バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【前書きコーナー】
蒼介「今回から『清涼祭編』に突入する」

和真「……オイ、なんだよコレ?」

蒼介「? 何か不都合な点でも?」

和真「不都合な点しか見当たらねぇよ………この作者とうとう前書きまでサボるようになったのか?ただでさえ後書きを誰が得するのかもわからねぇ召喚獣のステータスとかで潰してんのに」

蒼介「いや、作者は確かに横着者だがこの件には関わっていない。そもそもどう考えてもこちらの方が負担は大きいからな」

和真「まあ確かに……じゃあなんでこんなコーナーが始まったんだよ?」

蒼介「この巻では私の出番はかなり少なくてな、その腹いせにこのスペースを占拠した」

和真「いやお前何してんだよ!?小説内のキャラがそんな理由で前書きのスペース乗っ取るなんて聞いたことねぇよ!」

蒼介「なかなか斬新だろう?」

和真「そんな斬新さ誰も求めてねぇよ!というかこの部分に割く労力と時間が増えたせいで投稿が遅れることになったりしたらどうするつもりだよ!」

蒼介「心配ない。その責任は全て作者に行くからな、私は痛くも痒くもない」

和真「お前本編と比べて傍若無人過ぎじゃね?」

蒼介「まあここで何をしても本編には何の影響も無いからな、多少はっちゃけても問題無いだろう」

和真「限度っつうもんがあんだろ!?」

蒼介「まあそれはともかく、前回のあらすじでもしようか。誰かが何か企んでた、以上」

和真「雑だなオイ!?」


学園祭準備

「……雄二」

「なんだ?」

「……『如月ハイランド』って知ってる?」

「ああ。今建設中の巨大テーマパークだろ?もうすぐプレオープンっていう話の」

「……とても怖い幽霊屋敷があるらしい」

「廃病院を改造したっていうアレか?面白そうだよな」

「……日本一の観覧車とか」

「おお、相当デカいみたいだな。聞いた話だけでも凄そうだ」

「……他にも面白いものが沢山ある」

「それは凄いな。きっと楽しいぞ」

「……それで、今度そこがオープンしたら、私と」

「ああ、お前の言いたいことはよくわかった。そこまで行きたいなら―」

「……うん」

「今度友達と行ってこいよ」

「……タイガーショット」ドゴォ

「ぐああぁっ!弁慶さんはよせぇぇぇ!」

「……私と雄二、二人で一緒に行く」

「オープン直後は混みあっているから嫌(ドゴォ)ぐぎゃあっ!和真の奴余計な技伝授しやがってぇぇぇ!」

「……それなら、プレオープンのチケットがあったら行ってくれる」

「プ、プレオープンチケット?あれは相当入手が困難らしいぞ?」

「……行ってくれる?」

「んー、そうだなー、手に入ったらなー」

「……本当?」

「あーあー。本当本当」

「……それなら、約束。もし破ったら―」

「大丈夫だっての。この俺が約束を破るような奴に見えるか?」

「―この婚姻届に判を押してもらう」

「命に代えても約束を守ろう」

 

(……計画通り)

 

 

 

 

 

 

桜色の花びらが坂道から姿を消し、代わりに新緑が芽吹き始めたこの季節。

和真達の通う文月学園では、新学期最初の行事である『清涼祭』の準備が始まりつつある。

学園祭の準備の為のLHR(ロングホームルーム)の時間では、どの教室も活気が溢れている。

そして、毎度お馴染み、我らがFクラスはというと……

 

 

 

和真「来やがれ明久!」

明久「勝負だ、和真!」

和真「もう一度場外までかっ飛ばしてやるぜ!」

 

準備もせずに、校庭で野球をして遊んでいた。

 

明久「次こそは意地でも打たせるもんか!」

 

ザッとマウンドを足で均し、明久はミットを構えている雄二のサインを待つ。

 

明久(神童とまで呼ばれるほどの頭脳を持った雄二のことだ、たとえ相手が和真でもうまく打ち取れるような指示を出してくれるに違いない)

