バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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今回はそこそこ長いです。

ついに詩織さんの謎が解き明かされる……!



準決勝決着

蒼介「ハァッ!」ヒィィィイイイイイン…

詩織「む……!」

 

右斜め前から斬り込んでくる〈蒼介〉に対し、〈詩織〉は七支刀を構え迎撃体勢を取る。が…

 

蒼介「どこを見ている!」ヒィィィイイイイイン…

詩織「っ……!?」

 

次の瞬間〈詩織〉は()()()()()から斬られていた。咄嗟に体を捻って急所を避けたため軽傷で済んだものの、当然ながら〈蒼介〉は容赦なく追撃してくる。

 

詩織(真正面から向かってきてるってのに、気がつけば見失って全く別の方向から斬られちまう……かといって私が正面からの突撃を無視すれば向こうはお構いなしにそのまま斬り込んで来るだろうね……!となると相手がどこから攻撃してくるか予想して、消えた瞬間に方向転換して迎撃するしかない…………んだけど…)

 

視界から〈蒼介〉が消えた瞬間に〈詩織〉は後ろを振り向き迎撃体勢を取る。が、草薙の剣は左方向から〈詩織〉を切り裂いた。

 

蒼介「ふむ、狙いは悪くないが……私の思考を容易く読めると思うな」ヒィィィイイイイイン…

詩織「そんなこと言われんでもわかってるよ!」

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3794点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 1367点』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優子「す、すごい……!」

飛鳥「あの綾倉さんが、こうも一方的に……!」

秀介「これぞ“蜃気楼”の真骨頂……目に移る攻撃全てが虚像かつ、“波浪”の緩急と“狭霧”の視線誘導を組み合わせることで、360度あらゆる方向へ即座に回り込み奇襲をかける。これを打ち破るには、えっとそうだねぇ……」

 

秀介は少し考える素振りを見せたものの、詩織にとって現実的な案が思い浮かばなかったのか、すぐに苦笑しつつ肩を竦めた。

 

秀介「和真君のように並外れた反射神経や、常識では説明できない優れた直感があるなら強引に突破できそうけど、そうでない場合は蒼介がどの方向から攻撃してくるか読み切ればどうにかなる。ただ、あまり現実的な手段とは言えないねぇ……」

飛鳥「ええ、そうですね……蒼介は読心の達人、相手の推測を逆手に取ることぐらい、容易くやってのけるでしょうね」

優子「おまけに今の代表は超集中状態。読心の精度も平常時の比じゃないでしょうね」

 

あの和真をして「勝ち目が無い」と言わしめた程、蒼介は腹の探り合いに長けている。彼に読み合いでまともに対抗できるのは今のところ肉親である秀介と藍華、稀代のペテン師である梓ぐらいではないだろうか。

ましてや今の蒼介は“明鏡止水”の境地にいるため、感知能力が桁違いにはね上がっている。こうなるともはや梓でも太刀打ちできないだろう。

 

飛鳥(……うん、ほんの少しハラハラさせられたけど、この分だとこのまま危なげなく蒼介の勝ち-)

秀介「………ほほぅ。飛鳥君に木下君、どうやら勝負はまだこれからのようだ」

飛鳥「え……」

優子「避けた……?」

 

興味深そうに笑みを浮かべる秀介に促され再びフィールドに視線を移すと、〈蒼介〉の放った斬撃を〈詩織〉が紙一重でかわしていた。

 

 

 

 

蒼介「……よくぞかわした。では、これならどうだ?」ヒィィィイイイイイン…

 

斬撃を避けられても何ら動じることもなく、〈蒼介〉はすかさず〈詩織〉の真後ろに回り込み、薙ぎ払うように剣を振る。

 

詩織「……………ハッ!」

 

〈詩織〉が振り返ったときにはもう既に自身の喉元を切り裂く寸前であったが、〈詩織〉は瞬間的に全身の力を抜きつつ、自身に迫る刃の軌道に沿って体を折り曲げてギリギリのところで回避する。

その後も何度か別の角度から切りかかるが、全て紙一重でかわされる。一見もう少しで捉えられそうだが、このまま単調に攻め続けても決して捉えられないと蒼介は推測する。そして〈詩織〉の神回避のからくりも、おおよその見当がついた。

 

