バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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今回で終わらせる予定だったのに……
次回!次回で必ず決着を着けます!


準決勝⑤『蜃気楼』

鉄人「まったく、唐突にバカなことをしおって……お前も段々Fクラスに毒されてきたんじゃないか?」

和真「ハハッ、言われてみりゃあそうかもなぁ」

鉄人「もしくは守那さんに似てきた-」

和真「おい待てや筋肉ダルマ。言って良いことと悪いことの区別もつかねぇのかコラ」

鉄人「ダメな方にカテゴライズしているのか今の台詞を!?」

 

守那に似てきたと言い切る前に、有り得ないほど怒りを露にする和真。(実の息子をライオンの群れと一緒に閉じ込めるような人とは言え)仮にも父親に対してのあんまりなセメント対応に鼻白む鉄人だが、その様子を見た和真は呆れるようにやれやれと肩を竦める。

 

和真「ほんっとダメだなアンタは……そんなんだから学生時代同級生の女子に『西村君って真面目で誠実な人だけど、典型的いい人止まりだよね。結婚とか絶対できなさそう(笑)』とか言われるんだよ」

鉄人「ちょっと待て!?どうしてお前がそのことを知っている!?」

和真「あのクソ親父の辞書に『機密事項』や『他言無用』なんて文字は無ぇ」

鉄人「…………やっぱりあの人の仕業か」

和真「な?アイツに似てきたなんて、これ以上無いってくらいの侮辱だろ?」

鉄人「そうだな、俺が間違っていた。スマンな柊……まあそれはそれとして、誰が筋肉ダルマだ」

和真「いてて、暴力反対」

 

軽めにヘッドロックをかける鉄人に、腕を差し込んで決まらないよう抵抗する和真。ほのぼのしてるんだかそうでないんだか微妙なやりとりが繰り広げられている中……

 

 

ブゥゥゥ…!

 

 

鉄人(これは……緊急メール……!)

 

突如鉄人のポケットから携帯電話のバイブが鳴った。余談だが鉄人は携帯電話を二つ持ち歩いている。一つは鉄人が元々持っている機種。生真面目な鉄人は勤務中は常にサイレントマナーモードにしているので、バイブ音を鳴らしたのはこちらの携帯電話ではない。そしてもう一つ、バイブ音を鳴らした方の携帯電話は少し前に綾倉先生から持たされた機種。『アドラメレク打倒』の志を共有した者が所持しており、この携帯にかかってくる電話及びメールはまず間違いなく緊急の内容である。

 

鉄人「(パカッ)………。急用ができたので俺はここを離れるが、もうバカな真似はするんじゃないぞ」

和真「りょーかいりょーかい」

 

メールの内容を読み終え真剣な顔つきで控えスペース、ひいてはコロッセオから出ていく鉄人を、和真は黙って見送った。

 

和真「………気になるっちゃ気になるが、いち学生の俺がしゃしゃりでるのもなんだし今は放っておくか。それより試合の方は……おっ、どうにか五分にまで持ち直せたみてぇだなソウスケの奴」

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3794点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 3852点』

 

 

さっきまでの点数を考えると、蒼介が五分に持ち直したという和真の感想は正しいように思える。が、実際は真逆であり、和真が見ていなかった間の試合の運びは漆の型・狭霧と捌の型・夕凪を組み合わせたカウンター戦術に詩織が翻弄されまくり、そして今ようやく対応し始めたという状況である。

 

詩織「……随分と点数減らされちまったけど、どうにかアンタの暗殺術に慣れてきたよ」

蒼介「ほう……確かに漆の型・狭霧は本来暗殺専用の技だが、よくぞ見抜いたものだ」

詩織「私もアンタと同じで観察は得意なんだよ。……おそらく漆の型・狭霧とはミスディレクションと死角からの攻撃の組み合わせだろう。視線を誘導された上に死角から斬られたんじゃあ、いつ攻撃されたかわからなくなって当たり前だ。ましてや攻撃を受け流されるとほぼ同時に斬られてたんならなおさら……ね」

蒼介「……重ね重ね、よくぞ見抜いたものだ。そこまでわかっているなら、このカウンター戦術の弱点も理解しているのだろうな」

詩織「当たり前だよ。“狭霧”は暗殺として使わない場合、こちらの攻撃への反撃でこそ真価を発揮する技。“夕凪”に至ってはこちらが攻撃しなければ使いようがない。つまり……その戦法は私から攻撃しないと機能しないんだろ?」

蒼介「…………ご名答」

 

そう、二人がこうして呑気にクイズの答え合わせみたいなことをしている理由は、〈詩織〉が攻めようとしないために膠着状態に陥ったからである。こうなったからには我慢比べ、どちらか先に動いた方が不利になる持久戦の幕開け……と思われたが、蒼介はすぐさま切り札をきる。

 

蒼介「ふむ……根比べは苦手ではないが、あまり観客を待たす訳にはいかないな……」

 

 

 

 

 

ぴちょん……………………ヒィィィイイイイイン………

 

 

 

 

蒼介「故にここからは全力で臨もう」ヒィィィイイイイイン…

 

大海の如き圧迫感を放ちながら超集中状態に入った蒼介をを前にして、しかし詩織の闘志はひと欠片も揺らがなかった。何故なら…

 

