最終戦を闘う二人の成績はまさに正反対である。
片方は全教科で学生レベルを逸脱した成績を誇る、まさに“パーフェクト・プレイヤー”と呼ぶに相応しい生徒、鳳蒼介。
もう片方は総合力は下の下、あの吉井 明久をも下回る劣等生だが、『保健体育』のみは教師にすら匹敵する点数をたたき出す、いわば“オンリーワン・プレイヤー”、土屋康太。
高橋「教科は何にしますか?」
ムッツリーニ「…………保健体育」
高橋先生の質問に対し迷わず答えるムッツリーニ。
科目が保健体育である以上、自らの土俵で勝負できる“オンリーワン・プレイヤー”が圧倒的に有利である。
『試獣召喚!』
掛け声と共に魔法陣が現れ、それぞれの召喚獣が出現する。
《保健体育》
『Fクラス 土屋 康太 615点
VS
Aクラス 鳳 蒼介 522点』
両者の点数はどちらも、これまで闘っていた生徒の点数が児戯に見えるほど一線を画していた。
明久「なっ…ムッツリーニはともかく、相手もとんでもない点数だ!?もしや、鳳君はムッツリーニに次ぐスケベなのか!?」
和真「んなわけねぇだろ…あいつほど堅物な奴はいねぇよ。それにあいつの点数はどの教科もあれくらいあるんだよ」
明久「バカな!?全教科500点オーバー!?そんな反則、僕が許さないよ!僕なんて総合でそれくらいなのに!」
和真「いやお前に許しを乞う必要なんて無いし、Aクラスの連中もいるんだからそんな大声で身内の恥を暴露しないでくんない?」(にしても妙だな、Aクラスの連中が不気味なくらい落ち着いてやがる…相手が自分達の代表を百点近く上回る点数ならある程度ざわつくはずなんだがな)
しかしAクラス生徒は一切慌てた様子がない。それほど自分達の代表を信頼しているのだろうか。
蒼介「さあ、始めようか」
ムッツリーニ「…………(コクリ)」
両者の召喚獣は武器を構える。
先に動いたのは〈蒼介〉。草薙の剣を振りかざし、凄まじいスピードで〈ムッツリーニ〉に斬りかかる。
だが〈ムッツリーニ〉はそれを上回るスピードで後ろに跳んでかわす。
間髪入れずに〈蒼介〉は斬り込むがムッツリーニの召喚獣は横っ飛びで避ける。しかし-
蒼介「甘い!」
即座に刃の向きを変え、弐の太刀を浴びせる。
〈ムッツリーニ〉は小太刀でなんとかガードするが、勢いを殺し切れず吹っ飛ばされる。
ムッツリーニ「………くっ」
吹っ飛ばされた先でなんとか体勢を立て直すも容赦なく〈蒼介〉は草薙の剣で斬り込んで来た。
〈ムッツリーニ〉それを小太刀でガードするが〈蒼介〉が即座に剣を引っ込めたため鍔迫り合いにはならず、力を込めすぎていた〈ムッツリーニ〉の体勢が崩れる。
〈蒼介〉がそんな隙を逃すはずもなく剣をギロチンの如く降り下ろすが、スピードで勝る〈ムッツリーニ〉は間一髪でかわす。しかし蒼介は攻めの手を緩めず、その後も次々と攻撃を繰り出していく。
《保健体育》
『Fクラス 土屋 康太 598点
VS
Aクラス 鳳 蒼介 522点』
明久「ねぇ、大丈夫なのムッツリーニは!?」
防戦一方のムッツリーニを見ながら明久が慌てたように和真達に聞く。
雄二「まあ、ここまでは予想通りだ。点数は勝っていても操作技術は明らかに負けている」
和真「あいつもフリスペをたまに利用してるからなぁ。お前や俺には及ばないものの、なかなかのレベルだぜアイツは」
明久「なんでそんな落ち着いてるの!?このままじゃ…」
雄二「落ち着け明久。今ムッツリーニは相手の隙を伺ってるだけだ」
明久「…相手の隙?」
和真「具体的には腕輪を使うチャンスだな。隙をついて『加速』で相手を一刀両断、その後体勢を崩した相手に追撃を加えて、勝負を決めるつもりだ」
ムッツリーニの『加速』は直接的な攻撃力は持ち合わせてないが、その凄まじいスピードでどんな状況でも先手が取れるというアドバンテージがある。
それにムッツリーニの暴力的なまでの点数による攻撃力が加われば、まさに必殺の居合い斬りとなる。
《総合科目》
『Fクラス 土屋 康太 586点
VS
Aクラス 鳳 蒼介 522点』
蒼介(点数差は少しずつ縮まってはいるが、このままでは埒が明かないな………………よし、仕掛けるか)
小競り合いをしていた〈蒼介〉が突如草薙の剣を構え直し、〈ムッツリーニ〉に大振りで斬りかかる。
しかしその隙のできる攻撃こそ、ずっとムッツリーニが待っていた攻撃だ。
ムッツリーニ「……今だ、加速!」
大振りの隙を逃がさず腕輪を発動させ、〈ムッツリーニ〉は信じられないスピードで〈蒼介〉を切り裂いた。誰の目から見ても明らかな、100点満点の直撃であった。
明久「やった!そのまま追撃すれば-」
しかし、
和真「………なっ!?」
雄二「バカな!?」
《保健体育》
『Fクラス 土屋 康太 291点
VS
Aクラス 鳳 蒼介 508点』