蒼介「……私の太刀筋を見切ることに専念した、脱力による最小限の回避か」ヒィィィイイイイイン…

詩織「!……この短時間でそこまで見抜かれちまうとはね。ああそうさ、私じゃアンタの攻撃を先読みするなんてできそうも無いからね。苦肉の策として、ギリギリまで見極めに徹して最小限の動きでかわす。私だけの水嶺流の型……名付けて濃霧。そう簡単に破られはしないよ」

蒼介「なるほど、実に見事な戦型だ。……しかしまるで攻める気の無い戦法で、どうやって私に勝つつもりだ?」ヒィィィイイイイイン…

 

そう、詩織の“濃霧”は防御の型。

しかも相手の攻撃を見切ることに全霊をかけているため、同じ防御の型でも“夕凪”と違って反撃に転じることができない。それではせいぜい時間稼ぎにしかならないだろう。だが苦肉の策だと述べていることから、詩織もそのことはわかっている。

 

詩織「そうだね……それについては、()()()()()()()()()()()()()()()()考えるよ」

蒼介「……なるほどな」ヒィィィイイイイイン…

 

そして詩織の狙いはまさにその時間稼ぎであった。

蒼介の“明鏡止水”は明久のそれとは比べ物にならない練度であるが、それでもまだ父・秀介のように完全ではないため、超集中状態でいられる時間はそう長くない。“明鏡止水”さえ解けてしまえば“蜃気楼”の精度は大幅に下がり、詩織でも反撃するチャンスが巡ってくるかもしれない。

 

詩織「……このアンタに限らず、この会場にいるほとんどの奴が勝負はついたと確信していたんだろうけど…………甘いんだよ!そう簡単にこの私を、討ち取れると思うなよ!」

蒼介「……!」ヒィィィイイイイイン…

 

気迫に満ちた詩織の啖呵に、会場のほとんどの人間が気圧される。威圧感の絶対値自体は和真や蒼介に劣るものの、彼女は紛れもなく人の上に立つ資質を持っていると誰もが確信するほど、非常に堂々たる振る舞いであった。

 

蒼介(私の“明鏡止水”の持続限界はおおよそ20分……。理論上あと十分以上は持つ計算だが……いつ切れてもおかしくないと想定するべきだな)ヒィィィイイイイイン…

 

その理由は、詩織があまりにも似すぎているから。容姿こそ全くの別人だが、その振る舞いや剣捌きが嫌が応にも蒼介にある人物を思い起こさせた。それは“明鏡止水”に亀裂を生じさせる雑念になりかねないとわかっていても、思わず連想してしまうほど似通っていた。

 

蒼介「どうやら時間をかけるのは得策ではないな……次の攻撃でケリを付けさせてもらおう」ヒィィィイイイイイン…

 

〈蒼介〉は〈詩織〉から少し距離を取り、草薙の剣を鞘に戻した。どうやら蒼介は水嶺流拾の型・海角天涯で勝負を決めようとしているようだ。

 

詩織(千莉との試合で使ったことが仇になったね……その技は既に見切っている!)

 

が、詩織にはこの技の正体におおよその見当がついていた。

 

詩織(その技は後の先の究極とも言えるカウンター抜刀術……“明鏡止水”で極限まで研ぎ澄まされた観察力で相手の動きを読み切り、相手が自分の間合いに入った瞬間刃が敵を切り裂くよう抜刀のタイミングを意図的に早めた技だろう?ご丁寧に相手を狙ってね。つまりアンタがその剣を抜かれたら、こちらに防ぐ術はほとんど無いことを意味する。……だったら抜かせなきゃいい。その技がカウンター抜刀術である以上間合いに入らなきゃどうすることもできないんだろう?当初の予定通り-)

蒼介「時間稼ぎを続行する……か?」ヒィィィイイイイイン…

詩織(っ!?私の考えが、読まれて……!?)

蒼介「だが残念だったな……

 

 

 

 

そこは既に私の間合いだ」ヒィィィイイイイイン…

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3794点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 戦死』

 

 

詩織「なっ…………!?」

 

彼女が言葉を失うのも仕方がない。

気がつけば〈蒼介〉が〈詩織〉に肉薄し、草薙の剣が〈詩織〉を切り裂いていたのだから。何が起きたのかは詩織の観察眼でも見抜けない。ただ一つわかっていることは、この試合は蒼介が勝ったということだけだ。

 

