「全員そろったようですね。それでは、生徒会会議を始めたいと思います」
三年学年主任の綾倉先生がにこやかにそう告げる。
文月学園生徒会
全校生徒の代表として、生徒がより良い学園生活を過ごすために活動する集団…と、ここまでは一般的な生徒会と一緒だ。ただ、この生徒会は少しだけ一般的な生徒会とは違っている。
蒼介「今回の議題は一ヶ月後に控えた『清涼祭』について行います」
蒼介がそう言った後、副会長の橘 飛鳥はは各役員と顧問に用紙を数枚ずつ配る。
蒼介「まず各クラスに割り当てられる予算についてですが…」
「おい鳳!どうなってんだよ!」
「俺達の案と全然違うじゃねぇか!」
会計職に着いている夏川 俊平と常村 勇作が蒼介に抗議する。話の腰を折られた蒼介は剣呑な表情を二人に向ける。
蒼介「あなた方の予算案はAクラスが全体の六割を占め、それに対してFクラスには支給されてないも同然でしたね」
夏川「そうだよ、なんか文句でもあんのかよ?」
蒼介「あるに決まっているでしょう。確かに予算は上位のクラスほど優遇されますが限度というものがあります」
常村「わかってねぇなぁ。予算をバカどもに分配しても豚に真珠だ。それなら俺達優等生が使ってやった方が有意義だろうが」
蒼介「そんな主張は断じて認められません。私達は学園を代表する生徒会、私利私欲で行動するなど言語道断です」
夏川「んだと?テメェ先輩に逆らおうってのか?
蒼介「あなた方は先輩以前に生徒会会計職、つまり私の部下です。あまり出過ぎた発言は慎んでください」
蒼介は目上の人間にはきちんと敬意を払うが、決して媚びへつらうようなことはせしない。
間違っていると思ったことは真っ向からねじ伏せる。
常村「テメェ…」
夏川「言わせておけば…」
怒りに任せ、常村と夏川が立ち上がる。今にも乱闘に持ち込みそうな二人に対して、
「ええ加減にせえよこのバカコンビ!」
蒼介の隣に座っているタレ目が特徴的な女子生徒が一喝する。
前生徒会長にして現副会長の一人であり柔道部主将でもある三年生学年次席、佐伯 梓(サエキ アズサ)だ。
エメラルドグリーンの髪をツインテールにしており、普段はいつも人懐っこい笑みを浮かべているのだが、今は「不機嫌ここに極まれり」と言わんばかりのしかめっ面である。
常村「さ、佐伯……」
夏川「で、でもよ……」
佐伯「でももストもあるかい!さっきから聞いてたら好き放題言いよって!内申の為に生徒会入ったような奴等がブチブチ文句言うなや!鬱陶しいわ!」
これでもかとボロクソ言われているが、否定できないのか押し黙る二人。すると佐伯の発言に納得できないい生徒約一名が話に割り込む。
「……え?あの佐伯嬢、少しよろしいでしょうか?」
生徒会庶務であり三年首席の高城 雅春がおずおずと声をかける。
佐伯「あん?なんや高城?」
高城「私と常村君と夏川君は生徒会に入ることを義務付けられていたのでは?」
小暮「高城君、そんなの梓の嘘に決まっていますわ」
高城「……………………………………」
書記の一人である小暮 葵がそう告げると高城はすごく悲しそうな表情になる。
高城 雅春の特徴を一言で言うなら、騙されやすい。この十七年間あらゆる人に幾度となく騙されてきた実績は伊達ではない。
佐伯「……スマン、去年人員足りひんかったからつい……」
高城「構いませんよ佐伯嬢。慣れて…………ますから………………」
見ていていたたまれなくなる光景だ。
蒼介「…………とにかく、予算はこのように分配されます。お二方もそれでよろしいですね?」
常村「あ、ああ…」
夏川「つ、つっかかって悪かったな…」
佐伯の一喝と高城のあまりにもかわいそうな光景が随分効いたようで、蒼介と夏川達の一触即発な雰囲気も完全に雲散霧消。
蒼介「では次に『試験召喚大会』についてですが、この中で参加をするという方は―」
その場にいたほとんどの生徒が手を挙げる。
蒼介「―私と高城先輩以外、ですか」
徹「あれ?君は出ないのかい?こういう行事は積極的に参加していたはずだけど」
もう一人の書記職である小柄な男子生徒、大門 徹が質問する。
蒼介は意外と好戦的な性格だ。この手の大会に参加しないのは些か不自然である。
蒼介「私はクラス代表だ。途中で抜けるわけにはいかないだろう」
高城「私も同様の理由です」
二人ともそれぞれクラス代表としてこのような行事ではクラスメイトを指揮する責務がある。どうやら二人とも責任感の強い性格をしているようだ。