雄二『次の球は……カーブを、』

明久(ふむふむ)

 

雄二『和真の頭に』

 

明久「それ反則じゃないの!?というかキサマ僕に死ねと!?」

 

そんなことをすれば恐らく血祭りに上げられるだろう。

和真は普段は基本的に温厚だがスポーツに悪意を持ち込むとかなり怒るのだ。

 

「貴様ら、学園祭の準備をサボって何をしているか!」

 

明久「ヤバい!鉄人だ!」

 

新しくFクラスの担任となった生徒指導の西村先生(通称・鉄人)が怒髪天をつく勢いで校舎から走ってきた。

 

鉄人「吉井!貴様がサボりの主犯か!」

明久「ち、違います!どうしていつも僕を目の仇にするんですか!?」

和真(んなもん日頃の行いだろ)

明久と並んで走る和真は心の中でそうツッコむ。相手が鉄人でも瞬発力では和真に分があるのですごく余裕そうだ。

 

明久「雄二です!クラス代表の坂本 雄二が野球を提案したんです!」

 

まあ確かに出し物の内容を決める時間に野球をやろうと言い出したのは雄二である。クラスの9割以上がそれに便乗するのは正直どうかと思うが。

 

明久(きっと責任を取って制裁を受けてくれるはず!)

そう考えて雄二の方を見ると、明久に視線でこう訴えてきた。

『フォークを 鉄人の 股関に』

明久「違う!今は球種やコースを求めているんじゃない!しかも、それをやったら単に僕が怒られるだけだよね!?」

鉄人「柊!お前まで何をやっている!」

和真「いやいや、だってさ西村センセ、クラスが一丸となって積極的に取り組んでたんだぜ?俺が参加しない訳にはいかないっすよ」

鉄人「一丸となってするべきことが違うだろうが!とにかく全員教室に戻れ!この時期になってもまだ出し物が決まっていないなんて、うちのクラスだけだぞ!」

 

 

 

 

 

雄二「さて、そろそろ春の学園祭、『清涼祭』の出し物を決めなくちゃいけない時期が来たんだが、とりあえず、議事進行並びに実行委員として誰かを任命する。そいつに全権を委ねるので、後は任せた」

 

野球を中断された後、雄二は床にござを敷いて座るFクラス一同を見下ろしながら本当にどうでも良さそうな態度でそう告げた。他人に面倒な仕事を全部押し付けようという魂胆が見え見えである。

ちなみに和真はなんの躊躇いも無く爆睡していた。

こちらもこちらでやる気の欠片もない。

 

姫路「吉井君。坂本君も柊君も学園祭はあまり好きじゃないんですか?」

 

話し合いの邪魔にならない程度の小声で姫路は明久に話しかけてきた。

 

明久「雄二は直接聞いたわけじゃないからわからないけど、楽しみにしているってことなさそうだね。興味があるならもっと率先して動いているはずだから。和真は放課後の時間が潰れるからどちらかと言えば嫌いなんじゃないかな」

 

只でさえ最近はラクロス部へのリベンジのため練習していたのだ。その時間が潰れるとなればいい気はしないだろう。

 

姫路「そうなんですか……寂しいです……吉井君も興味がないですか?」

 

姫路は少しだけ上目遣いで明久の顔を覗き込む。

 

明久「う~ん、別にそこまで何かをやりたいってわけでもないしなぁ」

 

授業が潰れるのは嬉しいが、さしてやりたいものもない、というのが明久の本心だ。

 

姫路「私は……吉井君と一緒に、学園祭で思い出を作りたいです」

明久「ほぇ?」

 

姫路の意味深な台詞に明久は思わず間抜けな声が出てしまう。

 

姫路「その、吉井君は知ってますか……?うちの学園祭ではとっても幸せなカップルが出来やすいって噂が―ケホケホッ」

 

急に姫路が口に手を当てて咳をし始めた。

 