〈ムッツリーニ〉は深いダメージにより膝をつく。どうやら〈蒼介〉を斬った瞬間にカウンターを喰らっていたのだが、それはまだ納得できないこともない。
問題は、直撃を喰らったの〈蒼介〉が、なぜかほとんどダメージを受けていないことである。これには流石の和真と雄二も予想外だったらしく、目を見開いて愕然としている。
蒼介「終わりだ」
すかさず〈蒼介〉は追撃する。
防御も回避も間に合わず、〈ムッツリーニ〉は無惨にも首を飛ばされてしまった。
《保健体育》
『Fクラス 土屋 康太 戦死
VS
Aクラス 鳳 蒼介 508点』
Fクラスの卓袱台がみかん箱になった。
高橋「三対二でAクラスの勝利です」
わざわざ言うまでも無く和真達の完敗だった。
蒼介「カズマ、初戦は私達の勝利だ」
和真「そうだな。言い訳のしようのねぇ惨敗と言っていいくらいのな」
明久を中心にFクラス男子生徒がムッツリーニと、ついでに雄二を吊し上げている異様な光景をスルーして二人は話し合う。
雄二「おいまてコラ!なんでムッツリーニは洗濯ばさみなのに俺にはスタンガンなんだよ!」
明久「黙れ雄二!そもそもキサマの作戦でこうなったんじゃないか!メインはキサマだ!」
ムッツリーニ「…………辛い」
雄二「いや確実に俺の方が辛くなるだろ!?まてテメェらはやまるnあばばばばばばば!」
和真「そう言えば、最後の攻防なんか不自然だったな。あれ、お前の腕輪の効果か?」
蒼介「そうだ。私の腕輪『インビンシブル・オーラ』は相手の攻撃を300点分無効化することができる常時展開型の能力だ。一度壊れれば召喚し直さなければ張り直せないがな。わずかにダメージを喰らったのは土屋の攻撃が300点を上回った超過ダメージだろう」
和真「…………おかしくね?なにその反則性能?」
ただ単純に体力が300点上がっただけ済む話ではない。300点分ダメージを与えるまで攻撃を一切受けないのだからその間一方的に相手を攻撃できるということだ。
おまけに先程の試合を見るに点数を消費しないらしい。
さらに召喚し直せば張り直せるということは、どれだけ点数を削られても確実に300点以上の余裕が、無敵効果付きであるということだ。
和真「どう考えてもオーバースペックじぇねぇか」
蒼介「当たり前だ。元々の能力は点数を50点消費する上、耐久力も200、おまけに300点以上でないと使えなかったからな」
その能力なら攻防のバランスのとれた常識的な性能だっただろう。
蒼介「全教科500点以上の成績を修めた生徒は腕輪がランクアップし、能力が強化されるんだ」
和真「なんだそりゃ?そんな話聞いたこともねぇぞ」
蒼介「ランクアップした生徒にしか通達されないからな。理由は言わなくてもわかるだろう?」
和真「………なるほど、大学の内容は大学でやれと」
文月学園のテストは点数無制限であるが、先に進むにつれて難易度が上がって行く。
そして、400~500点の問題はテスト範囲外、つまり授業で習っていない範囲まで含めた高校レベルの総合問題になる。この辺りは授業を真面目に聞いているだけでは解けず、ずっと先の範囲まで予習している必要がある。
そして、500点以降の問題は高校生レベルを逸脱した問題、つまり大学ないし大学院レベルの問題となっている(受験に必要のない保健体育は先に進むにつれてよりマニアックな問題になっていく)。
進学校としては、そんな先のレベルよりも大学受験を目標としてほしいので、この話は通達されていないのだろう。ちなみに和真の点数が得意教科でも400点ジャストなのは和真が予習の類いを全くしないからである。
蒼介「カズマ、お前に1つ聞いておきたいことがある」
和真「あん?なんだよ?」
蒼介「私からみてもこのランクアップした腕輪は反則的なまでに強い。試召戦争というシステムが成り立たなくなるほどに」
和真「何が言いてぇんだ?自慢か?」
蒼介「それを踏まえた上で、お前達Fクラスはまだ私達Aクラスに挑もうというのか?」
Fクラスのジョーカーであり600点オーバーの点数を誇るムッツリーニですら惨敗。Aクラスへの勝利は万に一つもあり得ない、そう考えても仕方ないと言える強さを蒼介は備えている。
だが、
和真「挑まねぇと思うか?」
蒼介「……思わないな」
だからどうしたというのだ。
和真「アホなこと聞くんじゃねぇよソウスケ。俺は勝てそうにないからという理由で引き下がるような物分かりのいい人間じゃねぇんだよ。0%でなきゃ勝負捨てんのはまだ早ぇ。それにな、」
1%だろうと0コンマ1%だろうと勝てる可能性があるなら、柊 和真に諦めるという選択は無い。
否、たとえ可能性が無かったとしても和真は諦めない。
和真「勝てる手段が無いなら勝てる手段を創るまでだ。勝てる可能性が無いなら勝てる可能性を生み出すだけだ」
己の前に頂へ続く道がある。
その道は険しいのか?己に向いているのか?果たして登りきることは可能なのか?
