和真・蒼介「「ハァァアアアァァァァアアアアアッッッ!!!」」
キキキキキキキキキキィィイイインッッッ!!!
再び〈和真〉と〈蒼介〉は高速でフィールド全体を縦横無尽に駆け巡りながら、全力でお互いを叩き潰さんと得物をぶつけ合う。
しかし決して先ほどの焼き回しなどではなく、蒼介が“明鏡止水”を極めたことで先程のようにぶつけ合う度に〈和真〉が有利になるようなことは無かった。
和真「オラァァアアア!!」
並大抵の召喚獣なら掠めただけで致命傷になりかねない〈和真〉の渾身の薙ぎ払いに対し、〈蒼介〉は自身と迫り来るロンギヌスの間に草薙の剣を差し込む。常識で考えればそのような雑な防御では、到底〈和真〉の薙ぎ払いを防ぐことなどできないが、
蒼介「お前の力……利用させてもらう!」
和真「あぁん!?」
激突する寸前の寸前に〈蒼介〉は左足を軸に自身を回転させる。そしてロンギヌスと草薙の剣が激突し、〈蒼介〉はその衝撃を利用して回転の勢いをさらに強める。そして〈蒼介〉はその勢いに乗ったまま回転斬りに移行し、隙のできた〈和真〉へのカウンターを行う。相手の力が強ければ強いほど鋭い返し技へと昇華される。これぞ“大渦”と“夕凪”の複合カウンター技……“離岸流”である。
理論上、人間の反応速度では決して間に合わない絶妙なタイミングであった。
和真「うぉぉおおおりゃああぁぁあああっ!!!」
蒼介「む……!」
が、今の和真は人間の限界など容易く凌駕する。元々並外れた反射神経を持つ和真であるが、“気炎万丈”で引き上げられた和真のソレは、もはや人類には不可能な領域にまで至っている。刹那の早さで〈和真〉はロンギヌスを引き戻し、そのまま迫り来る草薙の剣への迎撃を行う。その結果お互いの力は完全に拮抗し、両者共に反動で後方に弾き飛ばされた。
和真(俺の力を利用してパワー差を埋めるとは……やるじゃねぇかソウスケ。
……だがこの闘い-)
蒼介(あそこから迎撃体勢を整えるとは……見事だカズマよ。
……しかしこの闘い-)
和真「勝つのは俺だ!」
蒼介「勝つのは私だ!」
秀介「あの闘いぶり……どうやら蒼介は“明鏡止水”を極めたようだね」
藍華「でも秀介さん……先程まで“明鏡止水”は切れかけていたんですよね?」
秀介「そうだね藍華さん」
藍華「それに蒼介の“海角天涯”が破られた瞬間、もしかして“明鏡止水”は完全に解けてしまったたのでは?」
秀介「うん、そうだねぇ」
藍華「だったら、尚更なんで-」
秀介「
藍華「え……?」
秀介の発言でますます意味がわからなくなる藍華。“明鏡止水”が解けてしまった蒼介が“明鏡止水”を完成させられたことだけでも不思議なのに、秀介が言うには“明鏡止水”が解けたからこそ“明鏡止水”を完成させられたとのことだ。
秀介「蒼介は既に“明鏡止水”を9割方完成させていた。そしてそんな蒼介に最後に必要なものは、その
……話は変わるけど歴代鳳家当主は皆“明鏡止水の境地”に至っているけど、“明鏡止水の極致”にまで到達した者は極少数だってことは以前話したよね?」
藍華「えぇ、存じ上げております」
秀介「ジレンマなことに、“明鏡止水”に至った者は脅威だと思えることには、どれだけ望んでようとそうそう巡り会えないんだよ。……蒼介はとても幸運だねぇ、こんな身近にこれ程の脅威がいたのだから」
藍華「……しかし秀介さん、まだ一つ腑に落ちない点がございます。既に9割方完成していた“明鏡止水”と完全な“明鏡止水”、それほどまでに違いがあるのでしょうか?」
秀介「ああ、あるよ。その二つには天と地ほどの差がある。例えるなら穴の空いた容器と空いていない容器さ」
試しに水を注いでみれば一目瞭然、どんなに小さくても穴が空いていては注いだ水はあっという間に無くなってしまう。完成する前蒼介が“明鏡止水”を維持できる時間はたった20分だったが、今の蒼介は軽く半日は持続させられるだろう。そして時間配分を気にする必要が無くなったことで、気兼ねなく100%の力を振るうことができる。
