バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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今話では明久が未だかつてないほど主人公しています。


S・B・F本戦・Dブロック⑤

《理科》

『二年Fクラス 吉井明久 53点/53点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  302点』

 

 

飛鳥(白金の腕輪による二重召喚……使いこなせていなければ大して脅威じゃないけれど、信じられないことに吉井君は二体の召喚獣を自由自在に操っている。うん、おそらく梓先輩のように並列思考を身に付けていると考えて良さそうね)

 

二体の召喚獣が織り成す連携はまさに圧巻の一言。数日前の高城や先ほどの根本のように、二体同時に相対しようものなら圧倒的な強者でもなければ瞬く間に敗北してしまうであろう。

 

飛鳥「そうとなれば……うん、やっぱ一体を集中的に攻撃するのがベストかな!」

 

二体同時に相手取るのではなく一体ずつ潰していくため、〈飛鳥〉は遠隔操作している〈副獣〉ではなく明久が視覚を共有している主獣に照準を定めて特攻する。

しかしいくら二年きってのファンタジスタである明久と言えど、対戦相手が一体ずつ潰そうとしてくるなんてありきたりな展開を想定していない筈が無い。

 

明久(よし………ここだ!)

 

〈飛鳥〉の鉤爪を主獣が際どいタイミングでかわして一瞬の隙を作り、その隙を縫うように副獣が〈飛鳥〉の後ろから木刀で斬りかかる。副獣への注意を一切払っていなかった〈飛鳥〉に避けられるわけもなく、木刀は誰にも邪魔されることなく〈飛鳥〉の背中に叩き込まれた。

 

 

 

 

 

……が、

 

飛鳥「その程度の攻撃では私は倒れない!」

明久「嘘ぉっ!?」

 

〈飛鳥〉はその攻撃に一切構うことなく、強引に主獣への攻撃を続行した。先ほどバリバリの近接武器である鉤爪をギリギリで避けたせいで二体の間合いはかなり近く、スペックで大きく劣っている〈明久〉にかわせる余力など残っていなく、〈明久〉はダメージを最小限にするため木刀でガードした瞬間全力で後ろに飛ぶ。後ろに飛んだエネルギーに〈飛鳥〉のパワーが加わったことで〈明久〉はフィールドの壁に思いっきり叩きつけられ、フィードバックが明久を襲う。

 

明久(あぐぁっ!?…せ、背中が……っ!)

 

 

《理科》

『二年Fクラス 吉井明久 19点/53点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  288点』

 

 

主獣は何とか一命を取りとめたものの危機的状況は終わらない……どころか、むしろ飛鳥の青写真通りに進行した。

 

明久「…しまった、副獣がっ!?」

飛鳥(気づいたようね、でも流石の吉井君でも今の状況から副獣を守り切れるかしら!)

 

………先ほども述べた通り、飛鳥は二体同時に相手取るのではなく一体ずつ潰していく方針を取った。だが飛鳥が最初に倒すつもりだったのは、実は主獣ではなく副獣だったのだ。どうにかしてダメージを与えることでその痛みをフィードバックさせ、それに気を取られている隙に無防備になった副獣を狩ることが飛鳥の狙い。視覚を共有している主獣ならば避けられる可能性がある一方、遠隔操作の副獣ならばこの状況では〈飛鳥〉の攻撃からは逃げられそうもない。

 

明久(このタイミングじゃかわすのは無理だ!かといってダメージを軽減させたとしても、主獣に続いて副獣まで瀕死になっちゃ勝ち目が無くなるし……ダメだ負け-)

 

完全に打つ手が無くなり敗北を覚悟したとき明久の脳裏をよぎったのは……

 

 

 

『私、このクラスの皆が好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが。だから頑張れるんです』

 

最も守りたいと思う人の、

心から共感できると思った言葉。 

そして…

 

 

 

『諦めるわけにはいかねぇんだよ…

意地があんだよ!男の子にはなぁ!』

 

最も頼りになる友人の、

泥臭くも気高い言葉であった。

 

 

明久(……諦めない。諦めない。僕は絶対諦めない!どれだけ絶望的は状況だろうと、諦められない理由がある!皆のため、そして僕の意地にかけても、

負けるわけには……いかないんだぁぁあああ!)

 

〈飛鳥〉の鉤爪はが副獣の体を引き裂く寸前の寸前、副獣は咄嗟に木刀を片手持ちに変え、空いた手で迫り来る鉤爪を嵌めた腕を掴んだ。

 

飛鳥(なっ…無駄よ!私と吉井君の召喚獣じゃスペック差なら、このまま押し切れるわ!)

明久(集中しろ……集中しろ!

集中!集中!集中集中集中!

 

 

 

集中!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー……!!!!!)