明久「大丈夫?」

姫路「は、はい。すいません……」

 

そう言う姫路の目は若干潤んでいる。

腐った畳から更に設備のランクを下げられた今、この教室には傷んだこざとみかん箱しかない。机と椅子に比べて格段に疲れるし不衛生でもある。

こんな設備では身体の弱い姫路が体調を崩しても何の不思議も無い。

 

明久「そのうち、なんとかしないとなぁ……」

雄二「んじゃ、学園祭実行委員は島田ということでいいか?」

 

不意に雄二の言葉が耳に飛び込む。

 

明久(そう言えば学園祭についての話し合いをしているんだった)

美波「え?ウチがやるの?うーん……ウチは召喚大会に出るから、ちょっと困るかな」

 

雄二に推薦された美波だが、どうやらあまり乗り気じゃないようだった。

 

明久「雄二。実行委員なら、美波より姫路さんの方が適任じゃないの?」

姫路「え?私ですか?」

 

そこに明久が姫路を推薦する。気の強い美波よりも優しい姫路の方が話し合いで荒れないで済むと思ったのだろう。

 

雄二「姫路には無理だな。多分全員の意見を聞いてるうちにタイムアップになる」

 

雄二の言うとおり、姫路は少数意見を切り捨てるような事はできないからそうなる可能性は高い。野球で時間を潰しに潰してしまったFクラスに今更そんな余裕はない。

 

美波「それにね、アキ。瑞希も召喚大会に出るのよ」

明久「え?そうなの?」

姫路「はい。美波ちゃんと組んで出場するんですよ」

明久「学校の宣伝みたいな行事なのに。二人とも物好きだなぁ」

 

清涼祭のイベントの一つに『試験召喚大会』という企画があり、これの目的は明久の言うとおり『試験召喚システム』を世間に公開するための文月学園の宣伝活動のようなものだ。

 

美波「ウチは瑞希に誘われてなんだけどね。瑞希ってばお父さんを見返したいって言ってきかないんだから」

明久「お父さんを見返す?」

美波「うん。家で色々言われたんだって。『Fクラスの事をバカにされたんです!許せません!』って怒ってるの」

明久「あらら。姫路さんが怒るなんて珍しいね」

姫路「だって、皆の事を何も分かってないくせに、Fクラスって言う理由だけでバカにするんですよ?許せませんっ」

明久「…………」

 

事実、一部を除けばFクラスはバカの集まりなので明久は閉口してしまう。

 

美波「だから、Fクラスのウチと組んで、召喚大会で優勝してお父さんの鼻をあかそうってワケ」

明久「なるほど……あれ?それだったら霧島さんか和真と組んで出た方が良くない?」

翔子「……吉井、私も和真も既に別の相手とエントリーしている」

 

話を聞きつけ、雄二の彼女こと霧島 翔子が明久達の近くに来る。

 

明久「え、そうなの?霧島さんがこういう大会に出るなんて珍しいね」

霧島「……私は私で負けられない理由がある」

明久「え?それっていったい…」

雄二「四人とも。こっちの話を続けていいか?」

明久「あ、ゴメン雄二。美波が実行委員になる話だよね?」

美波「だからウチは召喚大会に出るって言ってるのに」

雄二「なら、サポートとして副実行委員を選出しよう。それなら良いだろ?」

 

チラッと明久の方を見る雄二。どうやら明久を人身御供にするつもりのようだ。いつものことである。

 

美波「ん~そうね、その副実行委員次第でやってもいいけど……」

雄二「そうか。では、まず皆に副実行委員の候補を挙げてもらう。その中から島田が二人を選んで決定投票をしたらいいだろう」

 

皆もいいな、と雄二がクラスメイト達に告げる。すると、教室内からちらほらと推薦の声が聞こえてきた。

 

『吉井が適任だと思う』

『やはり坂本がやるべきじゃないか?』

『柊なら上手くやってくれるはず』

『ここは須川にやってもらった方が』

『姫路さんと結婚したい』

『霧島さんを奪った坂本を殺してやりたい』

 