そんなものは関係ない。ただ“登る”、
それが柊 和真という男だ。
蒼介「…それを聴いて安心したよ。もし諦めるなどとほざいていたらこの手で張り飛ばしていた」
和真「おーこわ。御曹司で生徒会長のくせに随分野蛮なこと考えてんじゃねぇか」
蒼介「大丈夫さ、それを実行する機会など永遠に来ないからな」
和真「そうかい。さてと、三ヶ月後覚悟しておけよ?トップの座に胡座かいてたら容赦なく首をはねるぜ?」
蒼介「なぁに、また返り討ちにしてやるさ」
そして二人は楽しそうに笑い合った。
雄二「ぐぉぉ……アイツ等…特に明久、絶対ぶち殺す…」
明久「なにィ!?もう復活しやがった!?ゴキブリみたいにしぶとい奴だ!」
クラスメイトから処刑された雄二が起き上がる。
肩を怒らせ、今にも明久達に報復しようとしている。
翔子「…雄二」
雄二「あ?なんだよ翔子?今取り込み中-」
翔子「…試召戦争も終わったし、今からデートに行く」
『……………………………………え?』
あまりに予想外の発言にフリーズするFクラス一同。
和真(…あ)
明久(…あ)
美波(…あ)
姫路(…あ)
土屋(…あ)
そしてやってしまったと思う事情を知る一部の人達。
雄二「おい翔子!?そのことは内緒だって-」
翔子「…ずっと隠して通すのは無理があるからもう全部話す。私は雄二と付き合っている」
和真(まあ翔子にしては良く我慢した方だよな。今日まですごくおとなしかったし)
あまりにも衝撃すぎるカミングアウトに未だ立ち直れないFクラス生徒一同。
翔子「…じゃあ行く」
雄二「ぐぁっ!放せ!無理矢理過ぎるだろ-」
ぐいっ つかつかつか
翔子は雄二の首根っこを掴み、教室を出て行った。
あまりの出来事に誰も言葉が出ず、教室にしばしの沈黙が訪れる。
「さて、Fクラスの諸君。お遊びの時間は終わりだ」
突如教室に野太い声がかかる。
音をした方を見ると、そこには生活指導の西村先生(鉄人)が立っていた。
和真「西村センセ?どうしたんすか?」
鉄人「ああ。今から我がFクラスの補習について説明をしようと思ってな」
和真「……我がFクラス?」
鉄人「おめでとう。お前らは戦争に負けたおかげで、福原先生から俺に担任が変わるそうだ。これから一年、死に物狂いで勉強できるぞ」
『なにぃっ!?』
和真以外の男子全員が悲鳴をあげる。
生活指導の鉄人と言えば『鬼』の二つ名を持つほど厳しい教育をする先生である。
鉄人「いいか。確かにお前らはよくやった。Fクラスがここまで来るとは正直思わなかった。でもな、いくら『学力が全てではない』と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の一つなんだ。ないがしろにしていいものじゃない」
和真(まあ間違ってねぇな。将来何を目指すにしても武器は多いに越したことねぇしな)
鉄人「吉井。お前と坂本は特に念入りに監視してやる。なにせ、学園きっての問題児コンビだからな」
明久「そうは行きませんよ!何としても監視の目を掻い潜って、今まで通りの楽しい学園生活を過ごしてみせます!」
西村「……お前には悔い改めるという発想は無いのか」
溜め息混じりに言う鉄人。そんな無い物ねだりしても仕方ないであろう。
和真「あれ? センセ、俺は?」
鉄人「お前はこっちが注意しようと腰を上げたときにはもう引き上げているだろうが」
和真「まあそうっすけど」
鉄人「少しは否定せんか!…まったく、似なくていい部分まで父親に似おって……」
和真「おいコラふざけんな。いくら先生でも言って良いことと悪いことがあるぞコラ」
さらに溜め息が深くなる鉄人と何故か半ギレになる和真。
どうやら和真の父親とは相当問題のある人物のようだ。