詩織「さっきの試合を見てなかったのかい!?私に“明鏡止水”は通用しないよ!」

 

明久の“明鏡止水”を打ち破ったときのように、詩織は右手を上に左手を下に大きく広げた。

 

蒼介「無駄だ」ヒィィィイイイイイン…

詩織「っ!?何を……!」

 

それに対して蒼介は両手を横いっぱいに大きく広げる。詩織は怪訝に思いつつもそのまま猫騙しを断行し、蒼介もそれに合わせるように猫騙しをする。

 

 

バチィィィイイイイインッッッ……

 

 

両者の放った音の爆弾が空中で激突し跡形もなく消失する。そして蒼介は依然として“明鏡止水”の境地にのままであった。

 

詩織「なっ……!?何故解けない!?」

 

両腕に走る激痛を堪えつつ困惑する詩織に、蒼介は涼しげな表情で答え合わせを行う。

 

蒼介「飛沫、か……おそらくは“明鏡止水”を破るためお前が独自に開発した技なのだろう。この技の肝は音による振動で相手の三半規管を狂わせ“明鏡止水”に亀裂をいれることで、実は音の大きさ事態にはあまり意味が無いのだろう。ならば対策は簡単だ。同じ大きさの音で相殺して衝撃をこちらに届かせなければいい」ヒィィィイイイイイン…

詩織(なっ……たった一度見せただけでそこまで見抜いたのか!?それに同じ大きさの音で相殺するだって……!?そんな神業を、さもできて当然みたいに説明するんじゃないよ!……これが“明鏡止水の境地”、1/100の可能性すら容易く掴み取るとされる水嶺流の奥義……!)

蒼介「ではそろそろ……

決着を着けよう!」ヒィィィイイイイイン…

詩織「っ!」

 

〈蒼介〉は草薙の剣を構え急加速し、ジグザグに蛇行しながら〈詩織〉に接近する。しかし同じ流派を扱う詩織には、蒼介がどう攻めてくるか予想できた。

 

詩織(おそらく一度急減速を入れ、間合いに入る直前で急加速。水嶺流の基礎中の基礎、最低速から最高速へ移り変わる緩急……壱の型・波浪による真正面からの奇襲。どういうつもりだい蒼介……私にそんな単調な攻めが通用するとでも……?)

 

小さくない憤りを覚えつつも、〈詩織〉は手堅くカウンターの準備に入る。どう攻めてくるのかわかっているならば、どれだけ緩急差があろうともカウンターを決めるのは、詩織にとってはそう難しくもない。

 

 

……想定した通りに相手が動くならば、だが。

 

詩織(………おかしい……そろそろ減速しないと急加速を挟むタイミングが……まさか私の裏をかいてそのまま突撃してくる-

 

 

は……?)

 

詩織が呆気に取られ頭が真っ白になったのも仕方がない……突如として〈蒼介〉が煙のように消えてしまったのだから。

 

 

 

鉄平「詩織、後ろだ!!!」

 

 

 

詩織「-っ!?(バッ!!)」

蒼介「遅い!」ヒィィィイイイイイン…

 

観客席からの鉄平の声に反応して〈詩織〉は後ろを振り向くが時すでに遅く、振り向いた瞬間〈蒼介〉の振り下ろした草薙の剣が〈詩織〉を斜めに切り裂いた。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3794点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 2618点』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優子「い、いったい何が起きたの!?」

飛鳥「蒼介の召喚獣があっさり綾倉さんの召喚獣の後ろへ回り込んだようにしか見えなかったけど、綾倉さんがそう簡単にバックを取られるとは思えないし……」

秀介「まあ遠目から見たらそう見えるよね。だけど召喚獣の視界とリンクしている綾倉さんには、煙のように消えたようにしか見えなかっただろうね」

 

実を言うと、最初に急加速したものの〈蒼介〉はずっと最高速度の半分程度のスピードで動いていた。

“明鏡止水”状態での“波浪”は直線的な加減速だけでなく、曲線を描くような緩急をつけられる。

つまり〈蒼介〉は間合いに入った瞬間最高速度まで加速し、さらに円の軌道を描くように〈詩織〉の死角を縫うように抜き去った。ご丁寧に視線誘導まで織り混ぜて相手の注意を反らした上で。

 

秀介「あれこそ第壱の型・波浪と漆の型・狭霧の複合技……蜃気楼。これは勝負あったかな?」

飛鳥「でも後ろに回り込まれるとわかっていれば、なんとか対策も立てられるんじゃないでしょうか?」

優子「カウンター狙いに絞れば、アタシ達でもなんとか……」

秀介「うーん……まぁ見ていればわかるよ。“蜃気楼”はそんな単純な対策が通用するほど、安い技ではないってことをね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足:「蒼介は“飛沫”の副作用による激痛で“明鏡止水”が解けたりしないの?」と思うかもしれませんが、蒼介君の“飛沫”は力ではなく技で爆音を出してるのでそもそもノーダメージです。 

詩織→両の手でお互いに衝撃を送り合って爆音を発生させる。

蒼介→両の手のひらで空気を包み込み、それを破裂させるようにして衝撃を拡散させ爆音を発生させている。





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