クラス内から何人かの適任者の名前が挙がる。(最後の二名を除く除く)

 

「ワシは明久が適任じゃと思うがの」

 

そう言い明久に秀吉が一票を投じる。

 

明久「って、秀吉。僕もそう言う面倒な役は、できればパスしたいな~なんて」

秀吉「それは他の皆とて同意見じゃ。ならば適任の者にやってもらった方が良いじゃろう?」

明久「むぅ……それはそうだけど……」

 

秀吉の言うことが正論ゆえか反論できない様子の明久。

 

明久(でも、まぁいっか。まだ候補ってだけで決定したわけじゃないし二人の候補を美波が選んで、決戦投票をやって初めて決まるんだから)

 

その考えはマロングラッセより甘いと言わざるを得ない。なぜなら、

 

雄二「よし島田。今挙がった連中から二人を選んでくれ」

美波「そうね~。それじゃ……」

 

ある程度候補の名前が挙がると、美波はボロボロの黒板に決選投票候補者の名前を書き連ねた。

 

『候補①……吉井』

明久(あ、やっぱり僕だ)

 

『候補②……明久』

明久(あ、これも僕だ)

 

明久は貧乏くじを引く運命にあるからだ。

 

雄二「さて、この二人の中からどちらが良いか、選んでくれ」

明久「ねぇ雄二。明らかに美波の候補の挙げ方はおかしいと思わない?」

『どうする?どっちが良いと思う?』

『そうだなぁ……どちらもクズには変わりないんだが……』

明久「こらぁっ!真面目に悩んでるフリするんじゃない!あと、平然とクラスメイトをクズ呼ばわりなんて、君らは人間のクズだ!このクラスのモラルはどうなってるんだ!」

 

確か人であるなら備わっていて当たり前のものであるが、Fクラスに所属している以上そんな贅沢品を求めてはいけない。

 

美波「ほらほら、アキってば。そんな事より、ウチとアンタでやることに決まったんだから、前に出て議事をやらないと」

明久「なんだか僕はいつもこんな貧乏くじを引かされている気がするよ……」

 

美波に促され、明久は渋々と席を立って前に出た。美波の行為にまるで気付いていない明久にとって、副実行委員の肩書きなど足枷でしかない。

 

雄二「んじゃ、あとは任せたぞ。ふぁ~……」

 

入れ替わり席に戻る雄二。

席に戻った途端和真の後を追って夢の世界に入っていった。

 

美波「ウチは議事をやるから、アキは板書をお願いね」

明久「ん、了解」

 

ボロボロの黒板の前に立ち、かなり短くなったチョークを手に取る。

余談だが補充されるチョークも最初から短くされている。短くなったチョークを再利用しているのかわざわざ短くしているのかわからないが、後者ならば誰も得しないだろう。不合理の極みと言ってもいい。

 

美波「それじゃ、ちゃっちゃと決めるわよ。クラスの出し物でやりたいものがあれば挙手してもらえる?」 

 

美波が告げると何人かが手を挙げる。意外なことに、やる気のある生徒も何人かはいるようだ。

美波「はい、土屋」

ムッツリーニ「……(スクッ)」

 

名前を呼ばれて立ち上がったのはムッツリーニ。

 

ムッツリーニ「………写真館」

美波「……土屋の言う写真館って、かなり危険な予感がするんだけど」

 

美波が思い切り嫌そうな顔をする。

 

明久(確かに女子から見ればムッツリーニの撮る写真は嫌かもしれない。けど、男子からするとその写真館は宝の山と言える……覗き部屋とも言えるかもしれないけど)

美波「アキ、一応候補だから黒板に書いてもらえる?」

明久「あいよー」

 

【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】

どう考えても18禁だろう、そのタイトルは。

 

