたら店の評判はガタ落ちね」

 

美波が明久の隣から覗き込んでいる。彼女の言う通り、これを見られたらイメージダウンは免れない。

 

明久「きっと大丈夫だよ。こんなところまで見ないだろうし、見たとしてもその人の胸の内にしまっておいてもらえるさ」

姫路「そうですね。わざわざクロスを剥がしてアピールするような人は来ませんよ、きっと」

和真「もしいたとしたら営業妨害か、徹より小せぇ奴かだな」

翔子「……和真、いくらなんでも大門に失礼」

和真「大丈夫だ。俺が言ったのは器の方だから」

 

どう考えても侮辱なのだが、身長の方だった場合はより怒り狂うのが大門 徹という男である。

 

明久「室内の装飾も綺麗だし、これならうまくいくよね?」

 

学園祭のレベルにしては充分なぐらいの完成度だろう。

 

ムッツリーニ「………飲茶も完璧」

明久「おわっ」

 

いきなり後ろから響くムッツリーニの声。翔子と並んで相変わらず気配を消すのが巧い。する必要はあまり無いと思うが。

 

明久「ムッツリーニ、厨房の方もオーケー?」

ムッツリーニ「………味見用」

 

そう言ってムッツリーニが差し出したのは、木のお盆。上には陶器のティーセットと胡麻団子が載っていた。

 

姫路「わぁ……美味しそう……」

美波「土屋、これウチらが食べちゃっていいの?」

ムッツリーニ「………(コクリ)」

秀吉「では、遠慮なく頂こうかの」

和真「どれどれ」

翔子「……いただきます」

 

姫路、美波、秀吉、和真、翔子が手を伸ばし、作りたての胡麻団子を頬張る。

 

姫路「お、美味しいです!」

美波「本当!表面はカリカリで中はモチモチで食感も良いし!」

秀吉「甘すぎないところも良いのう」

和真「後味も悪くねぇな」

翔子「……とても美味しい」

姫路「お茶も美味しいです。幸せ……」

美波「本当ね~……」

 

姫路と美波が目がトロンとしてトリップ状態になっていた。麻薬中毒者じゃないんだからいくらなんでもオーバー過ぎるだろう。

 

明久「それじゃ、僕も頂こうかな」

ムッツリーニ「………(コクコク)」

 

残った一つを明久に差し出す。なぜだかその一つはなんとしてでも明久に処理させようという、ムッツリーニの頑なな手捌きで。事情をすべて知っている秀吉も我が身かわいさで閉口する。

 

明久「ふむふむ…表面はカリカリで中はモチモチ、甘過ぎない味わいがとっても美味しいよ」

秀吉「!?」

ムッツリーニ「………………!?」

 

信じられない光景を見たように驚愕するムッツリーニと秀吉。

 

明久「? どうしたのさムッツリーニ」

秀吉「明久よ……なんともないのか?」

明久「へ?特に無いけど」

秀吉「お主が口にした胡麻団子……姫路が作ったものなんじゃが……」

明久「………………え?」(これが姫路さん作ったもの?バカ言っちゃいけない。前回の惨劇は今も僕の脳裏に焼きついているんだ……でも秀吉はそんなひどい嘘をつくような人間じゃない……ならなぜ僕は今生きているんだ?そういえばこの前テレビで特殊な毒物を見たぞ。その毒は時間とともに体内を蝕んでいき、最終的に全身が衰弱して死んじゃうんだっけ。てことは僕ももうすぐ死んでしまうのか……だったらせめて最後くらいは幸せになりたい。今この場で秀吉に言うんだ、結婚してくださいって……いや待てよ?そんな悠長なこと言ってられない、僕の最後はどんどん迫ってきているのだから。ここはちょっと巻きで行こう。そうと決まれば)

明久「秀吉と同じ墓に入りたい!」

秀吉「どうしたのじゃ急に!?」

和真「相変わらず愉快な思考回路してるなぁ。安心しろ、多分遅効性の毒ってわけじゃねぇよ」

秀吉(だからなぜ和真は理解できるのじゃ!?)