高城「このような仕事をしないと騙されやすい馬鹿であることがばれるとお伺いしましたので」
小暮「高城君、台無しですわ。色々と」
片方は騙されているだけだった。犯人はおそらく私は無関係ですとでも言いたげに明後日の方向に目を背けて口笛を吹いている前生徒会長だろう。高城が仕事をしないと次席である自分に回ってくることを見越しているあたり意外とちゃっかり者のようだ。
蒼介「まあそれはともかく、この大会の副賞について教頭先生、ご説明を」
竹原「ああわかった。まず一つ目は我が校のスポンサー“桐谷グループ”の系列である“如月グループ”が経営する『如月ハイランド プレオープンプレミアムペアチケット』、もう一つは学園長が新たに開発した『白金の腕輪』だ」
その後は竹原教頭の腕輪についての説明が続いた。
竹原「―以上だ」
蒼介「ご説明ありがとうございました。では次に―」
そう、これが前述した文月学園生徒会特有の業務、学園の経営への参加である。
文月学園は試験召喚システムのための試験高であり、世間の注目を浴びやすい。世間に叩かれないようにどのような経営方針で行うかは非常にデリケートな業務である。そこで実際に学園生活を送っている生徒の意見も取り入れるため、このような会議を度々開くことになっている。
蒼介「―以上です。綾倉教諭、これで今日の議題は全て終了しました」
綾倉「そうですか。では、本日の生徒会会議はこれで終わりです」
「例の腕輪を無事大会の優勝賞品にすることができたようですね」
「学園長は学校の経営を全て丸投げしているからな、出し抜くことなど造作もないさ」
「それにせっかくの新技術、技術者として使わずにはいられないでしょうしねぇ」
「それについて確認しておく。あの腕輪は本当に高得点者が使用すると暴走するのか?そうでなければ話にならんのだがね」
「私を甘く見ないでくださいよ。あの程度の細工は朝飯前ですよ」
「ああ、それはすまなかったな。ところでなぜ片方だけに細工したんだね?」
「そうしておいた方が都合がいいんですよ。こうすれば学園長は自分が回収するという手段を取らずに腕輪の回収を生徒の誰かに依頼するでしょう。そうなると細工をした方の腕輪を回収する役目を請け負うのは誰になるか絞られます」
「…ああ、観察処分者のバカか。ならばおそらく相方もわかりきっているな。それならば私の用意した刺客には到底敵わないだろうな」
「…だといいですけどね」
蒼介「……なあ木下、工藤。いくつか聞きたいんだが」
優子「? どうしたの代表?」
愛子「何か問題でもあったのカナ?」
蒼介「まず一つ目、どうして私が知らない内にクラスの出し物が決定しているんだ?」
愛子「代表がここんところ働きづめだから、クラスのみんなが負担を少しでも軽くしようとしたんだよ」
蒼介「まあその気遣いには感謝する。二つ目、【執事喫茶 お嬢様とお呼び!】……この店名は無いだろう」
優子「アタシも薄々おかしいと思ってたけど、気がついたらそれになってたわ」
蒼介「…………まあそれは置いといて。最後の質問だが、
どうして私は知らないうちにウェイターにされているんだ?」
愛子「またまた~。そんな女泣かせな顔で何を言ってるんだよ」
蒼介「少なくとも顔立ちで女子を泣かせたことはないのだがな」
愛子「ん?それ以外ではあるってこと?」
蒼介「……昔飛鳥と初めて会った時、柔道の稽古で―」
飛鳥「その話は黙ってて蒼介、お願いだから」
蒼介「……そうか。ならこの話は終わりだ」
愛子「えー。気になるから教えてよー」
蒼介「却下だ。話を戻すが、どうしても私はウェイターなのか?」
愛子「満場一致で決まったからね~。もう決定事項だと思うよ~」
蒼介「……………仕方ない」
以上です。
本当は厨房に行きたかった蒼介君、ドンマイ。
この作品では腕輪の欠陥は誰かに仕組まれたという設定になっています。
【生徒会】
会長…鳳 蒼介
副会長…佐伯 梓、橘 飛鳥
書記…小暮 葵、大門 徹
会計…常村勇作、夏川俊平
庶務…高城 雅春
顧問…竹原(教頭)、池本(一年学年主任)、高橋(二年学年主任)、綾倉(三年学年主任)
・役員志願資格はAクラス所属であること。
・会長は二年の学年主席もしくは次席が着任する。
・前生徒会長は三年では副会長として現生徒会長をサポートする
・三年生は一学期終了時にその任を解かれる
・一年生は二学期から志願可能
・役職志願者が定員を越えた場合生徒会選挙が行われる。
では。