辺り一面ひたすら真っ白の無機質な壁に囲まれた部屋で、気を失っていた御門空雅は目を覚ました。
御門「………っ……いったい、何があったんだ……!?」
意識を取り戻した御門はすぐさま状況を把握しようと思考を巡らせるも、あまりにも不可解すぎて何一つ理解できない。御門が先ほどまでいた場所は文月学園の校舎であり、間違ってもこんな長時間滞在しようものなら頭がおかしくなってしまいそうな空間ではない筈だ。
何故この場所には窓もドアも無い?出入口が無いなら自分はどうやってこの場所に入った?そもそもここは何処だ?何故自分は気を失っていた?
考えれば考えるほど疑問は次々と生まれてくる。今いる位地を確かめるためGPSを取り出すが、何故かまったく電源がつかない。どれだけ気を失っていたか確認するため携帯を取り出すが、やはりまったく電源がつかない。
御門「………まーあれこれ考えんのはこの際後回しにするか。今は、そうだな……
ここから出ねーことにはな!」
面倒になった御門は懐から『バーナーブレード』を取りだ出し、円の軌道を描きながら壁に向かって放射した。しかし…
御門「……っ!?溶けねーどころか、傷ひとつつかねーだと……!?」
余談だが、最先端技術を駆使して開発された橘社製『バーナーブレード』が放出する炎はなんと2000℃を越え、たとえチタン合金だろうと一瞬で融解させる。
御門「この壁タングステンか何かか?にしてはやけに真っ白だし……第一タングステンだろうが何だろうが、2000℃の炎で跡すら残らねーのはおかしいだろ……こうなったら色々試してみるしかねーか……」
ハンマーで叩く、手持ちの薬品から王水を調合してぶちまける、チェーンソーで切りかかる、バズーカで吹き飛ばす……などなど、どうやって持ち歩いていたかを問いたくなるほど豊富なバリェーションで試してみたものの、それでも壁には傷ひとつついていなかった。この壁が既存の科学の範疇に存在しない、全く未知の物質であることは最早疑いようがない。
御門「あと試してねーのは召喚獣ぐらいか……
御門が大半の人には理解できないであろう(御門本人も理解しているわけではなく、自然と頭の中にワードが思い浮かぶらしいらしい)言語を呟くと同時に、彼を中心に召喚フィールドが展開される。
アドラメレクのバグに汚染された人間の内、彼のようにバグを完全に掌握することに成功した者は、超常的な力がいくつか発現する。これはその力の内のひとつ、場所がどこであろうと無条件で召喚獣フィールドを展開できる『領域展開』だ。
御門「……とりあえず、
一瞬考えるそぶりを見せてから、御門は自らの召喚獣を喚び出した。するとその瞬間…
ピピピ…ピー!フッ…
前方の壁が何かを探知した合図らしき音とともにまるで煙のように消滅し、その向こう側にはとても長い廊下が広がっていた。
御門「……。明らかに誘ってやがるよな。まず間違いなく罠だろうが、他に打開策があるわけでもねーし……面倒だが行くっきゃねーな」
渋々覚悟を決めた御門は、召喚獣を引き連れ廊下へと躍り出た。その瞬間、御門の張ったフィールド内にいくつもの幾何学模様が浮かび上がり、数多の自立型召喚獣が次々と出現した。
御門「やっぱやすやすと通してはくれねーよな……
まあいい、片っ端からぶちのめす!」
綾倉「三回戦の試合が全て終了いたしました。消耗した分の点数はこの後で私がチェスピースを投入して補充しておきます。
さあ、続いてはいよいよ準決勝です!試合も残すところあとたったの三試合!果たして栄冠は誰の手に?」
そこで綾倉先生は一旦言葉を切り、おもむろに会場を見回した。観客全体のボルテージが最高潮に達していることを確認し、満足気に頷いてから準決勝開始を宣言する。
綾倉「まずは準決勝第一試合。Aブロックを勝ち上がったのは文月学園きってのトリックスター……三年Aクラス佐伯梓さんです!」
梓「やぁどーもどーも♪応援おおきに♪」
紹介が終わると同時に梓がフィールドに入場し、歓声を上げる観客に愛想よく手を振りながら持ち場についた。ステージの上に設置されたオーロラビジョンにはこれまでの梓の試合がプレイバックされ、綾倉先生はそれらを振り替える。