明久「え?……じゃあどうして僕は無事なの?」

和真「人がいつまでも成長しないと思ったら大間違いだぜ。……姫路ィ!」

姫路「ふぇ!?…は、はいっ!」

 

トリップ状態の姫路は和真に呼ばれて正気を取り戻した。

明久達のもとへトコトコと小動物のような足取りで歩み寄る。

 

姫路「柊君、どうしたんですか?」

和真「胡麻団子なんて良く作れたなぁ。中華料理なんて教えて貰ってねぇはずだろ?」

姫路「えぇと…作り方は須川君に一から教えて貰いました」

和真「へぇ、レシピ通りに作ったのか。以前はオリジナリティーを重視していたのに」

姫路「オリジナリティーを求めるのはまずその料理の基礎を完璧にしてから、と藍華さんから教わりましたから」

明久「え?どういうこと?」

姫路「ええと、実は試召戦争の後、柊君の紹介で料亭『赤羽』に料理を習いに通ってたんです」

 

『赤羽』は蒼介の母親・鳳 藍華(オオトリ アイカ)が経営する全国でも有名な料亭である。

 

和真(ま、そんなわけで料理が上達したらしい)

明久(すごいよ和真!これで僕の命を脅かすものが一つ減ったよ!)

秀吉(無くなったわけではないのじゃな……それはそうと、流石和真じゃ)

ムッツリーニ(………………グッジョブ)

和真(俺は何もしてねぇよ、姫路が成長したのは姫路が頑張ったからだ)

 

ここまでアイコンタクト。

 

和真「それにしてもよく1ヶ月も頑張ったな。藍華さんのしごきは生半可なものじゃねぇのに」

姫路「……柊君、そのことには触れないでください」

和真「…………すまん」

(((なにそのリアクション!?)))

 

何があったのか非常に気になる三人だった。余談だが、赤羽流の門を叩く料理人は数多くいるが、あまりの厳しさに脱落する者が跡を絶たないそうな。

 

 

 

雄二「うーっす。戻ってきたぞ」

明久「あ、雄二お帰り」

秀吉「何処に行っておったのじゃ?」

雄二「ああ、ちょっと話し合いにな」

 

いつもとは違いやや歯切れの悪い返事をする。

雄二は学園長室に行って、例の試験科目の指定をしてきたのだろう。とてもフェアな事じゃないから正直には話せず、ああ言って適当に誤魔化したのだ。

 

姫路「そうですか~。それはお疲れ様でした」

 

人を全く疑わない姫路が雄二の言葉を信じて笑みを贈る。

それは美点であると同時に思い込みも激しいという難点でもある。

 

雄二「いやいや、気にするな。それより、喫茶店はいつでも行けるな?」

秀吉「バッチリじゃ」

ムッツリーニ「…………お茶と飲茶は完璧」

雄二「よし。少しの間、喫茶店は秀吉とムッツリーニに任せる。俺と明久は召喚大会の一回戦を済ませてくるからな」

 

そう言って雄二は秀吉とムッツリーニの肩を叩く。

 

美波「あれ?アンタ達も召喚大会に出るの?」

明久「え?あ、うん。色々あってね」

 

明久は適当に言葉を濁している。

学園長から『チケットの裏事情については誰にも話すな』と口止めされているので下手なことは言えないのだ。

 

美波「もしかして、賞品が目的とか……?」

 

何かを探るような美波の視線が明久に刺さる。

 

明久「う~ん、一応そう言う事になるかな」

美波「……誰と行くつもり?」

 

明久の発言を聞くと、美波の目がスッと細くなった。どうやら戦闘態勢になったようだ。 

 

明久「ほぇ?」

姫路「吉井君。私も知りたいです。誰と行こうと思っていたんですか?」

 

気が付けばいつのまにか姫路も戦闘態勢に。

 

翔子「……雄二、どういうこと?」

雄二「なっ!?しょ、翔子!?」

 

当然、翔子も戦闘態勢。

 

雄二「ま、まぁ待て、落ち着け」

明久「だ、誰と行くって言われても……」

 

事情を話すわけにはいかないため、明久はどうして良いかわからなくなる。

雄二も翔子が相手なので、いつもの悪知恵が働かずしどろもどろになる。それを見かねた和真がフォローを入れる。

 

和真「あーお前ら、そいつ等の目的はチケットなんかじゃねぇよ」

「「「え?」」」

 

和真「店の宣伝のためだよ。あの大会は一般客にも生徒にも少なからず注目されてるだろ?四回戦まで勝ち進めば一般公開されるし、それだけで店の宣伝になるんだよ。それに、副賞の腕輪も他クラスに渡したくねぇしな」

 

