いよいよ二回戦も大詰め、最後の試合の対戦カードは金田一真之介vs綾倉詩織。一回戦で3-A代表の高城が詩織に惨敗したため下馬評では圧倒的に詩織有利だが、つい先程明久が自身の三倍近い点数の飛鳥を下したこともあってか、もう一度ジャイアントキリングを期待する観客も少なくなかった。
……が、そのような淡い期待は氷の女王こと綾倉詩織に容赦無く打ち砕かれる。
《保険体育》
『三年Aクラス 金田一真之介 145点
vs
一年Dクラス 綾倉詩織 466点』
金田一(レベルが違い過ぎる……!この手のつけられなさ……信じられんが、佐伯と同等かそれ以上-)
詩織「隙だらけだよ」
金田一「ぅおっ!?」
一瞬の隙が命取り。
〈詩織〉は七支刀をコークスクリューの要領で軸回転させながら、弐の型・車軸で〈金田一〉の心臓を狙う。〈金田一〉は咄嗟にグラディウスで受け止めるが、軸回転が加わったことで貫通力が数倍に跳ね上がった七支刀はいとも容易くグラディウスを粉砕し、それでも勢は衰えることなく刃先が〈金田一〉の肉体を貫いた。
これぞ水嶺流弐の型・車軸と肆の型・大渦の複合技……螺旋である。
綾倉「勝者、綾倉さん!」
《保険体育》
『三年Aクラス 金田一真之介 戦死
vs
一年Dクラス 綾倉詩織 466点』
金田一「……敗色濃厚なのはわかってたが、ここまで手も足も出ねーとはな。完敗だぜ嬢ちゃん」
詩織「………(クルッ、スタスタスタ…)」
金田一の掛け値なしの賞賛には気にも留めず、詩織は踵を返して控えスペースへと歩みを進める。
金田一「……とことん無愛想な奴だな、まったく」
綾倉「二回戦の試合が全て終了いたしました。消耗した分の点数はチェスピースを投入して補充しておきます。
さてそれでは、数々の死闘を制し三回戦まで勝ち上がった生徒達を紹介していきましよう!
まずはAブロックで勝ち残ったのはどちらも三年Aクラスの生徒です。一人目は佐伯梓さん。二振りの剣と両足の足甲を自由自在に使いこなす技量もさることながら、彼女の強みはやはり全てを欺き意表を突くフェイクのセンスでしょう。文月学園きってのトリックスターは三回戦で何を見せてくれるのか?
二人目はリンネ・クライン君。スウェーデンの姉妹校『Juli Privat Gymnasium』から交換留学生としてやってきた彼は、若干10歳にして『スウェーデンの至宝』とまで謳われた天才少年です。ここまで絶対強者の証・ランクアップ能力で対戦相手を捩じ伏せてきた彼ですが、青銅の腕輪を持つ佐伯さんに果たしてどう立ち向かうのか?
続いてBブロックの二人の紹介です。一人目は二年Fクラス・柊和真君。常識を超越した予測不能の槍捌き、鬼神の如き圧倒的な攻撃力、そしていかなる奇策も能力も真っ向から捩じ伏せる対応力を備えたバーサーカーです。果たして彼の進撃を食い止めらる生徒はいるのか?
二人目は一年Fクラス・志村泰山君。普段は柔和で温厚な彼ですが、ひとたび戦場に上がればその強さは圧巻の一言。普段通りの微笑みを浮かべながら、苛烈なまでの剣激で相手を追い込んでいきます。期待のルーキーと学園最強の矛の激突、果たしてどのような結末を迎えるのか?
Cブロックは既に通過者が決定しました。優勝候補No.1、二年Aクラス・鳳蒼介君。他の追随を許さない圧倒的な成績と並外れた剣の腕を持ち、ここまでノーダメージで勝ち上がった無敵の英雄です。いち早く準決勝へと駒を進めた鳳君、彼のさらなる活躍は準決勝までお待ち頂きます。
最後にDブロックの紹介です。一人目は二年Fクラス・吉井明久君。問題児の証『観察処分者』の肩書きを持ち学年園のバカとまで称される彼ですが、数ヵ月前の清涼祭召喚獣トーナメントでは相棒の坂本君と共に数々の強豪を退け優勝した実績を持ちます。意外性No.1のミラクルボーイは再び栄冠を手にすることができるのか?
そしてラストは一年Dクラス・綾倉詩織さん。予選では堂々の一位通過。一年生トップの成績や吉井君や佐伯さんと同等の召喚獣の操作技術に加え、鳳君に勝るとも劣らない剣の腕を持つ女傑です。果たして彼女の表情を歪ませられる猛者は現れるのか?
以上7人が勝ち上がった生徒達です。それではいよいよ三回戦へと参りましょう。対戦カードはこちらになります!」
綾倉先生がリモコンのボタンを押すと、スクリーンに三回戦の対戦カードが表示される。
〈三回戦〉
【Aブロック】
佐伯梓vsリンネ=クライン
梓(さて、ここからが正念場やな。こいつと当たるまでにもうちょい情報欲しいってのが本音やけど……そう贅沢も言ってられんわな)
リンネ(サエキがアイテかぁ……マチガいなくセーセードードーのタタカいにはならないよネ……)
【Bブロック】
柊和真vs志村泰山
和真(まあまあの相手だな。
……だがそれでも、勝つのは俺だ)
志村(うーん…おっかないねぇ)
【Cブロック】
鳳蒼介→勝ち抜け
蒼介(情報は漏らさないに越したことはないが……闘う相手がいないのもそれはそれでつまらんな……)
【Dブロック】
吉井明久vs綾倉詩織
明久(神様お願いします、せめて……せめてフィールドが社会科になりますように……!)
詩織「………」
雄二「こうしてあらためて並べてみると、明久の場違い感半端ねぇな」
秀吉「じゃな。他の連中は4000点を軽く越える化け物揃いのなか、明久は精々Bクラスじゃからのう……」
美波「そうね。それにアキの強みの操作技術も、この面子の中じゃ抜きん出ているわけじゃないし……ハッキリ言って厳しいわね」
ムッツリーニ「………しかも対戦相手の綾倉詩織は、下手したら和真や鳳に並ぶほどのレベル」
姫路「で、でも明久君ならきっと何とか……!」
翔子「……瑞希の言い分もあながち絵空事じゃない。おそろく吉井はさっきの試合で“明鏡止水”を体得した筈、一矢報いる可能性は十分にある」
脱落したFクラスメンバーは、観客席で勝ち残った二人……ではなく、明久についてのみ議論をかわす。別に和真が蔑ろにされているわけではなく、むしろ逆……和真なら間違いなく勝ち上がると信じているから議論する気すら起こらないだけである。
雄二(……つーかやっぱり納得できねぇな。和真はともかく、なんで俺達が脱落したのによりにもよってアイツが勝ち上がってるんだよ。あー胸糞悪い……!)
心の底の底の底の底の底のそのまた底から明久を下に見ている雄二は、過程はどうあれ明久に戦績で劣ってしまったことに全身を屈辱で震わせるのであった。
雄二(今に見ていろよ和真……この俺を下に見たことを、いずれ後悔させてやる。俺は絶対に越えてやる……お前も、鳳もだ!)
さて、次回は梓さんvsリンネ君。
この対戦カードの試合展開は一番悩みました。
主にどちらを勝たせるかについて。