美波「次。はい、横溝」

横溝「メイド喫茶―と言いたいけど、流石に使い古されていると思うので、ここは斬新にウェディング喫茶を提案します」

美波「ウェディング喫茶?それってどういうの?」

横溝「別に普通の喫茶店だけど、ウェイトレスがウェディングドレスを着てるんだ」

 

つまり中身はただの喫茶店だが、着ている衣装が違うという事だ。

 

『斬新ではあるな』

『憧れる女子も多そうだ』

『でも、ウェディングドレスって動きにくくないか?』

『調達するのも大変そうだぞ?』

『それに、男は嫌がらないか?人生の墓場、とか言うぐらいだしな』

 

そんな意見に、クラスの中が少しざわめく。

 

美波「ほら、アキ。今の意見も黒板に書いて」

明久「あ、うん」

美波に促されて、明久が黒板に横溝の提案を書く。

 

【候補②ウェディング喫茶『人生の墓場』】

縁起でもない。結婚に幻想を抱いた人達の考えを容赦なくブチ殺す冷徹なタイトルだ。

 

美波「さて、他に意見は、はい、須川」

須川「俺は中華喫茶を提案する」

美波「中華喫茶?チャイナドレスでも着せようって言うの?」

須川「いや、違う。俺の提案する中華喫茶は本格的なウーロン茶と簡単な飲茶を出す店だ。そうやってイロモノ的な格好をして稼ごうってワケじゃない。そもそも、食の起源は中国にあるという言葉があることからもわかるように、こと『食べる』という文化に対しては中国ほど奥の深いジャンルはない。近年、ヨーロピアン文化による中華料理の淘汰が世間では見られるが、本来食というのは―」

明久(な、なんだ?よくわからないけど、相当なこだわりでもあるんだろうか?内容は全然理解できないけど)

美波「アキ、それじゃ、須川の意見も黒板に書いてくれる?」

明久「あ、うん」(……さて困った。須川君は一体何を話していたんだろう?全く内容が頭に入ってこなかった。黒板になんて書けば良いんだろう?)

美波「どうしたの?早く書いてよ」

明久「りょ、了解」

 

美波に急かされて慌てて書き始める。

 

【候補③中華喫茶『ヨーロピアン』】

『超巨大小惑星』に通ずるものがある店名だ。どうやら明久の中では中華料理文化は完全に淘汰されてしまったらしい。

 

和真「………………んむ……ふわぁ…」

姫路「あ、柊君起きたんですか」

和真「そろそろ来る気がしてな」

姫路「? それはどういう―」

 

姫路が言い終わらない内に教室の扉が開き、鉄人が入って来た。これを予知したとすれば、相変わらずすごい直感である。

 

鉄人「皆、清涼祭の出し物は決まったか?」

美波「今のところ、候補は黒板に書いてある三つです」

 

鉄人はそれを聞くとゆっくりと黒板に目をやった。

 

【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】

【候補②ウェディング喫茶『人生の墓場』】

【候補③中華喫茶『ヨーロピアン』】

 

鉄人「……補習の時間を倍にしたほうが良いかもしれんな」

 

こめかみをひくつかせながら鉄人が呟く。どうせバカな意見が述べられているだろうとある程度予想していたようだが、それらを遥かに上回るどうしようもなさだったらしい。

 

『せ、先生!それは違うんです!』

『そうです!それは吉井が勝手に書いたんです!』

『僕らがバカなわけじゃありません!』

 

補習の時間を増やされたくないクラスの皆が明久一人をバカ扱いして逃れようと抗弁する。

 

鉄人「馬鹿者!みっともない言い訳をするな!」

 

鉄人の一喝で、背筋が伸びる一同。その毅然とした態度に明久は思わず感心する。

 

明久(流石は腐っても教師。クラスメイトを売ってその場を逃れようとする魂胆が気に入らないなんて、ちょっと見直したよ)

 

鉄人「先生は、バカな吉井を選んだ事自体が頭の悪い行動だと言っているんだ!」

明久(同級生だったらシバいているところだ)

 

結局鉄人はやはり鉄人であると痛感する明久であった。

 