飛鳥「-う、嘘っ!?」

 

副獣は〈飛鳥〉の腕を掴んだ直後、強引に押し切るため〈飛鳥〉が前へ踏み込んだ力に沿うように片足を軸に一回転した。結果、〈飛鳥〉は自らが込められた力を受け流されるばかりか、自身の力を利用される形で〈明久〉の後方に投げ飛ばされた。

 

詩織「……!」

 

 

《理科》

『二年Fクラス 吉井明久 19点/53点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  261点』

 

 

飛鳥(くっ…素人に投げ飛ばされるなんて柔道家にあるまじき失態ね……それにしても、あの一瞬であれだけの判断が-)

 

 

 

 

 

ゾクリッ…!

 

飛鳥(っ!?こ、この気配……そしてこの、海の底に引きずり込まれたかのような圧迫感は……!)

 

驚愕のあまり瞠目した飛鳥の視線は、

 

 

 

明久「………」ヒィィイイイン…

 

極限の集中状態に入った明久に注がれた。

その集中状態は、何を隠そう“明鏡止水の境地“。

鳳家の者だけに伝承される門外不出の剣術流派……“水嶺流”の奥義である。

 

 

 

和真「マジかよオイ……アイツが高城先輩と戦ったとき二体の召喚獣を自在に操るのを見て、“明鏡止水”に匹敵しかねない集中力だとは思ったが……ありゃあほとんど“明鏡止水”そのものじゃねぇか」

蒼介「私もこうしてこの目で確かめるまでまで確証が持てなかったが、まさか自力であの境地に至るとはな……」

 

控えスペースにいる二人……“明鏡止水”に二度も辛酸を舐めさせられた和真と、水嶺流正統継承者の蒼介は当然驚きを隠せない。

 

和真「……つかどういうことだよソウスケ。なんで水嶺流と一欠片も関係無い筈の明久があの境地に至ったんだ?」

蒼介「……ふむ、あくまで推測の域を出ないが、そうだな……“明鏡止水”に至るために必要不可欠なことは並外れた集中力、そして雑念を完全に排除することだ。それは言い替えれば、どれだけ一つのことに夢中になれるかが重要になってぬる。その点で言えば吉井は、その…私より優れた資質を持っているのかもしれない」

 

蒼介が珍しく言葉を濁したが、察しの良い和真は全てを汲み取って簡潔に纏める。

 

和真「な~るほど。つまりアイツは空前絶後のバカだから、ある意味“明鏡止水”の適性があると考えたわけだな」

蒼介「………否定はしない」

 

一つのことに夢中になると、とんでもない集中力を発揮する。空手バカや剣道バカと呼ばれる者もいるが、そこまで言われるバカというのは『物事に集中する奴』という誉め言葉だ……というのはバカに対する雄二の弁である。

 

蒼介(とはいえ、ただバカと言うだけで至れるほど“明鏡止水”はお手軽なものではない。当然ながら雑念や煩悩という余計な感情を消し去れなければ話にならない。私の知る限り吉井は雑念や煩悩も多い生徒だ。あの絶体絶命の状況下でそれら全てを消し去り、ただ勝つためだけに限界を越えて集中するとは……見事な勝利への執念だ。

さてどうする飛鳥?“明鏡止水”に至った者は不要な思考や余計な外部情報などが全て遮断され、普段の数倍の集中力を発揮する。体感的な強さも桁違いにはね上がる筈だ。何か手を打たなければ勝ち目は無いぞ)

 

 

 

 

 

“明鏡止水”へと至った明久を目の当たりにした〈飛鳥〉の行動は迅速であった。この状態の明久に下手に守勢に回れば流れを持っていかれるであろう。逆に、風前の灯である主獣にトドメを刺し副獣との一対一に持ち込めれば、圧倒的な点数差とスペック差でごり押しできる。

 

飛鳥(ここは勝負所……今こそ切り札を切る時ね!私の最も得意とする柔道技、一本背負い『上弦の月』……それをフェイクに用いた裏の技、双手刈『下弦の月』で主獣を仕留める!)

 

双手刈とは相手の両膝裏を両手で刈り、肩で押しながら重心を崩して後方に倒す技である。組み合いを重視し技の華麗さを求める傾向にある日本では朽木倒と並んで美しくない技の代表格であるとされるが、ポイントを稼ぎ優勢勝ちするスタイルが発展した海外では積極的に用いられている技である。飛鳥はかつて留学していたフランスでこの技を身に付け、梓の指導で一本背負いと組み合わせることで必殺の技にまで消化し、二つの『月』を使い分けることでインターハイを制した。

 

飛鳥(接近して袖に取りに行く素振りを見せて、相手の警戒を上半身に集中させ……警戒が疎かになった下半身を一気に刈り取る!)

 

袖を取りにかかる素振りを見せつつ急接近する〈飛鳥〉に対し、〈明久〉の取る行動は……棒立ちであった。

 

明久「………」ヒィィイイイン…

飛鳥(なっ……!?上半身や下半身以前に、そもそも全く警戒する素振りも-)

 

 

ドガッ!