綾倉「勝者、鳳君!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀介「ふむ、予想通り蒼介の勝ちか。

さーてと、それじゃあ…」

飛鳥「貴賓席に向かいましょう」

秀介「ははは、着いた当初はそのつもりだったんだけど、そうも言ってられなくなってね……ここは予定を変更して-」

藍華「私とのお話し合いはここでしましょうか、秀介さん?」ゴゴゴゴゴ

秀介「おっと、これは流石にどうしようもないね」

飛鳥「あ…藍華、さん……」

木下(和真は今朝のアタシがこう見えてたのかな?そりゃビビるわね……)

藍華「木下さんと飛鳥さん、ここまでの監視ありがとうございました。後は私が引き継ぎます」

秀介「おいおい飛鳥君。私には鳳会長などとよそよそしいのに、藍華さんは名前呼びかい?随分と不公平-」

藍華「黙 り な さ い」ゴゴゴゴゴ…

秀介「おお怖い怖い」

 

厨房でもないのに具現化しかねないほどの怒気を伴って、鳳藍華がいつの間にか秀介の後ろに回り込んでいた。あまりの怒気にそこら一体の観客がいつの間にか避難しているが、向けられている当の秀介は困ったように苦笑するのみであった。気弱な人ならショック死しかねないほどの怒気を平然と受け止められるのは、流石は世界有数の大企業の頂点に立つ者と言うべきか、それとも彼が底抜けに図太いからと言うべきか。

 

藍華「………式典も大詰めなので説教は後回しに致しますが、今はとにかく貴賓席までついてきてもらいます。表彰式まで欠席したとなれば“鳳”の今後に響きかねませんから」

秀介(うーむ……ここは流石におとなしく従っておこうかな、一応保険はかけておいたしね。後は彼らが上手くやってくれると信じて…)「了解したよ藍華さん。それでは当初の予定通り、貴賓席へ向かうとしようか(スタスタスタ…)」

 

抵抗は無意味と判断したのか、秀介はおとなしく貴賓席に向かって歩きだした。が…

 

藍華「秀介さんそちらは逆方向です。……まさかとは思いますが、この期に及んでまだ逃げようと-」

秀介「おっとすまない、こっちか(スタスタスタ…)」

藍華「…………やはり素ですか……。あと逆方向と申したのに何故右に行くのですか……」

秀介「ふむ、それもそうだね藍華さん。逆方向、と……(スタスタスタ…)」

藍華「いや、そのままUターンすれば左に行くでしょうが!?私が連れ添うので動き回らないでおとなしくしていなさい!」

飛鳥(う、噂には聞いてたけどここまでなの……!?)

優子(そりゃ迷子になるわよ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩織「………負けたよ、完敗だ。大したもんだねぇ、真の水嶺流とやらは」

蒼介「いや、勝ちはしたがあのまま長引けばこちらも危なかっただろう。それに途中のカズマのアレが無ければ、私はあのまま負けていたかもしれん。………礼を言う、お前との闘いを通して、私がまだ未熟であることを再確認することができた。それと……紛い物呼ばわりしてすまなかったな」

詩織「ははっ、気にする必要は無いよ。……もし私がアンタの立場でも、門外不出の剣術流派をどこの馬の骨とも知らない奴が扱っていたら、きっといい気はしないだろうからね」

 

蒼介の謝罪を笑って受け流し、詩織は踵を帰して歩き始める。色々と詩織に問い質すことがある蒼介が呼び止めようとするも、詩織が振り向くことなく手でそれを制した。

 

詩織「そう焦る必要は無いさ、近い内にすべてがわかる。アンタにはこれから好敵手との決戦があるんだろ?今はそれに集中しな……()()()()()

蒼介「ーーーーーっ!!!」

 

最後の一言がきっかけで蒼介は確信した。自分の胸騒ぎが、気のせいなどではなかったことに。

驚愕のあまりそのまま詩織を見送ってしまうが、しばらくして冷静さを取り戻した蒼介は、彼女の父親()()()()()()()()()()()綾倉先生に質問する。

 

蒼介「綾倉先生……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

綾倉「え?そりゃあ我が子のことですから勿論覚えて………………あれ?」

 

尋ねられた綾倉先生は何故そんなことを聞くのか疑問に思いつつも質問に答えようとして、不思議そうに首を捻る。

 

 

 

 

 

 

綾倉「おかしいですねぇ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

蒼介「………そうですか」

綾倉「むぅ……私も年ですかね……。すみません鳳君、すぐに思い出しますので少々-」

蒼介「いや、もう解決しました。ご協力感謝します」

綾倉「……?そうですか。あ、決勝戦は15分後に行いますので、準備が整うので控えスペースで待機しておいてください」

蒼介「………わかりました」

 