綾倉「一回戦では演劇部のホープである木下君に圧倒的な実力差を見せつけ完勝、二回戦でも二年最優秀女子生徒と名高い霧島さんに危なげなく勝利を収め、そして三回戦での予選免除者同士の対決では『スウェーデンの至宝』ことリンネ・クライン君の卓越した戦術と急激な進化に追い詰められながらも、高度な読み合いに打ち勝ち勝利をもぎ取りました!果たして今回はどのようなサプライズを見せてくれるのか!?」
梓「嫌やわ~先生。今回はそんな期待されても何も出ぇへんよ。嘘やけど」
綾倉「さっそく佐伯節が炸裂しましたね。そんな佐伯さんと雌雄を決するBブロックの覇者はナチュラル・ボーン・バーサーカー……二年Fクラス柊和真君!」
和真「おーおー、いい感じに盛り上がってんなぁオイ」
梓と同じく和真も大歓声に萎縮した気配がまるで無く、不適な笑みを浮かべながらフィールドに入場した。やはりオーロラビジョンにこれまでの闘いがプレイバックされ、綾倉先生が一試合ずつ振り替える。
綾倉「一回戦は木下さんとの恋人対決。普段は木下さんに頭の上がらない柊君ですが-」
和真「なぁ、そのくだりいる?一々言わなくても良いよなオイ。無駄に話を広げないでパパッと終わらせろよ」
綾倉「おや、これは失礼。……木下さんの裏をかいた戦術に対し、柊君は裏の裏をかいて愛しの木下さんに勝利しました。続いて元神童こと雄二君相手に、ランクアップ腕輪を使わないという舐めプで勝利」
和真「舐めプとか言うなよ。あと余計な修飾語あったろさっき。ドサクサに紛れたつもりか知らねぇがバレバレだからな?」
綾倉「続いて志村君との試合ですが……えーと、なんやかんやあって勝ちました」
和真「何めんどくさくなって雑に終わらせてんの?え、気に食わなかった?邪魔されて拗ねてんの?拗ねたいのはこっちだよ馬鹿野郎。アンタに限らず皆なんで優子のことになると嬉々として俺のこと弄ってくんの?
………あとさっきから笑ってんじゃねぇよ観客共!滑稽か!?俺が優子に頭上がんないのそんなに滑稽かゴルァッ!ここぞとばかりにニヤニヤしやがってこの野郎!」
いつの間にか完全に弄られパターンが確立していたことに憤慨する和真。まあ観客達が嬉々として和真を弄りにかかるのも、日頃和真に振り回されたりしている意趣返しのようなもの。言っててしまえば身から出た錆である。人生のツケというものは、得てしてこのように不本意なタイミングで返ってくるものだ。
梓「まぁまぁそう照れんでもええやん♪それにしても、相変わらずラブラブなようで結構なことやなぁ♪」
和真「まだ引っ張るか!?どんだけ食い下がるんだよ猟犬かよ!?さっさと始めるぞ試合!」
梓「そう熱くならん方がええんちゃう?騙されやすぅなるで」
和真「………先にいっておくが梓先輩、先日のときのようにはいかねぇ……覚悟しろ!」
試合開始直前となったせいか、和真は目の前の梓を倒すことだけに集中する。その構えからは先ほどまで慣れない弄られポジションにげんなりしていた面影はまるで見当たらない。
梓「おー怖…さっきまでの乱れっぷりが嘘みたいに集中しとるな。せやけどなぁ和真…」
ゴーグルをセットしリンクシステムを起動させ、綾倉先生が総合科目を展開する。
「「
キーワード共に召喚獣が出現する。片や神殺しの聖槍を、片や一対の宝剣を構え対峙する二体の召喚獣。
梓「そういう調子づいた台詞はな、ウチを倒してから言えや」
和真「当然、倒してからも言うつもりだぜ」
《総合科目》
『三年Aクラス 佐伯梓 5218点
vs
二年Fクラス 柊和真 5714点』
明久「うぅ、まだズキズキする……それはそうと雄二、どっちが勝つかな?」
雄二「和真に勝ってもらわなきゃ困るんだよ。でなけりゃ、鳳に勝つなんざ夢のまた夢物語だ」
翔子「……鳳は以前フリースペースで私達四人を圧倒したときよりも、格段に強くなっている。そしておそらくまだ、実力の底を見せていない」
ムッツリーニ「……もし鳳が優勝すれば、商品の『常磐の腕輪』でさらに強化されてしまう。それだけは絶対阻止しなければ……!」
美波「でも大丈夫なの?この間は負けてたけど……」
秀吉「心配なかろう。和真なら何か手を用意しておる筈じゃ」
姫路「ええ、柊ならきっと大丈夫ですっ!」
領域展開……アドラメレクのバグをある程度を使いこなせば習得できる基本のスキル。自分を中心に召喚フィールドを展開させることができる(科目は選択可)。自分を中心に展開するので、従来の召喚フィールドとは違い本人が移動すればフィールドもそれに連動して移動する。
ちょっとバイトで忙しくなるので次の更新は盆休み前の12日になります。