 

飛鳥「っ!?足を前後に開いて……受け止められた!?」

 

結論を言うと〈飛鳥〉の双手刈は失敗した。〈飛鳥〉と接触する直前、〈明久〉は瞬時に足を前後に開くことで勢いを完全に殺し、さらに刈り取るために伸ばされた〈飛鳥〉の手もかわした。

 

飛鳥「まず-」

明久「遅い!」ヒィィイイイン…

 

平常時ですら見逃さないであろう大きな隙を今の明久が見逃す筈もなく、〈飛鳥〉は主獣の後ろから切り込んできた副獣に殴り飛ばされる。

 

飛鳥「クッ、すぐに仕切り直しを-そ、その技は!?」

明久「君と木下さんの得意技でいくよ……

スカイラブハリケーン!」ヒィィイイイン…

 

すぐさま立ち上がった〈飛鳥〉の視界に飛び込んできたのは、副獣の足をジャンプ台にして超加速しながら自身に向かってくる主獣の姿であった。

 

飛鳥(甘いわね……それは私達の技、弱点ぐらい当然把握してるわ)

 

〈飛鳥〉は迫り来る主獣を即座にかわす。

『スカイラブハリケーン』は真っ向から受け止めれば桁違いの破壊力を誇るため、馬鹿正直に相手にせず避けるのがベストである。

 

飛鳥(そしてもう一つの弱点……この技は勢いが大きすぎるあまり安全に着地することができない。これで主獣は間違いなく戦死-)

明久「それはどうかな」ヒィィイイイン…

飛鳥「う、嘘!?」

 

フィールドの壁に激突する寸前、主獣は木刀を壁に思いっきり叩きつけることで衝撃を押し付ける。当然木刀は柄より上がへし折れてしまうが、主獣は即座に柄を捨てて刀身をキャッチし、再び〈飛鳥〉に斬りかかる。

 

飛鳥(あんな着地法があったなんて…って感心してる場合じゃない!)

  

スカイラブのリスクを完全に打ち消した明久に驚嘆しつつも、〈飛鳥〉は迫り来る主獣に対して反撃体勢を取る。

 

 

 

結果、意識を外してしまった副獣に足払いをまともに食らわされてしまう。

 

飛鳥「しまっ-」

明久「次は姫路さんの技だ!」ヒィィイイイン…

 

主獣は前のめりに倒れてきた〈飛鳥〉の腹にアッパースイングを直撃させ、そのまま上空に撥ね飛ばした。

 

飛鳥(この技はさっき久保君との試合のときの……ってことはっ!)

 

〈飛鳥〉が反転して上空を見ると、既に副獣が木刀を構えてこちらに振り下ろそうとしていた。

 

飛鳥(もう上を取られてる!?一つ一つの行動の切り替えが速すぎて付け入る隙がまるで無い……!?)

 

鉤爪の間合いの外からくる副獣の追撃を〈飛鳥〉はどうにか防いでいくが、やはり全てを捌ききることはできずにどんどん点数が削られていく。

すると突然、副獣はおもむろに木刀を大きく振りかぶった。

 

飛鳥(そんな大振りな攻撃-)

明久「また後ろが疎かだよ橘さん」ヒィィイイイン…

飛鳥「っ-」

 

先ほど副獣に足払いされたことがフラッシュバックした〈飛鳥〉が、反射的に地面にいる主獣へ視線を移そうとした瞬間、主獣は大きく跳び上がり木刀で〈飛鳥〉を斬り裂き、副獣もそのまま〈飛鳥〉を木刀で斬り伏せた。結果…

 

明久「クロス・ディバイド!」ヒィィイイイン…

 

全力で振り抜かれた二振りの木刀は〈飛鳥〉を挟み込む形で直撃し、飛鳥の点数を削りきった。

 

 

《理科》

『二年Fクラス 吉井明久 19点/53点

vs

 二年Aクラス 橘飛鳥  戦死』

 

 

飛鳥(………完敗、ね)

綾倉「勝者、吉井君!」

明久「(ヒィィィィン……フッ…)……やった。

 

 

やった……!

 

 

僕が、勝った……!

 

 

 

うぉぉぉおおおおおぉぉおおおぉぉぉぉおおお!!!」

 

 

明久の全力でガッツポーズしながらの勝利の雄叫びが、『フリーダム・コロッセオ』全体に響き渡った。

 

詩織「……」

 

そんな明久を、綾倉詩織は沈黙のまま静かに見据えていた。

 

 




はい、というわけで明久が超絶強化されました。
蒼介君は“明鏡止水”に至ると相手を一撃で倒してしまうので、よりパワーアップした感が凄いですね。
実を言うと明久が“明鏡止水”を習得するのは、五巻で“明鏡止水”の設定出した辺りから決まっていました。伏線回収遅すぎとか言わないで……。

あくまで我流ですので本家には劣ります(蒼介君の“明鏡止水”の熟練度を95/100とすると、明久の“明鏡止水”は60/100くらい)。

明久の新技『クロス・ディバイド』ですが、技名の元ネタはロックマンエグゼのキャラ・カーネルの必殺技です。同じなのは名前だけですが。


とにもかくにも明久、点数差三倍のジャイアントキリング達成&ベスト8進出おめでとう!



申し訳ありませんが次の投稿は2週間後くらいになります。理由はシンプルに、大学の試験が近いからです……。


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