しっかしなかなか終わらないなぁ『S・B・F編』……。
読者もそろそろ飽きてるんじゃないかと戦々恐々しています……。
御門「………。特注のスタングレネード、ってわけでもねーな。どう見てもただの携帯だ」
志村泰山が謎の失踪を遂げた後、御門はその場に残された唯一の手がかりらしき携帯電話を入念に調べていたが、これといって変わった部分は見当たらない。
御門(遠隔操作で閃光が走るよう細工した?んな大がかりな機能取りつけたらここまでコンパクトに収まらねーよな……って、んなこと今はどうでもいい。重要なのは志村が消失しちまったってことだ。こんなオカルティックな現象は間違いなくアドラメレク関連だろうし、汚染されてスキルに目覚めた人間かそれとも召喚獣かはわからねーが、対応が遅れれば志村が危険なことは間違いねー……今はプライバシーだの何だのを気にしてる暇はねーか)
御門は意を決して携帯電話を起動させるが、お約束とばかりにロックがかかっていた。しかもどういう改造したのかロックを解除する方法が…
御門(RSA暗号!?しかも何千桁あるんだこれ!?……だが俺なら解けないこともねーな、綾倉みてーに暗算するのは無理だが…)
ポケットからボールペンとメモ帳を取りだし、凄まじいスピードで暗号を黙々と解き進めていく御門。数千桁に及ぶ難解な暗号をたった15分で9割方解き終わり、御門はふと以前自分の元に届いたメールを思い返す。
御門(そういや以前来たメールも数字の羅列だったな。どういうわけか一向に解けねーが……。こうして苦もなく暗号を解き進められるし、俺の頭のキレが悪くなったってわけでもねーのに。ただの悪戯だったか、それともこの暗号を鼻で笑えるほど難解な暗号なのか……お、解けた解けた)
一旦考察を打ち切り、御門は導きだした解答をギャル顔負けの入力スピードで携帯画面に打ち込んでいく。
御門「……よし、入力完り-ぅおわっ!?」
ロックを解除したその瞬間携帯画面に六芒星が浮かび上がり、御門はホラー映画よろしく画面に吸い込まれてしまい、
カランッ…
その場には携帯だけが残った。
スゥー…
ファントム『この短時間であの暗号をで解いてしまうとは……想像以上に大した男だ、御門空雅』
………否。実はこの場にもう一人、仮面の男『ファントム』が姿を消して潜んでいた。種明かしをするが、携帯をこの場に設置したのも、スタングレネードを使い御門の目を眩ませたのも、志村を消したこと以外は全て姿を消した彼の仕業だったのだ。
ファントム『まったく……今なら労せずこいつをアドラメレクの生け贄にできるというのに、ラプラスの酔狂にも困ったものよ……』
ボスの自由気ままな思いつきに、『ファントム』は大きく溜め息をつく。
一方『フリーダム・コロッセオ』では、最後の準決勝進出者を決める闘いが行われようとしていた。
明久(周りからバカだのクズだの散々言われてきた僕が、ベスト8か……いや、もう終わったみたいな雰囲気になるのはやめよう……
……とは言っても、ねぇ……?)
希望科目を選択しつつ明久は対戦相手である詩織に目をやると、途端に戦意が薄れていくのを自覚した。
明久(対戦相手は綾倉さん。あの綾倉先生一人の娘らしいけど……勝てそうにないなぁ……。点数は天と地ほど差があるし、操作技術も今までの試合を観る限り一年生なのに僕と互角以上だろうし……下手したらフィードバックで死ぬんじゃないかな僕?