鉄人「全くお前達は……少しは真面目にやったらどうだ。稼ぎを出してクラスの設備を向上させようとか、そう言ういった気持ちすらないのか?」

 

溜息まじりの鉄人の台詞。それを聞いて、クラスの連中の目が急に輝き出した。

 

『そうか、その手があったか!』

『なにも試召戦争だけが設備向上のチャンスじゃないよな!』

『いい加減このミカン箱にも我慢の限界だ!』

 

一気に活気づく教室内。元々設備に不満を感じて試召戦争を始めたんだ。当時より更に低い設備では我慢などしていられるはずもない。

 

姫路「み、皆さんっ!頑張りましょう!」

 

これは姫路の声だった。立ち上がって胸の前でグーを握りやる気を見せている。自身も設備に不満が無かった訳ではないだろうが、ここまで率先して動くのはどちらかというと姫路らしくない。

 

『出し物はどうする?利潤の多い喫茶店が良いんじゃないか?』

『いや、初期投資の少ない写真館の方が』

『けど、それだと運営委員会の見回りで営業停止処分を受ける可能性もあるぞ』

『中華喫茶ならはずれはないだろう』

『それだと目新しさに欠けるな。汚いせいであまり人が来ない旧校舎だと、その特徴のなさは致命傷じゃないか?』

『ウェディング喫茶はどうだ?』

『初期投資が高すぎる。たった二日の清涼祭じゃ儲けは出ないんじゃないか』

『リスクが高いからこそリターンも大きいはずだ』

クラスの皆はやる気になったものの意見がまとまりそうになかった。

美波「はいはい!ちょっと静かにして!」

 

島田がパンパンと手を叩いて注意するが、効果はあまりない。次から次へと湯水のごとく意見が湧き出てくる。

 

『お化け屋敷なんかの方が受けると思う』

『簡単なカジノを作ろう』

『焼きとうもろこしを売ろう』

 

さらに意見がバラバラになっていく。試召戦争のときとは比べ物にならないほどのまとまりの無さだ。こんなクラスをまとめていた雄二のクラス代表としての手腕はやはり相当なものだろう。

 

美波「はぁ……まったくもう……。ねぇ、アキ。坂本か柊を引っ張り出せない?これじゃ、あまりにまとまりが悪すぎるわ」

明久「う~ん……無理だと思うよ。二人とも興味の無いことにはどこまでも無関心だから」

 

Aクラスレベルの実力があるのにも関わらずわざわざFクラスに来たような二人だ、当然設備に不満など特に無いだろう。

 

明久「それに和真は全体の指揮は苦手らしいから」 

 

和真の出す指示内容が「あれやっといて」とか「それはあっちに」みたいな超アバウトな為である。

『アクティブ』のメンバーが上位クラスの面子で固められている理由のひとつであったりする。『アクティブ』はハイレベルな頭脳、メンタル、身体能力を要求される、何気に狭き門だったりするのだ。

 

美波「そっか……もうっ。とにかく静かにして!決まりそうにないから、店はさっきの挙がった候補から選ぶからね!」

 

業を煮やし、無理矢理話をまとめた。これはこれで正しい判断だろう。

 

美波「ほらっ!ブーブー言わないの!この三つの中から一つだけ選んで手を挙げる事いいわね!」

 

反論を眼力で押さえ、決を採りにかかる美波。こういった役は明久や姫路はもちろん、翔子にもできそうにない。

 

美波「それじゃ、写真館に賛成の人!―はい、次はウェディング喫茶!最後、中華喫茶!」

 

クラス中に美波の声が響くが、それでも喧騒は収まらない。騒がしい中、美波が挙げられた手の本数をカウントし始めた。結果、

 

美波「Fクラスの出し物は中華喫茶にします!全員、協力するように!」

 

接戦で中華喫茶が勝利となった。

 

須川「それなら、お茶と飲茶は俺が引き受けるよ」

 

提案者の須川が立ち上がる。

 