チケット以外の賞品には『白金の腕輪』と言う物がある。召喚獣を二体同時に呼び出せるタイプと、先生の代わりに立会人になれるタイプがある。

これらの腕輪は試召戦争において少なからずアドバンテージとなるだろう。

 

美波「ふ、ふーん。なるほど……」

姫路「そ、そうでしたか……」

翔子「…………」

 

二人は納得したようだが翔子は何かが腑に落ちないらしく探るようなような目で雄二を見据えている。

 

和真「翔子、向こうで話したいことがあるからついてきてくれ」

翔子「……わかった」

 

そのまま二人は教室を出ていった。

 

雄二(頼んだぞ和真……うまく誤魔化してくれ……)

 

なぜか翔子が絡むと冷静さを失ってしまう元「神童」なのであった。

 

 

翔子「……話って何?」

和真「お前さっき説明した雄二が召喚大会に出る理由聞いてどう思った?」

翔子「……正直違和感があった。それだけの理由で雄二が参加するとは思えない」

和真「流石俺と同じ感覚派、正解だ。雄二はお前にプレオープンチケットが渡るのを阻止したいそうだ」

翔子「…………そう」

 

雄二の動機に少なからずショックを受けているようだ。

それを見た和真は諭すような目で言葉を続ける。

 

和真「よく聞け翔子、あいつほど天の邪鬼な奴はいねぇ。

お前がチケットを手に入れさえすればなんだかんだいって一緒に行ってくれるはずだ。そんな約束していたなら尚更な。

もしお前が心の底からあいつと如月ハイランドに行きてぇなら―」

和真は一度言葉を切って翔子の目を見据える。

 

「―真っ向からぶちのめして優勝を掴みとれ!」

 

翔子「……!わかった!」

 

しょんぼりした表情から一転、やる気に満ち溢れた表情になる翔子。

 

和真「じゃあそろそろ一回戦だから行ってくるぜ。さっきトーナメント表確認したけど、もしお前とあたるとしたら決勝だったな」

翔子「……和真、私はあなたにも絶対に負けない」

和真「それはこっちの台詞だ。じゃあな!」

 

 

 

 

 

「ようやく来たね。待ちくたびれたよ」

 

どう見ても小学校高学年くらいにしか見えない見た目の銀髪の男子生徒が、召喚大会の舞台前で壁にもたれかかり腕を組んで立っていた。

 

『アクティブ』のメンバーであり先日和真と壮絶なバトルを繰り広げた二年Aクラスの男子生徒、大門 徹だ。

 

和真「待ちくたびれたってまだ始まる前じゃねぇかよ。そんな前から待機してるとか、お前どんだけ暇なんだよ」

徹「嘘だよ。実はついさっき来たところだ」

和真「ったく、嘘つきは短足の始まりって諺知らねぇのかよ」

徹「いくつかツッコミどころがあるけど誰が短足だコラ……あと結構な頻度で嘘ついてる君には言われたくないよ」

和真「あ、苛立ってる?カルシウム足りてないんじゃね?いろんな意味で」

徹「喧嘩売ってんのかテメェェェ!こちとらテメェが強引に誘うから仕方なくエントリーしてやったっつうのによぉ!」

 

和真に掴みかかる徹。握力が90以上あるので掴まれたら和真でも痛いじゃ済まないだろう。

まあ当然のごとく全てかわされたのだが。

ちなみに徹はキレると口調が源太みたいになる癖がある。

 

和真「冗談だって。試合前なんだから落ち着けって」

徹「誰のせいだと……(ブツブツ)……それにしてもこの対戦カードはなんだい?いきなり骨の折れる相手じゃないか」

和真「何言ってんだよ、敵は強い方がおもしれぇじゃねぇか」

徹「せめて最初は楽な相手が良かったよ……」

 

 

 

 

 

《一回戦・数学》

『Fクラス 柊 和真

Aクラス 大門 徹

VS

Aクラス 工藤 愛子

Aクラス 佐藤 美穂』

 

 




雄二「ちゃんと誤魔化してくれたか?」
和真「ああ、大会でお前らを完膚なきまでにぶちのめすってよ」
雄二「キサマどんな説明したんだ!?」


いきなり第二学年トップ10の四人が激突。
和真君達のブロックは泣く子も黙るハードモード仕様となっています。
さて、姫路さんの殺人料理スキルが完全に消滅してしまいました。
後々の姫路料理イベントどうやって埋め合わせしようか……

では。

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