はぁ……こんなことなら僕も大門君みたいに-)
詩織「なあ、吉井先輩」
明久「ほぇっ!?……え、僕?」
詩織「アンタ以外に誰がいるのさ?」
明久「いや、それはそうなんだけど……な、何かな?」
氷の女王と評されるほど無口&無愛想で有名な詩織が、よもや自分に話しかけてくることなど思っても見なかった明久は、しどろもどろになりながらも用件を聞く。
詩織「アンタ今……大門先輩みたいに棄権しとけば良かった、とか考えてたんじゃないか?」
明久「ぅえぇっ!?……い、嫌だなぁ。そ、そんなわけけないじゃなないか」
詩織「いやどんだけ隠し事下手なのさ……まったく、“明鏡止水”に至った男がそんなことでどうするんだい?」
明久「そんなこと僕に言われても……」
これまでのマシーン振りが嘘だったかのような詩織の饒舌かつ遠慮の無い物言いに、すっかり頭が混乱した明久はひたすら押されっぱなしになる。
綾倉「珍しいこともあるんですね綾倉さん、貴方が他人とまともに会話するなんて」
詩織「そんなこと私の勝手だろう。少なくともアンタにとやかく言われる筋合いは無いね」
綾倉「おや、それは失礼」
詩織「……」
明久(うっ…物凄い険悪な雰囲気……綾倉先生は何故か苗字呼び出し、やっぱりこの二人仲悪いのかな……)
とても親子とは思えないほど殺伐とした雰囲気に、明久は先程までとは別の意味で帰りたくなる。
詩織「ったく、話を戻すよ。……まあ確かに、操作技術が互角かつここまで点数差が開き過ぎてると勝負以前の問題かもね……しょうがない、アンタの土俵で闘ってやるからやる気出しなよ」
明久「へ?それってどういう-」
詩織「ああいうことだよ」
そう言って詩織は大型スクリーンを指刺す。
つられて明久が目を向けると、スクリーンには両者共に社会科を選択したことが表示されていた。
詩織「……年下にここまで舐められて、よもやまだ棄権したいなんて言わないだろうね?」
明久「も、勿論……」
とても年下とは思えない詩織の謎の迫力に、明久は思わず気圧されてしまう。
綾倉「リンクシステム起動完了。それではお二方、ゴーグルを装着し召喚獣を喚び出してください」
詩織「
明久「さ、試獣召喚!」
キーワードと共に二つの幾何学模様が展開され、その中心からそれぞれの召喚獣が出現した。
《社会》
『二年Fクラス 吉井明久 378点
VS
一年Dクラス 綾倉詩織 476点』
両者の点数差は100点弱。決して小さくはない点差だが、先ほど三倍近い点数差をひっくり返した明久を絶望させるほどではない。
綾倉「それでは、試合開始!」
明久「よし、
使用できる側が圧倒的優位になる金の腕輪と違い必ずしもプラスに働く性能ではないので、一年生相手でも白金の腕輪の使用は認められているので、明久は開始早々白金の腕輪を発動させ、召喚獣を主獣と副獣に分裂させる。
《社会》
『二年Fクラス 吉井明久 189点/189点
VS
一年Dクラス 綾倉詩織 476点』
明久「よし、準備完了!それじゃいくよ-」
詩織「まあ待てそう慌てなさんな。
……“明鏡止水”で来なよ、入るまで待つからさ」
明久「え?そ、そう……?」
宣言通り、〈詩織〉は七支刀を構えるだけでその場から微動だにしない。和真や雄二辺りなら怒り狂うこと間違いなしの舐めプだが、プライドなど宇宙の彼方に投げ捨てたFクラスステレオタイプの明久はお言葉に甘えて集中し始める。
明久(集中しろ……集中しろ!
集中!集中集中集中……
……集中!)
ぴちょん……
明久「……待たせたね」ヒィィイイイン…
詩織「まったくだよ。至るのに1分以上かかってるようじゃ、まだまだ戦力としてはカウントできないね。
……そして残念だけど、私に“明鏡止水”は効かないよ」
大海のような威圧感にも一切動じることなく、詩織本体は右手を上に左手を下に大きく広げる。
明久「?何を-」
詩織「水嶺流陸の型・改……飛沫」
バチィィィイイイイインッッッ!!!
明久「っ!?(ビリビリビリッ!!)」
凄まじいまでの轟音がコロッセオ全体に響き渡った。詩織のしたことは至ってシンプル、相撲で言う『猫騙し』である。両手のインパクトの瞬間に水嶺流陸の型・波紋の要領で、発生する衝撃を極限まで増幅させたのだ。
詩織「痛ッ……!!」
代償として詩織の両腕には金属バットで殴られたような鋭い痛みが走るが、行うだけの価値はあったようだ。
明久「い、いきなり何するのさ!?」
詩織「フフフ……“明鏡止水”、解けてしまったようだね」
明久「っ……!?」
鏡のように止まった水面も、波紋を立てればたちまち破れてしまう。観客席にいる生徒達ですらざわめくほどの衝撃音だ、最も間近にいた明久の動揺は計り知れない。
動揺=雑念……乱れた心では、“明鏡止水”を維持することができないのだ。
明久「くっ……ならもう一度-」
綾倉「遅いよ、豪雷雨!」
ズギャギャギャギャギャギャァァアンッッ!!
明久「ウグッ…ぐぁぁぁあああああっっ!?」
第壱の型・波浪による急加速を組み込んだ高速刺突・雷雨。参の型・怒濤による流麗な動きを応用した広範囲連続刺突・豪雨。
それら二つの複合技をさらに融合させた〈詩織〉の切り札、広範囲瞬間連続刺突・豪雷雨により、明久の主獣と副獣ほまとめて葬り去られた。
《社会》
『二年Fクラス 吉井明久 戦死
VS
一年Dクラス 綾倉詩織 476点』
詩織「悪いね吉井先輩……私もにわか仕込みの“明鏡止水”に負けるわけにはいかないんだよ」
フィードバックによるあまりの激痛にその場に踞る明久に背を向け、詩織は控えスペースへと歩みを進める。
明久……前回はあんなに主人公してたのに……(泣)。
召喚獣視点かつ操作技術が同じだと、割とリアルファイトの強さが勝敗に直結しちゃいます。
そっち方向には明久も中々のレベルですが、天下無双の殺人剣術を蒼介と互角以上に使いこなしている詩織さんには及びませんでした。