控えスペースへと歩きながら、蒼介は頭の中で集まった情報を整理する。

 

蒼介(あの綾倉先生に限って……いや、たとえどれだけ物忘れが多い人だろうと、実の娘の幼少期の記憶を全て忘却するなどありえん。考えられるとすれば、最初からそんな記憶など存在しなかった……もっと言えば、綾倉先生に「自分には綾倉詩織という娘がいる」という認識を植えつけ、そして二年間何食わぬ顔で綾倉先生の娘を演じていたと推測するのが妥当か……。それにあの性格、水嶺流の使い手である点、そしてさっきの台詞を考えると……間違いなくあの人だ。……私の知る限りあの人はいかなる理由があろうと、そんなことをするような下種ではない。裏で糸を引く存在が必ずいる。そしておそらくそいつは…………今すぐにあの人を追いかけたいという気持ちが無いと言えば嘘になる。だが……)

 

そこで一旦思考を切り、観客席のある一点に視線を移す蒼介。視線の先では秀介が藍華に手を引かれて貴賓席へ向かって移動していた。

 

蒼介(父様なら当然気づいたであろうし、何らかの手を打っている筈だ。となればあくまでいち学生に過ぎない私のしゃしゃり出るべきではない。そもそもこの式典の締めくくりと言うべき決勝戦を、“鳳”のトップの実子である私が投げ出すわけにはいかない。そして何より…)

 

控えスペースに着いた蒼介は、寛ぎつつも好戦的な笑みを浮かべている和真を見据える。

 

蒼介(こいつからは……逃げるわけにはいかない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フリーダム・コロッセオ』から抜け出し、校舎を歩く詩織を宮阪桃里……否、ベルゼビュートが呼び止める。

 

ベル「よう、久しぶりじゃねーか(^-^)/」

詩織「……何の用だい?今のアンタは『宮阪桃里』なんだから、おとなしく貴賓席で待ってなよ」

ベル「相変わらずつれねーなー…半年ぶりに出てこれたんだし、少しは愛想よくしろよー(●`ε´●)」

詩織「そんな義理は無いね。……アンタわかってんのかい?アンタ達に協力すること自体、私にとっては業腹なんだよ」

ベル「ったく、ほんっと相変わらず頑固な奴だなお前はー。綾倉詩織……いや、

 

 

 

 

 

鳳紫苑(オオトリ シオン)って呼ぶべきか?(-ω- ?)」

紫苑「……どっちも不正解だよ。綾倉詩織は架空の存在だし、私にはもうあの子の……蒼介の姉を名乗る資格は無い。私はアンタの同類で、ただの死に損ないの化け物さ」

 

詩織……いや紫苑は寂しげな表情で、しかしはっきりとそう言い切った。

 

ベル「……ふぅん?まぁ俺としちゃどうでも良いけどよ……それよりもダゴン、志村泰山の洗脳が解けかかってたが、アレお前がポカしたわけじゃねぇよな?(-ω- ?)」

紫苑「丁度私の人格が入れ替わっている途中のときだから万が一はあるけど、おそらくあれは泰山が自力て解きかけてたんだろうね」

ベル「やっぱそうか!だったらアイツにも“玉”の資質の片鱗が-」

紫苑「シッ……お喋りはここまでだね」

ベル「は?( ・◇・)?」

紫苑「盗み聞きとは行儀が悪いね。私らに用があるならさっさと出てきたらどうだい」

 

紫苑が曲がり角の先を睨みつつそう告げられ、出てきたのは?

 

 

 

 

 

 

 

 

守那「フハハ、もう見つかってしまったか。アイツの娘だけあって気配に敏感だな」

高橋「こうなれば直接拘束して聞き出すしか無さそうですね」

鉄人「覚悟しろアドラメレク一派、貴様らに教育的指導を施してやろう!」

 

 

 




今明かされる衝撃の真実ゥ!
詩織=ダゴンだと予想できた人は結構いそうですが、詩織=ダゴン=蒼介の姉だと予想できた人はいますかね?

まあ詳しくは和真VS蒼介が終了してからで。
あ、この対決はじっくり書きたいので週一くらいのペースで投稿になると思うのでご了承ください。次の投稿は台風24号さんのご機嫌次第でもっと延びるかもしれませんが……。

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