ムッツリーニ「………(スクッ)」

 

そして何故かムッツリーニも立ち上がった。

 

明久「ムッツリーニ、料理なんてできるの?」

ムッツリーニ「…………紳士の嗜み」

 

おそらくチャイナドレス見たさで中華料理店に通っているうちに見よう見まねでできるようになった、とかであろう。ムッツリーニのスキル習得の大半は下心が絡んでいる。

 

美波「まずは厨房班とホール班に分かれてねもらうからね。厨房班は須川と土屋のところ、ホール班はアキのところに集まって!」

 

いつの間にか明久がホール班のトップになっていた。

 

姫路「それじゃ、私は厨房班に―」

明久「ダメだ姫路さん!キミはホール班じゃないと!」

 

平然と厨房班に入ろうとした姫路を前回の出来事を考慮して明久が止めにかかる。

 

『明久、グッジョブじゃ』

『………!(コクコク)』

 

その殺傷能力を知っている秀吉、ムッツリーニからのアイコンタクト。前回最大の犠牲者であった雄二は寝ている為か気づかない……はずなのだが、よく見ると微妙に小刻みに震えていた。夢の中で姫路の料理でも食べてるのだろうか。

 

姫路「え?吉井君、どうして私はホール班じゃないとダメなんですか?」

明久「あ、えーと、ほら、姫路さんは可愛いから、ホールでお客さんに接したほうがお店として利益が痛あっ!み、美波!僕の背中はサンドバックじゃないよ!?」

 

明久にしては上手い言い訳だったが、美波の機嫌を損ねてしまったらしい。

姫路「か、可愛いだなんて……吉井君がそう言うなら、ホールでも頑張りますねっ♪」

明久(できればホールだけで頑張って欲しい)

和真(………明久、人は成長するんだぜ?)

 

そのやり取りを眺めながら色々と事情を知っている和真はそんなことを思う。

 

美波「アキ。ウチは厨房にしようかな~?」

明久「うん。適任だと思う」

美波「…………」

 

明久は今、地雷を全力で踏み抜いた。

 

霧島「……じゃあ、私も厨房で」

明久「いや、霧島さんみたいな美人は是非ともホールにするべきだよ!」

霧島「……わかった」

美波「………………」

 

さらに地雷を踏み続ける明久。

 

秀吉「なら、ワシも厨房にしようかの」

明久「秀吉、何を馬鹿なことを言ってるのさ。そんなに可愛いんだから、もちろんホールに決まってみぎゃあぁっ!み、美波様!折れます!腰骨が!命に関わる大事な骨が!」

 

とうとう我慢の限界が来たようだ。地雷源でタップダンスを踊りきった明久は美波の私刑によってその場に崩れ落ちる。

 

和真「島田、気持ちはわかるが落ち着け。明久に悪気は無い」

美波「だからこそ余計腹立つんだけど……まあいいわ、ウチもホールにするから」

明久「そ、そうですね……それが、いいと、思います……」

和真「じゃあ俺もホールな。中華料理なんて細けぇ料理作れねぇし」

明久「まあ和真はホールだよね。見た目も良いし接客も得意そうだし」

 

中性的かつ実年齢マイナス3歳くらいの可愛らしい系の顔立ちはもとより、和真の社交性は他の追随を許さないレベルだ。厨房で遊ばせておく手は無いだろう。

 

そういうわけで、Fクラスの人並みの生活が懸かった学園祭は幕を開けることになった。

 

 




過去最長の9000文字オーバー。
導入部分はしっかりと描写しなければならないとはいえ、疲れました。

坂本 雄二
・性質……防御度外視型
・総合科目……2700点前後 (学年15位)
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……B+
機動力……B+
防御力……D+

ステータスはなかなかのレベルである。しかしクラス代表であることと雄二が指揮官タイプであることからあまり闘わない。装備を決定する時期ではまだはろくに勉強をしていなかったため、点数に比べて貧相な装備である。

では。

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