藍華「それにしても…フフッ……蒼介も和真さんも、随分楽しそうですね」
秀介「そうだねぇ」
和真「オラオラどうしたどうしたぁっ!だんだん動きが鈍くなって来たんじゃねぇか!?」
蒼介「ぬかせ!お前こそその減らず口、いつまで叩いていられるのだろうな!」
二人のぶつかり合いはより苛烈なものになっていった。圧倒的なパワーとスピードの〈和真〉に、〈蒼介〉は卓越したテクニックと頭脳を以て対抗する。
読心の達人である蒼介であろうと、内に潜む修羅を解き放った和真の心は読めない。故に蒼介は心を読むのではなく行動や攻撃を誘導することで、見事〈和真〉の攻撃を予測した。……が、和真の反応速度は“気炎万丈”により人智を越えたレベルになっており、どれだけ隙を突こうとも後出しじゃんけんのごとく即座に〈蒼介〉の攻撃に対応する。
一方〈和真〉も攻撃を誘導されているので攻め切れない。ならば先ほど身に付けた技“陽炎”で奇襲を試みるも、蒼介は和真のまばたきのタイミングを予測し、それに自身のまばたきのタイミングを合わせることで、“陽炎”を使う隙を一切与えなかった。
このように一進一退の攻防が続くが、
《総合科目》
『二年Fクラス 柊和真 4462点
VS
二年Aクラス 鳳蒼介 3666点』
点数差は徐々に、徐々にだが広がっていく。
和真「ほらほらどうしたぁ!?拮抗して満足してるようじゃ逆転なんざできねぇぞ!」
蒼介「……………」
蒼介がここからひっくり返すには“明鏡止水”が“気炎万丈”を上回らければならないというのに、どちらかと言えば押されているという絶体絶命の状況。
しかしこれは“明鏡止水”が“気炎万丈”より劣っているわけではなく、両者の性質を考えれば至極当然のことである。“明鏡止水”が人間の可能性を突き詰める力であるのに対し、“気炎万丈”は人間の限界を越える力。ぶつかり合えば瞬間的火力で上回るのは断然後者だ。
そして当然、“明鏡止水”が“気炎万丈”に勝る点も存在している。それを理解しているからこそ、蒼介は至って冷静なままだ。
蒼介「…………なぁカズマ」
和真「あぁ?」
蒼介「随分と疲れているようだな」
和真「っ!?」
やや肌寒くなってくる時期、しかも本人はずっと一切微動だにしていない筈。それにもかかわらず今の和真は長時間バスケでもしてきたかのように汗だくになっていた。
蒼介「《それに呼吸も少し乱れている。……お前にしては珍しくな」
和真「………………チッ、もうバレちまったか……“気炎万丈”が長期戦に不向きだってことをよ」
そう……人間の限界を越えた力を扱う“気炎万丈”はその分消耗も激しく、“明鏡止水”と違い長時間維持できないのだ。
故に蒼介の最善手は時間稼ぎに徹することになる。直接のぶつかり合いで勝てなくても、時間が経てば自ずと勝利の道が開けるのだから。
蒼介「さぁ、持久戦の始まりだ。私が倒される方が先か、お前が“気炎万丈”を維持できなくなる方が先か……根比べと行こうじゃないか」
和真「………………ははは…
フハハハハハ……
アーッハッハッハッハッハ!!」
突然和真が笑い出す。
無邪気で。凶悪で。
それでいて心の底から楽しそうに。
そして和真はひとしきり笑ってから、
和真「『レーザー・ウイング』!」
切り札の引き金を引いた。〈和真〉の背中から強い光を帯びた、プラズマ状の六枚翼が噴出する。
蒼介「っ……『インビンシブル・オーラ』!」
すかさず蒼介もランクアップ能力を起動させ、あらゆる攻撃を無効化するオーラが〈蒼介〉の全身を覆う。
和真「ククク、笑わせてくれるぜ……根比べだぁ?んなもん比べるまでもなくテメェの勝ちだよ。俺ぁ気が短ぇんだよ、この状態だと特になぁ。
持久戦だぁ?誰がそんなもんに付き合ってやるかよ。ここは切り札をベットしてでも、超短気決戦でケリをつけさせてもらうぜ」
蒼介「まったく……私の提案を問答無用で袖にする奴なぞお前くらいだぞ」
次回、とうとう決着です。