鉄人「取り敢えず明日から授業とは別に補習の時間を二時間設けてやろう」
和真「げっ!?放課後の部活巡りの時間が減ってしまうのか……やべぇ、動かねぇと呼吸が出来なくて死ぬってのに」
鉄人「お前は鮪か」
以前同じようなやりとりがあった気がする。
そんな話をしていると、美波が明久に歩み寄って来た。
美波「さぁ~て、アキ。補習は明日からみたいだし、今日はクレープでも食べに行きましょうか?」
明久「えぇっ!?僕にそんな余裕ないよ!」
美波が明久をデートに誘う(明久は気づいていないが)。
姫路「だ、ダメです! 吉井君は私と映画を観に行くんです!」
明久「姫路さんまで!?」
それに対抗して姫路もそんなことを言い出した。経済的危機に直面して普段勉強嫌いなはずの明久は鬼教師にすがる。
明久「に、西村先生! 明日からと言わず、補習は今日からやりましょう! 思い立ったが仏滅です!」
鉄人「『吉日』だ、バカ」
明久「そんな事どうでもいいですから!」
今後の食生活がかかっているからか、試召戦争中並に必死になる明久。
鉄人「うーん、お前にやる気が出たのは嬉しいが……」
言葉を区切って、明久と美波と姫路を見る。
鉄人「無理する事は無い。今日だけは存分に遊ぶといい」
ニヤニヤと嫌な笑顔で告げる。これは遠回しな鉄人の気遣いなのであるがバカな明久は当然そのことに気付かない。
明久「おのれ鉄人!僕が苦境にいると知った上での狼藉だな!こうなったら卒業式には伝説の木の下で釘バットを持って貴様を待つ!」
鉄人「斬新な告白だな、オイ」
明久「…まてよ、まだ和真がいた!和真ならきっと僕を助けてくれ…………あれ、和真は?」
鉄人「柊ならさっき鳳、木下、大門と教室から出ていったぞ。ラクロス部との試合前の練習をするそうだ」
明久「ほんとアクティブだな畜生!」
気がつけばいなくなっている、それが和真である。
美波「アキ!こんな時だけやる気を見せて逃げようったって、そうは行かないからね!」
明久「ち、違うよ! 本当にやる気が出ているんだってば!」
姫路「吉井君!その前に私と映画です!」
明久「姫路さん、それは和真じゃなくて僕となの!?」
姫路「?? 柊君? 何の事ですか? 私はずっと前から吉井君の事を……」
美波「アキ! いいから来なさい!」
明久「あがぁっ! 美波、首は致命傷になるから優しく………」
『いやぁぁっ!生活費が!僕の栄養がぁっ!』
どうやら明久の主食は明日から公園の水になりそうだ。まあ幸せ税というやつであろう。本人はその幸せに気付いていないため、一方的に損しているのだが。
和真「よし、そろそろ時間だな」
蒼介「今回の相手は女子ラクロス部レギュラーか」
木下「女子ラクロス部は創部三年目で全国出場を果たした強豪よ」
徹「今までの相手とは比べ物にならないほどの強敵だね」
源太「ハッ、関係無ぇよ!俺達が負けるはずがねぇ!俺達『アクティブ』は……無敵だ!」
和真「皆気合い充分だな。それじゃあ……
ガンガン行こうぜ!」
『おおー!』
というわけで試召戦争一回目は蒼介の勝利で終わりました。次回で第一巻終了となります。
『インビンシブル・オーラ』
ランクアップした蒼介の腕輪。13マナの光呪文とは全く関係ない。
召喚獣に耐久力300点分のバリアを張る。300点分は相手の攻撃を完全に無効化するため、攻撃を受けても一切のけぞらないし体勢からも崩れない。
消費コストが無く召喚し直す度に張られるので、例え点数が1点まで減らされても召喚し直せば実質Aクラス上位レベルの点数になる。
簡潔に言うと、要はラスボス補正である。
この作品のオリジナル設定、『ランクアップ』ですが、ほとんど蒼介君専用オプションです。とある理由で教師の召喚獣には腕輪が装備されないからです。
では。